秋の共産党大会では、習近平の独裁体制固めがなされるべく万事が進んでいると、万人が注視していますが、ゼロコロナに固執し、ウクライナ侵攻で世界中から袋叩きのプーチンを陰で擁護する習近平に早期引退、李克強への暫定政権移譲をし、環境整備後胡春華らに集団指導体制を託すと言う説が流行っていると、福島香織氏。
上海のロックダウンの様子が連日報道されていますが、習近平の固執が、習近平の無能さの評価に変わろうとしているのでしょうか。
中国共産党中央弁公庁が5月15日、「新時代離退職幹部の党建設強化に関する意見」という文書を発表。
党中央弁公庁というのは党中央委員会の事務局みたいなもので、総書記ら最高指導部の秘書役が主な仕事。現在の主任の丁薛祥という人物は、頭は悪くないが、習近平のイエスマンというのがもっぱらの評判だと福島さん。
ところが、丁薛祥率いる中央弁公庁の打ち出したこの「意見」が、なかなか不穏であると。
この「意見」の内容については、公式に一問一答式の解説があり、「離退職幹部党員の教育管理方面での明確な要求とは?」という質問に対して以下のように回答。
「・・・離退職幹部、特に指導的地位についたことのある幹部は関連規律を厳格に守ること。」云々。
習近平は党の長老たちと激しい対立を抱えているようだ。それを牽制するために、子分の丁薛祥にこの「意見」を出させたのだろうと福島さん。
具体的にどの長老を意識しているのかは不明だが、たとえば習近平に批判的な長老の1人に朱鎔基がいる。1988年に上海でA型肝炎が大流行したときに見事に対応したとされる当時の上海市長。
今年(2022年)3月、朱鎔基が習近平に対して「防疫政策、ゼロコロナ(動態ゼロコロナ)、都市ロックダウンや禁足令のような極端な施策によって散々な状況になっていることに反対する。必要なのは科学的・理性的な防疫であり、国家の計画や民生にマイナス影響を与えてはならない」といった9項目からなる文書を送り付けた、という噂が立ったことがあったのだそうです。
この文書が本当に存在するかは裏がとれていない。だが、この噂が立ったとき、ネットで朱鎔基が注目された。それはネット民による一種の習近平批判のやり方ではあったと福島さん。
元駐ウクライナ大使だった退職幹部の高玉生も習近平に目をつけられたのだそうです。
ウクライナ戦争の情勢について「ロシアの敗北必至」と発言。ロシア敗北論は、プーチンに肩入れしてきた習近平にとって対ロ外交の失策を批判されているのと同じであり、腹立たしい限りであっただろうと。
とにかく、「退職しても(習近平を核心とする)党に従え」「党中央の大きな政策方針に妄議を行ってはならない」「ネガティブな影響を与える言論を拡散するな」という口調は、恫喝といってもいいくらいの激しさ。
中国はもともと長幼の序を重視する国である。大先輩たちの苦言などはとりあえず丁寧に受け止めつつ実際には無視しておけばいいものを、ここまであからさまに敵意を剥き出している。これは、習近平の焦り、不安の表れではないかと。
この余裕のなさは、5月5日の政治局常務委員会でゼロコロナ政策について「一切の歪曲、懐疑、否定の言行と戦う」という表現でゼロコロナ政策貫徹を命じたのと通ずるものがあるとも。
今の習近平は自分に対する一切の批判、苦言、アドバイスについて歯を剥いて抵抗する状況なのだ。そこまで追い詰められているということなのだろうと福島さん。
そういう状況でこの数日、チャイナウォッチャーたちの間で、にわかに話題になっているのが「李克強総書記待望論」なのだそうです。
習近平は権力を放棄して秋の党大会で引退、李克強に総書記の座を譲る。
習近平はゼロコロナ政策の過激な進め方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで窮地に陥っている。
党内の各レベルの指導者も我慢の限界。習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、共産党の集団指導体制は消滅の危機に瀕する。
党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちが協力して、党、政府、軍、警察の実力人物を説得して支持を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議を開催した。その会議席上で習近平問題について討論し、習近平に圧力をかけて権力放棄を迫り、第20回党大会で正式に引退するように迫る。
習近平は権力を放棄し、日常任務を李克強に託すとしたほか、第20回党大会の前に、政策基調の方向性を転換し、少しずつ目下の冒険的極左主義的やり方から脱していくことも認める。
習近平については、『提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任』(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)。
新しい指導部は同時に、コロナ対策の中での経済発展、生産再稼働の重要性を強調する。
上海の行き過ぎたゼロコロナ政策については、習近平、李強(上海書記)2人とも責任がある。
現在、上海の感染状況は深刻。急いで引退したところで、感染は収まらない。『鈴を解くのは鈴をつけた人』の諺どおり、李強はしばらく現状で持ちこたえねばならない。
この幕引きシナリオは信じられるかと福島さん。
5月2日に政治局常務委員会拡大会議が開かれたというのは裏がとれない。
習近平がおとなしく李克強に総書記職を禅譲するというはちょっと考えられない。老灯自身が「俺もあり得ないと思うんだけどね」と半信半疑。
なぜ老灯はこうした裏の取れない情報をあえて流したのか。
そして、なぜ多くのチャイナウォッチャーが「これはフェイクだろう」と思いつつ、この話題に注目するのか。
多くの人たちが「これが一番、中国にとっても(国際社会にとっても)穏便で現実的な習近平の失敗の幕引きシナリオ」と思うような説得力があるからだと福島さん。
かといって習近平が去ったところで問題は残る。では誰がその後始末をつけるべきか、と言えば、若手にいきなり任せるよりも、現役の政治局常務委員の李克強か汪洋に託す方がよかろう。少なくとも彼らには習近平の暴走を食い止められなかった集団指導体制メンバーとしての責任もある。
李克強が総書記兼国家主席となって改革開放路線回帰への道筋をつける。胡春華らを政治局常務委員会に引き上げて急ぎ実務を覚えさせれば、2年後には次の集団指導体制に引き継げるではないかと福島さん。
フェイクか、予言か。今の中国官僚たちに宮廷クーデターや政変を実行するほどの実力も意志もないけれど、習近平に自身の無能さをなんとか分からせたいという思いが、こういう根も葉もない噂になって広がっていくのかもしれないと。
実なの淡い夢想は、現実とはならないのでしょうか。中国にとっても、国際社会にとっても、八方円く収まるのですが。。
# 冒頭の画像は、全国人民代表大会(全人代)での李克強首相(左)と習近平国家主席(2022年3月11日)
この花の名前は、アキノベニバナサルビア
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
上海のロックダウンの様子が連日報道されていますが、習近平の固執が、習近平の無能さの評価に変わろうとしているのでしょうか。
大スクープかフェイクか、「習近平が秋に引退」説が飛び出た背景 焦る習近平と、じわじわ盛り上がる李克強総書記待望論 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.5.19(木) 福島 香織
中国共産党中央弁公庁が5月15日、「新時代離退職幹部の党建設強化に関する意見」という文書を発表した。
党中央弁公庁というのは党中央委員会の事務局みたいなもので、総書記ら最高指導部の秘書役が主な仕事だ。現在の主任の丁薛祥という人物は、頭は悪くなく、演説稿などもうまいのだが、習近平のイエスマンというのがもっぱらの評判だ。丁薛祥率いる中央弁公庁の打ち出したこの「意見」が、なかなか不穏である。
「・・・離退職幹部党員は継続して党の言うことを聞き、党について行くことを確保せよ。・・・監督管理、日常管理を強化し、離退職幹部党員、特に過去に指導的地位についたことのある幹部党員には厳しく関連規律を守るように求め、さらに一歩、党性観念と党の規律意識を増強するように求める。・・・」
この「意見」の内容については、公式に一問一答式の解説があり、「離退職幹部党員の教育管理方面での明確な要求とは?」という質問に対して以下のように回答している。
「・・・離退職幹部、特に指導的地位についたことのある幹部は関連規律を厳格に守ること。党中央の大きな政策方針に妄議(ばかばかしい議論)を行ってはならず、政治的にネガティブな言論を拡散してはならず、違法な社会組織活動に参加してはならず、元職の権威あるいは職務影響力を通じて自己や他人の利益をはかってならない。各種の誤った思潮に断固反対し、享楽主義、贅沢な風潮に断固反対すること。党組織の監督管理の影響力を発揮し、問題の兆しを発見し、それが大衆に悪影響を及ぼしている場合、党委員会機構部門あるいは老幹部の工作機構、党組織の責任者は速やかに警告すること。規律違反者は規則に従って厳格に処理されるものとする」
長老と対立、余裕をなくす習近平
習近平は党の長老たちと激しい対立を抱えているようだ。それを牽制するために、子分の丁薛祥にこの「意見」を出させたのだろう。
具体的にどの長老を意識しているのかは不明だが、たとえば習近平に批判的な長老の1人に朱鎔基がいる。1988年に上海でA型肝炎が大流行したときに見事に対応したとされる当時の上海市長である。
今年(2022年)3月、朱鎔基が習近平に対して「防疫政策、ゼロコロナ(動態ゼロコロナ)、都市ロックダウンや禁足令のような極端な施策によって散々な状況になっていることに反対する。必要なのは科学的・理性的な防疫であり、国家の計画や民生にマイナス影響を与えてはならない」といった9項目からなる文書を送り付けた、という噂が立ったことがあった。
この文書が本当に存在するかは裏がとれていない。だが、この噂が立ったとき、ネットでは1988年の朱鎔基のA型肝炎に関する演説原稿や当時のニュース映像が流れた。それはネット民による一種の習近平批判のやり方ではあった。
最近では、元駐ウクライナ大使だった退職幹部の高玉生も習近平に目をつけられた。高玉生は、国際金融30人フォーラムに参加したときに、ウクライナ戦争の情勢について「ロシアの敗北必至」と発言した。すると、この発言をSNS「微信」のフォーラムの公式アカウントが流し、フェニックスのニュースサイトが転載するという事件が5月10日に起きた。だが、この発言は速やかにすべて削除された。ロシア敗北論は、プーチンに肩入れしてきた習近平にとって対ロ外交の失策を批判されているのと同じであり、腹立たしい限りであったのだろう。
とにかく、「退職しても(習近平を核心とする)党に従え」「党中央の大きな政策方針に妄議を行ってはならない」「ネガティブな影響を与える言論を拡散するな」という口調は、恫喝といってもいいくらいの激しさだ。
中国はもともと長幼の序を重視する国である。大先輩たちの苦言などはとりあえず丁寧に受け止めつつ実際には無視しておけばいいものを、ここまであからさまに敵意を剥き出している。これは、習近平の焦り、不安の表れではないか。
この余裕のなさは、5月5日の政治局常務委員会でゼロコロナ政策について「一切の歪曲、懐疑、否定の言行と戦う」という表現でゼロコロナ政策貫徹を命じたのと通ずるものがある。今の習近平は自分に対する一切の批判、苦言、アドバイスについて歯を剥いて抵抗する状況なのだ。そこまで追い詰められているということなのだろう。
老灯が語った「党内筋からの情報」
そういう状況でこの数日、チャイナウォッチャーたちの間で、にわかに話題になっているのが「李克強総書記待望論」だ。
きっかけは、ネット上の人気セルフメディアを主宰する老灯という人物がYouTube番組で、党内筋からの情報として、概ね次のようなことを語ったことだった。
《5月2日に中央政治局常務委員会拡大会議が招集され、習近平は権力を放棄して秋の党大会で引退、李克強に総書記の座を譲る、と決めた。
習近平はゼロコロナ政策の過激な進め方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで窮地に陥っている。全国の政治経済情勢が大きく乱れ、党内の各レベルの指導者も我慢の限界だ。もしこういう状況に歯止めがきかず、習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、共産党の集団指導体制は消滅の危機に瀕することになる。
このことから、党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちが協力して、党、政府、軍、警察の実力人物を説得して支持を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議を開催した。その会議席上で習近平問題について討論し、習近平に圧力をかけて権力放棄を迫り、第20回党大会で正式に引退するように迫った。
習近平は権力を放棄し、日常任務を李克強に託すとしたほか、第20回党大会の前に、政策基調の方向性を転換し、少しずつ目下の冒険的極左主義的やり方から脱していくことも認めた。
政治局常務委員会は習近平の仕事について、前期の反腐敗キャンペーンや厳格に党を統治したことについては功績を認め、習近平問題について16字の表現で評価を制定した。すなわち『提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任』(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)。
習近平は第20回党大会前の間は、総書記および国家主席などの儀礼的な仕事は続け、引退後は江沢民、胡錦涛のような退職国家指導者と同じ待遇を得られる。習近平は引退後、権力闘争を拡大せず、報復などもせず、安定を維持し、党と国家のイメージを守ることした。
目下のゼロコロナ政策は、新たな指導部はしばらく維持する。庶民に一つの過渡期を与えながら、彼らに習近平の政策の危険性を少しずつ認識させ、突然の政策変動に人心を怯えさせないようにする。政局の動揺はまずい結果をもたらす可能性があるからだ。(李克強の)新指導部が継続して任務を行える基礎をつくるためにも人心を動揺させてはいけない。
新しい指導部は同時に、コロナ対策の中での経済発展、生産再稼働の重要性を強調すること。
また、中央常務委員会は、中央国家機関、党委員会副書記の呉漢聖が丁薛祥に代わり、中央弁公庁の仕事を主管すること。前内モンゴル自治区書記の石泰峰は陳希の跡を継いで、中央組織部の仕事に就く。2人とも李克強派だ。
上海の行き過ぎたゼロコロナ政策については、習近平、李強(上海書記)2人とも責任があるとみられている。現在、上海の感染状況は深刻で、多くの混乱を招いている。たとえ急いで引退したところで、感染は収まらない。『鈴を解くのは鈴をつけた人』の諺どおり、李強はしばらく現状で持ちこたえねばならない。李強は、この常務委員会拡大会議には参加できず、習近平の禅譲の詳細についても必ずしも知る必要はない、とされた。李強の後継は、まだはっきりと決められていないようだが、丁薛祥の可能性があると言われている・・・。》
願望としての「幕引きシナリオ」か
さて、この「情報」を信じるか?
まず5月2日に政治局常務委員会拡大会議が開かれたというのは裏がとれない。新華社は4月29日に政治局会議、5月5日に政治局常務委員会議があったことは報じている。しかも5月5日の政治局常務委員会議のゼロコロナ堅持メッセージや、5月15日の中央弁公庁からの長老たちへの「恫喝的意見」から考えると、習近平がおとなしく李克強に総書記職を禅譲するというはちょっと考えられない。老灯自身が「俺もあり得ないと思うんだけどね」と半信半疑だ。
では、なぜ老灯はこうした裏の取れない情報をあえて流したのか。フォロワーを増やすため? あるいは反習近平派官僚が習近平を焦らせるために「フェイク」を流したのか? あるいは習近平派が官僚界の「両面人(二枚舌)」の裏切り者をあぶりだすために仕掛けた「罠」としての引退説? そして、なぜ多くのチャイナウォッチャーが「これはフェイクだろう」と思いつつ、この話題に注目するのか。
おそらく多くの人たちが「これが一番、中国にとっても(国際社会にとっても)穏便で現実的な習近平の失敗の幕引きシナリオ」と思うような説得力があるからだ。
このまま習近平が長期権力を握れば、第2の文革が起きるかもしれないし、台湾侵攻戦争をやらかすかもしれない。そんなことは誰も望んでいない。別に権力を失ったあとに習近平を逮捕しようとか幽閉しようとかそんなつもりはないから、おとなしく引退してほしい、という願いは、おそらく党内の主要官僚たちの本音ではないだろうか。
かといって習近平が去ったところで問題は残る。では誰がその後始末をつけるべきか、と言えば、若手にいきなり任せるよりも、現役の政治局常務委員の李克強か汪洋に託す方がよかろう。少なくとも彼らには習近平の暴走を食い止められなかった集団指導体制メンバーとしての責任もある。李克強は今年の全人代で1年後の首相引退を表明しているので、李克強が総書記兼国家主席となって改革開放路線回帰への道筋をつける。胡春華らを政治局常務委員会に引き上げて急ぎ実務を覚えさせれば、2年後には次の集団指導体制に引き継げるではないか──。
フェイクか、予言か。今の中国官僚たちに宮廷クーデターや政変を実行するほどの実力も意志もないけれど、習近平に自身の無能さをなんとか分からせたいという思いが、こういう根も葉もない噂になって広がっていくのかもしれない。
中国共産党中央弁公庁が5月15日、「新時代離退職幹部の党建設強化に関する意見」という文書を発表した。
党中央弁公庁というのは党中央委員会の事務局みたいなもので、総書記ら最高指導部の秘書役が主な仕事だ。現在の主任の丁薛祥という人物は、頭は悪くなく、演説稿などもうまいのだが、習近平のイエスマンというのがもっぱらの評判だ。丁薛祥率いる中央弁公庁の打ち出したこの「意見」が、なかなか不穏である。
「・・・離退職幹部党員は継続して党の言うことを聞き、党について行くことを確保せよ。・・・監督管理、日常管理を強化し、離退職幹部党員、特に過去に指導的地位についたことのある幹部党員には厳しく関連規律を守るように求め、さらに一歩、党性観念と党の規律意識を増強するように求める。・・・」
この「意見」の内容については、公式に一問一答式の解説があり、「離退職幹部党員の教育管理方面での明確な要求とは?」という質問に対して以下のように回答している。
「・・・離退職幹部、特に指導的地位についたことのある幹部は関連規律を厳格に守ること。党中央の大きな政策方針に妄議(ばかばかしい議論)を行ってはならず、政治的にネガティブな言論を拡散してはならず、違法な社会組織活動に参加してはならず、元職の権威あるいは職務影響力を通じて自己や他人の利益をはかってならない。各種の誤った思潮に断固反対し、享楽主義、贅沢な風潮に断固反対すること。党組織の監督管理の影響力を発揮し、問題の兆しを発見し、それが大衆に悪影響を及ぼしている場合、党委員会機構部門あるいは老幹部の工作機構、党組織の責任者は速やかに警告すること。規律違反者は規則に従って厳格に処理されるものとする」
長老と対立、余裕をなくす習近平
習近平は党の長老たちと激しい対立を抱えているようだ。それを牽制するために、子分の丁薛祥にこの「意見」を出させたのだろう。
具体的にどの長老を意識しているのかは不明だが、たとえば習近平に批判的な長老の1人に朱鎔基がいる。1988年に上海でA型肝炎が大流行したときに見事に対応したとされる当時の上海市長である。
今年(2022年)3月、朱鎔基が習近平に対して「防疫政策、ゼロコロナ(動態ゼロコロナ)、都市ロックダウンや禁足令のような極端な施策によって散々な状況になっていることに反対する。必要なのは科学的・理性的な防疫であり、国家の計画や民生にマイナス影響を与えてはならない」といった9項目からなる文書を送り付けた、という噂が立ったことがあった。
この文書が本当に存在するかは裏がとれていない。だが、この噂が立ったとき、ネットでは1988年の朱鎔基のA型肝炎に関する演説原稿や当時のニュース映像が流れた。それはネット民による一種の習近平批判のやり方ではあった。
最近では、元駐ウクライナ大使だった退職幹部の高玉生も習近平に目をつけられた。高玉生は、国際金融30人フォーラムに参加したときに、ウクライナ戦争の情勢について「ロシアの敗北必至」と発言した。すると、この発言をSNS「微信」のフォーラムの公式アカウントが流し、フェニックスのニュースサイトが転載するという事件が5月10日に起きた。だが、この発言は速やかにすべて削除された。ロシア敗北論は、プーチンに肩入れしてきた習近平にとって対ロ外交の失策を批判されているのと同じであり、腹立たしい限りであったのだろう。
とにかく、「退職しても(習近平を核心とする)党に従え」「党中央の大きな政策方針に妄議を行ってはならない」「ネガティブな影響を与える言論を拡散するな」という口調は、恫喝といってもいいくらいの激しさだ。
中国はもともと長幼の序を重視する国である。大先輩たちの苦言などはとりあえず丁寧に受け止めつつ実際には無視しておけばいいものを、ここまであからさまに敵意を剥き出している。これは、習近平の焦り、不安の表れではないか。
この余裕のなさは、5月5日の政治局常務委員会でゼロコロナ政策について「一切の歪曲、懐疑、否定の言行と戦う」という表現でゼロコロナ政策貫徹を命じたのと通ずるものがある。今の習近平は自分に対する一切の批判、苦言、アドバイスについて歯を剥いて抵抗する状況なのだ。そこまで追い詰められているということなのだろう。
老灯が語った「党内筋からの情報」
そういう状況でこの数日、チャイナウォッチャーたちの間で、にわかに話題になっているのが「李克強総書記待望論」だ。
きっかけは、ネット上の人気セルフメディアを主宰する老灯という人物がYouTube番組で、党内筋からの情報として、概ね次のようなことを語ったことだった。
《5月2日に中央政治局常務委員会拡大会議が招集され、習近平は権力を放棄して秋の党大会で引退、李克強に総書記の座を譲る、と決めた。
習近平はゼロコロナ政策の過激な進め方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで窮地に陥っている。全国の政治経済情勢が大きく乱れ、党内の各レベルの指導者も我慢の限界だ。もしこういう状況に歯止めがきかず、習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、共産党の集団指導体制は消滅の危機に瀕することになる。
このことから、党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちが協力して、党、政府、軍、警察の実力人物を説得して支持を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議を開催した。その会議席上で習近平問題について討論し、習近平に圧力をかけて権力放棄を迫り、第20回党大会で正式に引退するように迫った。
習近平は権力を放棄し、日常任務を李克強に託すとしたほか、第20回党大会の前に、政策基調の方向性を転換し、少しずつ目下の冒険的極左主義的やり方から脱していくことも認めた。
政治局常務委員会は習近平の仕事について、前期の反腐敗キャンペーンや厳格に党を統治したことについては功績を認め、習近平問題について16字の表現で評価を制定した。すなわち『提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任』(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)。
習近平は第20回党大会前の間は、総書記および国家主席などの儀礼的な仕事は続け、引退後は江沢民、胡錦涛のような退職国家指導者と同じ待遇を得られる。習近平は引退後、権力闘争を拡大せず、報復などもせず、安定を維持し、党と国家のイメージを守ることした。
目下のゼロコロナ政策は、新たな指導部はしばらく維持する。庶民に一つの過渡期を与えながら、彼らに習近平の政策の危険性を少しずつ認識させ、突然の政策変動に人心を怯えさせないようにする。政局の動揺はまずい結果をもたらす可能性があるからだ。(李克強の)新指導部が継続して任務を行える基礎をつくるためにも人心を動揺させてはいけない。
新しい指導部は同時に、コロナ対策の中での経済発展、生産再稼働の重要性を強調すること。
また、中央常務委員会は、中央国家機関、党委員会副書記の呉漢聖が丁薛祥に代わり、中央弁公庁の仕事を主管すること。前内モンゴル自治区書記の石泰峰は陳希の跡を継いで、中央組織部の仕事に就く。2人とも李克強派だ。
上海の行き過ぎたゼロコロナ政策については、習近平、李強(上海書記)2人とも責任があるとみられている。現在、上海の感染状況は深刻で、多くの混乱を招いている。たとえ急いで引退したところで、感染は収まらない。『鈴を解くのは鈴をつけた人』の諺どおり、李強はしばらく現状で持ちこたえねばならない。李強は、この常務委員会拡大会議には参加できず、習近平の禅譲の詳細についても必ずしも知る必要はない、とされた。李強の後継は、まだはっきりと決められていないようだが、丁薛祥の可能性があると言われている・・・。》
願望としての「幕引きシナリオ」か
さて、この「情報」を信じるか?
まず5月2日に政治局常務委員会拡大会議が開かれたというのは裏がとれない。新華社は4月29日に政治局会議、5月5日に政治局常務委員会議があったことは報じている。しかも5月5日の政治局常務委員会議のゼロコロナ堅持メッセージや、5月15日の中央弁公庁からの長老たちへの「恫喝的意見」から考えると、習近平がおとなしく李克強に総書記職を禅譲するというはちょっと考えられない。老灯自身が「俺もあり得ないと思うんだけどね」と半信半疑だ。
では、なぜ老灯はこうした裏の取れない情報をあえて流したのか。フォロワーを増やすため? あるいは反習近平派官僚が習近平を焦らせるために「フェイク」を流したのか? あるいは習近平派が官僚界の「両面人(二枚舌)」の裏切り者をあぶりだすために仕掛けた「罠」としての引退説? そして、なぜ多くのチャイナウォッチャーが「これはフェイクだろう」と思いつつ、この話題に注目するのか。
おそらく多くの人たちが「これが一番、中国にとっても(国際社会にとっても)穏便で現実的な習近平の失敗の幕引きシナリオ」と思うような説得力があるからだ。
このまま習近平が長期権力を握れば、第2の文革が起きるかもしれないし、台湾侵攻戦争をやらかすかもしれない。そんなことは誰も望んでいない。別に権力を失ったあとに習近平を逮捕しようとか幽閉しようとかそんなつもりはないから、おとなしく引退してほしい、という願いは、おそらく党内の主要官僚たちの本音ではないだろうか。
かといって習近平が去ったところで問題は残る。では誰がその後始末をつけるべきか、と言えば、若手にいきなり任せるよりも、現役の政治局常務委員の李克強か汪洋に託す方がよかろう。少なくとも彼らには習近平の暴走を食い止められなかった集団指導体制メンバーとしての責任もある。李克強は今年の全人代で1年後の首相引退を表明しているので、李克強が総書記兼国家主席となって改革開放路線回帰への道筋をつける。胡春華らを政治局常務委員会に引き上げて急ぎ実務を覚えさせれば、2年後には次の集団指導体制に引き継げるではないか──。
フェイクか、予言か。今の中国官僚たちに宮廷クーデターや政変を実行するほどの実力も意志もないけれど、習近平に自身の無能さをなんとか分からせたいという思いが、こういう根も葉もない噂になって広がっていくのかもしれない。
中国共産党中央弁公庁が5月15日、「新時代離退職幹部の党建設強化に関する意見」という文書を発表。
党中央弁公庁というのは党中央委員会の事務局みたいなもので、総書記ら最高指導部の秘書役が主な仕事。現在の主任の丁薛祥という人物は、頭は悪くないが、習近平のイエスマンというのがもっぱらの評判だと福島さん。
ところが、丁薛祥率いる中央弁公庁の打ち出したこの「意見」が、なかなか不穏であると。
この「意見」の内容については、公式に一問一答式の解説があり、「離退職幹部党員の教育管理方面での明確な要求とは?」という質問に対して以下のように回答。
「・・・離退職幹部、特に指導的地位についたことのある幹部は関連規律を厳格に守ること。」云々。
習近平は党の長老たちと激しい対立を抱えているようだ。それを牽制するために、子分の丁薛祥にこの「意見」を出させたのだろうと福島さん。
具体的にどの長老を意識しているのかは不明だが、たとえば習近平に批判的な長老の1人に朱鎔基がいる。1988年に上海でA型肝炎が大流行したときに見事に対応したとされる当時の上海市長。
今年(2022年)3月、朱鎔基が習近平に対して「防疫政策、ゼロコロナ(動態ゼロコロナ)、都市ロックダウンや禁足令のような極端な施策によって散々な状況になっていることに反対する。必要なのは科学的・理性的な防疫であり、国家の計画や民生にマイナス影響を与えてはならない」といった9項目からなる文書を送り付けた、という噂が立ったことがあったのだそうです。
この文書が本当に存在するかは裏がとれていない。だが、この噂が立ったとき、ネットで朱鎔基が注目された。それはネット民による一種の習近平批判のやり方ではあったと福島さん。
元駐ウクライナ大使だった退職幹部の高玉生も習近平に目をつけられたのだそうです。
ウクライナ戦争の情勢について「ロシアの敗北必至」と発言。ロシア敗北論は、プーチンに肩入れしてきた習近平にとって対ロ外交の失策を批判されているのと同じであり、腹立たしい限りであっただろうと。
とにかく、「退職しても(習近平を核心とする)党に従え」「党中央の大きな政策方針に妄議を行ってはならない」「ネガティブな影響を与える言論を拡散するな」という口調は、恫喝といってもいいくらいの激しさ。
中国はもともと長幼の序を重視する国である。大先輩たちの苦言などはとりあえず丁寧に受け止めつつ実際には無視しておけばいいものを、ここまであからさまに敵意を剥き出している。これは、習近平の焦り、不安の表れではないかと。
この余裕のなさは、5月5日の政治局常務委員会でゼロコロナ政策について「一切の歪曲、懐疑、否定の言行と戦う」という表現でゼロコロナ政策貫徹を命じたのと通ずるものがあるとも。
今の習近平は自分に対する一切の批判、苦言、アドバイスについて歯を剥いて抵抗する状況なのだ。そこまで追い詰められているということなのだろうと福島さん。
そういう状況でこの数日、チャイナウォッチャーたちの間で、にわかに話題になっているのが「李克強総書記待望論」なのだそうです。
習近平は権力を放棄して秋の党大会で引退、李克強に総書記の座を譲る。
習近平はゼロコロナ政策の過激な進め方、ウクライナ戦争でのプーチンとの準同盟化の失敗などで窮地に陥っている。
党内の各レベルの指導者も我慢の限界。習近平が己のやり方に固執して、独断で突き進めば、共産党の集団指導体制は消滅の危機に瀕する。
党内では江沢民、曽慶紅、胡錦涛の長老たちが協力して、党、政府、軍、警察の実力人物を説得して支持を得て、また王岐山、王滬寧とも連携して政治局拡大会議を開催した。その会議席上で習近平問題について討論し、習近平に圧力をかけて権力放棄を迫り、第20回党大会で正式に引退するように迫る。
習近平は権力を放棄し、日常任務を李克強に託すとしたほか、第20回党大会の前に、政策基調の方向性を転換し、少しずつ目下の冒険的極左主義的やり方から脱していくことも認める。
習近平については、『提前交権、到站下車、平穏過度、不追責任』(権力の委譲を前倒しにして、政権の座を降りては平穏に過ごすならば、責任は追及しない)。
新しい指導部は同時に、コロナ対策の中での経済発展、生産再稼働の重要性を強調する。
上海の行き過ぎたゼロコロナ政策については、習近平、李強(上海書記)2人とも責任がある。
現在、上海の感染状況は深刻。急いで引退したところで、感染は収まらない。『鈴を解くのは鈴をつけた人』の諺どおり、李強はしばらく現状で持ちこたえねばならない。
この幕引きシナリオは信じられるかと福島さん。
5月2日に政治局常務委員会拡大会議が開かれたというのは裏がとれない。
習近平がおとなしく李克強に総書記職を禅譲するというはちょっと考えられない。老灯自身が「俺もあり得ないと思うんだけどね」と半信半疑。
なぜ老灯はこうした裏の取れない情報をあえて流したのか。
そして、なぜ多くのチャイナウォッチャーが「これはフェイクだろう」と思いつつ、この話題に注目するのか。
多くの人たちが「これが一番、中国にとっても(国際社会にとっても)穏便で現実的な習近平の失敗の幕引きシナリオ」と思うような説得力があるからだと福島さん。
かといって習近平が去ったところで問題は残る。では誰がその後始末をつけるべきか、と言えば、若手にいきなり任せるよりも、現役の政治局常務委員の李克強か汪洋に託す方がよかろう。少なくとも彼らには習近平の暴走を食い止められなかった集団指導体制メンバーとしての責任もある。
李克強が総書記兼国家主席となって改革開放路線回帰への道筋をつける。胡春華らを政治局常務委員会に引き上げて急ぎ実務を覚えさせれば、2年後には次の集団指導体制に引き継げるではないかと福島さん。
フェイクか、予言か。今の中国官僚たちに宮廷クーデターや政変を実行するほどの実力も意志もないけれど、習近平に自身の無能さをなんとか分からせたいという思いが、こういう根も葉もない噂になって広がっていくのかもしれないと。
実なの淡い夢想は、現実とはならないのでしょうか。中国にとっても、国際社会にとっても、八方円く収まるのですが。。
# 冒頭の画像は、全国人民代表大会(全人代)での李克強首相(左)と習近平国家主席(2022年3月11日)
この花の名前は、アキノベニバナサルビア
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