遊爺雑記帳

ブログを始めてはや○年。三日坊主にしては長続きしています。平和で美しい日本が滅びることがないことを願ってやみません。

対ロ交渉において日本側が拙速に交渉し、成果を求めるやり方は上策ではない

2016-12-02 23:58:58 | ロシア全般
 トランプ氏が大統領選で勝利し、なにやらプーチン大統領に色目をちらつかせていることから、プーチン大統領の対日戦略に変化が生じている様子がみられますね。
 北方領土問題を餌に、日本からの経済支援を獲得することと、G7の経済制裁包囲網の一角を崩すことの一挙両得を狙うロシア。台所が苦しいのはロシアなのであって、日本が急ぐことはないとは、ロシア問題に詳しい、木村、袴田両先生の論を度々取り上げさせていただき、遊爺も賛同させていただいています。
 軍備を整えることで、米国と並ぶ大国の地位を維持してきたロシアも、遂に軍事費の削減に着手せざるをえない状況に陥った。ここまでのロシアの経済の低迷は、日本にとってチャンスであり、ロシアが日本の経済的な協力を真剣に求めてくるのを待ち、実利を取る熟柿作戦に徹するのが上策と唱えておられるのは、前陸自東部方面総監で、ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏。
 

ソ連崩壊と同じ道を再び歩み始めたロシア ロシアとの安易な提携は禁物、経済制裁の維持強化を | JBpress(日本ビジネスプレス) 2016.12.2(金) 渡部 悦和

■「大国ロシアの存在誇示戦略」を展開してきたプーチン大統領
 米国にとって死活的に重要な地域は、欧州、西太平洋、ペルシャ湾であるが、この3つの地域においてロシア、中国、イランおよびイスラム過激主義集団などがルールに基づく秩序を無視した行動を繰り返していて、米国は困難な対応を余儀なくされている。
 本稿においては、欧州や中東においてトラブルメーカーとなっているロシアで起こっている大きな変化に焦点を当てた考察を実施したい。

 ウラジーミル・プーチン大統領は、攻撃的な対外政策―私の表現としては「大国ロシアの存在誇示戦略」―を展開してきた。
 
プーチン大統領の決断や行動の根底には、ソ連崩壊直後から味わってきた欧米諸国に対する屈辱感がある
。冷戦時代におけるソ連は、米国とソ連の2極構造の中で大国としての存在感を思う存分発揮してきた。
 しかし、冷戦に敗北し、ソ連の崩壊を受けてロシアが誕生したが、そのロシアは、欧米諸国から軽く見られ、かつて存在感のあった大国ロシアの面影をなくしてしまった。愛国者プーチン氏にとっては、大国ロシアの復活は最優先の課題であった。
 
彼が選択したのは強いロシアの復活であり、2012年の大統領再選以降、急速に国防費を増加させ、軍の増強を図ってきた

 当時の原油価格上昇の追い風にも助けられ、ロシア軍の増強には目を見張るものがあり、
その軍事力を背景として彼の「大国ロシアの存在誇示戦略」が展開されてきた
。例えば、2008年のジョージア侵攻、2014年のクリミア併合に引き続き、ロシア周辺地域(バルト3国、ポーランドなど)でNATO(北大西洋条約機構)加盟国に脅威を与えている。
 また、シリアにまで戦力を派遣し、中東におけるロシアの権益を保護するとともに大国としての存在感を誇示している。

 
しかしながら、次々と攻撃的な対外政策をとってきたプーチン大統領の戦略にも限界が見えてきた。ロシアの軍事力は、2015年をピークとして右肩下がりの可能性が高くなってきた
のだ。
 
冷戦時代のソ連は、その経済規模に不釣り合いな軍事力の増強を推進し、国家自体が崩壊してしまったが、現在のロシアも似たような道を歩んでいるように思えてならない


 プーチン大統領の急速な国防費の増大を背景とした戦略により、ロシアが軍事大国であることを世界に誇示することができたし、世界の諸問題の解決にロシアは無視することができない存在であることも世界が受け入れたと思う。
 しかし、
ロシアのGDP(国内総生産)は、各種資料によると、米国、中国、日本に劣るのみならず、世界10位前後にまで落ちてしまった

 経済力で米国や中国に圧倒的に劣るロシアが、大国としての存在感を誇示し得たのは、急速な軍事力の増強とその軍事力を効果的に使うプーチン大統領の巧みな戦略に負うところが大きい。
 しかし
ロシア経済の低迷のために、ロシア軍事力の低下は始まっている
のだ。プーチン氏の「大国ロシアの存在誇示戦略」の限界が見えてきた。

■2015年をピークにロシアの軍事費の減少が始まる
 豪州戦略政策研究所(ASPI)の研究者であるジャメス・マグ(James Mugg)は、ロシアの国防費に関するリポートの中で図1「ロシアの国防支出」を提示し、
ロシアの国防費が2015年をピークとして右肩下がりになる
と予想している。
 
今年10月、ロシアの財務大臣は、国防費を2018年までに12%削減すると発表した。(冒頭の図参照)


 ロシアの国防費はジョージア侵攻を開始した2012年頃から急激に増加し、2014年のクリミア併合を受けて2015年にピークを迎えた。しかし、国防費も対GDP比も2015年をピークに徐々に低下する予想である。
 
この事実は、プーチン大統領が行ってきた「大国ロシアの存在誇示戦略」の先細りを意味し、今後の国際情勢を占ううえで、また日本の対ロシア政策を考える際に様々な示唆を与えてくれる。

 
ロシア軍事費の削減は、ロシアが陥っている経済的苦境の当然の結果である。米国のバラク・オバマ大統領の対外政策には数々の失敗例があるが、ロシアに対する経済制裁
(クリミア併合を契機として発動された)は数少ない成功例だと言える。
 この経済制裁は、原油価格の暴落と相まって、
確実にロシア経済にダメージを与えてきた。ロシアにとって、この経済制裁の早期解除は優先度の高い懸案事項
である。
 
ここで指摘したいのは、対ロ経済制裁を安易に解除してはならないということ
である。
 民主党政権が継続していれば、対ロ経済制裁の早期解除はあり得なかったが、
次期大統領のドナルド・トランプ氏は、この経済制裁を解除するかもしれない

 ロシアのクリミア併合が継続したまま、ウクライナ東部における親ロシア派の占領が継続している状況下における経済政策の解除は極めて不適切である。
 また、米大統領選挙の結果に影響を与える目的で実施されたロシアによるサイバー作戦は、完全に米国を見くびった作戦であった。
ロシアに対する経済制裁の問題はトランプ次期大統領を評価する試金石になる

 トランプ氏のプーチン大統領を高く評価する発言やロシアのサイバー攻撃を擁護するかのような発言は米国の多くの有識者の懸念事項である。

■ロシアの武器輸出の動向
 ロシアの経済にとって重要な要素である武器輸出の動向も紹介する。
 クリミア併合やウクライナ東部におけるロシア軍の活動、シリアにおける空爆などの軍事行動は、中国や中東諸国向けのロシア製兵器の輸出には大きな宣伝効果を発揮した。ただし、欧州諸国はロシアとの武器売買から手を引いていてマイナス要素となっている。
 国防産業がロシアの経済にとって不可欠な産業であることを考えれば、ロシア経済に大きな波及効果があったと思われる。プーチン大統領は、2015年のロシアの武器輸出は140億ドルを超え、外国からの武器購入希望額は560億ドルを超えていると主張している。
 「ロシアの各年の武器輸出額」が、ルーブル換算では2014年から2015年にかけて1.5倍に急上昇していてシリアにおける空爆などの宣伝効果がみてとれるが、ドル換算では横ばいである(これはルーブルの対ドル安を反映している)。
 いずれにしてもプーチン大統領の「大国ロシアの存在誇示戦略」は、この点のみを見れば効果を発揮していると言える。しかし、新たな問題がロシアの国防産業にも存在することが明らかになっているので紹介する。

■ロシアの「国家軍備計画2025(GPV to 2025)」の延期

<中略>


 プーチン大統領は、「国家軍備計画2025」を採用するか否かの決定を2018年に延期してしまった。長期にわたる軍の近代化計画の資金をいかに賄うかという根本的問題がその背景にある。
 軍の質的近代化は、2015年の国家安全保障戦略などで宣言されてきたが、その達成は大幅に遅延しそうである。計画遅延の主たる原因は、国防省と財務省の予算をめぐる対立が大きい。
 財務省は「国家軍備計画2025」の予算を20兆ルーブルから12兆ルーブルへの減額を求め、国防省は20兆ルーブルから3兆ルーブル増の23兆ルーブルを要求している。両者の主張の開きはあまりにも大きい。

<中略>

 また、国防産業の構造的な問題、例えば、本来実施すべき改革がなされないで残っている古い体質、腐敗、透明性の欠如、国防産業への査察の欠如などが指摘されている。
 つまり、
ロシア経済の悪化、国防費の削減、中長期の軍事力整備計画の延期、国防産業への悪影響が連鎖的に生起しているのである。

■米国のロシアへの対処戦略
 以上のようなロシアに対して米国はいかに対処すべきか。

 共和党の有力な議員で下院軍事委員長マック・ソーンベリー(Mac Thornberry)と戦略の大家である米戦略予算評価センター前会長アンドリュー・クレピネビッチ(Andrew F. Krepinevich Jr)の共著による“Preserving Primacy(卓越の維持)”がフォーリン・アフェアーズに発表された。この論文は、「新政権の国防戦略」として提示されていて、トランプ新政権の国防戦略を占ううえでも重要なので、その概要を簡単に紹介する。

 ●主たる脅威は中国とロシアであり、イランの脅威は2次的である
   過激なイスラム主義が米国の直面する最も切迫した危機ではあるが、中国とロシアは米国の安全保障にとってはるかに大きな潜在的脅威である。
   急速に台頭する中国は、米国以外では最大の通常戦力を構築した。ロシアは、明らかな没落の兆候を示すが、世界最大の核戦力を維持している。
   米国は、中国とロシアの脅威に主として備え、2次的にイランの膨張主義をチェックし、過激なイスラム主義グループを抑止するために友好国と支援すべきである。

 ●米軍が採用すべきは1.5個戦争態勢(one-and-a-half-war posture)
   米国の採用すべき態勢は1.5個戦争態勢であり、1.5個の1は中国への対処を意味し、中国を抑止すること、抑止が失敗した時はこれに対処することである。0.5個は欧州または中東への対処であり、遠征部隊を派遣して対処する。
   西太平洋においては第1列島線における前方防衛戦略を追求すべきである。この際、日本、台湾、フィリピンが安全保障のコミットメント上から大切である。
   
決して採用してはいけないのは、中国に対する遠距離の封鎖を中心とした戦略や失った領土を奪還するための動員
である。これらは、同盟国や友好国を侵略や威圧にさらすのと同じである。
   
そうではなく、十分な戦力(日本とフィリピンへの地上戦力の配置を含む)を前方展開させることにより、米国は、同盟国と一緒に中国の軍事的増強を相殺し、平和を維持
すべきだ。
   日本、フィリピン、ベトナムにおいては米国の軍事的プレゼンスと支援にますます門戸を開くべきである。米国が前方防衛態勢を構築するには時間がかかるので、遅滞なく迅速に開始すべきである。

   
ロシアに対しては、さらなる地上部隊と空軍戦力を東欧の国々に派遣すべき
だ。彼らの任務は、東欧諸国がロシアの代理人たちを使って紛争を引き起こそうとするロシアの試みを抑止することを手助けすることである。
   そして、兵器、弾薬、補給品の事前集積を実施し、有事における迅速な対応が可能な状態にすべきだ。

 ●新たな核の時代(第2次核時代)
    ロシアは、ロシアの通常兵器の劣勢を核兵器を使って相殺しようとしている。そして、1987年のINF条約に違反する兵器を試験している。
   ロシアの核兵器には対処が必要であり、米国は、強力な核態勢(究極の安全を保障するもの)を維持しなければいけない。
   米国の核弾頭、投射手段、指揮統制システムは、すべてが一挙に陳腐化してしまう寸前まで無視されてきた。米国は、国防費の5%で核抑止力の近代化を達成できる。

■結言
  最後に、
軍事費が低下するなど明らかに下り坂のロシアに対して、我が国はいかに対処すべきであろうか


  北方領土問題の解決が典型的だが、今後の
対ロ交渉において日本側が拙速に交渉し、成果を求めるやり方は上策ではない
と思う。
  
ロシアの経済は、原油価格の急速な回復でもない限り、長期低迷が続くであろう。そして軍事費の伸び率0%以下の状況はしばらく続く
であろう。
  
これは日本にとってチャンスであり、ロシアが日本の経済的な協力を真剣に求めてくるのを待ち、実利を取る熟柿作戦に徹するのが上策
ではなかろうか。
 トランプ新政権の対ロシア政策がいかなるものになるかは極めて重要であるが、私には懸念の方が大きい。いずれにしろ我が国には、米国、ロシア、中国との複雑な関係を踏まえながら、生き残りをかけ、国益を中心としたしたたかな対応が求められる。

 山口での首脳会談に、東京での会談の追加を求めてきたプーチン大統領。G7が行われた、伊勢・志摩か東京での会談を求め、G7と同等の格式を持たせようとの意図。
 一方では、北方四島のロシアの主権は譲らないとのリマでの会談での発言。
 俄然強気に転じてきたプーチン大統領。トランプ大統領誕生なのか、原油減産合意なのかは定かではありませんが、手のひら返しです。
 ここはチキンレース。辛抱し所です。日本は経済支援を急がねばならない理由はありません。
 軍事費削減に着手せざるを得なくなったロシアは、経済支援が緊急に必要なのです。それを、中国にばかり頼っていては、中国共産党の生みの親だったソ連が、中国の臣下に伏することとなります。ロシア帝国の栄光を復活させたいプーチン大統領が耐えられる限度は越してしまいます。

 ロシアが引くのなら、日本も引く。それで困るのはロシアです。不法選挙されて失っている北方四島。日本は、これ以上失うものはないのですが、ロシアは、軍事費の削減にまで着手し、日本か、中国か、欧州か、トランプ氏かの支援を得なければ、今後も失うものが増えるのです。
 鳴くまで待とう不如帰。家康の心境が、安倍さんに求められます。


 
 # 冒頭のグラフは、ロシアの国防費支出




  この花の名前は、ハマギク


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ソ連が満洲に侵攻した夏 (文春文庫)





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