Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ハサミ男

2007-01-16 | 日本映画(は行)
★★★★ 2004年/日本 監督/池田敏春

「不協和音が奇妙な気持ちよさ」


とにもかくにもこのチープ感でしょう。好き嫌いがはっきり出る映画だと思う。にっかつロマンポルノ、Vシネ、ホラーなどB級ジャンルで異才を放つ池田敏春監督らしいテイスト。これが気に入るかどうかでこの映画が楽しめるかどうかは決まる。そもそも原作がサイコスリラーとして一定のファンを得ていたようで、しかも映像化は不可能なんて言われていたくらいだから、スリラーものとしてハイレベルな描き方を期待した小説のファンはがっかりしたんじゃないかな。私は原作を読んでいなくて、良かった。

主演クラスの役者、豊川悦司、麻生久美子、阿部寛の3人を除けば、地味な役者さんばかり。しかもやたらと演技がVシネマっぽい。この辺が楽しめないと、たぶんすぐに挫折ですね。そして、「死刑台のエレベーター」をイメージして演奏されたという本多俊之のサックスの即興演奏が実に居心地が悪く(笑)、物語に合ってるのかどうかと言われるとたいへん疑問である。つまり、映画の「完成度」という言葉ではお世辞にも高いとは言えない。でも、このテイストが嫌いかと聞かれると、そんなこともなく。

自殺願望のある知夏が幾度となく部屋で自殺を行い、失敗しては嘔吐を繰り返すんだけど、これはわざと麻生久美子の嘔吐シーンをたくさん撮影したかったからではないの?と勘ぐってしまう。吐きまくる麻生久美子の顔からエロスを引き出したかったんではないか、なーんて。「天使のはらわた」の池田監督だから、そういうこともちょっと考えたりするわけです。そんな自殺を繰り返す知夏に常に寄り添い、ひたすら傍観者としてたたずむ謎の男、安永が豊川悦司。

時折、知夏に何やらひそひそと耳打ちしたり、ゲロゲロ吐いてる時もベッドの上で三角座りをしてじっと見つめているだけだったり。コイツは何者なの?というミステリアスな存在感を放つ。存在自体が謎めいている、というのはそもそも彼が持っている大きな魅力の一つなので、彼らしいフラットな演技そのままで役になりきれた感じです。ただ、あのヘアスタイルだけはいただけない。何ですか、あのぺっちゃりした長めのおかっぱヘアは!ったく、スタイリストさん、もっと素敵にしてください!

エンドロール眺めていると、脚本で長谷川和彦と相米慎二の名前を発見してびっくり。その割には…(スイマセン)。でも、豊川悦司が何者なのか、というのは個人的にはいろいろ推理が楽しめました。「あの子の部屋はがらんとしているんです!」と力説する刑事など伏線もいろいろ用意されているし。サイコスリラーとしてキレのある物語を期待せず、この何ともいえない中途半端な脱力感を楽しみましょう。これも、また映画なり。