『花よりもなほ』
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公開されてちょうど1ヶ月くらいかな?結構賛否両論みたいですが、ぐり的にはゼンゼンおもしろかったです。ウン、いい映画でした。
是枝監督はここ何本かはいわゆるセミドキュメンタリー─台本を俳優に渡さずシーンの状況だけを個々に伝えて即興で演技した素材をモンタージュして物語を表現する─で映画を撮ってたので、確かにそういう面ではテイストはちょっと変わったかもしれない。台詞の端々にやや説明っぽさを感じたり、会話の流れがどーも観念的だったり、いざ見せ場!なシーンでヘンな照れが見えたり、なんだかんだ盛り込みすぎて微妙に散漫になってたり、そういうミソはあるにはあります。
けどストーリーはすごくいいと思うし、キャラクター描写もイキイキしててとっても楽しい。時代劇コメディというスタイルはとってるけど、辛辣な政治的メッセージもしっかり表現されてるし、そこはさすがジャーナリスト出身の監督らしい、他の日本映画にはないものがあると思います。
舞台は元禄、将軍綱吉─犬公方の時代。忠臣蔵で有名な松の廊下の刃傷事件の翌年、という設定で物語は始まる。江戸の場末の貧乏長屋に住む浪人・青木宗左衛門(岡田准一)は3年前に殺された父の仇を討つべく松本から出てきたが、なかなか仇討を実行に移せない。動機が自分でも釈然としないからだ。武士たるもの親の仇を討つのが当然とわかってはいるものの、読み書き算盤は得意でも剣の腕はからきしという、泰平の世に生まれ育った彼には流血や暴力を我がこととしてとらえることにどうしても抵抗がある。
そんな青木と、彼をめぐる同じ長屋の住人たちとのドタバタを描いたハートフルコメディ。
貧乏長屋とは書いたけど、この長屋の描写が凄まじい。長屋なんてものではない、ハッキリと「あばら家」である。柱も建具もてんでバラバラに傾ぎ壁は穴だらけ屋根は剥がれて継ぎはぎ、障子は汚れて破れ畳は波うち毛羽立っている。正直こんなところに人が住めるとは到底思えないが、戦前を舞台にした私小説にはときどきこういう長屋がでてくるしおそらくこれはこれでリアルなのだろう。しかもまたそこへ住んでる人たちの汚いこと。どうみても風呂には1年以上入ってないし床屋にだって行ったことがないに違いない。髪はくしゃくしゃのゴミとフケまみれ、肌は垢ですすけて歯まで真っ黒、元の柄もわからないほど汚れきったボロ布を辛うじてまとっているという有り様。今のホームレスの方々よりよっぽどヘヴィーなライフスタイルである。画面から埃や汗や排泄物やカビのにおいがもろに噴出してくる。観た人によっては不快に思う人もいるだろう。そのくらい、彼らは見事にみすぼらしい。
しかし監督は彼らの貧しさを通して、ものがなくてもお金がなくても、傍にいる者同士で助けあい支えあい、知恵を絞りそこにあるものを大切にして生きていくことのあたたかさを伝えたかったんではないかと思う。富があり権力があり暴力に強い人間だけが「勝ち組」とされる画一的な価値観に、誰もが迎合しなくたっていい。許しあったりわかりあったり、ときには大事にしてきたものを改めて見つめなおしたりわざと忘れたりすることだってできるのが人間の素晴らしさではないのか。
やはり長屋に住む未亡人おさえ(宮沢りえ)の台詞に「宗さんは“くそ”を“もち”に換えたのです」というのがある。これは長屋の厠の排泄物を大家が農家に売った代金で店子に正月の餅を振舞う習慣を、主人公・青木の“仇討ち”に喩えていっているのだが、どんなに無価値なものでも、考え方や方策によっては有益なものに換えることができるはず、というこの物語のテーマを非常によく象徴している。
キャストがとにかく豪華でそれも楽しかったです。
主役は岡田くんだけど、岡田くん自身はそれほど活躍しないです。いわゆる狂言廻しみたいな役。彼は演技そのものもうまいけど、こういう受け身なキャラクターはうまくないと厳しいので実力はかなり発揮されてると思います。宮沢りえともども「本人はマジメなのに傍目にはなんか笑える」キャラがハマッてました。
他の出演者もどの人もどの人も、ほんのチョイ役まで全員が超メジャーな演技派揃い。芸人がいっぱい出てて、彼らの味もうまく活かされてました。浅野忠信と木村祐一の顔だちが似てるのは新発見だったなあ(マジ)。香川照之は映画出過ぎ(笑)。今日も上映前に『ゆれる』と『出口のない海』の予告をやってたけど、今年だけで他に5本出演作が公開される。出まくり。
隣近所の音も過去も筒抜けという設定も、現代のやたらにプライバシーにばかり神経質で他人にはとことん無関心という社会環境への皮肉にみえる。モチーフが「復讐」だけに今の対テロ戦争に対する強烈な諷刺になっていて、「仇討ちは正義」と誰もが無条件に信じこんでるけどそんなの結局ただの人殺しじゃん!なんてびしっという登場人物もちゃんと出てきます。他にもいろーんなアンチテーゼがそこかしこに混ざってる。痛快でした。
ハッピーエンドだしもしかしたらシリーズ化?もアリなんだろーか。もしそーなら是非また観てみたいですね。
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公開されてちょうど1ヶ月くらいかな?結構賛否両論みたいですが、ぐり的にはゼンゼンおもしろかったです。ウン、いい映画でした。
是枝監督はここ何本かはいわゆるセミドキュメンタリー─台本を俳優に渡さずシーンの状況だけを個々に伝えて即興で演技した素材をモンタージュして物語を表現する─で映画を撮ってたので、確かにそういう面ではテイストはちょっと変わったかもしれない。台詞の端々にやや説明っぽさを感じたり、会話の流れがどーも観念的だったり、いざ見せ場!なシーンでヘンな照れが見えたり、なんだかんだ盛り込みすぎて微妙に散漫になってたり、そういうミソはあるにはあります。
けどストーリーはすごくいいと思うし、キャラクター描写もイキイキしててとっても楽しい。時代劇コメディというスタイルはとってるけど、辛辣な政治的メッセージもしっかり表現されてるし、そこはさすがジャーナリスト出身の監督らしい、他の日本映画にはないものがあると思います。
舞台は元禄、将軍綱吉─犬公方の時代。忠臣蔵で有名な松の廊下の刃傷事件の翌年、という設定で物語は始まる。江戸の場末の貧乏長屋に住む浪人・青木宗左衛門(岡田准一)は3年前に殺された父の仇を討つべく松本から出てきたが、なかなか仇討を実行に移せない。動機が自分でも釈然としないからだ。武士たるもの親の仇を討つのが当然とわかってはいるものの、読み書き算盤は得意でも剣の腕はからきしという、泰平の世に生まれ育った彼には流血や暴力を我がこととしてとらえることにどうしても抵抗がある。
そんな青木と、彼をめぐる同じ長屋の住人たちとのドタバタを描いたハートフルコメディ。
貧乏長屋とは書いたけど、この長屋の描写が凄まじい。長屋なんてものではない、ハッキリと「あばら家」である。柱も建具もてんでバラバラに傾ぎ壁は穴だらけ屋根は剥がれて継ぎはぎ、障子は汚れて破れ畳は波うち毛羽立っている。正直こんなところに人が住めるとは到底思えないが、戦前を舞台にした私小説にはときどきこういう長屋がでてくるしおそらくこれはこれでリアルなのだろう。しかもまたそこへ住んでる人たちの汚いこと。どうみても風呂には1年以上入ってないし床屋にだって行ったことがないに違いない。髪はくしゃくしゃのゴミとフケまみれ、肌は垢ですすけて歯まで真っ黒、元の柄もわからないほど汚れきったボロ布を辛うじてまとっているという有り様。今のホームレスの方々よりよっぽどヘヴィーなライフスタイルである。画面から埃や汗や排泄物やカビのにおいがもろに噴出してくる。観た人によっては不快に思う人もいるだろう。そのくらい、彼らは見事にみすぼらしい。
しかし監督は彼らの貧しさを通して、ものがなくてもお金がなくても、傍にいる者同士で助けあい支えあい、知恵を絞りそこにあるものを大切にして生きていくことのあたたかさを伝えたかったんではないかと思う。富があり権力があり暴力に強い人間だけが「勝ち組」とされる画一的な価値観に、誰もが迎合しなくたっていい。許しあったりわかりあったり、ときには大事にしてきたものを改めて見つめなおしたりわざと忘れたりすることだってできるのが人間の素晴らしさではないのか。
やはり長屋に住む未亡人おさえ(宮沢りえ)の台詞に「宗さんは“くそ”を“もち”に換えたのです」というのがある。これは長屋の厠の排泄物を大家が農家に売った代金で店子に正月の餅を振舞う習慣を、主人公・青木の“仇討ち”に喩えていっているのだが、どんなに無価値なものでも、考え方や方策によっては有益なものに換えることができるはず、というこの物語のテーマを非常によく象徴している。
キャストがとにかく豪華でそれも楽しかったです。
主役は岡田くんだけど、岡田くん自身はそれほど活躍しないです。いわゆる狂言廻しみたいな役。彼は演技そのものもうまいけど、こういう受け身なキャラクターはうまくないと厳しいので実力はかなり発揮されてると思います。宮沢りえともども「本人はマジメなのに傍目にはなんか笑える」キャラがハマッてました。
他の出演者もどの人もどの人も、ほんのチョイ役まで全員が超メジャーな演技派揃い。芸人がいっぱい出てて、彼らの味もうまく活かされてました。浅野忠信と木村祐一の顔だちが似てるのは新発見だったなあ(マジ)。香川照之は映画出過ぎ(笑)。今日も上映前に『ゆれる』と『出口のない海』の予告をやってたけど、今年だけで他に5本出演作が公開される。出まくり。
隣近所の音も過去も筒抜けという設定も、現代のやたらにプライバシーにばかり神経質で他人にはとことん無関心という社会環境への皮肉にみえる。モチーフが「復讐」だけに今の対テロ戦争に対する強烈な諷刺になっていて、「仇討ちは正義」と誰もが無条件に信じこんでるけどそんなの結局ただの人殺しじゃん!なんてびしっという登場人物もちゃんと出てきます。他にもいろーんなアンチテーゼがそこかしこに混ざってる。痛快でした。
ハッピーエンドだしもしかしたらシリーズ化?もアリなんだろーか。もしそーなら是非また観てみたいですね。