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12月7日は、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後既に287日目になりました。
ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。
ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。
換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになりますと、環日本海経済研究所共同研究員 杉浦敏広氏。
12月5日に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価ですと、杉浦氏。
露国家予算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高い。
すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準なのだそうです。
この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により損はしないが、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになる。
これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。
この点を指摘している日系マスコミは皆無ですと、杉浦氏。
露経済と国庫税収は油価に依存していますと、杉浦氏。
ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補填に転用すると発表。
今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至と、杉浦氏。
欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。
しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。
対露経済制裁措置は強力に効いており、特にロシアの石油・ガス産業に大きな影響を及ぼしていますと。
2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。
しかし、これは間違いですと、杉浦氏。
石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからですと。
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になりますと、杉浦氏。
サハリン1, 2は、極寒地での開発で、英・シェルや、米・エクソンモービルの主導や、日本の三井、三菱等の投資参加ですすめられていたのを、完成間近に突如資本比率を強制変更し、ロシアが主導権を握った前科のある企業体であることは、諸兄がご承知の通りです。
今回の対露経済制裁で、シェルもエクソンモービルも撤退を決めましたが、やむをえず新会社に移行するロシアに、日本の商工会議所や経団連と岸田政府は縋りついています。
サハリン1, 2での仕打ちは忘れたのか。今回の対露制裁で、非友好国指定されても縋りつく日本。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力、投資資金が必要。
「サハリン-2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1~2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると予測しますと、杉浦氏。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。
欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となるとも。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。
オホーツク海のS-2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1~2年後)生産量は徐々に低下していくと、杉浦氏。
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。
現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因していると杉浦氏。
ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありませんとも、杉浦氏。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょうとも。
継戦能力の原動力は経済力と資金力です。
ロシア経済は既に弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。
この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょうと、杉浦氏。
ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大。金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょうと。
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ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。
ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。
換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになりますと、環日本海経済研究所共同研究員 杉浦敏広氏。
疲弊著しいロシア経済、まもなく戦争継続困難に 軍隊は胃袋で行進する――1バレル60ドル上限設定の意味 | JBpress (ジェイビープレス) 2022.12.7(水) (公財)環日本海経済研究所共同研究員 杉浦 敏広
■プロローグ/誤算続きの「プーチンの戦争」
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。
戦争の規模こそ異なれど、ウクライナ侵攻は「第2のバルバロッサ(赤髭)作戦」とも言えましょう。
この原稿を書いている12月5日は、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後既に285日目に入りました。
昨日(12月4日)のOPEC+協調減産会議では、現行の減産維持合意(2mbd減産)を来年も継続することが決定(mbd=百万バレル/日量)。
次回OPEC+協調減産会議は来年6月4日に予定されていますが、必要に応じ臨機応変に開催されることも決まりました。
今回の協調減産継続を受け、今後油価はどのように動くのか筆者は注目しております。
本稿の結論を先に書きます。ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。
ロシア経済は石油・ガス依存型経済構造です。ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。
換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
本稿では、「プーチンの戦争」がいかにロシア経済を疲弊させ、ロシア(露)の国益を毀損しているのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて考察したいと思います。
■第1部:油価変動がロシア経済に与える影響
筆者がよく受ける照会事項に、「油価が1ドル上下すると、それはロシア経済にどのような影響を与えるのか?」という質問があります。
実は、この答えは簡単です。ロシアの原油生産量は約10mbd(mbd=百万バレル/日量)、うち5mbdは原油(主にウラル原油)として輸出。残り5mbdは露国内で精製され、石油製品(主に軽油と重油)になり、そのうち半分は国内消費、残り半分は輸出です。
ですから、油価(ウラル原油)が1ドル上がるとロシアの原油輸出収入は1日500万ドル増え、1ドル下がれば500万ドル減ります。
1ドル上昇すれば年間では500万ドル×365日=約18億ドルの輸出金額増になり、石油製品も1ドル上がると仮定すれば、750万ドル×365日=約27億ドルの輸出金額増になります。
現在の露ウラル原油の油価(FOB価格)はバレル$50~$55の水準で推移しています。
本日(12月5日)に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価です。
なぜなら、露国家予算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高いからです。
すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準です。
この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により利益は出ますが(損はしないが)、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになります。
これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。
この点を指摘している日系マスコミは皆無です。
■第2部:3油種週間油価推移(2021年1月~2022年11月)
最初に2021年1月から2022年11月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週間油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ全面侵攻後、ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ゆえに、ウラル原油は英語ではURALsと複数形のsが付きます。ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、全て軽質・スウィート原油です。
今年11月21~25日の平均油価は北海ブレント$86.4/バレル(前週比▲$5.7/スポット価格)、米WTI $78.7(同▲$5.3)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$53.2(同▲$8.4)となり、ブレントとウラル原油には約$33の値差があります。
この超安値の露産原油を買い漁っているのがインドで、ロシアは現在、アジア諸国に対し市場価格より3割安い油価でオファーしていると報じられています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/63/29/c0dce66f6fa943f85f86e59c8aa7db48.jpg)
ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3でしたが、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2ですが、今年1~11月度の平均油価は$78.3になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。11月末の時点で北海ブレントはバレル$85前後で推移、米WTIは$80を割り、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油の油価はウクライナ侵攻後に下落開始、11月中旬には2022年国家予算想定油価を割りました。
筆者は、昨日4日に開催されたOPEC+協調減産会議後の油価動静に注目しております。
■第3部:油上の楼閣経済/国庫税収は油価次第
露経済と国庫税収は油価に依存しています。なお、この場合の油価とはあくまでもロシアの代表的油種ウラル原油の油価です。
ウラル原油の油価が露国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存していることが下記グラフよりも一目瞭然となりましょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/13/59baf56948ffd09cb62911d64156c08b.jpg)
ここで、参考までに過去4年間の露ウラル原油月次油価推移を概観します。露ウラル原油の月次油価推移は以下の通りです。
2022年11月度の平均油価はバレル$66.5になりましたが、12月度は$60を割る水準まで低下するものと筆者は予測しております。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/73/72/c935b64d79dc1957ddffd952b8b12481.jpg)
■第4部:国家予算案概観(2023~25年)
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023~25年国家予算原案を提出しました。
ロシアの国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
11月24日の下院第3読会にてこの原案は可決・採択されました。その後上院にて承認され、露プーチン大統領は本日12月5日にこの予算案に署名、予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価は露ウラル原油です。
政府予算原案は例年9月中旬までに下院に提出されることになっていますが、今年は10月1日まで締め切り延長されました。
これはウクライナ情勢を受けて予算案見直しが必要になったことを窺わせますが、実際には9月上旬に策定された数字が9月21日に閣議了承され、その原案が28日下院に提出されたので、予算案見直しはなかったことになります。
これが何を意味しているのかと申せば、ウクライナ東南部4州のロシア併合に伴う復興予算などは勘案されていないということです。
しかも驚くべきことに、10月16日付け露独立新聞は「この予算案は2022年末までにウクライナ特別軍事作戦がロシア勝利の形で終結する前提で組まれている」と報じています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/91/c07d2726716b8b41444a508a3986d1f2.jpg)
9月28日に公表された露政府予算原案の概要は上記の通りです。
ウラル原油想定油価は2022年見通し$80、2023年$70ですが、既に非現実的です。なぜなら、今年11月後半から油価は急落しているからです。
2021年に策定された2022年期首予算案では、$62.2前提で2022年は余裕の黒字予算でした。
ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補填に転用すると発表。
露会計検査院も、2023年国庫歳入は上記数字より5400億ルーブル少なくなるだろうと指摘しています。
すなわち、今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至です。
参考までに10月11日に公刊されたIMF2022年10月度WEO(世界経済見通し)によれば、ロシアGDP成長率は2022年見通し▲3.4%、2023年予測▲2.3%になっているので、露経済悪化は不可避と言えましょう。
■第5部:欧米の対露経済制裁措置は効果大
欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。
しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。
対露経済制裁措置は強力に効いており、特にロシアの石油・ガス産業に大きな影響を及ぼしています。
欧米の対露経済制裁措置の影響・効果に関する概要は以下の通りです。
●対露経済制裁強化措置は効果大。
●北極圏や気象条件の厳しい石油・ガス鉱区に於いては、欧米石油メジャーの参加不可欠。
●欧米石油ガス関連サービス企業の参画なくして、ロシアの石油・ガス生産維持は困難。
●欧米石油ガス関連製造企業が撤退すれば、ロシアの石油・ガス輸送インフラも影響大。
●露LNG大型プロジェクトに対する影響大。特に、「Arctic LNG 2」は崩壊の危機に瀕するだろう。
実例として、連日マスコミ紙面を賑わしている、露国内で稼働中の欧米から供給された高出力ガスタービンや高圧コンプレッサー機器類の保守点検・修理作業が困難になります。
欧米石油サービス企業が撤退すれば、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至です。
ロシアにおける既存のLNG生産工場ではLNG生産量が徐々に減少し、現在建設中の大規模LNG工場(例、北極圏グィダン半島のArctic LNG 2プロジェクト)は完工不可能の事態に陥ることでしょう。
北極圏や気象条件の厳しい海洋鉱区に於いては、欧米メジャーや石油サービス企業の参画なしには探鉱・開発・商業生産・輸送は困難・不可能なのです。
2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。
しかし、これは間違いです。
第1部の油価動静で検証したごとく、露ウラル原油の油価は2月24日のウクライナ侵攻後、下落しているのです。
石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからです。
実例を挙げます。
2021年の露石油(原油と石油製品)月次輸出額(推計)は 149億ドル、2022年前半は伸びましたが7月以降減少しています。
米国は2022年5月から、日本は6月からロシア産石油輸入量はゼロになり(現状10月まで輸入ゼロ)、今後もロシアの石油輸出額は減少していくものと推測されます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/d2/3318807340ae5d9858d57a455cdb42cd.jpg)
上記の通り、今年前半の露石油収入が昨年月次平均より増えたのは昨年よりウラル原油の油価水準が上昇したからであり、油価下落に伴い石油収入は今後減少していくことになりましょう。
■第6部:戦費拡大と衰退するロシア石油・ガス産業/露LNG生産は全面崩壊懸念の瀬戸際に
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になります。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米メジャーとシュランベルジャーやハリバートン、独ジーメンスや英ロールスロイス、米ベーカーヒューズGEなど、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力が必要になります。
「サハリン-2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1~2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると筆者は予測します。
当面は一匹狼の技術者を雇用することにより短期間は凌げますが、持続的生産維持は不可能です。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。
欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となり、その典型例が北極圏グィダン半島に建設中の「Arctic LNG 2」プロジェクトです。
同プロジェクトのオペレーターである仏トタールは撤退をまだ決定していませんが、EPC(設計・調達・建設)契約者の仏テクニップと、LNGプラントを搭載する下部構造(GBS)を受注した伊サイペムは既に撤退。
ゆえに、本来ならば今年(2022)第1トレーン完工・稼働予定のプロジェクト工期全体が大幅に遅れており、完工・稼働する確固たる目途も立っていません。
筆者は、この大規模LNGプロジェクトは早晩破綻するものと予測しております。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。
露ガスプロムは修理に出した「ノルト・ストリーム①」(以後、NS①)用ガスタービンが戻ってこないとの理由で、NS①の天然ガス年間輸送能力55bcmに対し輸送量を削減しました(bcm=10億立米)。
さらに、8月31日から3日間、定期修理のため輸送全面停止と発表。結局、NS①は8月31日以降、全面稼働停止となりました。
NS②は完工しましたが、稼働しないまま爆破されてしまいました。
プーチン大統領は6月30日、大統領令416号に署名。
これは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産している「サハリン-2」プロジェクトに対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人に無償譲渡させる内容です。
上記大統領令を受け、ロシア政府は8月2日、政令1369号を発布。
この新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」は、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に8月5日に設立されました。
三井物産と三菱商事はS-2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。両社は引き続きロシアに新設された新ロシア法人に権益参加継続することで、ロシア側も承認しました。
ここで一点指摘しておきたいと思います。
商社の権益維持とS-2「サハリンスカヤ・エネルギア」による対日LNG供給は別次元の問題であり、直接の関係はありません。
なぜなら、LNG供給契約は日本の需要家とサハリンスカヤ・エネルギア間の契約になり、三井・三菱はLNG契約の当事者ではないのです。
三井・三菱が権益参加継続すれば対日LNG供給が継続されると考えているとしたら、それは大いなる幻想にすぎません。
三井・三菱はS-2事業会社への出資者であり、事業会社が利益を出せば権益に応じて利益配分を受け、事業会社が赤字になれば権益に応じて赤字負担します。
LNG工場自体は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に移管されましたが、英シェルは既にS-2プロジェクトから撤退しました。
オホーツク海のS-2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1~2年後)生産量は徐々に低下していくものと筆者は予測します。
■第7部:減少する原油・天然ガス生産量
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。
現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、本稿では定量的にこの点を数字で検証したいと思います。
ロシア連邦統計庁は2022年9月までの(コンデンセートを含む)原油・天然ガス月次生産量を発表しましたので、直近4年間の月次生産量を概観します。
ロシアの原油・天然ガス生産量は以下のグラフの通りにて、今年のウクライナ侵攻後に原油・天然ガス生産量が低下していることが一目瞭然となりましょう。
付言すれば、2020年の原油・天然ガス生産量が低いのはコロナ禍による需要低迷が原因であり、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因します。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3b/d1/5610f9b35def1f82b4aedede7a874ad3.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5d/2d/4fb5a53a9098affe00c2d84020c12a6e.jpg)
■第8部:戦費拡大と石油・ガス産業の苦難/大増税法案制定
露国庫財政は2022年以降大幅赤字予算になります。
ゆえに、露政府は石油・ガス関連増税法案を議会に提出。下院で採択され、上院で承認された増税案は11月22日にプーチン大統領署名をもって発効しました。
ご参考までに、2023年1月から3年間の期限立法で導入される増税案概要は以下の通りです。
●原油輸出関税を算出する係数を大幅に上げ、石油(原油+石油製品)輸出関税を増税する。
●P/Lガス輸出関税を現行30%から(ガス価格千立米当たり$300以上の場合)50%に引き上げる。
●国内ガス価格を引き上げる。
●LNGを生産・輸出する業者に対する企業法人税を34%に引き上げる(従来20%)。
●ヤマルLNG用天然ガス鉱区地下資源採取税ゼロを廃止して、地下資源採取税を課税する。
露ガスプロムの欧州向けパイプライン(P/L)天然ガス輸出はFOB輸出金額の30%が輸出関税ですが、2023年1月1日からはこの輸出関税が50%になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池でした。しかし、2023年から欧州向けP/Lガス輸出は激減するでしょう。
この場合、輸出関税を上げても輸出量が激減するので、露国庫税収は減少することが予見されます。
すなわち、戦費の財源は今後ますます先細りになることが透けて見えてきます。
■エピローグ/軍隊は胃袋で行進する
日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。
それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。
ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありません。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょう。
ロシア軍が今年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、12月5日で≪プーチンの戦争≫は既に285日目に入りました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(現キーウ)は制圧され、ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、ヤヌコビッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化はプーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
継戦能力の原動力は経済力と資金力です。
ロシア経済は既に弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。
この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょう。
ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大と筆者は予測します。
ナポレオン曰く、「軍隊は胃袋で行進する」。
金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょう。
■プロローグ/誤算続きの「プーチンの戦争」
ロシア軍のウクライナ全面侵攻作戦は、「プーチンのプーチンによるプーチンのための戦争」です。
戦争の規模こそ異なれど、ウクライナ侵攻は「第2のバルバロッサ(赤髭)作戦」とも言えましょう。
この原稿を書いている12月5日は、2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後既に285日目に入りました。
昨日(12月4日)のOPEC+協調減産会議では、現行の減産維持合意(2mbd減産)を来年も継続することが決定(mbd=百万バレル/日量)。
次回OPEC+協調減産会議は来年6月4日に予定されていますが、必要に応じ臨機応変に開催されることも決まりました。
今回の協調減産継続を受け、今後油価はどのように動くのか筆者は注目しております。
本稿の結論を先に書きます。ロシアのV.プーチン大統領(70歳)の対ウクライナ戦争は、結果として、ロシアの原油と天然ガス生産量低下をもたらすことになるでしょう。
ロシア経済は石油・ガス依存型経済構造です。ロシアの原油・天然ガス生産量低下によりロシア経済は弱体化必至にて、ロシア経済弱体化はプーチンの墓標になる可能性大です。
換言すれば、プーチン大統領はロシアの国益を毀損しており、ロシアの真の敵はプーチン大統領その人ということになります。
本稿では、「プーチンの戦争」がいかにロシア経済を疲弊させ、ロシア(露)の国益を毀損しているのか、筆者の独断と偏見と想像を交えて考察したいと思います。
■第1部:油価変動がロシア経済に与える影響
筆者がよく受ける照会事項に、「油価が1ドル上下すると、それはロシア経済にどのような影響を与えるのか?」という質問があります。
実は、この答えは簡単です。ロシアの原油生産量は約10mbd(mbd=百万バレル/日量)、うち5mbdは原油(主にウラル原油)として輸出。残り5mbdは露国内で精製され、石油製品(主に軽油と重油)になり、そのうち半分は国内消費、残り半分は輸出です。
ですから、油価(ウラル原油)が1ドル上がるとロシアの原油輸出収入は1日500万ドル増え、1ドル下がれば500万ドル減ります。
1ドル上昇すれば年間では500万ドル×365日=約18億ドルの輸出金額増になり、石油製品も1ドル上がると仮定すれば、750万ドル×365日=約27億ドルの輸出金額増になります。
現在の露ウラル原油の油価(FOB価格)はバレル$50~$55の水準で推移しています。
本日(12月5日)に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価です。
なぜなら、露国家予算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高いからです。
すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準です。
この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により利益は出ますが(損はしないが)、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになります。
これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。
この点を指摘している日系マスコミは皆無です。
■第2部:3油種週間油価推移(2021年1月~2022年11月)
最初に2021年1月から2022年11月までの3油種(北海ブレント・米WTI・露ウラル原油)週間油価推移を概観します。
油価は2021年初頭より2022年2月末までは傾向として上昇基調が続きましたが、ロシア軍のウクライナ全面侵攻後、ウラル原油以外は乱高下を経て、2022年6月から下落傾向に入りました。
ロシアの代表的油種ウラル原油は、西シベリア産軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)とヴォルガ流域の重質・サワー原油(同1%以上)のブレント原油で、中質・サワー原油です。
ゆえに、ウラル原油は英語ではURALsと複数形のsが付きます。ちなみに、日本が輸入している(いた)ロシア産原油は3種類(S-1ソーコル原油/S-2サハリンブレンド/ESPO原油)のみで、全て軽質・スウィート原油です。
今年11月21~25日の平均油価は北海ブレント$86.4/バレル(前週比▲$5.7/スポット価格)、米WTI $78.7(同▲$5.3)、ウラル原油(黒海沿岸ノヴォロシースク港出荷FOB)$53.2(同▲$8.4)となり、ブレントとウラル原油には約$33の値差があります。
この超安値の露産原油を買い漁っているのがインドで、ロシアは現在、アジア諸国に対し市場価格より3割安い油価でオファーしていると報じられています。
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ロシアの2021年国家予算案想定油価(ウラル原油)はバレル$45.3でしたが、実績は$69.0。2022年の国家予算案想定油価はバレル$62.2ですが、今年1~11月度の平均油価は$78.3になりました。
上記のグラフをご覧ください。黒色の縦実線は、ロシア軍がウクライナに全面侵攻した2月24日です。
この日を境として、北海ブレントや米WTI油価は急騰。6月に最高値更新後に下落。11月末の時点で北海ブレントはバレル$85前後で推移、米WTIは$80を割り、油価は下落傾向です。
一方、露ウラル原油の油価はウクライナ侵攻後に下落開始、11月中旬には2022年国家予算想定油価を割りました。
筆者は、昨日4日に開催されたOPEC+協調減産会議後の油価動静に注目しております。
■第3部:油上の楼閣経済/国庫税収は油価次第
露経済と国庫税収は油価に依存しています。なお、この場合の油価とはあくまでもロシアの代表的油種ウラル原油の油価です。
ウラル原油の油価が露国家予算案策定の基礎になっており、国庫歳入はウラル原油の油価に依存していることが下記グラフよりも一目瞭然となりましょう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/13/59baf56948ffd09cb62911d64156c08b.jpg)
ここで、参考までに過去4年間の露ウラル原油月次油価推移を概観します。露ウラル原油の月次油価推移は以下の通りです。
2022年11月度の平均油価はバレル$66.5になりましたが、12月度は$60を割る水準まで低下するものと筆者は予測しております。
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■第4部:国家予算案概観(2023~25年)
ロシア政府は2022年9月28日、露下院に2023~25年国家予算原案を提出しました。
ロシアの国家予算原案は下院にて3回審議・採択後上院に回付され、上院にて承認後、大統領署名をもって発効します。
11月24日の下院第3読会にてこの原案は可決・採択されました。その後上院にて承認され、露プーチン大統領は本日12月5日にこの予算案に署名、予算案は発効しました。
ロシア政府が9月28日に提出した国家予算原案の概要は下記の通りにて、想定油価は露ウラル原油です。
政府予算原案は例年9月中旬までに下院に提出されることになっていますが、今年は10月1日まで締め切り延長されました。
これはウクライナ情勢を受けて予算案見直しが必要になったことを窺わせますが、実際には9月上旬に策定された数字が9月21日に閣議了承され、その原案が28日下院に提出されたので、予算案見直しはなかったことになります。
これが何を意味しているのかと申せば、ウクライナ東南部4州のロシア併合に伴う復興予算などは勘案されていないということです。
しかも驚くべきことに、10月16日付け露独立新聞は「この予算案は2022年末までにウクライナ特別軍事作戦がロシア勝利の形で終結する前提で組まれている」と報じています。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/21/91/c07d2726716b8b41444a508a3986d1f2.jpg)
9月28日に公表された露政府予算原案の概要は上記の通りです。
ウラル原油想定油価は2022年見通し$80、2023年$70ですが、既に非現実的です。なぜなら、今年11月後半から油価は急落しているからです。
2021年に策定された2022年期首予算案では、$62.2前提で2022年は余裕の黒字予算でした。
ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補填に転用すると発表。
露会計検査院も、2023年国庫歳入は上記数字より5400億ルーブル少なくなるだろうと指摘しています。
すなわち、今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至です。
参考までに10月11日に公刊されたIMF2022年10月度WEO(世界経済見通し)によれば、ロシアGDP成長率は2022年見通し▲3.4%、2023年予測▲2.3%になっているので、露経済悪化は不可避と言えましょう。
■第5部:欧米の対露経済制裁措置は効果大
欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。
しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。
対露経済制裁措置は強力に効いており、特にロシアの石油・ガス産業に大きな影響を及ぼしています。
欧米の対露経済制裁措置の影響・効果に関する概要は以下の通りです。
●対露経済制裁強化措置は効果大。
●北極圏や気象条件の厳しい石油・ガス鉱区に於いては、欧米石油メジャーの参加不可欠。
●欧米石油ガス関連サービス企業の参画なくして、ロシアの石油・ガス生産維持は困難。
●欧米石油ガス関連製造企業が撤退すれば、ロシアの石油・ガス輸送インフラも影響大。
●露LNG大型プロジェクトに対する影響大。特に、「Arctic LNG 2」は崩壊の危機に瀕するだろう。
実例として、連日マスコミ紙面を賑わしている、露国内で稼働中の欧米から供給された高出力ガスタービンや高圧コンプレッサー機器類の保守点検・修理作業が困難になります。
欧米石油サービス企業が撤退すれば、今後ロシアの原油・天然ガス生産量は減少必至です。
ロシアにおける既存のLNG生産工場ではLNG生産量が徐々に減少し、現在建設中の大規模LNG工場(例、北極圏グィダン半島のArctic LNG 2プロジェクト)は完工不可能の事態に陥ることでしょう。
北極圏や気象条件の厳しい海洋鉱区に於いては、欧米メジャーや石油サービス企業の参画なしには探鉱・開発・商業生産・輸送は困難・不可能なのです。
2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。
しかし、これは間違いです。
第1部の油価動静で検証したごとく、露ウラル原油の油価は2月24日のウクライナ侵攻後、下落しているのです。
石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからです。
実例を挙げます。
2021年の露石油(原油と石油製品)月次輸出額(推計)は 149億ドル、2022年前半は伸びましたが7月以降減少しています。
米国は2022年5月から、日本は6月からロシア産石油輸入量はゼロになり(現状10月まで輸入ゼロ)、今後もロシアの石油輸出額は減少していくものと推測されます。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/d2/3318807340ae5d9858d57a455cdb42cd.jpg)
上記の通り、今年前半の露石油収入が昨年月次平均より増えたのは昨年よりウラル原油の油価水準が上昇したからであり、油価下落に伴い石油収入は今後減少していくことになりましょう。
■第6部:戦費拡大と衰退するロシア石油・ガス産業/露LNG生産は全面崩壊懸念の瀬戸際に
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になります。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米メジャーとシュランベルジャーやハリバートン、独ジーメンスや英ロールスロイス、米ベーカーヒューズGEなど、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力が必要になります。
「サハリン-2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1~2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると筆者は予測します。
当面は一匹狼の技術者を雇用することにより短期間は凌げますが、持続的生産維持は不可能です。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。
欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となり、その典型例が北極圏グィダン半島に建設中の「Arctic LNG 2」プロジェクトです。
同プロジェクトのオペレーターである仏トタールは撤退をまだ決定していませんが、EPC(設計・調達・建設)契約者の仏テクニップと、LNGプラントを搭載する下部構造(GBS)を受注した伊サイペムは既に撤退。
ゆえに、本来ならば今年(2022)第1トレーン完工・稼働予定のプロジェクト工期全体が大幅に遅れており、完工・稼働する確固たる目途も立っていません。
筆者は、この大規模LNGプロジェクトは早晩破綻するものと予測しております。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。
露ガスプロムは修理に出した「ノルト・ストリーム①」(以後、NS①)用ガスタービンが戻ってこないとの理由で、NS①の天然ガス年間輸送能力55bcmに対し輸送量を削減しました(bcm=10億立米)。
さらに、8月31日から3日間、定期修理のため輸送全面停止と発表。結局、NS①は8月31日以降、全面稼働停止となりました。
NS②は完工しましたが、稼働しないまま爆破されてしまいました。
プーチン大統領は6月30日、大統領令416号に署名。
これは、サハリン島北東部沖合のオホーツク海にて原油・天然ガスを探鉱・開発・生産している「サハリン-2」プロジェクトに対し、事業会社「サハリン・エナジー社」の権益を、今後新規に設立されるロシア法人に無償譲渡させる内容です。
上記大統領令を受け、ロシア政府は8月2日、政令1369号を発布。
この新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」は、サハリン州の州都ユージノ・サハリンスク(旧豊原)に8月5日に設立されました。
三井物産と三菱商事はS-2新会社「サハリンスカヤ・エネルギア」に権益参加継続を決定。両社は引き続きロシアに新設された新ロシア法人に権益参加継続することで、ロシア側も承認しました。
ここで一点指摘しておきたいと思います。
商社の権益維持とS-2「サハリンスカヤ・エネルギア」による対日LNG供給は別次元の問題であり、直接の関係はありません。
なぜなら、LNG供給契約は日本の需要家とサハリンスカヤ・エネルギア間の契約になり、三井・三菱はLNG契約の当事者ではないのです。
三井・三菱が権益参加継続すれば対日LNG供給が継続されると考えているとしたら、それは大いなる幻想にすぎません。
三井・三菱はS-2事業会社への出資者であり、事業会社が利益を出せば権益に応じて利益配分を受け、事業会社が赤字になれば権益に応じて赤字負担します。
LNG工場自体は新ロシア法人「サハリンスカヤ・エネルギア」に移管されましたが、英シェルは既にS-2プロジェクトから撤退しました。
オホーツク海のS-2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1~2年後)生産量は徐々に低下していくものと筆者は予測します。
■第7部:減少する原油・天然ガス生産量
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。
現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、本稿では定量的にこの点を数字で検証したいと思います。
ロシア連邦統計庁は2022年9月までの(コンデンセートを含む)原油・天然ガス月次生産量を発表しましたので、直近4年間の月次生産量を概観します。
ロシアの原油・天然ガス生産量は以下のグラフの通りにて、今年のウクライナ侵攻後に原油・天然ガス生産量が低下していることが一目瞭然となりましょう。
付言すれば、2020年の原油・天然ガス生産量が低いのはコロナ禍による需要低迷が原因であり、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因します。
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■第8部:戦費拡大と石油・ガス産業の苦難/大増税法案制定
露国庫財政は2022年以降大幅赤字予算になります。
ゆえに、露政府は石油・ガス関連増税法案を議会に提出。下院で採択され、上院で承認された増税案は11月22日にプーチン大統領署名をもって発効しました。
ご参考までに、2023年1月から3年間の期限立法で導入される増税案概要は以下の通りです。
●原油輸出関税を算出する係数を大幅に上げ、石油(原油+石油製品)輸出関税を増税する。
●P/Lガス輸出関税を現行30%から(ガス価格千立米当たり$300以上の場合)50%に引き上げる。
●国内ガス価格を引き上げる。
●LNGを生産・輸出する業者に対する企業法人税を34%に引き上げる(従来20%)。
●ヤマルLNG用天然ガス鉱区地下資源採取税ゼロを廃止して、地下資源採取税を課税する。
露ガスプロムの欧州向けパイプライン(P/L)天然ガス輸出はFOB輸出金額の30%が輸出関税ですが、2023年1月1日からはこの輸出関税が50%になります。
欧州ガス市場は露ガスプロムにとり金城湯池でした。しかし、2023年から欧州向けP/Lガス輸出は激減するでしょう。
この場合、輸出関税を上げても輸出量が激減するので、露国庫税収は減少することが予見されます。
すなわち、戦費の財源は今後ますます先細りになることが透けて見えてきます。
■エピローグ/軍隊は胃袋で行進する
日系マスコミではよく「ロシア国民は戦争による耐乏生活に慣れている」と話している人がいますが、そのように主張している人は重要な事実を見逃しています。
それは、ナポレオン戦争もドイツのソ連侵攻もロシア側にとり祖国防衛戦争であった点です。
ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありません。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょう。
ロシア軍が今年2月24日にウクライナに全面侵攻開始してから、12月5日で≪プーチンの戦争≫は既に285日目に入りました。
本来ならば、ロシア軍の侵攻数日後にはウクライナの首都キエフ(現キーウ)は制圧され、ゼレンスキー大統領は追放・拘束され、ヤヌコビッチ元大統領を新大統領とする親露派傀儡政権を樹立する予定でした。
ゆえに、ウクライナ侵略戦争の長期化・泥沼化はプーチン大統領にとり大きな誤算となりました。
継戦能力の原動力は経済力と資金力です。
ロシア経済は既に弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。
この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょう。
ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大と筆者は予測します。
ナポレオン曰く、「軍隊は胃袋で行進する」。
金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょう。
12月5日に導入されたバレル$60上限設定は、ロシアを生かさず殺さぬ絶妙な制限油価ですと、杉浦氏。
露国家予算案想定油価(2022年$62/23年$70)よりも低く、露原油生産コスト(約$40)よりも高い。
すなわち、この$60は露国家予算案想定油価を勘案して設定された油価水準なのだそうです。
この価格水準ですと、露石油産業にとり輸出により損はしないが、露国家予算案の赤字幅が大幅拡大することになる。
これが何を意味するのかと申せば、ロシアのウクライナ戦費がその分だけ早く枯渇するということです。
この点を指摘している日系マスコミは皆無ですと、杉浦氏。
露経済と国庫税収は油価に依存していますと、杉浦氏。
ところが2022年の国家予算案はウクライナ侵略戦争により大幅赤字となり、ミシュ―スチン首相は10月20日、露国民福祉基金から1兆ルーブルの資金を赤字予算補填に転用すると発表。
今年も来年も実際の赤字幅はさらに増えること必至と、杉浦氏。
欧米の対露経済制裁措置に関し、「対露経済制裁措置は効果少ない」と解説している人がいます。
しかし、これは現実のロシア石油・ガス産業の実態を知らない人の「机上の空論」に過ぎません。
対露経済制裁措置は強力に効いており、特にロシアの石油・ガス産業に大きな影響を及ぼしていますと。
2022年9月3日付け朝日新聞は、「ウクライナ侵攻後の石油価格の上昇で、石油輸出によるロシアの収入は大きく伸びた」(第7面)と報じています。
しかし、これは間違いですと、杉浦氏。
石油輸出によるロシアの収入が伸びたことは事実ですが、ウクライナ侵攻後に油価が上がったからではなく、昨年比ウラル原油の油価水準自体が上昇したからですと。
欧米メジャーや石油サービス企業が抜ければ、気象条件の厳しいロシアの海洋鉱区における石油・天然ガスの探鉱・開発・生産は持続困難になりますと、杉浦氏。
サハリン1, 2は、極寒地での開発で、英・シェルや、米・エクソンモービルの主導や、日本の三井、三菱等の投資参加ですすめられていたのを、完成間近に突如資本比率を強制変更し、ロシアが主導権を握った前科のある企業体であることは、諸兄がご承知の通りです。
今回の対露経済制裁で、シェルもエクソンモービルも撤退を決めましたが、やむをえず新会社に移行するロシアに、日本の商工会議所や経団連と岸田政府は縋りついています。
サハリン1, 2での仕打ちは忘れたのか。今回の対露制裁で、非友好国指定されても縋りつく日本。
厳しい海洋気象条件下の原油・天然ガス鉱区の探鉱・開発・生産・輸送には、欧米の最新技術とノウハウ、最新設備の総合力、投資資金が必要。
「サハリン-2」プロジェクトの場合、英シェルが抜けたので、LNGの原料となる天然ガス生産自体が早晩(1~2年以内に)減少開始して、徐々にLNG生産用天然ガス確保が困難になると予測しますと、杉浦氏。
「欧米による対露経済制裁は効果ない」と書いたり・話したりしている評論家もいますが、現実は正反対であり、露LNG問題はより深刻です。
欧米メジャーが撤退すればロシアの大規模LNG構想は全面崩壊する可能性大となるとも。
ロシアからバルト海経由ドイツ向け天然ガス海底パイプライン(以後、P/L)輸送量が2022年6月、突然減少。
オホーツク海のS-2鉱区では原油・ガス生産は継続していますが、シェルが抜けたので保守・点検を担当する技術者も少なくなり、早晩(1~2年後)生産量は徐々に低下していくと、杉浦氏。
ロシア経済は油価依存型経済構造であり、油価長期低迷はプーチン大統領失脚に直結します。
現在進行中のウクライナ侵略戦争用戦費調達のため、ロシア経済は疲弊しています。
ロシアの原油・天然ガス生産量は減少しており、2022年後半の原油・天然ガス生産量減少は、欧米メジャーや石油サービス企業撤退に起因していると杉浦氏。
ロシアの≪祖国防衛戦争≫で負けたのは侵略軍です。しかし、今回の戦争はロシアの祖国防衛戦争ではなく、ロシアの≪他国侵略戦争≫です。
一方、ウクライナ側にとっては祖国防衛戦争になります。これが、両軍戦闘部隊の士気に影響を与えないはずはありませんとも、杉浦氏。
最前線は消耗戦となり、勝敗の行方は兵站補給いかんとなりました。
ゆえに、欧米が対ウクライナ軍事支援を継続する限りウクライナ軍有利となり、プーチン大統領は高い代償を払うことになるでしょうとも。
継戦能力の原動力は経済力と資金力です。
ロシア経済は既に弱体化しつつあり、戦費は早晩枯渇必至です。
この戦争は長期化すると予測している人が多いのですが、来年中頃には停戦の姿が垣間見えてくるでしょうと、杉浦氏。
ロシア敗戦で終戦となり、プーチン大統領失脚の可能性大。金の切れ目が縁(戦争)の切れ目になるでしょうと。
# 冒頭の画像は、兵士の母親と称する女性たちとの会合で人生について諭すプーチン大統領
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