ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの戦車支援をめぐって米国とドイツが正面衝突していると、元読売新聞の官邸キャップで米国在住ジャーナリストの高濱氏。
1月20日、およそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれたのだそうです。
焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めること。
8回行われた会合でも結論は出なかったのだそうです。
ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。
問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか。
ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられた。
ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だと、高濱氏。
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。
米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばり以下の様に指摘する。
「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」
「ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」
別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」
「遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念している」
「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」
「自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」
「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたい」
ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されているのだそうです。
繰り返しになりますが、ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だと、高濱氏。
レオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だとも。
片や、下院とのネジレ現象が生じた米国でも変化が。
ドイツが条件に出している米主力戦車「エイブラムズ」供与には御託を並べて躊躇していると、高濱氏。
コリン・カール米国防副長官は、
「25億ドル(約3200億円)の追加支援の中に『エイブラムズ』の供与は含まれていない」
「同戦車はターボ・エンジン稼働で燃料費が嵩む。ウクライナには向いていない」
また別の米国防総省高官もこうも言っている。
「エイブラムズ戦車のメンテナンスは複雑で、ウクライナ軍兵士が操縦を習得するにも時間がかかりすぎる」
一連の言い訳には裏があると、高濱氏。
先の中間選挙で下院を共和党に明け渡したバイデン民主党の政局運営、とくに予算編成は多難だ。
ウクライナへの追加軍事支援のめどは全く立っていない。
共和党、とくに保守強硬派の間にはウクライナへの「ブランク・チェック(金額欄が空白のまま振り出された小切手)は認めない」という意見が台頭。
軍事費を審議する下院歳入、軍事、外交各委員会の委員長には対ウクライナ支援に対する慎重派大物が勢揃いしている。
こうした共和党の対ウクライナ支援に対するスタンスを、軍事外交専門家たちも取り上げ、メディアを賑わしていると、高濱氏。
戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンジアン上級研究員は、
「ウクライナはロシアと戦うために今後も武器弾薬を必要としている。NATO加盟国も軍事支援しているが、その規模では米国が抜きん出ている」
「短期的には旧式の兵器や弾薬を供与することになる。問題はそれを第三国から回すことだ。すでに弾薬などでは始まっている」
米国は、すでに在韓米軍が備蓄している弾薬をウクライナに移送、またイスラエルに供与した弾薬の一部をウクライナ向けに当てているとの情報がある。
沖縄の嘉手納基地からは移送されている可能性は十分あり得る。ウクライナ軍事支援は対中戦略にも影響を及ぼしかねない。
共和党保守派がウクライナ支援に消極的になっている理由の一つは、まさにこの点だと、キャンジアン上級研究員。
軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏は、バイデン政権の対ウクライナ軍事支援政策を厳しく批判する。
「ウクライナに対する軍事支援は、戦闘の早期終結を目的として始まったはずだ。軍事支援を続ける中で停戦、終結に向けた容赦なき外交努力がなされるべきだった」
「ところがバイデン氏は外交的解決を目指すようなシグナルは一切出していない」
エイブラムズ供与にオースティン国防相が首を縦に振らない理由は、共和党内に勢いを増す「ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ疲れ)」と無関係ではない。
このまま新たな追加予算を議会に要求してもそう簡単には通らないことを百も承知なのだ。
プーチン氏は、ドイツに歴史認識を思い起こさせ、返す刀でバイデン氏のアキレス腱を蹴り上げたつもりだろうと高濱氏。
自由主義陣営のウクライナ支援は、何処まで耐えれるのか。
G7議長の岸田氏の手腕がみものですが。。
# 冒頭の画像は、岸田首相とバイデン大統領
日米首脳会談 日米同盟強化の方針で一致【会談冒頭動画も】 | NHK | 日米首脳会談
寒桜
2月 7日は、北方領土の日
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遊爺さんの写真素材 - PIXTA
1月20日、およそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれたのだそうです。
焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めること。
8回行われた会合でも結論は出なかったのだそうです。
ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。
問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか。
ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられた。
ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だと、高濱氏。
米独が主力戦車をウクライナに供与できない本当の理由 2月以降の大攻勢に向けて安堵の色隠さないプーチン | JBpress (ジェイビープレス) 2023.1.23(月) 高濱 賛
■レオパルト2供与を躊躇する理由は何か
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの戦車支援をめぐって米国とドイツが正面衝突している。
ドイツ西部にあるラムシュタイン米空軍基地で1月20日、ロイド・オースティン米国防長官(軍人出身)などおよそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれた。
焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めることだった。
8回行われた会合でも結論は出なかった。
実は、ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。
レオパルト2は、ドイツ以外にポーランド、フィンランド、カナダなど15か国が保有しており、その数はあわせて2000両を超える*1。
*1=ドイツはこれまでレオパルト2を3600両製造し、328両保有、ポーランド347両、ギリシャ353両、スペイン327両、トルコ316両、フィンランド200車両などがそれぞれ保有している。
(https://en.wikipedia.org/wiki/Leopard_2)
問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか、だ。
就任したばかりのドイツのボリス・ピストリウス国防相*2(中道左派・社会民主党、前内相)は1月20日時点では判断を先延ばしした。
*2=前任者のクリスティーン・ランブレヒト氏(社会民主党)は、ショルツ閣僚は男女同数にする「公約」で女性国防長官になったが、行政能力が問われたうえ、息子を軍用ヘリに搭乗させるなどでマスコミに叩かれ、辞任に追いやられた。ウクライナ侵攻直後にヘルメット5000個を供与すると宣言して国内外から批判を浴びたこともある。
攻撃力の高いドイツ製戦車レオパルト2のウクライナ供与については、ドイツは条件を付けてきた。
中道左派・社会民主党(SDS)のオラフ・ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられたのだ(ドイツ政府は否定している)。
報道によると、ショルツ氏は1月17日のジョー・バイデン米大統領との電話会談でこう述べた。
「米国からエイブラムズが提供される場合に限って、レオパルト2を供与したい」
こうした動きに対してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1月19日、憤りを隠さなかった。
「『別の誰かが提供するならば』と言ってためらっている場合ではない。ことは急を要するのだ」
(https://www.politico.eu/article/olaf-scholz-germany-joe-biden-united-states-ukraine-war-tanks-leopards-waiting/)
■ドイツの「国防体制大転換」は大嘘?
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。
米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばりこう指摘する。
「ウクライナへのレオパルト2供与は、ドイツにとっても重大なステップだ」
「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」
「ドイツは、供与した後の米国からの最大限の保証が欲しい。ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」
(https://www.nytimes.com/2023/01/20/world/europe/ukraine-germany-us-tanks.html)
さらに別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析する。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」
「供与によってウクライナに対する武器支援の拡大が、遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念しているのだ」
「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」
「ウクライナ問題はいずれ収拾するだろうし、その時になって自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」
「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたいのだろう」
ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されている。
(https://tass.com/world/1564497)
ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だ。
米国との国家安全保障関係を深化させるドイツに強い警戒心を抱いてきたロシアもほっとしているのではないのか。
それよりも何よりもレオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だ。少なくとも時間稼ぎにはなる。
■米国内で上がるウクライナ支援批判の声
ウラジーミル・プーチン大統領を喜ばせているのは、ドイツの狼狽ぶりだけではない。今ロシアが重大関心を持って見守っているのは米国内の「変化」だろう。
それは、ドイツが条件に出している米主力戦車「エイブラムズ」供与には御託を並べて躊躇していることに現れている。
コリン・カール米国防副長官はこう述べている。
「25億ドル(約3200億円)の追加支援の中に『エイブラムズ』の供与は含まれていない」
「今回米国が供与する武器には甲装車『シャストライカー』90門、歩兵戦闘車『ブラッドレー』59車両、防空ミサイル・システム『ナサムス』用追加砲弾、移動式防空システム『アベジャー』8基が含まれている」
「同戦車はターボ・エンジン稼働で燃料費が嵩む。ウクライナには向いていない」
また別の米国防総省高官はこうも言っている。
「エイブラムズ戦車のメンテナンスは複雑で、ウクライナ軍兵士が操縦を習得するにも時間がかかりすぎる」
(https://www.euronews.com/2023/01/20/ukraine-crisis)
一連の言い訳には裏がある。
先の中間選挙で下院を共和党に明け渡したバイデン民主党の政局運営、とくに予算編成は多難だ。
ウクライナへの追加軍事支援のめどは全く立っていない。
共和党、とくに保守強硬派の間にはウクライナへの「ブランク・チェック(金額欄が空白のまま振り出された小切手)は認めない」という意見が台頭。
軍事費を審議する下院歳入、軍事、外交各委員会の委員長*3には対ウクライナ支援に対する慎重派大物が勢揃いしている。
*3=予算委員長にはローレン・ボーバート(コロラド州選出)、軍事委員長はマット・ゲーツ(フロリダ州選出)、外交委員長はティム・バーチェット(テネシー州選出)各議員が就任。
一方、軍事通のダン・ビショップ(ノースカロライナ州選出)、ジョシュ・ハウレー(ミゾーリ州選出)、JD・バンス(オハイオ州選出)3議員は、サンドラ・ヤング行政管理予算局長に書簡を送り、ウクライナに対する軍事支援の詳細について全断面的な報告書を公表するよう要求した。
書簡では「議会における今後の予算審議に賢明な判断をするため」とダメを押している。
(https://www.theamericanconservative.com/ukraine-whose-war-is-this-anyway/)
こうした共和党の対ウクライナ支援に対するスタンスを、軍事外交専門家たちも取り上げ、メディアを賑わしている。
戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンジアン上級研究員は、こう指摘する。
「ウクライナはロシアと戦うために今後も武器弾薬を必要としている。NATO加盟国も軍事支援しているが、その規模では米国が抜きん出ている」
「長期的には備蓄量が減り、米国は新たに製造せねばならない。だが製造には時間がかかり、まさかの時には間に合わない」
「短期的には旧式の兵器や弾薬を供与することになる。問題はそれを第三国から回すことだ。すでに弾薬などでは始まっている」
「だがこれらの武器・弾薬は同盟国との法的約束事として供与されているものだ。米国家安全保障エスタブリッシュメント内で予算上のプライオリティ(優先順位)について真剣な論議をすべき時期に来ている」
(https://www.csis.org/analysis/united-states-running-out-weapons-send-ukraine)
■嘉手納基地の弾薬もウクライナに移送?
キャンジアン氏の見解を敷衍すればこうなる。
米国は、すでに在韓米軍が備蓄している弾薬をウクライナに移送、またイスラエルに供与した弾薬の一部をウクライナ向けに当てているとの情報がある。
沖縄の嘉手納基地からは移送されている可能性は十分あり得る。ウクライナ軍事支援は対中戦略にも影響を及ぼしかねない。
つまり、共和党保守派がウクライナ支援に消極的になっている理由の一つは、まさにこの点だ。
「このままズルズルとウクライナ支援を続ければ、米国および米国の同盟国の武器・弾薬の在庫は目減りしてしまう」というキャンジアン氏の主張そのものと言える。
米シンクタンク「クウィンシー・インティチュート」のウイリアム・ハーティング上級研究員はこう強調している。
「米国が2022年2月以降、ウクライナに行った軍事支援額はアフガニスタン戦争のピーク時を超えている。長期的には対イスラエル軍事支援よりも多い」
「ウクライナ国内に存在する2つの国家のうち、その一つの国の戦闘力強化を図るというユニークなケースだ」
そして軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏は、バイデン政権の対ウクライナ軍事支援政策を厳しく批判する。
「ウクライナに対する軍事支援は、戦闘の早期終結を目的として始まったはずだ。軍事支援を続ける中で停戦、終結に向けた容赦なき外交努力がなされるべきだった」
「ところがバイデン氏は外交的解決を目指すようなシグナルは一切出していない」
「対ウクライナ軍事支援は米国防費の一部だ。終わりなき支援は、史上最高額に達している米国防費を青天井のリスクに陥れる」
(https://theintercept.com/2022/09/10/ukraine-military-aid-weapons-oversight/)
話を本題に戻すが、エイブラムズ供与にオースティン国防相が首を縦に振らない理由は、共和党内に勢いを増す「ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ疲れ)」と無関係ではない。
このまま新たな追加予算を議会に要求してもそう簡単には通らないことを百も承知なのだ。
1月18日、対ナチス戦勝の地となったサンクトペテルブルク(旧レニングラード)で演説したプーチン氏は、ドイツに歴史認識を思い起こさせ、返す刀でバイデン氏のアキレス腱を蹴り上げたつもりだろう。
(https://www.newsweek.com/putin-speech-ukraine-war-st-petersburg-leningrad-seige-world-war-two-1774868)
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高濱 賛のプロフィール
Tato Takahama 米国在住のジャーナリスト
1941年生まれ、65年米カリフォルニア大学バークレー校卒業(国際関係論、ジャーナリズム専攻)。67年読売新聞入社。ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1997年同上級研究員。1998年パシフィック・リサーチ・インスティテュート(PRI、本部はサウスパサデナ)上級研究員、1999年同所長
■レオパルト2供与を躊躇する理由は何か
ロシアによる軍事侵攻が続くウクライナへの戦車支援をめぐって米国とドイツが正面衝突している。
ドイツ西部にあるラムシュタイン米空軍基地で1月20日、ロイド・オースティン米国防長官(軍人出身)などおよそ50か国の代表が参加して、ウクライナへの軍事支援について協議する会合が開かれた。
焦点となったのは、欧州各国が保有する攻撃力抜群のドイツ製戦車、「レオパルト2」(1両574万ドル=約7億4000万円)をドイツはじめ保有国がウクライナへ供与するかどうか、を決めることだった。
8回行われた会合でも結論は出なかった。
実は、ポーランドはすでに供与することを表明、フィンランドもドイツ政府の許可が得られれば、レオパルト2を供与するとしている。
レオパルト2は、ドイツ以外にポーランド、フィンランド、カナダなど15か国が保有しており、その数はあわせて2000両を超える*1。
*1=ドイツはこれまでレオパルト2を3600両製造し、328両保有、ポーランド347両、ギリシャ353両、スペイン327両、トルコ316両、フィンランド200車両などがそれぞれ保有している。
(https://en.wikipedia.org/wiki/Leopard_2)
問題は、供与には製造国のドイツ政府の再輸出許可が必要で、ドイツが供与に踏み切るか、また、ほかの国の供与を認めるか、だ。
就任したばかりのドイツのボリス・ピストリウス国防相*2(中道左派・社会民主党、前内相)は1月20日時点では判断を先延ばしした。
*2=前任者のクリスティーン・ランブレヒト氏(社会民主党)は、ショルツ閣僚は男女同数にする「公約」で女性国防長官になったが、行政能力が問われたうえ、息子を軍用ヘリに搭乗させるなどでマスコミに叩かれ、辞任に追いやられた。ウクライナ侵攻直後にヘルメット5000個を供与すると宣言して国内外から批判を浴びたこともある。
攻撃力の高いドイツ製戦車レオパルト2のウクライナ供与については、ドイツは条件を付けてきた。
中道左派・社会民主党(SDS)のオラフ・ショルツ独首相は米国も主力戦車の「エイブラムズ」(1両621万ドル=約8億円)をウクライナに提供することを条件としていると、ドイツ紙に報じられたのだ(ドイツ政府は否定している)。
報道によると、ショルツ氏は1月17日のジョー・バイデン米大統領との電話会談でこう述べた。
「米国からエイブラムズが提供される場合に限って、レオパルト2を供与したい」
こうした動きに対してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は1月19日、憤りを隠さなかった。
「『別の誰かが提供するならば』と言ってためらっている場合ではない。ことは急を要するのだ」
(https://www.politico.eu/article/olaf-scholz-germany-joe-biden-united-states-ukraine-war-tanks-leopards-waiting/)
■ドイツの「国防体制大転換」は大嘘?
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。
米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばりこう指摘する。
「ウクライナへのレオパルト2供与は、ドイツにとっても重大なステップだ」
「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」
「ドイツは、供与した後の米国からの最大限の保証が欲しい。ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」
(https://www.nytimes.com/2023/01/20/world/europe/ukraine-germany-us-tanks.html)
さらに別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析する。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」
「供与によってウクライナに対する武器支援の拡大が、遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念しているのだ」
「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」
「ウクライナ問題はいずれ収拾するだろうし、その時になって自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」
「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたいのだろう」
ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されている。
(https://tass.com/world/1564497)
ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だ。
米国との国家安全保障関係を深化させるドイツに強い警戒心を抱いてきたロシアもほっとしているのではないのか。
それよりも何よりもレオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だ。少なくとも時間稼ぎにはなる。
■米国内で上がるウクライナ支援批判の声
ウラジーミル・プーチン大統領を喜ばせているのは、ドイツの狼狽ぶりだけではない。今ロシアが重大関心を持って見守っているのは米国内の「変化」だろう。
それは、ドイツが条件に出している米主力戦車「エイブラムズ」供与には御託を並べて躊躇していることに現れている。
コリン・カール米国防副長官はこう述べている。
「25億ドル(約3200億円)の追加支援の中に『エイブラムズ』の供与は含まれていない」
「今回米国が供与する武器には甲装車『シャストライカー』90門、歩兵戦闘車『ブラッドレー』59車両、防空ミサイル・システム『ナサムス』用追加砲弾、移動式防空システム『アベジャー』8基が含まれている」
「同戦車はターボ・エンジン稼働で燃料費が嵩む。ウクライナには向いていない」
また別の米国防総省高官はこうも言っている。
「エイブラムズ戦車のメンテナンスは複雑で、ウクライナ軍兵士が操縦を習得するにも時間がかかりすぎる」
(https://www.euronews.com/2023/01/20/ukraine-crisis)
一連の言い訳には裏がある。
先の中間選挙で下院を共和党に明け渡したバイデン民主党の政局運営、とくに予算編成は多難だ。
ウクライナへの追加軍事支援のめどは全く立っていない。
共和党、とくに保守強硬派の間にはウクライナへの「ブランク・チェック(金額欄が空白のまま振り出された小切手)は認めない」という意見が台頭。
軍事費を審議する下院歳入、軍事、外交各委員会の委員長*3には対ウクライナ支援に対する慎重派大物が勢揃いしている。
*3=予算委員長にはローレン・ボーバート(コロラド州選出)、軍事委員長はマット・ゲーツ(フロリダ州選出)、外交委員長はティム・バーチェット(テネシー州選出)各議員が就任。
一方、軍事通のダン・ビショップ(ノースカロライナ州選出)、ジョシュ・ハウレー(ミゾーリ州選出)、JD・バンス(オハイオ州選出)3議員は、サンドラ・ヤング行政管理予算局長に書簡を送り、ウクライナに対する軍事支援の詳細について全断面的な報告書を公表するよう要求した。
書簡では「議会における今後の予算審議に賢明な判断をするため」とダメを押している。
(https://www.theamericanconservative.com/ukraine-whose-war-is-this-anyway/)
こうした共和党の対ウクライナ支援に対するスタンスを、軍事外交専門家たちも取り上げ、メディアを賑わしている。
戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンジアン上級研究員は、こう指摘する。
「ウクライナはロシアと戦うために今後も武器弾薬を必要としている。NATO加盟国も軍事支援しているが、その規模では米国が抜きん出ている」
「長期的には備蓄量が減り、米国は新たに製造せねばならない。だが製造には時間がかかり、まさかの時には間に合わない」
「短期的には旧式の兵器や弾薬を供与することになる。問題はそれを第三国から回すことだ。すでに弾薬などでは始まっている」
「だがこれらの武器・弾薬は同盟国との法的約束事として供与されているものだ。米国家安全保障エスタブリッシュメント内で予算上のプライオリティ(優先順位)について真剣な論議をすべき時期に来ている」
(https://www.csis.org/analysis/united-states-running-out-weapons-send-ukraine)
■嘉手納基地の弾薬もウクライナに移送?
キャンジアン氏の見解を敷衍すればこうなる。
米国は、すでに在韓米軍が備蓄している弾薬をウクライナに移送、またイスラエルに供与した弾薬の一部をウクライナ向けに当てているとの情報がある。
沖縄の嘉手納基地からは移送されている可能性は十分あり得る。ウクライナ軍事支援は対中戦略にも影響を及ぼしかねない。
つまり、共和党保守派がウクライナ支援に消極的になっている理由の一つは、まさにこの点だ。
「このままズルズルとウクライナ支援を続ければ、米国および米国の同盟国の武器・弾薬の在庫は目減りしてしまう」というキャンジアン氏の主張そのものと言える。
米シンクタンク「クウィンシー・インティチュート」のウイリアム・ハーティング上級研究員はこう強調している。
「米国が2022年2月以降、ウクライナに行った軍事支援額はアフガニスタン戦争のピーク時を超えている。長期的には対イスラエル軍事支援よりも多い」
「ウクライナ国内に存在する2つの国家のうち、その一つの国の戦闘力強化を図るというユニークなケースだ」
そして軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏は、バイデン政権の対ウクライナ軍事支援政策を厳しく批判する。
「ウクライナに対する軍事支援は、戦闘の早期終結を目的として始まったはずだ。軍事支援を続ける中で停戦、終結に向けた容赦なき外交努力がなされるべきだった」
「ところがバイデン氏は外交的解決を目指すようなシグナルは一切出していない」
「対ウクライナ軍事支援は米国防費の一部だ。終わりなき支援は、史上最高額に達している米国防費を青天井のリスクに陥れる」
(https://theintercept.com/2022/09/10/ukraine-military-aid-weapons-oversight/)
話を本題に戻すが、エイブラムズ供与にオースティン国防相が首を縦に振らない理由は、共和党内に勢いを増す「ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ疲れ)」と無関係ではない。
このまま新たな追加予算を議会に要求してもそう簡単には通らないことを百も承知なのだ。
1月18日、対ナチス戦勝の地となったサンクトペテルブルク(旧レニングラード)で演説したプーチン氏は、ドイツに歴史認識を思い起こさせ、返す刀でバイデン氏のアキレス腱を蹴り上げたつもりだろう。
(https://www.newsweek.com/putin-speech-ukraine-war-st-petersburg-leningrad-seige-world-war-two-1774868)
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高濱 賛のプロフィール
Tato Takahama 米国在住のジャーナリスト
1941年生まれ、65年米カリフォルニア大学バークレー校卒業(国際関係論、ジャーナリズム専攻)。67年読売新聞入社。ワシントン特派員、総理官邸キャップ、政治部デスクを経て、同社シンクタンク・調査研究本部主任研究員。1995年からカリフォルニア大学ジャーナリズム大学院客員教授、1997年同上級研究員。1998年パシフィック・リサーチ・インスティテュート(PRI、本部はサウスパサデナ)上級研究員、1999年同所長
なぜ、ドイツがそこまで供与を躊躇しているのか。
米シンクタンク、「グローバル・パブリック・ポリシー研究所」(ベルリン)のソーセン・ベナー所長はずばり以下の様に指摘する。
「高い機動性を有するレオパルト2がウクライナの戦場に投入されることで戦闘はエスカレートし、ロシアがドイツに対して報復に出る可能性は十分考えられる」
「ショルツ氏は躊躇する理由について具体的な言及は避けているが、ロシアがドイツを標的にするのではないか、と恐れている」
別の米シンクタンクのドイツ問題専門家P氏は次のように分析。
「ドイツは自分が直に供与することは言うに及ばず、ポーランドやフィンランドがウクライナに供与するのを承認することにも消極的だ」
「遅かれ早かれ北大西洋条約機構(NATO)とロシアの全面衝突につながりかねないことを懸念している」
「とくに社会民主党は過去20年間、平和主義を掲げてきた。自分たちが武器支援拡大の先駆けになることだけは避けたい」
「自分たちが独ロ関係に致命傷を与えた張本人にはなりたくない」
「そこで、自らは先頭には立たずに、米国を巻き込みたい」
ドイツ世論もウクライナへのレオパルト2の供与については、賛成47%、反対37%と二分されているのだそうです。
繰り返しになりますが、ショルツ氏は、ロシアがウクライナを侵攻した3日後、戦後ドイツの平和主義への傾倒との決別、『Zeitenwende』(転換点)と宣言し、米国を喜ばせた。
それがレオパルト2の供与では及び腰になっている。まさに総論賛成各論反対だと、高濱氏。
レオパルト2という「恐るべき助っ人」の導入をめぐる新ウクライナ陣営のごたごたは、2月以降に大攻勢を準備しているロシアにとっては朗報だとも。
片や、下院とのネジレ現象が生じた米国でも変化が。
ドイツが条件に出している米主力戦車「エイブラムズ」供与には御託を並べて躊躇していると、高濱氏。
コリン・カール米国防副長官は、
「25億ドル(約3200億円)の追加支援の中に『エイブラムズ』の供与は含まれていない」
「同戦車はターボ・エンジン稼働で燃料費が嵩む。ウクライナには向いていない」
また別の米国防総省高官もこうも言っている。
「エイブラムズ戦車のメンテナンスは複雑で、ウクライナ軍兵士が操縦を習得するにも時間がかかりすぎる」
一連の言い訳には裏があると、高濱氏。
先の中間選挙で下院を共和党に明け渡したバイデン民主党の政局運営、とくに予算編成は多難だ。
ウクライナへの追加軍事支援のめどは全く立っていない。
共和党、とくに保守強硬派の間にはウクライナへの「ブランク・チェック(金額欄が空白のまま振り出された小切手)は認めない」という意見が台頭。
軍事費を審議する下院歳入、軍事、外交各委員会の委員長には対ウクライナ支援に対する慎重派大物が勢揃いしている。
こうした共和党の対ウクライナ支援に対するスタンスを、軍事外交専門家たちも取り上げ、メディアを賑わしていると、高濱氏。
戦略国際問題研究所(CSIS)のマーク・キャンジアン上級研究員は、
「ウクライナはロシアと戦うために今後も武器弾薬を必要としている。NATO加盟国も軍事支援しているが、その規模では米国が抜きん出ている」
「短期的には旧式の兵器や弾薬を供与することになる。問題はそれを第三国から回すことだ。すでに弾薬などでは始まっている」
米国は、すでに在韓米軍が備蓄している弾薬をウクライナに移送、またイスラエルに供与した弾薬の一部をウクライナ向けに当てているとの情報がある。
沖縄の嘉手納基地からは移送されている可能性は十分あり得る。ウクライナ軍事支援は対中戦略にも影響を及ぼしかねない。
共和党保守派がウクライナ支援に消極的になっている理由の一つは、まさにこの点だと、キャンジアン上級研究員。
軍事外交サイト「SPRI」の共同創設者、ステファン・セムラー氏は、バイデン政権の対ウクライナ軍事支援政策を厳しく批判する。
「ウクライナに対する軍事支援は、戦闘の早期終結を目的として始まったはずだ。軍事支援を続ける中で停戦、終結に向けた容赦なき外交努力がなされるべきだった」
「ところがバイデン氏は外交的解決を目指すようなシグナルは一切出していない」
エイブラムズ供与にオースティン国防相が首を縦に振らない理由は、共和党内に勢いを増す「ウクライナ・ファティーグ(ウクライナ疲れ)」と無関係ではない。
このまま新たな追加予算を議会に要求してもそう簡単には通らないことを百も承知なのだ。
プーチン氏は、ドイツに歴史認識を思い起こさせ、返す刀でバイデン氏のアキレス腱を蹴り上げたつもりだろうと高濱氏。
自由主義陣営のウクライナ支援は、何処まで耐えれるのか。
G7議長の岸田氏の手腕がみものですが。。
# 冒頭の画像は、岸田首相とバイデン大統領
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