ヤマボーシ
古今の名言を引くまでもなく、戦争は政治の一形態である。言葉ではなく、武力によって目的を叶えるものだ。同じ戦いでも、ここがスポーツと根本的に異なるところで、単なる勝ち負けではなく、政治的な目標が関わっている。
現在の宇・露戦争の問題で言えば、露が何を目的にしてこの戦いを起こしたのか、ということ。具体的に言えば、露は宇の何が欲しかったのか。プーチンが発表しているネオナチとの闘いというのは、一種の方便であり、そんなイデオロギー問題で武力を発動するはずがない。
軍事的な戦況の変化については、世界各国の専門家の解説を逐一聞くことができるが、肝心な露の具体的な目的は何なのか、いっこう理解することができないのが、現在の状況ではないだろうか。戦争は往々にして初期の目的から逸脱し、ことさら武力の優劣のみに収斂しがちである。露の目的が有耶無耶になり、今は、単に軍事の優劣に焦点が移行しているように思える。
露については、通俗的に推察するしかないのだが、彼の国の経済はエネルギー資源(石油・ガス・希少金属など)だけに頼っていて、一部の富者を別にすると、国民の生活レベルが一向に向上しないこと。特に農村部が停滞しているように思う。だから豊な穀倉地帯である宇地方が羨ましく、しかも、ソ連時代のコルホーズが頭から離れないのではないのか。さらにバルト三国、ジョージアの独立で、海洋への出口を失ったため、豊な海域である黒海を手の内に治めたかったのではないか。必然的にクリミア半島への通路が問題となる。この2点が具体的な目標であったのではないか。
これは今に限ったことではなく、露にとって帝政ロシア時代からの地政学的な課題であろう。
黒海というのは、沿岸は温暖なうえ、絶好の保養地で、果物(主にブドウ)の産地である。領地として手にしたいのは当然だろう。ロシアが陸軍を中心に戦闘を仕掛けているのは、この地域を領土として確保したいからで、空軍のような単なる力による破壊・勝利から得られるものではない。闘いがアゾフ海からクリミア半島周辺の東南部の陸部に集中しているのは、そうしたためと思われる。
とすれば、この戦争の行先ははっきりしてくる。東南部の処理の仕方に関わっていて、露がこの地域を確保することは戦局的に難しいから、勝敗は自ずから明らか。プーチンはどうするのか、どのように消え去っていくのか。プーチンは当初より黒海への出口が欲しいと明示していれば、今とは違った展開になったと思われる。【彬】