ムラサキシキブ
急にラーメンが食べたくなり、時々行くとんこつラーメンで昼食を摂った。
細麺でスープはコクがあるが、まろやかな味である。一杯ではほんのちょっと物足らないが、まあちょうど良い分量ではある。しかし、この日はお腹が空いていたので、追加でもうひと玉、注文した。こんなことは未だかつてなかったことである。
追加したラーメン玉、お皿に乗ってドンときた。思ったより大量である。こんなに食べきれないよ、と思ったものの、なんとかお腹におさめた。ラーメンというは、スイスイと喉を通っていくものである。後で胃が苦しくなるかと思ったが、食べ終わってしばらくしても、苦痛やらなんともない。お腹がいっぱいでかえって心地いいくらいだ。胃袋の筋肉が膨らんで、食べたものを上手に受け入れてくれているのである。人間の体、特に消化系の機能というのは、なんとも底知れないタフさを持っているものと、今更ながら思う。お相撲さんなんか、お腹にむりやり詰め込んで、むりやり太るというから、胃の丈夫さが想像できるというものだ。
こうした胃の機能は、おそらく人類十数万年の歴史の、食べ物に不自由しながら永らえてきた太古の体験が集約されて、いざという時の強靭な機能として現れてくるのであろう。
養老孟司さんが変なことを言っている。
「人間の卵を見たことがありますか。受精卵の直径は0.2ミリです。いま体重が50キロ、60キロとして、増えた分がどこからきたかといえば、全部食べ物です。だから、食べることは一番の基本だと私は申し上げたい。」(新潮・波・10月号)
確かに食べ物は動物のエネルギー源だからそのとおりだが、0.2ミリのものから、40億の細胞が絡み合って人体となる過程では、食べ物ばかりに頼るわけではない。人間のような高度な生き物になるためには、単に細胞分裂して増えていくだけでなく、母胎の中で、人類の太古からの歴史が伝承されるいく仕組みがある。妊娠期間が長期にわたることは、その証明でもある。
私たちの体には、消化系だけでなく、呼吸系、神経系、免疫系、そのほか人類の歴史が詰まっている。人間の身体的な能力は、まだ私たちが経験したことのない領域にまで拡大していくのだと思う。
マラソンランナーが2時間を切る日が、現実に迫っているのだ。【彬】