『ハート・ロッカー』
2004年、イラク。爆発物処理班のトンプソン軍曹(ガイ・ピアース)が任務中に爆死。後任に800個以上の爆弾を処理してきたという記録保持者・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が着任する。
元諜報部で慎重派のサンポーン軍曹(アンソニー・マッキー)は、自信家でときに危険を顧みないジェームズとことごとに衝突するのだが・・・。
2009年度アカデミー賞で6部門を制覇した注目作。
おもしろかったよー。さすがアカデミー賞。でも劇場ガラガラだったけどね(爆)。¥1,000の日なのにい。
登場人物が極端に少なく、正義とか悪とかそーゆーリクツがほとんど出て来ない、ハリウッドの戦争映画としてはちょっと珍しいタイプの作品。情景描写がさりげに美しく、全体の構成が大胆で、スリル満点の娯楽作でもあり、人物造形に奥行きがあり、心理描写に優れた文芸映画風でもあり、非常にバランスのとれた映画になっている。
かといって新鮮味があるかといえばそーでもない。
死と隣りあわせの戦場と日常生活との落差を若い男性の視線で描いた作品としては、既に『ジャーヘッド』という映画もハリウッドでつくられている。同じように爆発物処理技術兵の任期最後の数日をモチーフにした映画では、イスラエルの『ボーフォート ─レバノンからの撤退─』が素晴らしい。
スターも出演してないし(途中でレイフ・ファインズがチョイ役で出てきてビックリ)、どっちかといえば地味なこの作品がなぜこんなに話題になったのかがよくわからないんだけど、映画としての完成度・水準としてはかなり高いです。
全体のトーンは戦争映画なのにすごく淡々としている。それは主人公たちの職務が爆発物処理という、非常に集中力を求められるうえに、失敗がそのまま死につながる危険極まりない仕事だから、素直にそれを描写するだけで淡々としてしまうというわけではないと思う。
爆発物処理技術兵としては型破りなジェームズは狙撃もするし、追跡捜査もする。だがその動機の部分にはろくな説明がない。おそらく現実の戦場ではジェームズのような行動はまず許されるものではないだろうし、説明もなくふりまわされる観客はただ不安になる(当然、同僚も怒る)。
だがこの直情径行的で不親切なジェームズの行動のなかに、死と隣り合わせに生きる宿命を背負った男の、御しがたく生々しい、生きた人間の魂が感じられるのがひどく不思議で、その不思議さが映画の淡々としたクールなトーンと綺麗にマッチしている。
爆弾を知りつくしたジェームズだが、彼を含めて登場する米兵はイラクのことを何も知らない。言葉はもとより、基地周辺の住民の顔の見分けもつかない。
数ヶ月単位を過ごす場所の風土や民族や歴史や文化にいっさいの関心を払おうとしないという心理が、個人的にいってぐりにはまずもって理解不能なのだが、彼らには敵を知ることで勝利しようという論理は不必要なのだろうか。
全編にイラク人の不可解さへの恐怖がかなりしっかりと描きこまれているのだが、知ろうという意識もなく恐れるだけの愚かさも意図的に表現されているのだとしたら、この映画の評価はもっと上がると思う(少なくともぐり的には)。
なワケないよね。違うよねえ。
関連レビュー:
『リダクテッド 真実の価値』
『アメリカばんざい』
『告発のとき』
『キングダム─見えざる敵』
『華氏911』
『サラーム・パックス バグダッドからの日記』 サラーム・パックス著
2004年、イラク。爆発物処理班のトンプソン軍曹(ガイ・ピアース)が任務中に爆死。後任に800個以上の爆弾を処理してきたという記録保持者・ジェームズ二等軍曹(ジェレミー・レナー)が着任する。
元諜報部で慎重派のサンポーン軍曹(アンソニー・マッキー)は、自信家でときに危険を顧みないジェームズとことごとに衝突するのだが・・・。
2009年度アカデミー賞で6部門を制覇した注目作。
おもしろかったよー。さすがアカデミー賞。でも劇場ガラガラだったけどね(爆)。¥1,000の日なのにい。
登場人物が極端に少なく、正義とか悪とかそーゆーリクツがほとんど出て来ない、ハリウッドの戦争映画としてはちょっと珍しいタイプの作品。情景描写がさりげに美しく、全体の構成が大胆で、スリル満点の娯楽作でもあり、人物造形に奥行きがあり、心理描写に優れた文芸映画風でもあり、非常にバランスのとれた映画になっている。
かといって新鮮味があるかといえばそーでもない。
死と隣りあわせの戦場と日常生活との落差を若い男性の視線で描いた作品としては、既に『ジャーヘッド』という映画もハリウッドでつくられている。同じように爆発物処理技術兵の任期最後の数日をモチーフにした映画では、イスラエルの『ボーフォート ─レバノンからの撤退─』が素晴らしい。
スターも出演してないし(途中でレイフ・ファインズがチョイ役で出てきてビックリ)、どっちかといえば地味なこの作品がなぜこんなに話題になったのかがよくわからないんだけど、映画としての完成度・水準としてはかなり高いです。
全体のトーンは戦争映画なのにすごく淡々としている。それは主人公たちの職務が爆発物処理という、非常に集中力を求められるうえに、失敗がそのまま死につながる危険極まりない仕事だから、素直にそれを描写するだけで淡々としてしまうというわけではないと思う。
爆発物処理技術兵としては型破りなジェームズは狙撃もするし、追跡捜査もする。だがその動機の部分にはろくな説明がない。おそらく現実の戦場ではジェームズのような行動はまず許されるものではないだろうし、説明もなくふりまわされる観客はただ不安になる(当然、同僚も怒る)。
だがこの直情径行的で不親切なジェームズの行動のなかに、死と隣り合わせに生きる宿命を背負った男の、御しがたく生々しい、生きた人間の魂が感じられるのがひどく不思議で、その不思議さが映画の淡々としたクールなトーンと綺麗にマッチしている。
爆弾を知りつくしたジェームズだが、彼を含めて登場する米兵はイラクのことを何も知らない。言葉はもとより、基地周辺の住民の顔の見分けもつかない。
数ヶ月単位を過ごす場所の風土や民族や歴史や文化にいっさいの関心を払おうとしないという心理が、個人的にいってぐりにはまずもって理解不能なのだが、彼らには敵を知ることで勝利しようという論理は不必要なのだろうか。
全編にイラク人の不可解さへの恐怖がかなりしっかりと描きこまれているのだが、知ろうという意識もなく恐れるだけの愚かさも意図的に表現されているのだとしたら、この映画の評価はもっと上がると思う(少なくともぐり的には)。
なワケないよね。違うよねえ。
関連レビュー:
『リダクテッド 真実の価値』
『アメリカばんざい』
『告発のとき』
『キングダム─見えざる敵』
『華氏911』
『サラーム・パックス バグダッドからの日記』 サラーム・パックス著