かつてほんの短い期間だが、「アート」といわれるような業界の隅で働いたことがある。そこで経験的に知ったことは、実際に作品を造る人はディレクターという職名はあまり使わず、デザイナーとかクリエーターという職名を使うことが多かった。どちらにせよ、現代アートという分野は、普通の人間にはその価値や違いが明確に判らない。ピカソやゴッホというような絶対的な才能を有する芸術家以外は、まあ、誰か力のある先輩の作家とつるんだり、時の権力者に阿って、作品をなんとか世に出して、糊口をしのぐというのが、私の見たその世界だった。
今回のエンブレムの「白紙撤回」だが、誰もが感じたのは、いつの間にか大事なことが決まって、20世紀的な文字デザインのポスターの前で喜色満面のアートディレクターの映像が突如公共の場に出現したということだった。今回の顛末を、財界の偉い人は、国民に良く理解されなかった組織委員会の仕事ぶりを「たるんでいる」と評したのか。組織委員会に民間企業から出向している職員たちが、国民を上手に騙せないで失敗をしてしまったことを「たるんでいる」と叱責したのか、そのどちらなのか、よく解らない。いや、解りたくもない。