落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

シュラバラバンバ

2006年07月15日 | play
『あわれ彼女は娼婦』

1993年6月だからちょうど13年前に、同じ演目をTPTの舞台で観たことがある。
主演は当時映画で注目され始めたばかりの豊川悦司、場所はベニサン・ピットという小劇場だった。三方をひな壇状の客席に囲まれたフロアでの芝居は臨場感もたっぷりで、限られたスペースで観客も少数だからこその斬新な演出が非常にエキサイティングだった。たぶん、今までに観てきた演劇の中でも最も心を動かされたのがこのときの公演だといってもいいと思う。てゆーかそんなに演劇観てないけどさ。

今回の会場はシアターコクーン。まあデカイです。演出は蜷川幸雄、主演は三上博史・深津絵里・谷原章介。
台本はまったく同じだし脇役やスタッフの中には13年前と同じメンバーも数人いるけど、基本的には別な舞台としてみるつもりだった。13年前があまりに衝撃的だったから(上演後、雨の中を地下鉄ふた駅ぶん走って帰った)。
でも実際観てみると意外なくらい違和感がなく、13年前と同じようにおもしろかったし、興奮もした。やっぱりいい戯曲だと思った。
原作はシェイクスピアも活躍したエリザベス朝時代の劇作家ジョン・フォード。物語もほとんどシェイクスピアの代表作『ロミオとジュリエット』の別バージョンといっていいくらい似通っている。“ロミジュリ”と違うのは、愛しあう恋人たちが同じ両親をもつ兄妹というスキャンダル性と、複雑に交錯する人間関係だろう。人々は愛を求めるがゆえに憎しみあい、情慾にとらわれ、それぞれの破滅へ向かってまっしぐらに転落していく。
文字通り修羅場。そこには一片の希望も救いもない。だが弱さや愚かさにこそ、真の人間らしさが愛おしくみえる。

三上博史も深津絵里も谷原章介も、舞台でみるのは今回初めて。
三上氏の映像での芝居は実はあんまり好きではないのだが、このヒトってもともとは舞台俳優なんだよね。舞台向いてますよ。すごく。めちゃめちゃ説得力あります。声もいいし。お勉強はできるけど純粋すぎてちょっとイッちゃってるお坊っちゃんとゆー役柄にもしっかりハマってました。
深津ちゃんはかわいいですねー。なにより町中の青年が求婚したがる絶世の美少女とゆーキャラにあってました。声がまた綺麗。鈴を転がすよーな美声って感じで。
谷原氏も適役ではあったんだけど、いかんせんこのヒトの喋りが舞台向きじゃなくてツラかったです。声はよく通るのに、発音が不明瞭でところどころ台詞が聞き取れない部分が目立ちました。
役でいうと彼が演じた貴族ソランゾの元愛人で人妻のヒポリタのキャラがイマイチ弱かった。このキャラクターはヒロイン・アナベラの対極ともいえる悪女なので、もっとその“毒”を強烈に観客にアピールすべきだと思う。それとアナベラの求婚者で頭の弱い青年バーゲットはキャラはうまくたってたけど、却って物語全体の世界観からはやや浮いてしまっていた感は否めず。
全体に主要3人以外のキャスティングが穏当すぎて、ひとりひとりがあまり目立ってなかったのが不満といえば不満だったかな?この物語はたくさんのキャラクターが絡みあう愛憎劇でもあるので、焦点をメイン3人に絞ったのでは魅力が半減してしまう。

とかなんとかいって、実際かなり楽しめました。ハコが大きいぶん演出も派手だったしね。
三上氏の舞台はまた機会があったらみてみたいです。