■Sunshine Of My Soul / Jaki Byard (Prestige)
デューク・エリントンのピアノを聴いていると、この人も聴きたくなります。
ジャッキー・バイアードはチャールズ・ミンガスのバンドレギュラーとしての活動が一番有名でしょう。そこで聞かせてくれたピアノはブルースからフリーまで広範な音楽性を包括したものでしたし、スタイル的には所謂ハーレム風ストライドからブギウギ、シカゴ系ピアノブルース、セロニアス・モンクと同系列の不協和音、セシル・テイラーも顔色無しの無調フレーズ乱れ打ち……、等々!
ですから、聴いていて決して、和めるものではありません。
しかも本人はピアノ以外にもサックスやギター、各種打楽器やトランペット、トロンポーンまでも堂々とやってしまう楽器の天才でしたから、そのリーダー盤もとりとめのない感じが強く、あまり一般ウケはしないものばかりです。
さて、このアルバムは、そうした中でも比較的統一された意図がストレートに表現された感じでしょうか、ピアノトリオの強力盤!
録音は1967年10月31日、メンバーはジャッキー・バイアード(p,g)、デヴィッド・アイゼンソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds,tympani) という物凄い3人組! 1曲を除いてのオリジナルも意欲的で、その奔放な演奏に圧倒されます。
A-1 Sunshine
基本はワルツでモードを使ったアップテンポの曲ですから、導入部はエルビン・ジョーンズのポリリズムドラミングとディヴッド・アイゼンソンの不気味なベースが露払い! そしてちょっと愛らしいテーマメロディを弾いてくれるジャッキー・バイアードという構図が、全くのジャズ王道です。
しかしそれが持続するわけではありません。
ジャッキー・バイアードが率先してフリーな迷い道へと踏み込めば、ディヴッド・アイゼンソンが忽ちそれに追従しますから、エルビン・ジョーンズも穏やかではありません。なんとかキープしている王道のジャズビートがいじらしいほどです。それを嘲笑うが如きジャッキー・バイアードの自意識過剰もせつなくなります。
ただしそういうものが、所謂デタラメ派フリージャズとは一線を隔しているんですねぇ~♪ これは私の感性の問題かもしれませんが、聴いていただければ納得される皆様も多いんじゃないでしょうか? そこがジャッキー・バイアードの魅力の秘密かもしれません。
ちなみにベースのデヴィッド・アイゼンソンはオーネット・コールマンのバンドレギュラーとして大活躍した隠れ名手ですが、決してデタラメ派ではなく、凄いテクニックと音楽性を兼ね備えた実力の証明は、このアルバム全体に重要な働きとなっています。
A-2 Cast Away
いきなり侘しいようなデヴィッド・アイゼンソンのアルコ弾き……。この妖怪人間べムのようなメロディ、そこに絡んでくるギターは、なんとジャッキー・バイアードが弾いているのですが、エルビン・ジョーンズがティンパニーを敲いて作るアクセントも陰鬱です。
そしてジャッキー・バイアードのピアノが、これまたデタラメというか、ほとんど意味不明にしか、私には聞こえません。あぁ、疲れますよ……。
しかしそれでも針を上げられない、妙な魔力があるんですねぇ……。デヴィッド・アイゼンソンのベースに麻薬的なものがあるんでしょうか……。それともエルビン・ジョーンズの意外にも考えぬいた打楽器が……。
A-3 Chandra
一転してビバップ調の4ビート演奏が始まりますが、これって確か、チャーリー・マリアーノと一緒にやっていたような……。あっ、これは原盤裏ジャケットにも、そう記載してありました。
で、ここでの展開はゴキゲンなモダンジャズではありますが、ジャッキー・バイアードのピアノスタイルは既に述べたように、セロニアス・モンクや初期セシル・テイラーのような、些か分断したハーモニーとフレーズを自分流儀に再構築する手法に拘泥しています。
それゆえにエルビン・ジョーンズが十八番のオクトパスドラミングやデヴィッド・アイゼンソンの自意識過剰というベースワークが、尚更に痛快至極!
曲は一応、ブルースですが、全然、それぽっく無いあたりが賛否両論でしょうねぇ。しかし楽しいですよ♪♪~♪ 大団円はデューク・エリントンになるという「お約束」が嬉しくもあります。
B-1 St. Louis Blues
このアルバムでは唯一のスタンダード曲というよりも、あまりにも有名なジャズの古典ですから、汎用スタイルのジャッキー・バイアードには十八番の展開でしょう。ストライド奏法主体にテーマを弾いてくれるあたりの楽しさは格別ですねぇ~♪ まさに温故知新です。
しかしそこに絡んでくるのが、デヴィッド・アイゼンソンの不気味なアルコ弾きとエルビン・ジョーンズのティンパニーで、ともに素晴らしいスパイスながら、やはり一筋縄ではいかない雰囲気となります。
そしてアドリブパートでは淡々とした4ビートが、このアルバムの中では一番に普通とはいえ、それが逆に怖いムードになっていきます。う~ん、逆もまた真なり!?
ジャッキー・バイアードが楽しいフレーズを弾くほどに、アブナイ雰囲気が横溢していくんですねぇ~。何故っ?
B-2 Diane's Melody
これはシンプルにして、とても美しいメロディが印象的な名曲でしょう。
素直にテーマを弾いてくれるジャッキー・バイアードに寄り添うのが、気分はロンリーでありながら、実はエキセントリックなデヴィッド・アイゼンソンのアルコ弾きというも素敵です。
そしてエルビン・ジョーンズのしぶといブラシ、デヴィッド・アイゼンソンの野太い4ビートウォーキングを従えたジャッキー・バイアードが、自在にメロディをフェイクし、せつないほどに辛辣なアドリブを聞かせてくれるんですから、たまりません。
ただしそれは、決してストレートではありません。様々な思惑や嗜好がゴッタ煮です。
まあ、このあたりをどう楽しむかによって、ジャッキー・バイアードという人に対する評価や好き嫌いが分かれてしまうんでしょうが、私は好きです。
最終パートの無伴奏なピアノ、それに絡んでくるベースというところが、特に良いですね♪♪~♪
B-3 Trendsition Zildjian
そして最後は、ドカドカ煩いエルビン・ジョーンズの爆裂ドラミング! 全力疾走でデタラメを演じるジャッキー・バイアード! さらに激ヤバのデヴィッド・アイゼンソン!
そんなトリオがヤケッパチな心情吐露ですから、スカッとしますよっ!
これをフリー・ジャズといってしまえば、全くそのとおりなんですが、ジャッキー・バイアードは無機質に音を羅列しているのではない、と信じたいです……。う~ん、やっぱり無理か……。でも、スカッとするのは事実です。
ということで、サイケおやじはB面を聴くことが多いです。そのアンニュイなスタートから過激な叫びまで、実に危険なムードが自然に流れていく展開にシビレます。まさにジャズ喫茶黄金時代の一場面にはジャストミート!
なんともサイケで黒人ソウルというか、アメリカの缶詰パッケージみたいなジャケットイラストのど真ん中でニンマリというジャッキー・バイアードの意図が、これほどズバリと表現された局地的名盤も無いと思います。
所謂「歌心」なんて、このアルバムには無縁ですから、決して和めるような作品ではありませんが、ジャズのひとつの側面は十分に楽しめるんじゃないでしょうか。