ちょっと前のことだが、橋本治が死んだ。あの「とめてくれるな。おっかさん!」を世に送り出した男である。70年安保を20歳前後で生きた人間なら、彼の作品をたぶん知っているだろう。
今、ふと思うことは、妙に「おっかさん」という言葉があの時に合っていた。だって、あの戦後に生まれた奴らが20年経って、70年安保で暴れた時に、「おとっつあん」は自分が戦争に行って来たんだから、何も息子に云えないよな。
あの当時は外国旅行なんか誰もしたことないのに、どこの父親も戦争の時にほとんどが大陸に行っているんだ。そこで骨になった人も多いが、命からがら日本に戻って、生まれたのが大量の70年安保の若者なんだけど。
ほんとの地獄を見た、または地獄にした人間は、どういう顔して自分の息子に何が云えるのだろうか。云えることなんか何一つないんだよな。
何も悪いことをしなかったお母さんだけが、自分の息子に「行くな!」と言えるんだなあ。今、それがわかる。
橋本治に哀悼を込めて