Casa Galarina

映画についてのあれこれを書き殴り。映画を見れば見るほど、見ていない映画が多いことに愕然とする。

ファンシィダンス

2007-02-01 | 日本映画(は行)
★★★★☆ 1989年/日本 監督/周防正行

「メジャーデビューから本領発揮」


実家の寺を継ぐためにバンドをやめて修行僧として寺にやってきた陽平。寺の生活ってどんなの?お坊さんってどんなことするの?などお寺の世界をおもしろおかしく描く周防監督のメジャーデビュー作がこれ。今でこそ、未知なる世界を笑いとエンターテイメントで見せる周防監督、なんて言われているが、この作品ができた時にはそのような認識は全くないのは当然。しかし、改めて見直すと、いかに細かく取材して作ったかがよくわかる。そして周防監督の笑いのセンス、そして独特の「間」はこの作品ですでに確立されている。これがメジャーデビュー作とは思えない完成度である。

例えば、鐘突き担当になった陽平(本木雅弘)が一日何回鐘を叩くのか、その鐘にはどんな意味があるのかを紹介しつつ、別の部屋では先輩僧が御法度のビールを飲みながら鐘の数に間違いがないか指折り数えている。このように、一つひとつの未知なるエピソードがわかりやすさと笑いをもって紹介されており、我々観客は「そーなんだ」という驚きの連続でワクワクさせられる。極めつけは「大便の仕方」を紹介するシーン。オチに大爆笑しちゃった。

また、バンドのボーカルと修行僧は全く相反する世界。ところが物語が進むにつれパンクロッカーだった主人公自身のストイックさと修行僧の生活が実にうまくリンクしていき、「対極」の関係が「融合」へと変化していく。それはラスト近く袈裟をまとった本木雅弘が、パンク少年であった以前よりも俄然ファッショナブルでカッコ良く見えることに集約されている。本木雅弘が修行僧の暮らしに馴染むのと同時に、我々自身も禅寺という異世界とのギャップが埋められていくしかけ。実にうまい。

同じく修行僧を演じる田口浩正。どうやら彼はこの作品がメジャーデビューのよう。食い意地の張った、人の良いデブキャラの原点がここにあります。なんか、今も変わってない(笑)。そして、竹中直人。かなしおかしい、という彼の芸風を存分に生かしたキャラ設定。ヅラかぶって住職に内緒でキャバクラ遊びをするシーンがあるんだけど、「ヅラ遊び」の原点はここなのかな。そう思うと映画界における竹中直人は、ここから始まったんじゃないかな、と思えて感慨深い。今でも「ミルヒー」やってんだから、進歩してないっちゃあ、進歩してないんだけど(笑)。いずれにしても今や映画界に欠かせない俳優陣の育ての親でもあるんですね、周防監督は。そうそう徳井優も出てる。あと、若いときの痩せた彦麻呂が準主役。これにはビックリ。

美形の僧役に当時モデルだった甲田益也子を抜擢したり、冒頭のライブシーンで東京スカパラダイスオーケストラを使ったりと配役にも監督のセンスを感じる。ロンドンファッションに身を包んだ鈴木保奈美も実にハマってる。何よりアイドルの本木雅弘を丸坊主にしてここまでかっこ良くみせられたのは、やはり監督の演出のなせる技だろうと思う。ほんとに坊主頭のモックンはステキ。

当時は本木雅弘が坊主役に挑戦し、ヒロインが鈴木保奈美ってことで話題になったように思うけど、とんでもない。静かな間と間から生まれる笑い、世の中を皮肉るユーモア、知らない世界を身近に見せる技、どれを取っても一級品。実に面白い作品です。