古木の幹に咲いた桜
昨日曜日、埼玉県行田市のマラソン大会に出場した。マラソンといってもハーフの距離、21キロである。
早朝9時10分のスタートに合わせ、新宿駅を出発したのだが、行田駅からのシャトルバス、そこからの徒歩の時間を十分に読み込んでいなかったため、色々手続きをし、準備をしているうちにスタート時間、準備運動もないまま、あたふたと走り始める羽目になってしまった。
ところでこの行田市、東京の隣県だというのになかなか縁がなく、駅に降りたのは初めてであった。
行田駅前、商店街らしきものがなく、なんやら殺風景で平坦。そして、会場へは大会本部からのシャトルバスで、片側2車線の広々とした道路をスイスイと走る。日曜日ということもあるのだろうが、車の台数も少なく、そして会場の記念公園は周囲が広々とした田植え前の田圃で、まるで北海道の田舎のようだ。関東平野とはいうが、見渡す限りこれほど平坦に感じるところが近場にあったのだ、とびっくり。
マラソンの走路は、しばらくすると桜並木の用水路を沿うようになり、そして折り返しをすぎる頃、ボッコリとしたお山が幾つもならんだ場所に出くわす。まったく平坦な場所にこんなお山があるのがなぜか不自然で、私は住民らしい沿道の人に聞いてみた。
私=なんだか、古墳のようにみえるけど、これはなんなんですか。
沿道の人=古墳です。
私=なんというのですか。
沿道の人=えーっ? さきたま、です。
私はあてずっぽうに古墳かと聞いてみたのだが、聞かれた方の人にとっては当然知っているものと呆れたようだった。ほんの数秒の会話だったし、必死で走っているものだから、この会話を思い出したのはようやくゴールして着替えを済ませた後だった。
あっ、そうか。さきたま古墳か、有名だったな。それで大会名のサブタイトルが鉄剣マラソンなんだ。
自宅に帰って調べてみた。さきたま古墳の中の稲荷山古墳からは数多くの埋葬品が発掘され、中でも鉄剣に象眼された文字の解読が進められていること。それも古い話ではなく、30数年前のこと。思い出したよ、この鉄剣が発掘され、新聞やテレビで話題になったことを。私は稲荷山古墳というので、大和地方のことかと勝手に思っていた。この重要な前方後円墳が埼玉県のまったく平坦な田圃の中にあったのだ。迂闊だった。
しかし不思議だ。普通こうした墳墓は小高い丘を利用して作られるものだが、これはまったく平坦な場所に盛り土をして作ったものとしかいいようがない。なんでこんなところにわざわざ? と思う。地図を調べてみた。近くに利根川が流れている。そして掘割が通っている。もとは一帯が沼地のような場所だったらしい。だから平坦なんだ。
行田の駅前、つまり内陸側からみると不自然だが、利根川の方からみると弥生式の稲作に適した肥沃さが想像でき、そして水運があって、地政学的には栄えるべくした地域なのだろう。
私たちは今日、鉄道や街道でしか街の隆盛衰退を判断できないが、ここ行田市の古墳や町並みに触れると、そういう思い込みがホンの2〜3百年のことなのだと思い知らされるのだった。改めて訪問したい一帯であった。
で、私のマラソン記録は? ハーフ、1時間57分‥‥‥遅くなったものだ。【彬】