めぐり会いは再び
小柳奈津子のデビュー作は成功
大劇場デビュー作という事で、あまり期待していなかったし、なんせショーが「ノバ・・・」
だから芝居の方はほとんど話題にもならず・・・だったのに。
見てみたらこれが超面白い
成功の要因は
原作があるものだったこと
どこにでもあるストーリーだったこと
凝った演出をせずにきちんと台詞劇にしたこと
でしょう。
原作はマリヴォー「愛と偶然との戯れ」というのですね
ひねくれた主人公二人が使用人ととりかえっこをする話。これってどこにでもあるような
話で目新しさは全くありません。
他の舞台でやったら「新しくない」の一言で終わる話。
でも、宝塚ではこういう単純明快だけど女の子達が心の底で憧れる恋物語を
描けないと本物の演出家とはいえないのではないかと。
このお話は最初から先が見えているし、展開も予想がつきます。そんな「予定調和」
を飽きさせずに見せるのは中々難しいのでは?
今時のキムシンだの植田景子なら、大々的な音楽を使って歌いまくり、踊りまくり
ついでに自分の哲学みたいな主張まで入れるところですが、小柳は、シェイクスピア
風の台詞劇にしました。
どこにも「?」な台詞はなかったし、鼻につくような男尊女卑台詞もなし。
しかも多くの登場人物を使ってまとめましたね
それだけに派手さには欠けたと思うのですが、台詞やアドリブの掛け合いが面白く
じっくり楽しむことが出来ました。
少々残念だったのは「星祭り」っていう割にはお祭りシーンがなかったこと。
大勢いる大道芸人さん達にもう少し活躍の場を与えてもよかったのでは?くらい。
何より嬉しかったのは脚本が「女性が憧れる恋物語」「女性による女性の為の話」
になっていたこと
この作品を通して、劇団はもう一度「宝塚歌劇とは何なのか」という事を考えるべき。
もし、「こんなありふれたラブストーリーはつまらない」と思うファンがいたら
そんなファンこそ宝塚には必要ない筈
だって宝塚は甘くてありえないような「恋」を演じてなんぼの劇団なんだもん。
ラストシーンで、全てがわかった主人公二人がきちんと着替えて出てきますよね。
当たり前のシーンなんだけど、こういう気遣いが「バラの国の王子」にはなかった
なあ・・・と ラストの大団円は主人公達が一番素敵な服で出てこなくちゃ。
出演者について
柚希礼音・・・ドラント。
貴族の妾腹に生まれた事からちょっとひねくれている青年を、とても
上手に魅力的に演じていました。柚希は前を向いても横を向いても
笑ってもすねてもかっこいい男役で、その完璧な造形には感動します
それゆえになぜ天海祐希ばりにブレイクしないのか不思議でしょうがない。
時代が・・といってしまえば終わりですが、やっぱり組の長としての
求心力が今ひとつなのかなあって気がします。
夢咲ねね・・・シルビア。
金髪にピンクのドレスで出て来た時は正直、引いてしまいましたが、
ふくれっつらをすると思わず微笑んでしまう程可愛いので許す
気が強くてぽんぽん言い放つ感じが少しも嫌味でないのはよかった。
柚希との相性もいいようですし。
涼紫央・・・マリオ。
いつも本ばかり読んでる女嫌い・・というか斜め30度から人を見下して
いるお兄ちゃん。本来の涼とは真逆のキャラクター 上手で音波みのり
との相性もぴったり
今回、ショーでも芝居でも「二番手」で頑張っているのですが、彩吹真央や
未涼亜希のような強烈な印象を残す事は出来ないなあと
本来は演技派タイプなので、そっちへいくべきの人ですね。
紅ゆずる・・・ブルギニョン。
役柄的に非常に似合っていたし、面白い動作や台詞回しには笑わせて
頂きましたが。使用人の役の方がぴったりっていうのは「二枚目」路線の
男役としてはいかがなものでしょう。しつこいけど、もっと上品さがほしい
自分の技術のなさを大仰な動作と声で誤魔化そうとしているようで、この
ままいくと下級生に悪い影響を与えないとも限らないし、組の和を
乱す恐れも・・・ しっかり柚希をフォローする存在にならないと。
白華れみ・・・リゼット。
言う事なしの完璧な演技でした。紅をうまくフォローしていたと思います。
夢乃聖夏・・・リュシドール。
年上の人妻と不倫中の騎士。万里柚美にうまく手のひらで転がされてた
感じ。一生懸命にやっているのはわかりますが、色気がないのでぞくぞく
しない。ここらが限界か。
美弥るりか・・・アジス。
化粧も衣装もぴったりでとても魅力的かつ可愛い皇子様でした
夢をみて現実をみない王子が小間使いに説教されて、でも好きな
果物を差し出されるとついわけてあげてちゃう優しさ。カカア天下に
なりそうな雰囲気がとてもよく出ていたと思います。
真風涼帆・・・エルモクラート。
大道芸人さん達のお芝居の脚本を最後に放り出してしまった気弱な
脚本家死亡。でも衣装もメガネをかけた姿もぴったりで「普通の役も
出来るんだー」と感心 見た目はいいし、体も大きいし正統派二枚目
としては素直に育っている印象です。
音波みのり・・・レオニード。
マリオが好きでつきまとうストーカー姫。でも今時の娘や国しては
顔が綺麗で演技もきっちり。ラスト、いやがるマリオに嬉しそうに
くっついている姿が印象的でした。
鳳稀かなめという正二番手がいなくなった星組は、少々頼りないですね。
それでも「愛と青春の旅立ち」の頃に比べれば熱くなっている方なのかしら?
今のところ柚希を支えるべき紅や夢乃達が、結局どうしていいかわからず
がむしゃらにやみくもに真っ暗なトンネルを走っているので、灯りになる
「理想の男役像」が必要なのかも
涼の演技がしっかりしているのは、彼女の中に永遠の憧れ「紫苑ゆう」がいるから
だし、それを目標に頑張っているから。
そういう意味で、紅達はどうなのかしら?って疑問に思うのよね。
柚希の事は多分「何でも出来る自分とは違う世界の人」くらいに思ってない?
そうじゃないって。自分達が「憧れの男役」にならないといけないと言う事。
もっと上級生として男役の先輩としての自覚を持ってほしいですね
柚希もそろそろ優しさだけじゃなくて下級生の事も細かくみるような怖い存在に
ならないと求心力は増しませんよ。
なんせ遠慮深い上級生の二番手とか、周りが見えてない二番手候補しか
いないんだもの。