中国の配車アプリ最大手企業「滴滴出行」(DiDi)がニューヨーク市場でアリババ以来の大規模IPO(株式公開)で44億ドルを調達した直後、中国当局による仕掛けで滴滴の米国預託証券(ADR)が一時30%安になり、時価総額で220億ドル相当が吹っ飛んだ事件が発生。
これはもう中国がウォール・ストリートに攻撃を仕掛けた、という風に受け取られても仕方ないと、元産経新聞北京特派員の福島香織さん。
これぞ「超限戦」(中国が1990年代から提唱する軍民混在、軍事非軍事の制限のない新しい戦争。)で言うところの“金融戦と法規戦のハイブリッド戦術”だという声も出ていると。
興味深いのは、習近平政権が敵とみなしてファイティングポーズをとっている相手は、米国なのか、ウォール・ストリートに代表される金融グローバリストたちなのか、中国の民営企業・資本家なのか、あるいは特定の政敵なのか、全部ひっくるめてなのか、といろいろな見方のあることだと福島さん。
中国の国家インターネット情報弁公室は、「滴滴出行」(DiDi)のアプリを中国のアプリストアから削除するように命じた理由は、個人情報収集に関する重大な法規違反があった、と。
ほかにも満帮集団の配車アプリ企業(運満満、貨車帮)や求人アプリ企業(BOSS直聘)も、同様のネットセキュリティ関連の審査を受けることになり新たなユーザー登録停止要請が出されたのだそうです。
6月10日に開かれた全人代常務委員会でデータ安全法(データセキュリティ法)が可決され、国家の「重要データ」を海外の企業に違法に転送した場合、最高1000万元の罰金と運営凍結措置を規定する法律が9月1日から施行されることにはなっていると福島さん。
しかし、何を「重要データ」とするところは不明瞭。法の取り締まり対象となるデータの活用の定義も曖昧で、何が適用範囲になるかは当局の心の赴くまま、いかようにでも法解釈ができるという、企業にとっては恐ろしい法律なのだそうです。
なので、施行前でも運用開始?
個人情報を大量に取り扱う中国ハイテク企業が次々に米国市場を目指している。
理由は、米国の株式市場がコロナ禍の影響の中で、じゃぶじゃぶ緩和された世界の資金が流れこんで株価は絶好調、低調が続く中国市場よりも大きな資金調達ががを期待できるからだと福島さん。
トランプ政権時の米国には、米株式市場から中国企業を駆逐しようという意志がはっきりと見えていた。だが、バイデン政権になると、トランプが米国から追いだそうとしていたTikTokも微信も容認されるようになり、中国企業の間でも「トランプほど中国企業に厳しくないだろう」という楽観が広がったこともあると。
こういう中国の新興民間企業の米国志向が、習近平政権のメンツを傷つけて、怒りを買ったともみられているとも。
WSJに依れば、中国インターネット安全監督当局は、これらネット配車アプリ企業に対してIPOを延期するよう求め、情報管理の体制を徹底的に自己検閲することを促していたのだそうです。
しかし、滴滴は高額リターンを期待する投資家たちの圧力に押される形で上場計画を実施してしまったらしい。しかし、その上場日が中国共産党建党100周年の前々日(29日)で、習近平政権にしてみれば、一層、神経を逆なでされた格好となったと福島さん。
滴滴は何を思ってこの状況でIPOを強行したのか。やはり習近平政権をあなどっていたのかと。
一方、この措置は単に中国のデータ主権防衛のためだけでなく、米中冷戦構造の中で米国市場を超限戦的戦場にすることもできるという、米国への警告意図があったのではないか、という見方もあると福島さん。
昨年(2020年)、ナスダックに上場した中国企業「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の大規模な不正会計が発覚し、数日のうちに株価75%暴落を引き起こした末、上場廃止になって結局破産申告した事件があったのだそうです。
これがもし、意図的に中国企業が株価の大暴落を引き起こしたのだとすれば、中国側は米国市場を混乱させて大損害を与える「米国市場攻撃」ができる、ということになる。
中国自身も傷だらけになって致命傷を負いそうだが、中国にしてみれば、人民の犠牲も民営企業の犠牲も屁でもないかもしれないと。
米国に上場する企業が会計規制の要件を3年連続で達成できない場合、その株式の取引が米国のすべての証券市場で禁止される「外国企業説明責任法」が、2020年12月に成立。
共和党の若き大統領候補とされているマルコ・ルビオ上院議員は6月、滴滴が米国市場上場の他の外国企業と同じ水準の会計監査を受けられないのであれば上場阻止すべきだと米国証券取引委員会(SEC)に訴えていたのだそうです。
米国は市場や投資家を守るために、危うい中国企業を駆逐し、米中金融市場のデカップリングは進まざるを得ないと福島さん。
もう1つ別の角度の論評で、中国当局の滴滴いじめは、「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争だ、という見方が一部台湾メディアで報じられているのだそうです。滴滴の株主には江沢民派太子党系資金が含まれているから、というのがその理由。
滴滴の上場は江沢民ファミリーの資金移動やマネーロンダリングに利用される、と習近平側は見ていると。
習近平は敵が多すぎる。米国もグローバル資本家も、江沢民派も中国民営企業も、そしておそらく国営企業も人民も、今の習近平のなんでもかんでも統制強化する毛沢東回帰のやり方では敵に回らざるを得ないと福島さん。
経済を犠牲にして、世界を敵に回して、企業を委縮させ、人民を疲弊させて、その果てに本当に中国の偉大なる復興があると思っているのだろうかと。
中国の進む道を決めるのは、毛沢東時代の専制政治に回帰する為に定年制を廃止、国有企業を優先、香港やウイグル、チベットの人権を抑圧する習近平なのか、毛沢東の独裁による弊害を廃し、集団指導体制を構築し、日本の戦後の経済成長にも学び今日の中国の経済大国への道を拓いた、民間企業の活力を重視する、鄧小平の流れを汲む社青同派なのか、はたまた国民なのか。
毛沢東の専制政治の破綻を顕した天安門事件での、世界の対中制裁包囲網の再来を彷彿させる昨今の対中包囲網の進展の世界の潮流。
天安門事件時の包囲網に穴を開け崩したのは、日本の天皇陛下の政治利用外交。
各国が対中ジェノサイト批判で、デカップリングを進める中、国会での決議を見送った日本。その中共のトップを国賓で招くという、再びの天皇陛下の政治利用をあきらめていない与党媚中幹事長を延々と起用する日本。
安倍前首相が、G7でも主導的役割を果たし、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱、米国他の賛同・協調を得て、地域の外交や安瀬保証、経済発展描いた実績を消してしまいかねない今日の与党幹事長の暗躍。
安倍前首相がせっかく築いた、日本の世界への貢献の道が、失われることのないことを願っています。
# 冒頭の画像は、「滴滴出行」(DiDi)の社屋
この花の名前は、メランポジウム
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これはもう中国がウォール・ストリートに攻撃を仕掛けた、という風に受け取られても仕方ないと、元産経新聞北京特派員の福島香織さん。
これぞ「超限戦」(中国が1990年代から提唱する軍民混在、軍事非軍事の制限のない新しい戦争。)で言うところの“金融戦と法規戦のハイブリッド戦術”だという声も出ていると。
習近平の「米国で上場した中国企業」いじめは米国への攻撃か 「滴滴」アプリ規制は、法規戦と金融戦のハイブリッド戦? | JBpress (ジェイビープレス) 2021.7.8(木) 福島 香織:ジャーナリスト
中国の配車アプリ最大手企業「滴滴出行」(DiDi)がニューヨーク市場でアリババ以来の大規模IPO(株式公開)で44億ドルを調達した直後、中国当局がアプリストアから滴滴出行のアプリを削除する措置を取った。この措置により滴滴の米国預託証券(ADR)が一時30%安の10.9ドルに下落したとロイターなどが報じた。時価総額で220億ドル相当が吹っ飛んだという。
中国企業への投資にはこのようなリスクがつきものだということは、投資家の間では周知だったかもしれないが、まさか米国市場でのIPOにゴーサインを出しておきながら(一部報道では中国当局の反対を押し切っての上場だったという説もあるが)、その直後に不意打ちのようにこういう決定を下したのは、これはもう中国がウォール・ストリートに攻撃を仕掛けた、という風に受け取られても仕方ない。
一部では、これぞ「超限戦」(中国が1990年代から提唱する軍民混在、軍事非軍事の制限のない新しい戦争。ハイブリッド戦争とも呼ばれる)で言うところの“金融戦と法規戦のハイブリッド戦術”だという声も出ている。
興味深いのは、習近平政権が敵とみなしてファイティングポーズをとっている相手は、米国なのか、ウォール・ストリートに代表される金融グローバリストたちなのか、中国の民営企業・資本家なのか、あるいは特定の政敵なのか、全部ひっくるめてなのか、といろいろな見方のあることだ。
個人情報は国家の「重要データ」
中国の国家インターネット情報弁公室は7月4日、米国で上場したばかりの中国の最大手ネット配車プラットフォーム企業「滴滴出行」(DiDi)のアプリを中国のアプリストアから削除するように命じた。理由は、個人情報収集に関する重大な法規違反があった、ということだ。
滴滴ユーザーは世界に5億人、うち中国に1億5000万人のユーザーがいる。これまでにダウンロードされたアプリは当面の間は使い続けることはできるようだが、少なくとも中国国内では新規ダウンロードはできなくなった。
ほかにも満帮集団の配車アプリ企業(運満満、貨車帮)や求人アプリ企業(BOSS直聘)も、同様のネットセキュリティ関連の審査を受けることになり新たなユーザー登録停止要請が出された。
これらの企業は、いずれも6月に米ニューヨーク市場に上場を果たしたばかり。中でも滴滴は6月29日にニューヨーク市場に上場、44億ドルを調達していた。これはアリババが2014年に250億ドルを調達して以来の中国企業としての大規模IPO案件として、中国でも注目されていた。「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)によれば、滴滴株価は上場翌日に15.98%上昇して時価総額は786億ドルとなり、S&Pダウ・ジョーンズインデックス、MSCIやFTSEなどのインデックスにも月内に組み入れられることになっていた。
中国では、中国人民の個人情報ビッグデータを国家主権に関わるものとみており、大量の個人情報データをもつハイテク企業、インターネットプラットフォーム企業に対する統制が厳しくなっている。
6月10日に開かれた全人代常務委員会でデータ安全法(データセキュリティ法)が可決され、9月1日から施行されることはわかっていた。データ安全法は、国家の「重要データ」を海外の企業に違法に転送した場合、最高1000万元の罰金と運営凍結措置を規定する法律である。
だが、実のところ何を「重要データ」とするところは不明瞭だ。法の取り締まり対象となるデータの活用の定義も曖昧で、何が適用範囲になるかは当局の心の赴くまま、いかようにでも法解釈ができるという、企業にとっては恐ろしい法律だ。
このデータ安全法と年内に施行される個人情報保護法や、すでに成立しているサイバーセキュリティ法によって、中国企業や中国市場に進出する外国企業が保持する顧客データなどが厳しい統制下に置かれ、事実上、中国人ユーザーのビッグデータは、領土や領海と同じく、侵されべからざる国家の主権が及ぶものとなる。
こういう状況に対応するため、テスラやアップルなど中国市場を目指す外資ハイテク企業は中国国内にデータを保存すべくデータセンターの建設を開始している。
習近平政権が米国独立記念日に「反撃」?
一方、個人情報を大量に取り扱う中国ハイテク企業が次々に米国市場を目指している。
米国の株式市場はコロナ禍の影響の中で、じゃぶじゃぶ緩和された世界の資金が流れこんで株価は絶好調、低調が続く中国市場よりも大きな資金調達が期待できるからだ。
トランプ政権時の米国には、米株式市場から中国企業が駆逐しようという意志がはっきりと見えていた。だが、バイデン政権になると、トランプが米国から追いだそうとしていたTikTokも微信も容認されるようになり、中国企業の間でも「トランプほど中国企業に厳しくないだろう」という楽観が広がったこともある。
だが、こういう中国の新興民間企業の米国志向が、習近平政権のメンツを傷つけて、怒りを買ったともみられている。
WSJによれば、中国インターネット安全監督当局は、これらネット配車アプリ企業に対してIPOを延期するよう求め、情報管理の体制を徹底的に自己検閲することを促していた、という。
滴滴は明確にIPO停止命令を受けていたわけでなく、高額リターンを期待する投資家たちの圧力に押される形で上場計画を実施してしまったらしい。しかし、その上場日が中国共産党建党100周年の前々日(29日)で、習近平政権にしてみれば、一層、神経を逆なでされた格好となった。だから、米国独立記念日に反撃に出た、ということかもしれない。
WSJに内情をリークした中国政府官僚は、「中国インターネット情報弁公室の官僚たちは、これらインターネット配車サービス企業が米国で上場すると、保有する大量のデータが外国の手中に落ちるのではないかと非常に懸念していた」とも語っていた。滴滴は何を思ってこの状況でIPOを強行したのか。やはり習近平政権をあなどっていたのか。
滴滴のIPO時の目論見書によれば、筆頭株主は日本のソフトバンクで21.5%、第2株主は米国のUber(12.8%)、第3が中国のテンセント(6.8%)。中国企業というよりは、グローバル企業と呼ぶにふさわしい株主構成だ。
「環球時報」は、滴滴が米国に上場したことで、滴滴の収集した中国人ユーザーの個人情報が、外国企業に漏れる可能性があり、ユーザーの個人的な利益を侵害するだけでなく国家の安全保障上の利益にもさらに損害を与えることになる、と批判的に報じた。国家インターネット情報弁公室も、滴滴のアプリを削除して改善を要請し、個人情報安全を守るだけでなく国家安全を守ることは大衆の支持を得ている、と説明した。
滴滴の副総裁の李敏は7月4日、「滴滴のデータはすべて国内サーバに置いてあり、絶対に米国に渡すことはない」と強調している。
「米国市場攻撃」ができるという警告なのか
一方、この措置は単に中国のデータ主権防衛のためだけでなく、米中冷戦構造の中で米国市場を超限戦的戦場にすることもできるという、米国への警告意図があったのではないか、という見方もある。
WSJによれば、米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)は米国市場上場の外国企業のうち200以上が、事実上会計審査ができない状況にあることを確認しており、そのほとんどが中国企業だという。中国政府側が、国家安全保護や国家機密保護を規定する法律をもって、米国上場の中国企業の監査に必要な資料情報の提供を拒否しているからだ。そのなかには、米国株式市場主要インデックスに組み込まれている企業も多い。
一方、中国のデータ安全法では、中国企業が中国政府の認可なしで国内の「重要データ」を海外の司法や管理監督当局に提出すれば最大500万元の罰金など厳しい罰則が科されることになっている。
昨年(2020年)、ナスダックに上場した中国企業「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の大規模な不正会計が発覚し、数日のうちに株価75%暴落を引き起こした末、上場廃止になって結局破産申告した事件があった。これがもし、単なる一企業の腐敗が偶然発覚したのではなく、意図的に中国企業が株価の大暴落を引き起こしたのだとすれば、中国側は米国市場を混乱させて大損害を与える「米国市場攻撃」ができる、ということになる。
中国自身も傷だらけになって致命傷を負いそうな、そんな漫画みたいな戦い方があり得るのか、という話だが、14億人の血肉で鋼鉄の長城を築くとうそぶく中国にしてみれば、人民の犠牲も民営企業の犠牲も屁でもないかもしれない。
2020年12月に成立した「外国企業説明責任法」によると、米国に上場する企業が会計規制の要件を3年連続で達成できない場合、その株式の取引が米国のすべての証券市場で禁止される。フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員は6月、滴滴が米国市場上場の他の外国企業と同じ水準の会計監査を受けられないのであれば上場阻止すべきだと米国証券取引委員会(SEC)に訴えていた。米中対立の方向性がこのままの状況であれば、米国は市場や投資家を守るために、危うい中国企業を駆逐し、米中金融市場のデカップリングは進まざるを得ない。
「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争という見方も
もう1つ別の角度の論評も一部台湾メディアで報じられている。中国当局の滴滴いじめは、「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争だ、という見方だ。滴滴の株主には江沢民派太子党系資金が含まれているから、というのがその理由だ。
フィンテック企業アントグループに対する上場廃止命令の背景にも、江沢民の孫の江志成が立ち上げた博裕資本を通じて江沢民派の資金が入り込んでいる、という党内部筋の話をやはりWSJなどが報じていた。それと同じ構造が、滴滴の資本構造の中にもあるという。
滴滴は創業9年目、これまで21回の出資を受け、その累計金額は226億ドル。株主構造は複雑で、ソフトバンクを筆頭に、Uber、テンセント、アリババ、金沙江創投、ヒルハウス、セコイアキャピタル、アップル、トヨタ、アントグループなどが名を連ねる。テンセントとアリババから出ている資金の中に、江沢民ファミリー資産が含まれているようだ。滴滴の上場は江沢民ファミリーの資金移動やマネーロンダリングに利用される、と習近平側は見ているという。だとすれば、グローバル資本家にしてみれば、中国国内権力闘争に巻き込まれるのははた迷惑な話である。
早い話が、習近平は敵が多すぎる。米国もグローバル資本家も、江沢民派太子党も中国民営企業も、そしておそらく国営企業も人民も、今の習近平のなんでもかんでも統制強化する毛沢東回帰のやり方では敵に回らざるを得ない。
経済を犠牲にして、世界を敵に回して、企業を委縮させ、人民を疲弊させて、その果てに本当に中国の偉大なる復興があると思っているのだろうか。
中国の配車アプリ最大手企業「滴滴出行」(DiDi)がニューヨーク市場でアリババ以来の大規模IPO(株式公開)で44億ドルを調達した直後、中国当局がアプリストアから滴滴出行のアプリを削除する措置を取った。この措置により滴滴の米国預託証券(ADR)が一時30%安の10.9ドルに下落したとロイターなどが報じた。時価総額で220億ドル相当が吹っ飛んだという。
中国企業への投資にはこのようなリスクがつきものだということは、投資家の間では周知だったかもしれないが、まさか米国市場でのIPOにゴーサインを出しておきながら(一部報道では中国当局の反対を押し切っての上場だったという説もあるが)、その直後に不意打ちのようにこういう決定を下したのは、これはもう中国がウォール・ストリートに攻撃を仕掛けた、という風に受け取られても仕方ない。
一部では、これぞ「超限戦」(中国が1990年代から提唱する軍民混在、軍事非軍事の制限のない新しい戦争。ハイブリッド戦争とも呼ばれる)で言うところの“金融戦と法規戦のハイブリッド戦術”だという声も出ている。
興味深いのは、習近平政権が敵とみなしてファイティングポーズをとっている相手は、米国なのか、ウォール・ストリートに代表される金融グローバリストたちなのか、中国の民営企業・資本家なのか、あるいは特定の政敵なのか、全部ひっくるめてなのか、といろいろな見方のあることだ。
個人情報は国家の「重要データ」
中国の国家インターネット情報弁公室は7月4日、米国で上場したばかりの中国の最大手ネット配車プラットフォーム企業「滴滴出行」(DiDi)のアプリを中国のアプリストアから削除するように命じた。理由は、個人情報収集に関する重大な法規違反があった、ということだ。
滴滴ユーザーは世界に5億人、うち中国に1億5000万人のユーザーがいる。これまでにダウンロードされたアプリは当面の間は使い続けることはできるようだが、少なくとも中国国内では新規ダウンロードはできなくなった。
ほかにも満帮集団の配車アプリ企業(運満満、貨車帮)や求人アプリ企業(BOSS直聘)も、同様のネットセキュリティ関連の審査を受けることになり新たなユーザー登録停止要請が出された。
これらの企業は、いずれも6月に米ニューヨーク市場に上場を果たしたばかり。中でも滴滴は6月29日にニューヨーク市場に上場、44億ドルを調達していた。これはアリババが2014年に250億ドルを調達して以来の中国企業としての大規模IPO案件として、中国でも注目されていた。「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)によれば、滴滴株価は上場翌日に15.98%上昇して時価総額は786億ドルとなり、S&Pダウ・ジョーンズインデックス、MSCIやFTSEなどのインデックスにも月内に組み入れられることになっていた。
中国では、中国人民の個人情報ビッグデータを国家主権に関わるものとみており、大量の個人情報データをもつハイテク企業、インターネットプラットフォーム企業に対する統制が厳しくなっている。
6月10日に開かれた全人代常務委員会でデータ安全法(データセキュリティ法)が可決され、9月1日から施行されることはわかっていた。データ安全法は、国家の「重要データ」を海外の企業に違法に転送した場合、最高1000万元の罰金と運営凍結措置を規定する法律である。
だが、実のところ何を「重要データ」とするところは不明瞭だ。法の取り締まり対象となるデータの活用の定義も曖昧で、何が適用範囲になるかは当局の心の赴くまま、いかようにでも法解釈ができるという、企業にとっては恐ろしい法律だ。
このデータ安全法と年内に施行される個人情報保護法や、すでに成立しているサイバーセキュリティ法によって、中国企業や中国市場に進出する外国企業が保持する顧客データなどが厳しい統制下に置かれ、事実上、中国人ユーザーのビッグデータは、領土や領海と同じく、侵されべからざる国家の主権が及ぶものとなる。
こういう状況に対応するため、テスラやアップルなど中国市場を目指す外資ハイテク企業は中国国内にデータを保存すべくデータセンターの建設を開始している。
習近平政権が米国独立記念日に「反撃」?
一方、個人情報を大量に取り扱う中国ハイテク企業が次々に米国市場を目指している。
米国の株式市場はコロナ禍の影響の中で、じゃぶじゃぶ緩和された世界の資金が流れこんで株価は絶好調、低調が続く中国市場よりも大きな資金調達が期待できるからだ。
トランプ政権時の米国には、米株式市場から中国企業が駆逐しようという意志がはっきりと見えていた。だが、バイデン政権になると、トランプが米国から追いだそうとしていたTikTokも微信も容認されるようになり、中国企業の間でも「トランプほど中国企業に厳しくないだろう」という楽観が広がったこともある。
だが、こういう中国の新興民間企業の米国志向が、習近平政権のメンツを傷つけて、怒りを買ったともみられている。
WSJによれば、中国インターネット安全監督当局は、これらネット配車アプリ企業に対してIPOを延期するよう求め、情報管理の体制を徹底的に自己検閲することを促していた、という。
滴滴は明確にIPO停止命令を受けていたわけでなく、高額リターンを期待する投資家たちの圧力に押される形で上場計画を実施してしまったらしい。しかし、その上場日が中国共産党建党100周年の前々日(29日)で、習近平政権にしてみれば、一層、神経を逆なでされた格好となった。だから、米国独立記念日に反撃に出た、ということかもしれない。
WSJに内情をリークした中国政府官僚は、「中国インターネット情報弁公室の官僚たちは、これらインターネット配車サービス企業が米国で上場すると、保有する大量のデータが外国の手中に落ちるのではないかと非常に懸念していた」とも語っていた。滴滴は何を思ってこの状況でIPOを強行したのか。やはり習近平政権をあなどっていたのか。
滴滴のIPO時の目論見書によれば、筆頭株主は日本のソフトバンクで21.5%、第2株主は米国のUber(12.8%)、第3が中国のテンセント(6.8%)。中国企業というよりは、グローバル企業と呼ぶにふさわしい株主構成だ。
「環球時報」は、滴滴が米国に上場したことで、滴滴の収集した中国人ユーザーの個人情報が、外国企業に漏れる可能性があり、ユーザーの個人的な利益を侵害するだけでなく国家の安全保障上の利益にもさらに損害を与えることになる、と批判的に報じた。国家インターネット情報弁公室も、滴滴のアプリを削除して改善を要請し、個人情報安全を守るだけでなく国家安全を守ることは大衆の支持を得ている、と説明した。
滴滴の副総裁の李敏は7月4日、「滴滴のデータはすべて国内サーバに置いてあり、絶対に米国に渡すことはない」と強調している。
「米国市場攻撃」ができるという警告なのか
一方、この措置は単に中国のデータ主権防衛のためだけでなく、米中冷戦構造の中で米国市場を超限戦的戦場にすることもできるという、米国への警告意図があったのではないか、という見方もある。
WSJによれば、米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)は米国市場上場の外国企業のうち200以上が、事実上会計審査ができない状況にあることを確認しており、そのほとんどが中国企業だという。中国政府側が、国家安全保護や国家機密保護を規定する法律をもって、米国上場の中国企業の監査に必要な資料情報の提供を拒否しているからだ。そのなかには、米国株式市場主要インデックスに組み込まれている企業も多い。
一方、中国のデータ安全法では、中国企業が中国政府の認可なしで国内の「重要データ」を海外の司法や管理監督当局に提出すれば最大500万元の罰金など厳しい罰則が科されることになっている。
昨年(2020年)、ナスダックに上場した中国企業「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の大規模な不正会計が発覚し、数日のうちに株価75%暴落を引き起こした末、上場廃止になって結局破産申告した事件があった。これがもし、単なる一企業の腐敗が偶然発覚したのではなく、意図的に中国企業が株価の大暴落を引き起こしたのだとすれば、中国側は米国市場を混乱させて大損害を与える「米国市場攻撃」ができる、ということになる。
中国自身も傷だらけになって致命傷を負いそうな、そんな漫画みたいな戦い方があり得るのか、という話だが、14億人の血肉で鋼鉄の長城を築くとうそぶく中国にしてみれば、人民の犠牲も民営企業の犠牲も屁でもないかもしれない。
2020年12月に成立した「外国企業説明責任法」によると、米国に上場する企業が会計規制の要件を3年連続で達成できない場合、その株式の取引が米国のすべての証券市場で禁止される。フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員は6月、滴滴が米国市場上場の他の外国企業と同じ水準の会計監査を受けられないのであれば上場阻止すべきだと米国証券取引委員会(SEC)に訴えていた。米中対立の方向性がこのままの状況であれば、米国は市場や投資家を守るために、危うい中国企業を駆逐し、米中金融市場のデカップリングは進まざるを得ない。
「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争という見方も
もう1つ別の角度の論評も一部台湾メディアで報じられている。中国当局の滴滴いじめは、「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争だ、という見方だ。滴滴の株主には江沢民派太子党系資金が含まれているから、というのがその理由だ。
フィンテック企業アントグループに対する上場廃止命令の背景にも、江沢民の孫の江志成が立ち上げた博裕資本を通じて江沢民派の資金が入り込んでいる、という党内部筋の話をやはりWSJなどが報じていた。それと同じ構造が、滴滴の資本構造の中にもあるという。
滴滴は創業9年目、これまで21回の出資を受け、その累計金額は226億ドル。株主構造は複雑で、ソフトバンクを筆頭に、Uber、テンセント、アリババ、金沙江創投、ヒルハウス、セコイアキャピタル、アップル、トヨタ、アントグループなどが名を連ねる。テンセントとアリババから出ている資金の中に、江沢民ファミリー資産が含まれているようだ。滴滴の上場は江沢民ファミリーの資金移動やマネーロンダリングに利用される、と習近平側は見ているという。だとすれば、グローバル資本家にしてみれば、中国国内権力闘争に巻き込まれるのははた迷惑な話である。
早い話が、習近平は敵が多すぎる。米国もグローバル資本家も、江沢民派太子党も中国民営企業も、そしておそらく国営企業も人民も、今の習近平のなんでもかんでも統制強化する毛沢東回帰のやり方では敵に回らざるを得ない。
経済を犠牲にして、世界を敵に回して、企業を委縮させ、人民を疲弊させて、その果てに本当に中国の偉大なる復興があると思っているのだろうか。
興味深いのは、習近平政権が敵とみなしてファイティングポーズをとっている相手は、米国なのか、ウォール・ストリートに代表される金融グローバリストたちなのか、中国の民営企業・資本家なのか、あるいは特定の政敵なのか、全部ひっくるめてなのか、といろいろな見方のあることだと福島さん。
中国の国家インターネット情報弁公室は、「滴滴出行」(DiDi)のアプリを中国のアプリストアから削除するように命じた理由は、個人情報収集に関する重大な法規違反があった、と。
ほかにも満帮集団の配車アプリ企業(運満満、貨車帮)や求人アプリ企業(BOSS直聘)も、同様のネットセキュリティ関連の審査を受けることになり新たなユーザー登録停止要請が出されたのだそうです。
6月10日に開かれた全人代常務委員会でデータ安全法(データセキュリティ法)が可決され、国家の「重要データ」を海外の企業に違法に転送した場合、最高1000万元の罰金と運営凍結措置を規定する法律が9月1日から施行されることにはなっていると福島さん。
しかし、何を「重要データ」とするところは不明瞭。法の取り締まり対象となるデータの活用の定義も曖昧で、何が適用範囲になるかは当局の心の赴くまま、いかようにでも法解釈ができるという、企業にとっては恐ろしい法律なのだそうです。
なので、施行前でも運用開始?
個人情報を大量に取り扱う中国ハイテク企業が次々に米国市場を目指している。
理由は、米国の株式市場がコロナ禍の影響の中で、じゃぶじゃぶ緩和された世界の資金が流れこんで株価は絶好調、低調が続く中国市場よりも大きな資金調達ががを期待できるからだと福島さん。
トランプ政権時の米国には、米株式市場から中国企業を駆逐しようという意志がはっきりと見えていた。だが、バイデン政権になると、トランプが米国から追いだそうとしていたTikTokも微信も容認されるようになり、中国企業の間でも「トランプほど中国企業に厳しくないだろう」という楽観が広がったこともあると。
こういう中国の新興民間企業の米国志向が、習近平政権のメンツを傷つけて、怒りを買ったともみられているとも。
WSJに依れば、中国インターネット安全監督当局は、これらネット配車アプリ企業に対してIPOを延期するよう求め、情報管理の体制を徹底的に自己検閲することを促していたのだそうです。
しかし、滴滴は高額リターンを期待する投資家たちの圧力に押される形で上場計画を実施してしまったらしい。しかし、その上場日が中国共産党建党100周年の前々日(29日)で、習近平政権にしてみれば、一層、神経を逆なでされた格好となったと福島さん。
滴滴は何を思ってこの状況でIPOを強行したのか。やはり習近平政権をあなどっていたのかと。
一方、この措置は単に中国のデータ主権防衛のためだけでなく、米中冷戦構造の中で米国市場を超限戦的戦場にすることもできるという、米国への警告意図があったのではないか、という見方もあると福島さん。
昨年(2020年)、ナスダックに上場した中国企業「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」の大規模な不正会計が発覚し、数日のうちに株価75%暴落を引き起こした末、上場廃止になって結局破産申告した事件があったのだそうです。
これがもし、意図的に中国企業が株価の大暴落を引き起こしたのだとすれば、中国側は米国市場を混乱させて大損害を与える「米国市場攻撃」ができる、ということになる。
中国自身も傷だらけになって致命傷を負いそうだが、中国にしてみれば、人民の犠牲も民営企業の犠牲も屁でもないかもしれないと。
米国に上場する企業が会計規制の要件を3年連続で達成できない場合、その株式の取引が米国のすべての証券市場で禁止される「外国企業説明責任法」が、2020年12月に成立。
共和党の若き大統領候補とされているマルコ・ルビオ上院議員は6月、滴滴が米国市場上場の他の外国企業と同じ水準の会計監査を受けられないのであれば上場阻止すべきだと米国証券取引委員会(SEC)に訴えていたのだそうです。
米国は市場や投資家を守るために、危うい中国企業を駆逐し、米中金融市場のデカップリングは進まざるを得ないと福島さん。
もう1つ別の角度の論評で、中国当局の滴滴いじめは、「習近平 VS.江沢民派」の代理戦争だ、という見方が一部台湾メディアで報じられているのだそうです。滴滴の株主には江沢民派太子党系資金が含まれているから、というのがその理由。
滴滴の上場は江沢民ファミリーの資金移動やマネーロンダリングに利用される、と習近平側は見ていると。
習近平は敵が多すぎる。米国もグローバル資本家も、江沢民派も中国民営企業も、そしておそらく国営企業も人民も、今の習近平のなんでもかんでも統制強化する毛沢東回帰のやり方では敵に回らざるを得ないと福島さん。
経済を犠牲にして、世界を敵に回して、企業を委縮させ、人民を疲弊させて、その果てに本当に中国の偉大なる復興があると思っているのだろうかと。
中国の進む道を決めるのは、毛沢東時代の専制政治に回帰する為に定年制を廃止、国有企業を優先、香港やウイグル、チベットの人権を抑圧する習近平なのか、毛沢東の独裁による弊害を廃し、集団指導体制を構築し、日本の戦後の経済成長にも学び今日の中国の経済大国への道を拓いた、民間企業の活力を重視する、鄧小平の流れを汲む社青同派なのか、はたまた国民なのか。
毛沢東の専制政治の破綻を顕した天安門事件での、世界の対中制裁包囲網の再来を彷彿させる昨今の対中包囲網の進展の世界の潮流。
天安門事件時の包囲網に穴を開け崩したのは、日本の天皇陛下の政治利用外交。
各国が対中ジェノサイト批判で、デカップリングを進める中、国会での決議を見送った日本。その中共のトップを国賓で招くという、再びの天皇陛下の政治利用をあきらめていない与党媚中幹事長を延々と起用する日本。
安倍前首相が、G7でも主導的役割を果たし、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を提唱、米国他の賛同・協調を得て、地域の外交や安瀬保証、経済発展描いた実績を消してしまいかねない今日の与党幹事長の暗躍。
安倍前首相がせっかく築いた、日本の世界への貢献の道が、失われることのないことを願っています。
# 冒頭の画像は、「滴滴出行」(DiDi)の社屋
この花の名前は、メランポジウム
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