■キープ・ミー・ハンギング・オン / Vanilla Fudge (Atlantic / 日本グラモフォン)
サイケおやじが大好きな蠢くエレキベースと唸るオルガン、とくれば、これを外すわけにはまいりません。
ご存じ、ヘヴィロックの歴史に名を刻むバニラ・ファッジは1967年にデビューしたアメリカのバンドで、メンバーはマーク・スタイン(org,vo)、ヴィンス・マーテル(g,vo)、ティム・ボガード(b,vo)、カーマイン・アピス(ds,vo) という、実にアクの強い4人組です。
その演奏はサイケデリックとR&Bを巧みに融合させた元祖ハードロックといって過言ではないと思いますが、それというのも、デビュー前のメンバーは所謂ハコバンとして活動しながら、実験的なサウンド作りを目論んでいたようです。
そして、そこへ目をつけたのが敏腕プロデューサーのシャドウ・モートンで、この人は1964年から女性ボーカルグループのシャングリラスでヒット曲を連続して作っていたのですが、なんと全盛期に契約レコード会社が活動停止に追い込まれ……。
しかし如何にもミエミエの仕掛けがクサイ芝居ギリギリというプロデュースは、ヒット曲作りの必要十分条件として、今日でも評価が高いと言われています。
さて、そんなシャドウ・モートンがバニラ・ファッジに仕掛けたデビュー曲が、本日ご紹介の「キープ・ミー・ハンギング・オン / You Keep Me Hanging On」という、モータウンサウンドを代表するヒット曲のカバーバージョンでした。
これは当時の音楽業界では、イギリスのビートルズに唯一対抗出来た純粋アメリカ産の大衆音楽のひとつで、もちろん本性は黒人R&Bですが、モータウンサウンドの場合はビートルズ以前の白人ポップス、例えばフィル・スペクターあたりが作っていた白人向けのロックンロール系ポップスの味わいを活かしていたミソがありました。
それを今回は再び白人がパクッて、さらにサイケ味で煮詰めようとする目論見だったと、私は独断と偏見で思い込んでいるのですが、実際、この演奏を初めてラジオで聴いた時のショックは忘れられません。
厳かなオルガンのイントロからバタバタドカドカと煩いドラムス、大袈裟で勿体ぶったボーカルとコーラス、叩きつけるようなキメのリフが魅力絶大! そして重た~い全体のノリが実にド迫力の3分間です。
これは昭和43(1968)年秋の事でしたが、実は曲そのものは前年夏にアメリカでヒットしていたものです。それが我が国で1年遅れの発売となったのは、本国でまたまたチャートを再上昇していたからなんですが、それは別にしても、サイケおやじは既に、この曲と同じ味わいの演奏を知っていました。
それは多分、我が国のGSでは最高の実力を誇っていたゴールデン・カップスの生演奏があったからじゃないか? と今は漠然と記憶しているのですが、当時のGSでスイスイとオリジナル曲を自作自演していたのはスパイダースやブルーコメッツぐらいでしたから、他のバンドは如何に新しくてカッコイイ洋楽のカバー曲を探すかが、ライブステージにおける運命の分かれ道でした。それゆえ、もしもそうだとしたら、ゴールデンカップスがこの演奏に目を付けたのは流石! 尤も、そういう部分がバンド自体の演奏力に比重が大きいのは、言わずもがなでしょう。
閑話休題。
で、サイケおやじをまたまた仰天させたのが、この演奏をレコード屋の店頭で聴いた時のことで、そこにはラジオ放送では分からなかった蠢く地底怪獣の如きエレキベースの大暴れが! もちろん、私はすぐにお買い上げ♪♪~♪
しかもさらに私を驚愕感涙させたのが、B面にカップリングされていた「フォー・ア・リトル・ホワイル / Take Me For A Little White」です。
この曲もR&Bのカバーで、オリジナルは黒人女性ボーカリストのパティ・ラベルが1967年にヒットさせていた、当時ピカビカの流行歌ですが、それを徹底してニューロック化! もちろんそのキモはティム・ボガードのエレキベースを主役にしたインタープレイですが、その荒野を這うが如き大蛇のようなウネリには圧倒されましたから、しばらくはB面ばかり聴いていた時期もあったほどです。
ちなみにティム・ボガードは、このバンドの同僚だったカーマイ・アピス、そしてジェフ・ベックと共謀し、BB&Aを結成して時代をリードするはずが、なんとジェフ・ペックが交通事故でそれが頓挫……。それでも1971年になって、ようやく実現したのも後の祭りというイメージしかありません。しかしこの頃から、その強烈な個性はサイケおやじを熱中させたのです。
ジャケ写では右端のメガネのオッチャンがティム・ボカード、その左の髭男がカーマイン・アピスですが、カーマイン・アピスは後にロッド・スチュアートのバンドレギュラーでも活躍していますよね。2人ともルックスはロック系ではありませんが、それが逆に実力者の証という佇まいが憎めません。
ということで、このシングルバージョンも当然ながらモノラルミックスです。しかし日本盤特有のモゴモゴした音質は好き嫌いがあるかもしれません。
ただ、それが当時のAMラジオの洋楽番組ではジャストミートの「音」だったんですねぇ~♪ ですから現在ではデジタルリマスターされた素晴らしい音質で聴くのも、私にとってはなんとなく雰囲気が違うというか……。
それゆえに本日も、このシングル盤を聴いているのでした。