落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

インテリはつらいよ

2006年12月24日 | movie
『イカとクジラ』
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昨年度の賞レースで健闘してた注目作とゆーことでちょっと期待して観に行ったんですがー。
うーん・・・意外と小粒・・・とゆーか、あまりぐり好みの映画ではなかったです。残念ながら。
舞台は1986年、ニューヨーク近郊の住宅街ブルックリン。落ち目の文芸作家の父(ジェフ・ダニエルズ)と新進人気小説家の母(ローラ・リニー)が離婚することになり、ウォルト(ジェシー・アイゼンバーグ)とフランク(オーウェン・クライン)の兄弟は曜日ごとに両親の家を行き来して暮すのだが・・・という、1969年生まれのノア・バームバック監督自身の体験を基にしたホームドラマなんだけど。
ストーリーはすごくよくできてるし、80年代ニューヨークの風俗をうまく再現した美術装飾や、ステディカムを多用したフレキシブルなカメラワークによる映像美もオシャレ。インテリ家庭のスノッブな雰囲気を皮肉ったシャレもなかなか効いている。全体にとても丁寧にきちっとつくられた映画ではあると思う。

けどねー。簡単にいっちゃうと、いろいろ詰めこみ過ぎじゃないかと思ったです。そのわりには何がいいたいのかがもうひとつ散漫になってる。
例えば、離婚したあと父親は元の家からみて「公園の反対側」に引越すんだけど、このブルックリンに実在する公園に関する描写がほとんどないから、その距離感というか意味あいがもうひとつ漠然としている。みているとかなり大きな公園らしいというのはなんとなくわからなくはないんだけど。
あと父が好きなテニスプレーヤーやバスケットボールチーム、小説や映画のタイトルが会話にしょっちゅう出てくるんだけど、これもわからない観客にははっきりいってちんぷんかんぷんだろう。イヤ、わかるよ、さすがにマッケンローとかボルグとか、ディケンズとかカフカとかフィッツジェラルドとかメイラーとか、『勝手にしやがれ』とか『ブルーベルベット』とか、そのへんはぐりだって80年代に10代を過ごした世代だし常識の範囲としてわかる。ニューヨーク自然史博物館には行ったことないから「イカとクジラ」はまるっきりわかんなかったけど。
けどわからない人には意味の通じないような固有名詞をやたらめったら連発されると、だんだんイヤミに感じて来るんだよね。そういう「わかんない人はついてこなくていーから」的な気取ったトーンが、おそらくこの物語の背景に必要ではあったんだろうけど、ちょっと過剰に感じましたです。
それよりは、子どもたちの性の目覚めや親たちの恋愛などのパートの顔の表情とか、もっと感覚的な部分を大事に余裕を持って表現してほしかった。そういう「引き算の演出」で成功してた『アイス・ストーム』にテー?}が似てるもんだから、つい無意識に比べてしまう。あの映画の原作小説も凄まじい量の情報が文中に氾濫しまくってるけど、映画ではそれをごっそりカットしてあるんだよね。

出演者の演技は非常によかったです。
言葉を操る“文学者”とその子どもでありながら、自分の感情を表現したり相手の気持ちを推し量ったりするという基本的なコミュニケーションが絶望的に苦手、という部分がそれぞれよく似ているところなんかすっごく家族っぽかった。しかしこの両親は子どもがふたりとも思春期の難しい年頃だってのをあまりに意識しなさすぎじゃないでしょーかね?やっぱ芸術家ってダメ人間なんだなあ。
ラスト近くのネコのエピソードなんかは、もろにギリシャ悲劇の「デウス・エクス・マキナ」っぽくて思わずにやっとしちゃったりしてね。
監督は若いみたいなので、まだまだこれから、ってところでしょうか。