ふぶきの部屋

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韓国史劇風小説「天皇の母」16 (フィクションだから)

2011-07-10 17:42:06 | 小説「天皇の母1話ー100話

「皇太子妃にショウダミチコさん内定」

の第一報が流れた時、日本中があっと驚き、そして新聞に掲載された写真を見て

狂喜乱舞した。

「この世にこんなに美しい女性がいたのだろうか」

「ミチコさんのファッションは夢の国のお姫様のよう」

「素敵な洋館に住んでいらっしゃる別世界の女性」

いわゆる「民間人」出身のお妃と言われていても、一般庶民からみれば

ショウダ家は十分ブルジョアでハイソサエティに見えた。

 

軽井沢のテニスコートで皇太子殿下に見初められて・・・軽井沢のテニスコート!

何とブルジョアな事だろう。

避暑地へ行き、テニスをして恋に落ちるなんてまるで御伽噺のようだ。

ミチコさんの軽くパーマがかかった髪の美しい事と言ったら!笑顔の上品さ。

そして聖心女子大というチャペルがある大学出の才媛だ。

当時、女性の大学進学率はどれくらいだった事だろう。

中学を卒業、あるいは高校を卒業して就職するのが一般的だった当時。

高度経済成長の波の中「黄金の卵」と呼ばれつつ、故郷から離れた職場へ

集団就職し、寂しい思いをしていた女性達が多かったころ。

名門大学出の才媛でお金持ちで美人で、しかも卒業後は家事手伝いで

・・・神様から選ばれた人というのはこういう人の事なのだろうと誰もが思った。

 

けれど、やんごとなき雲上人の間ではそれとは真逆の評価が下されていたのだ。

言うまでもなく皇后を取り巻く学習院常磐会の面々。

彼らの怒りと絶望を推し量るのは現代では難しいかもしれない。

けれど、どれをちょっとわかりやすく説明するならば。

昭和22年に施工された「華族令の廃止」そして12宮家の臣籍降下で、

明治以降、あるいはそれ以前から「名門」と呼ばれて来た家々はプライドをズタズタに

されてしまった。

制度廃止による特権廃止でいきなり相続税がかかり、屋敷を手放さなければ

ならなかった人たち。また、有産階級にいた人たちがいきなり無産階級に貶められ

慣れない「労働」で全てを失った事実。

皇后の実家ではあやしげな宗教の教祖に祭り上げられる事件が起きたり、

またユリ君の実家の侯爵家では当主・・つまりユリ君の父上が失意の自殺を遂げた

経緯もあった。

あの時代、皇族・華族は財産もプライドも何もかも失っていた。

そこに台頭してきた「新興貴族」と呼ばれる、ショウダ家のような大企業の

創始者の家。元やんごとなき方々が広大な屋敷を売り、財産を切り売りし、さらに

先祖代々の品まで手放しながらやっと生きていた頃、彼らは豪華な屋敷を

手に入れ、富と権力を持った。

「商人のくせに」とか「大した家柄でもないくせに」といくら言葉で蔑んでみても

実際の生活格差は埋められない。

 

でもたった一つ違う事があった。

それは学習院の存在。

戦後、学習院は門戸を広げたけれど、誰でも入れるわけではなかった。

そこには厳然とした「家柄の序列」が存在したし、学習院出身というステイタスシンボル

は東大・慶応・早稲田などとは全く異質で特別のものだったのだ。

明治以降、学習院出身でない皇族はいない。

皇族・華族は学習院出身と決まっていたのだ。それこそが「旧」の存在である

彼らの最後の砦だった。

 

それなのに・・・・なぜ学習院出身でないショウダミチコ嬢が?

よりによってキリスト教主義の大学出身の彼女が?

皇室は神道の家柄。そこにキリスト教を持ち込むつもりなのか?

それは皇室の破壊に通じるのではないか?

天皇は将来の皇后選定によって皇室をつぶすつもりなのか?

 

内定直後から、ショウダ家には嫌がらせの電話が入るようになった。

一体、どこから電話番号を調べてくるのだろうか。

皇太子妃を辞退せよ。でないとどうなるか」

脅しのような電話が相次ぎ、ミチコの両親も兄弟姉妹も不安と恐れを抱いた。

「ミチコは参ります」といわれた時、両親は正直、頭を抱え込んでしまった。

前例がない。

爵位を持たず、学習院出身でもない娘が皇太子のプロポーズを受けるなど。

かつて松平家のセツ君は会津の藩主の家柄でありながら、爵位を辞退していた

為、セツ君入内の際は爵位を持っていた叔父の養女となった。また、名前が

音は違うが字が皇后と同じというので、はばかってわざわざ「節子」を「勢津子」に

変えた。

皇室とはそういう場所なのである。

キク君は徳川慶喜の孫だし。何より皇后は皇族出身である。

そんな中に一介の商人出の娘が入内する・・・人はそれを「シンデレラストーリー」

と呼ぶかもしれないが、実際はそんな甘いものではない。

華族出身者ですら、そして皇族出身の皇后ですら入内の際には色々なしきたりに

頭を痛め悩み、苛められもした。

ましてショウダ家は皇室とは縁もゆかりもないのだ。

どんな価値観で生きているのかすらわからない。

そこらへんはこちらがお教えするので大丈夫です」とコイズミは言った。

でも、そのコイズミだって皇族ではないし。

いたいけな24歳の娘の味方になる人が果たしているのだろうか。

 

「この結婚は普通の結婚となんら変わらないのです」とミチコは宣言した。

私は皇太子殿下だから結婚するのではない。愛した人がたまたま皇太子

だっただけだ。

皇太子と一緒に彼が望んだ普通の家庭を作るのだ・・・と決心していた。

その決心を皇太子が喜んでいたことは間違いない。

でも、こんな風に嫌がらせの電話がきたり、カミソリが入った手紙を投函されたり

というようなことが続くと、そんな楽観主義にはとてもなれない。

大それたことをしてしまったのではないだろうか。

真面目で誠実で正義感がつよく完璧な一人の娘が「血筋」「家柄」の壁を越える

事が出来るのか?

ショウダ家ではミチコのサポートをする為に様々な事を始めた。

父は夜の誘いを断り、仕事を終えるとまっすぐに自宅に帰り、無口になった。

兄弟姉妹も、息を潜めるように生活する事になった。

何か手違いがあったり、言葉尻を捉えられたりしたら、それがどんなスキャンダルを

引き起こすはめになるかもしれない。

誰一人、ミチコの足かせになってはいけない。誰一人、世間に顔向け出来ないような

生活をしてはならない。または言動をしてはならない。

ショウダ家の長く辛い忍従の生活はすでに始まっていたのだった。

 

 

 

コメント (5)
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