中国人民解放軍を指揮する総参謀部が全軍に対し、2013年の任務について「戦争の準備をせよ」との指示を出していたことは、諸兄がご承知の通りです。
軍の現場を巡り、「強国」鼓舞して回る習近平の姿は、最近の金正恩の姿と重なって見えるのは、遊爺だけでしょうか。
近頃、遊爺が繰り返し唱えているのは、中国の武力による近隣諸国への海洋覇権拡大には、それなりの抑止力の備えが必要なことは言うまでもありませんが、「攻撃が最大の防御」「敵の弱点を攻める」といった兵法の常識で、中国の弱点を攻めることが必要という事です。
急速な経済成長を遂げた中国が抱える社会矛盾(格差の拡大、大卒の雇用の悪化、報道の自由の規制、一党独裁体制下での人権無視、汚職の横行、環境破壊等々枚挙にきりがないくらいですね)を、広く世界世論で取り上げて、国民の救済支援や、政府の施策への注力を促すのです。
中国の民主派言論人が、全人代での政府の活動報告や、習近平新政権の今後について対談した記事がありました。今年は、「強国の夢」を追求する上層部と、権利を守ることによって「民主の夢」を実現させようとする下からの声が激しく衝突する年になる。というのです。
つまり、中国国内での自浄作用が顕在化するということ。。
陳子明氏 強硬派の声団結に利用
李偉東氏 ネット発「公民」1000万人に
中国の民主派言論人として活発な発言を続けている北京の陳子明氏(61)と李偉東氏(57)に、開会中の全国人民代表大会(全人代)で問われる課題や昨年11月に発足した習近平体制への評価などについて対談してもらった。(司会は加藤隆則・中国総局長)
━━全人代で温家宝首相が提出した政府の活動報告をどう評価するか。
陳 毛沢東の閉鎖的な自力更生路線を支持する左派(保守)勢力が伸長する中、市場経済化の堅持を強調したことは強いメッセージだ。だが、すでに労働人口が減少に向かい、日本のような少子化問題が顕在化しているにもかかわらず、計画出産(一人っ子政策)は堅持した。100万人に及ぶ関連政府部門と(中国の)人口統計学界主流派の既得権益と共産党のメンツを、国民の利益よりも優先させた結果だ。
李 高度成長によって都市が膨張し、社会の不公平が生まれていることへの反省が足りない。厳格な土地管理政策で顕在化していないが、北京ではスラム化現象も出現している。300万~500万人がジメジメした地下室の2段ベッドで暮らしている。「偉大な中華民族の復興」をスローガンに掲げる習政権は、強い中央集権の強化によって米国を超える経済大国を目指し、庶民の苦難は脇に置かれている。市場化路線とは矛盾しており、分配の不公平を解決するのは難しい。
━━尖閣諸島の領有権を巡る問題で、対日開戦を主張する声も生まれているが。
陳 活動報告には平和的発展の堅持が盛り込まれた。同報告は文官が書いたもので、彼らは戦争が自国にもたらすマイナスをはっきり認識している。だが、少数の過激な強硬派や民族主義者は伝統的に存在し、共産主義は資本主義に勝利し、中国は欧米に勝たなければならないと誤った考えを持っている。第18回党大会を控えた昨年の反日デモのように、政権がそうした一部の声を国内団結のために利用することはある。
李 比較的穏健な強硬派は、当面20年間は戦争を避け、国内建設を優先させるべきだと考えている。その上で、「米国と雌雄を決しよう」という立場だ。戦前の日本が対米決戦の準備をした状況と似ている。習氏の周辺にはこうした考えに立つ人物が多く、長期的に見れば非常に危険だ。リベラル派は、米中の大国が利益を共有し、権力のバランスを均衡させる発展の道を提唱しているが、習氏がどの方向を取るかはまだ見えてこない。
━━社会の矛盾を放置したままの発展は、いずれ限界に達するのではないか。
李 権力の腐敗は行き着くところまで行き、強固な利益集団ができあがってしまった。外部の力ではなく、内部の対立や抗争によって瓦解する可能性はある。今後10年、利益対立の事件が頻発するだろう。
陳 北京や広州などの大都市では、若者たちが社会の不正義に対し、街頭に出て横断幕を掲げ、意思表示する動きが芽生えている。習氏を激励する内容もある。
李 中国のネット人口は3億人以上だが、そのうち1980年代、90年代生まれのエリートが1000万人おり、民主意識を持ち、国の主人公としての公民意識を高めている。それが、長年の教育によって生まれた民族主義や国家主義を弱める役割を果たしている。今年は、中央集権の安定体制で「強国の夢」を追求する上層部と、権利を守ることによって「民主の夢」を実現させようとする下からの声が激しく衝突する年になる。
習近平 戦争準備をし、実戦に備える様「軍事訓練に関する指示」を全軍へ - 遊爺雑記帳
習近平政権は、今年を海洋強国化の元年と位置づけ - 遊爺雑記帳
民主派言論人がいて、このような対談が出来ることには驚きですが、それだけ社会矛盾の課題が切実になってきているということなのでしょうね。
国内の対立や抗争という点では、温家宝氏が政府活動報告で、毛沢東思想への回帰を唱える左派に異論を呈したという、新旧政権上層部の基本政策の乖離が挙げられますね。
米国の軍事力や経済力に追いつき追い越そうとする危険な勢力と、大国が利益を共有し共栄を計ろうとする勢力の対立もあります。
やがては米国と雌雄を決するという強硬派は、「戦前の日本が対米決戦の準備をした状況と似ている」と、中国人が言うのには、反面教師の例えとは言え、時代の変化を感じさせられます。
地球規模での環境破壊(例=PM2.5、ゴミの廃棄・海洋漂流等)は、被害者の日本は、事実を世界に知らしめるべきです。
この記事の様な、中国国内の民主派の発信を支援して、世界に知らしめるべきです。
尖閣の領有にについては、世界に向けたPR戦争を日中で展開しています。そこでの中国の弱点の社会矛盾への攻撃は、政府では法的に困難な面がありますから、民間報道機関の世界に向けた発信力が問われます。
慰安婦問題の様な、国益に反する虚偽報道が悪用されることはあっても、日本のマスコミが世界世論に影響を与える発信をしたとは、ついぞ聞いたことがありません。米紙でさえも、多大な広告料を貰っている中国の批判は時に抑えられたりする場面に遭遇します。
中国の「三戦」の内の、メディアを利用し既成事実を積み重ねる「世論戦」に、台湾はもとより、米国までも犯され始めた今日ですが、日本のマスコミも読者が冷静な眼で見分けることが必要ですし、逆に、日本のメディアに奮起をお願いしたいものです。
余談ですが、強国を標榜する習近平は、最初の外遊先をロシアにするのだそうですね。
領土問題で、中国が韓国とロシアに共闘を呼び掛けても乘らなかったロシア。対中けん制の必要性と、極東の天然資源の開発支援と販売から、日本に秋波を送るロシア。価格交渉でとん挫している中国の購入を餌に、日露の接近に楔を打とうとしているのですね。敵の弱点を見透かした、見事な外交と言えます。
ロシアも日本接近のゼスチャーで、中国を牽制した甲斐があった...?
宮崎正弘の国際ニュース・早読み(モスクワへいく習近平新国家主席) [宮崎正弘の国際ニュース・早読み] - メルマ!
繰り返しになりますが、日本も敵の弱点を顕在化させるPR戦で、政府やメディアの奮闘が必要です。
# 冒頭の画像は、広州軍区某部隊の訓練場で水陸両用突撃車に乗り、説明を受ける習総書記。
この花の名前は、大文字草 撮影場所;六甲高山植物園(2012年10月撮影)
↓よろしかったら、お願いします。