久々に実家に戻ったものの、諸事万端、アテが外れてスケジュールがメチャ狂い……。本当にどうなってんだか……。
という嘆き節の1日は、このアルバムで始っていました――
■Duke Ellington & John Coltrane (impulse!)
どんな世界にも普遍の良さが稀に存在していますが、ジャズとしてはデューク・エリントンがその代表かもしれません。作曲された膨大なメロディは、その多くがスタンダード化していますし、演奏そのものがオリジナルの形で多くのファンに愛されているのは、言うまでもありません。
そして基本となるデューク・エリントンその人のピアノスタイルも、時代を超越した響きを持っているのです。このアルバムは、当時リアルタイムで最前線を疾走していたジョン・コルトレーンと共演した、ある種、無謀な企ての中で、それを立派に証明した大傑作盤だと思います。
録音は1962年9月26日、メンバーはデューク・エリントン(p)、ジョン・コルトレーン(ts,ss) の他に、2人が自分のバンドレギュラーのベーシスト&ドラマーを引き連れていますので、曲毎に編成が異なっているのも、なかなか味わい深いのです――
A-1 In A Sentimental Mood
デューク・エリントンが1935年に書いた傑作メロディで、スローテンポが美しい雰囲気を醸し出します。
ここでのリズムセクションはエリントン楽団からアーロン・ペル(b)、そしてコルトレーン・カルテットからエルビン・ジョーンズ(ds) という組み合わせながら、まずイントロからデューク・エリントのピアノが新鮮というか、不滅の響きで印象的!
続くジョン・コルトレーンのテナーサックスによる素直なテーマメロディの吹奏も静謐で、この曲の魅力を完全に引き出していると思います。あぁ、シミジミと泣けてきますねぇ。
エルビン・ジョーンズも控えめながら劇的なドラミングですし、イントロのリフを伴奏に使ってしまうデューク・エリントは、アドリブパートに入るとセロニアス・モンクっぽいニュアンスまでも聞かせるのですから、最初にこれを聴いた私は仰天したのですが、実はこっちが本家本元なのでした。
A-2 Take The Coltrane
タイトルからして、このセッションの為に書かれたのでしょうか、ジョン・コルトレーンのアドリブフレーズのようなテーマメロディが印象的なデューク・エリントンのオリジナル曲です。
そしてリズム隊はジミー・ギャリンソ(b) とエルビン・ジョーンズ(ds) ですから、アドリブパートに入るとデューク・エリントンは引っ込んで、ジョン・コルトレーンの激烈テナーサックスを中心としたトリオの大爆発が楽しめます。もちろんエルビン・ジョーンズは大奮闘! ジミー・ギャリンソはブンブンブンです。
するとその背後で恐いコードを入れるのがデューク・エリントンなんですねぇ。これもあり、だと思います。
A-3 Big Nick
ジョン・コルトレーンが書いたオトボケ調の和み曲♪ ソプラノサックスの響きが実に楽しい雰囲気ですが、アドリブパートは例によって力み優先モードとなります。
ドラムスとベースは前曲と同じですから、ヘヴィなグルーヴが渦巻き、その中で苦悶するジョン・コルトレーンという図式ながら、デューク・エリントンの伴奏コードが味わい深いので、決して迷い道とはなりません。
それどころか、逆にデューク・エリントンがアドリブに入ると、その場が別次元の緊張感に包まれるのです。見事な緊張と緩和だと思います。
A-4 Stevie
デューク・エリントンのオリジナルで、なんとも黒っぽい楽しさが横溢した名演だと思います。
リズム隊はアーロン・ペル(b) にサム・ウッドヤード(ds) というエリントン子飼いの2人ですから、ジョン・コルトレーンも気負い気味なんですが、アドリブパート中盤からは執拗なシーツ・オブ・サウンド! 自己のペースを取り戻してからは味わい深いフレーズ展開を聞かせてくれます。
う~ん、それにしてもサム・ウッドヤードのドラミングは強靭なビートとハードなアクセントが恐い雰囲気ですし、デューク・エリントンのピアノもアタックが強くて、侮れません。
B-1 My Little Brown Book
デューク・エリントンの片腕というビリー・ストレイホーンが書いた代表曲にして、私が大好きな隠れ名曲♪ 実はここでの演奏を聴いて、瞬時に虜になったのです。
メンバーは前曲と同じで、泣きのテーマメロディを真摯に綴るジョン・コルトレーンは、緩やかなグルーヴの中を浮遊するようで素晴らし過ぎます! 本当に何時までも聴いていたいですねぇ。
またデューク・エリントンが涙の滲むようなイントロから深遠なコードを響かせる伴奏という、神業を披露! 個人的には、このアルバムの中で一番好きな演奏となりました。
B-2 Angelica
ジミー・ギャリンソ(b) とエルビン・ジョーンズ(ds) を従えたデューク・エリントンが、初っ端から楽しいラテンビートのビアノを披露して場を盛り上げ、ジョン・コルトレーンにバトンタッチ!
ところが些か迷い道のテナーサックスが、自信なさそうで面白くなります。そして結局はジコチュウの4ビートにしてしまうというオチがあるんですねぇ。もちろんそこから激烈なモード節で遁走するのですが……。
ちなみに作曲はデューク・エリントンながら、ほとんどその味わいが感じられないという仕上がりです。
B-3 The Feeling Of Jazz
デューク・エリントンのオリジナルで、タイトルどおりの雰囲気がたっぶり楽しめる名曲・名演になっています。
ミディアムテンポのグルーヴィな味わいは、アーロン・ペル(b) とサム・ウッドヤード(ds) のエリントン組によるもので、ジョン・コルトレーンも気持ち良さそうに素晴らしいアドリブを披露しています。もちろんそれは音符過多症候群ではなく、独自のちょっとせつない音使いが魅力です。実際、良いフレーズばっかり吹いているのは、この時期としては奇跡的♪
まさにエリントンの魔法が作用したのでしょうか!?
ということで、ジャズ喫茶ではA面が定番かもしれませんが、私はB面を聴くことが多いです。なにしろ「My Little Brown Book」がありますからねぇ♪
ジャズ入門用にも最適だと思います。