落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

英語題は「侍女」

2017年05月20日 | movie
『お嬢さん』

人里離れた豪邸で稀覯本蒐集家の叔父(チョ・ジヌン)に閉じ込められて暮す日本人令嬢・秀子(キム・ミニ)に侍女として仕えることになった珠子(キム・テリ)。詐欺師の藤原(ハ・ジョンウ)の計画で、秀子と駆落ちさせ奪った財産を山分けする予定だったが、常に孤独に堪え忍ぶ秀子の境遇に同情した珠子は彼女の美しさに心を動かされ・・・。
サラ・ウォーターズの『荊の城』をパク・チャヌクが日本統治時代の朝鮮を舞台に映画化。

あの傑作『オールド・ボーイ』も10年以上前かあ。光陰矢の如し。とにかくパワフルなドライブ感満載の復讐劇が無茶苦茶おもしろかったことは覚えてるけど、さすがにディテールはもう記憶には残ってない。
で今作もやっぱり復讐の話です。パク・チャヌクは復讐劇専門なの?しかしただの復讐劇ではない。
この映画は三部構成になってるんだけどそれぞれ視点が違っていて、三部が互いに入れ子になるしくみで話が展開していく。一部は侍女目線、二部は令嬢目線、三部は詐欺師目線で、かつこの三者がそれぞれに惹かれあい、欺きあい、報復しあう関係になっている。
いやもうクドい。話がクドいだけじゃない。構造そのものがクドい。コッテコテです。ここまで来たらいっそのこと潔いね。天晴れです。

登場人物の半分以上が日本人の設定なんだけど出演者は全員韓国人俳優だったり(もちろん台詞は訛っている。致し方なし)、舞台が閉鎖的で時代背景が演出上の装置でしかなかったり、いろいろとツッコミどころはあるにせよ、それでもこのクドさと展開の派手さで観客をぐいぐいろひっぱっていくパワーはやはりさすがというしかないです。
だって台詞が変態過ぎるんだよ。この設定、韓国語でこんな台詞喋れないから外国語=日本語にするために統治時代にしただけでしょ。絶対。邦画ではまずあり得ない(というかどこの国の映画でもちょっとこれは無理だろう)ぐらいふりきったど変態ワードのオンパレードです。いや台詞だけじゃないな。もうちょっと凡人には想像つかないぐらいのスーパー変態シーンが全編、とくに中盤以降ギッチギチに詰まってます。はっきりいってドン引きです。
なのに引きつつつい観てしまう。あまりの変態ぶりに笑っちゃいながらも目を背けられない。いってみれば超ハイクオリティな秘宝館を見せられてる感じとでもいいましょうか。なんつっても伝わらないよね。すみません。

ただこの日本統治時代という設定はビジュアル的にはかなり効果的で。
従来の韓国映画のコスチュームプレイというと、家具調度が地味で画面がなんか寂しかったんだよね。今作は前半のほとんどが変態おじさんの豪邸で、建物は日本建築とドイツ風建築の半々、屋内の装飾や庭園も和洋折衷風で、後半は中国の上海影視楽園かな?アールデコ系のオープンセットも出てきたりしてめっちゃ豪華です。秀子さんの衣裳は基本ヴィクトリア朝風の洋装。オシャレ。あとなんでかほとんどのシーンで秀子さんや藤原がいちいち手袋してる。食事時ですら必ずはめてるのがフェティッシュ。
そういうディテールにものすごく凝っていて、視覚的にもコテコテに楽しめる。

ど変態稀覯本マニアをめぐるサスペンスといえばレイモンド・チャンドラーの『大いなる眠り』だけど、リアリズムを追求したチャンドラーとは真逆に、サスペンスにいろんなタイプの衝撃を暴力的に重ねまくるストーリーが、観ていて途中から気持ちよくなってきます。
完全にオーバーフローな変態要素や、究極の三竦み構造がどんどんねじれてくギミックにも驚かされたんだけど、個人的にもっとも度肝を抜かされたのは作品の男女観。
儒教の国であり、アジアの他国と比較しても男尊女卑思想が根強い韓国で、ここまで既成概念をとことん覆した男女観をもつ映画が商業ベースでつくられて評価もされているというところには、ほんとうに心底驚きました。
確かにちょっととんでもない映画だし過剰に露骨な性描写もあるけど、もっとたくさんの人が観るべき作品なんじゃないかと思います。
少なくとも、私は観てよかったし、すごくトクした気持ちになれる映画でした。原作もこれから読んでみたいです。



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