落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

もう一度、たったひと目でいいから、きみに会いたい

2021年08月01日 | movie
『親愛なる君へ』



9歳になるヨウユー(白潤音)は、病気の祖母シウユー(陳淑芳)とジエンイー(莫子儀)と三人暮らし。
生さぬ仲でありながらジエンイーはピアノ教師として働いて家計を支え、家事に育児に介護にと孤軍奮闘していたが、ある朝シウユーが急逝してしまう。上海から急遽帰国したシウユーの次男リーガン(是元介)は母の死に不審を抱き、司法解剖の結果、遺体から違法薬物の代謝物が検出される。
15年前に東京国際映画祭で観た『一年の初め』の鄭有傑(チェン・ヨウチェ)監督の最新作。第57回台湾アカデミー賞(金馬奨)で主演男優賞を含む3冠を獲得。

冒頭、美しい山の風景の空撮から映画は始まる。
だがこの物語の主な舞台は山ではない。血のつながらない奇妙な三人の家庭はあたたかくはあるが、口には出せない何らかの秘密が影のように見え隠れ、微妙な緊迫感を漂わせている。

何しろジエンイーの献身ぶりは半端ではない。食事を食べさせて子どもを学校に送り届け、仕事の合間に老女を病院に連れていき、夜は痛みを訴えるごとに傍についてなにくれと世話を焼く。どう見てもただの同居人の域をこえている。
そんな彼にシウユーは訊ねる。「私に尽くしたら、息子が生き返るとでも?」と。ジエンイーは彼女の亡き長男リーウェイ(姚淳耀)の同性パートナーだった。

あくまで静かで穏やかでありつつも目には見えない何かに抑圧されているようなホームドラマは、病んだ老母の死から思いもよらぬ方向へ展開していく。だから一見するとサスペンス映画のようにも感じる。
ジエンイーはなぜ何もかもを一家のために捧げ、身を挺して彼らをまもろうとするのか。シウユーはなぜジエンイーに孫を養子にするよう勧めたのか。ヨウユーはなぜジエンイーを「パパ」と呼ぶのか。
実家から離れて暮らすリーガンには何もかもが理不尽に感じられて当たり前だろう。そこで彼は司直の介入を求める。

だが一方で、観客にはジエンイーの無償の愛が画面から常に溢れ、自然に胸に沁みこんでいくように感じられる。その感覚は限りなく優しく、心地良い。
いつも何だか悲しそうにどこかうら寂しげな孤独感を纏った彼にとって、最愛の亡きリーウェイの家族こそが生きるよすがであることは自明なのだが、なんとなく、「でも、そこまでやるか普通?」という不信感も拭えない。
物語のクライマックス、その不信感の由縁が、ジエンイーからヨウユーに宛てた手紙の形で伝えられる。
もうこれはダメです。誰がどう観ても涙腺決壊不可避です。

エンドロールを眺めていると、時制が前後を行ったり来たりを繰り返すなかで、結果的には、この物語は山で始まって山で終わったのだということに気づく。
描かれるエピソードの一つひとつは何気なく、誰の身にも起こり得るような些細なことばかりなのに、ほんの少し何かがすれ違い、微妙に狂ってしまったせいで、外見的には取れていたはずの調和が乱れ、取り返しのつかない悪夢に転がり落ちていってしまう。
ジエンイーはリーウェイへの愛ゆえにすべてを擲ってまで一家に尽くそうとした。そこに何も見返りなど求めてはいなかったことはわかる。でも老母がいうように、いくら尽くしても、彼女の愛する息子を、幼子の父親を取り戻すことなどできはしない。観ていてジエンイーの必死さが痛々しくて、苦しくなる。

15年前に観た『一年の初め』のレビューにはロクなことを書いていないので内容も何も覚えていないが、「映像が凝っててミュージッククリップ風」と時制が前後するのは共通しているので、あるいはこれは鄭有傑の作風なのかもしれない。
もうひとりの主人公でもあるヨウユーを演じた白潤音になんか見覚えがあるな?と思ったら『MR.LONG/ミスター・ロン』の男の子だった。あのときも大人顔負けの存在感で作品の世界観を圧倒してたけど、アレ?もう4年も経ってますけど・・・2009年生まれってことは当時7〜8歳、今回は11歳ってことか。それにしてもこれからどんな大物になってくのか、先が楽しみですね。

映画は少しほろ苦いハッピーエンドで終わる。
何もかもがまるっと平和解決したわけではないけど、ジエンイーには、これからは自分のために幸せになってほしい。そう願わずにはいられなかった。
とにかく泣けた。めちゃめちゃ泣いた。いま泣きたかったらこれ観とけば間違いないです。『火垂るの墓』も顔負けです。何しろ子どもネタは鉄板ですから。

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