昨夜から肋間神経痛に苦しめられています。痛み止めを飲んだら、食べ物の味まで分からなくなったような……。
自分も、歳だなぁ……。文字通りに痛感しています。
ということで、本日は――
■Very Cool / Lee Konitz (Verve)
こんな寒い日々に、こんなタイトルのアルバムなんてっ!
と、顰蹙かもしれませんが、ここでの「Cool」は冷たいじゃなくて、カッココと解釈したいです。
実際、レニー・トリスターノ派の優等生だったリー・コニッツは、師匠ゆずりのクールな感覚に秀でていましたが、本人はチャーリー・パーカー(as) を尊敬していたとおり、かなり情感に篤い演奏を目指していたと言われています。
そしてこのアルバムこそ、その端緒の1枚として、私は名作だと思っています。
録音は1957年5月5日、メンバーはリー・コニッツ(as)、ドン・フェララ(tp)、サル・モスカ(p)、ピーター・インド(b)、シャドウ・ウィルソン(ds) とされています――
A-1 Sunflower
フワフワと抑揚が無いのに、けっこうエキセントリックな雰囲気のテーマメロディは、確実にビバップから進化したモダンジャズの佇まいでしょう。相等にグルーヴィなリズム隊、特に黒人ドラマーのシャドウ・ウィルソンが強いビートを叩いていますから、リー・コニッツも微妙なグイノリでアドリブを演じています。
というか、フレーズはトリスターノ系なのに、ノリがクロンボという新感覚が、今でも古びていません。
作曲者のドン・フェララも味わい深いトランペットを聞かせてくれますが、ラストテーマの前からアルトサックスと絡みながら演奏を進めていくあたりが真骨頂♪
またリズム隊も力強いピーター・インドのベースワークに煮え切らないサル・モスカのピアノというミスマッチが、些か厭味な感じですが、これが当時の最先端だったのかもしれません。
A-2 Stairway To The Stars
ゆったりと演奏される歌物スタンダード曲ですが、アドリブパートで光り輝くのはリー・コニッツのアルトサックス♪ 安らぎ優先モードという感じで、オリジナルのメロディを抜群に上手くふくらませていく至高の名演だと思います。
スタン・ゲッツ(ts) でもアート・ペッパー(as) でもない、まさにコニッツ節が味わえるのですが、ディブ・ブルーベックのようなゴツゴツした伴奏を聞かせるサル・モスカゆえに、ちょいとポール・デスモンド(as) か、なんて……。
A-3 Movin' Around
アップテンポでテンションの高いテーマ演奏は、トリスターノ派の真骨頂かもしれませんが、アドリブはハードバップに近くなっている快演です。特にドン・フェララはクリフォード・ブラウン~ドナルド・バードっぽいフレーズ&ノリですからねぇ♪ これでもうすこしリズム隊が暴れていたら、師匠のレニー・トリスターノは激怒したかもしれません。
リー・コニッツもドライブ感溢れるフレーズ展開に加え、珍しくも迷い道のような音使いまで聞かせてくれますし、リズム隊も熱くなっていくのがミエミエで♪
しかしサル・モスカがなんとかトリスターノ派の矜持を守りますから、反対の事をやってしまうシャドウ・ウィルソンのシンバルワークが最高に輝くのでした。
どんなに頑張っても、時代はやっぱりハードバップだったんですねぇ。
B-1 Kary's Trance
リー・コニッツの代表的なオリジナル曲で、幾何学的なクールスタイルのテーマメロディが、なんとここではハードバップっぽいドライブ感で演奏されますから、たまりません。とにかくリズム隊のグイノリが素晴らしいと思います。
そしてリー・コニッツのアドリブが、これまた凄い! 録音の按配もあるかもしれませんが、まずアルトサックスの音色が、これまでとは違う情熱的な響きで太く鳴っていますし、蠢くのようなところから流麗なフレーズ展開に持っていくという裏ワザっぽいところが、憎めません。
もちろんドン・フェララはハードバップ色に染まっていますし、サル・モスカはセロニアス・モンクのようなアブナイ世界に入りかけています。シャドウ・ウィルソンのシャープで厚いシンバルワーク、太く短いようなピーター・インドの4ビートウォーキングも最高ですし、クライマックスのアルトサックス対トランペットのバトルも♪~♪
B-2 Crazy She Calls Me
これも歌物スタンダード曲を素材にして、リー・コニッツの素晴らしい歌心が堪能出来るワンホーン演奏になっています。まずテーマメロディの吹奏がジンワリと心に染み入りますねぇ♪ もはや私は、ここで完全降伏させられます。
サル・モスカの伴奏も秀逸で、クールどころかウォームな雰囲気を作り上げていきますから、これを聞きたくて、私はB面ばかりに針を落としているのでした。
味わい深い名演だと思います。
B-3 Billes' Bounce
チャーリー・パーカーが1945年に吹き込んだこの曲のオリジナルバージョンこそが、モダンジャズ最初の完成形と言われていますから、リー・コニッツも真剣勝負! またリズム隊の力強さが印象的です。
グルーヴィなテーマ合奏からアドリブに突入するリー・コニッツは頑なに自己を守り通す潔さですが、もちろんチャーリー・パーカーの呪縛から逃れんとして、苦しみもがいています。それがクール派の面目なんでしょうか……。
演奏はドン・フェララからピーター・インドのベースソロに受け渡され、サル・モスカも淡々と自己主張するあたりが、如何にも白人ジャズという感じです。
ところが、続くアンサンブルで、オリジナルバージョンでチャーリー・パーカーとマイルス・デイビスが演じたアドリブを再現するという、笑えないリスペクトがっ!
う~ん、このあたりはシャレになっていないのですが、ニクイですねぇ。ちなみに似たようなことは、レッド・ガーランド(p) がマイルス・デイビスのアルバム「マイルストーンズ(Columbia)」に収録された「Straight No Chaser」のアドリブパートでやっていますので♪
ということで、ジャケットを見ると氷のツララに囲まれたリー・コニッツが何とも言えませんが、これは演奏の熱気で融けたと解釈するのが正しいのでしょうか?
それはそれとして、かなり楽しめるアルバムだと思います。