この3月初めに私の母が他界した。病で入院して、3か月後のことである。
見舞いで面会する度、痛みに堪え苦しそうであった。どうにかしてこの苦痛から逃れることができないものか。私はいつも重い気持で病院を後にしていた。亡くなったすぐ後、対面した母の顔は霧が晴れたように穏やかで平和な表情に戻っていた。
3日後、別れの時に見た顔はちがっていた。肉体から魂が離れていた。私は確信のようなものをもって思った。「魂が身体から離れただけだ。母はまだ魂としてどこかに存在している。」
葬儀は浄土宗のもと行われ、母は導師に導かれ旅立っていった。
私は導師に教えられる前から、母の魂が永遠に平和な世界に向かうと分かっていた。私は母が亡くなってすぐ後から母の魂としばらく共に過ごした。見送りはしたが、とてもいたたまれなくなって、しばらく後をついていった。周囲の景色は美しい自然の中のようであった。だが現世の自然とは違うように思えた。
私は数日、休日をとり、人と会うのを控え、そして普通の生活に戻っていった。
2015年3月9日 岩下賢治