落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

おなかいっぱいっす

2006年07月16日 | movie
『サマー・ストーム』

2004年のドイツ映画。東京国際レズビアン&ゲイ映画祭での鑑賞。
ときどき覗いてるほうぼうのレビューで評判がよくて期待してたんだけど、噂に違わぬ完成度。いい映画でした。
主人公のトビー(Robert Stadlober)は高校生。近ごろ、レガッタのチームメイトで無二の親友のアヒム(Kostja Ullmann)が気になって仕方がない。アヒムとガールフレンドのザンドラ(Miriam Morgenstern)が急接近してるのがなんだか妬けるのだ。自分とGFのアンケ(Alicja Bachleda-Curus)とはしっくりこないのに。そんなトビーが夏休みのボート合宿を通じて、恋に目覚め、セクシュアリティに目覚め、セックス?ノ目覚め、そしてほんのちょっぴりオトナになる、甘酸っぱい青春ラブストーリー。

とりあえずですね、すんごいバランスが取れた映画でした。ほどほどコメディタッチ、ほどほどシリアス、ほどほどエッチ、ほどほどお耽美。
ストーリー自体はよくある話です。とりたてて斬新でもないし、むしろどちらかといえばありきたりな、普遍的なモチーフだと思う。十代の夏の初体験。せつなくてほろ苦くてキラキラした思い出。
なんだけど、脚本からカメラワークから編集からなにから、隅から隅までものすごくうまい。隙がない。だからすべての要素に説得力がある。
まずひとつひとつのエピソードや人物描写が丁寧で繊細で、かつ構成や展開にメリハリが利いていて、淡々としているようで観客を決して飽きさせない。セクシュアリティにまつわる物語だけど、まじめくさった重さや世界観の偏りはない。誰がみてもすぐ理解できて、カンタンに共感できるごくニュートラルなスタンスがきっちり守られている。それでいてうわっつらだけで同性愛をとらえるような観念的な印象にならないようにしっかり気をつかいつつ、固さや説明っぽさや妙にリベラルなおしつけがましさを微塵も感じさせない。ある意味技術的にスゴイと思います。職人芸的。
いちばん感動したのは主人公トビーの心理描写の巧みさ。大切な親友に恋してしまった少年の戸惑いと混乱とときめき、肉欲、迷い、悦楽、安堵感、罪悪感、達成感、といった彼の内面の動きが、自然に素直に響いてくる。台詞は少ないし芝居もとくにオーバーアクトではないので、ひとえに細かな描写による表現力なのだろうけど、そのストレートさと力強さはまさに圧巻でした。
あと友情の発展と変化を通じて、人と人とのつながりのあたたかさがさりげに描かれてて、そこも素敵だった。

緑豊かな湖水地方をみずみずしく捉えた映像がたいへん美しい。ストリングスと70〜80年代のアメリカンポップスをうまく使いわけた選曲もいい。
俳優がみんな田舎のフツーの高校生っぽくて、日本やアメリカの小生意気なガキんちょに比べてすっごく純朴。とにかく爽やか、健全そのものです(笑)。そのへんも好感度高し。ケータイとかネットとかTVとかがいっさい出てこないので、もしかすると微妙に昔のシチュエーションなのかな?80年代とか?
主役のRobert Stadloberはわかりやすいいわゆる美男子タイプではないんだけど、エッチなシーンになると急に色っぽくなるのがなんだかエロかった(彼本人はバイなんだそーだ←ソース)。アヒム役のKostja Ullmannはどー?煬ゥたことあるよーな?と思ってたら『バルトの楽園』でナレーションもやってたドイツ軍捕虜役?奄カたコスティア・ウルマンくんだった。ゼンゼン雰囲気違うじゃん。ふたりとも撮影当時既に20代だったはずだけど、とてもそうはみえない初々しさです。
内容もコンセプトもなかなかいいし、一般公開してもウケると思います。去年のドイツ映画祭でも『夏の突風』という邦題で上映されてて、一部にはけっこう人気もあるみたいだし。
公式サイトで予告編とかいろいろみれるよーです。コチラにはNG集や未使用シーンなども。DVDほしーなー・・・。