■Pictures At An Exhibition / Emerson Lake & Palmer (Island)
クラシック音楽のジャズ化があれば、当然ながらロック化もあるのが大衆音楽の理でしょう。
例えば我が国の寺内タケシが演じた名盤「レッツゴー運命」は世界的にもヒットして高い評価を得ていますし、クラシックのメロディから大きなインスピレーションを得ているリッチー・ブラックモアにしても、前述した寺内タケシのアルバムに収録されていた「運命」や「白鳥の湖」を聴いてからギタリストとして目覚めたと語っているほどです。実際、リッチー・ブラックモアがディープパープルとして初来日した時には、寺内タケシのアルバムを買っていた伝説が残されています。
その他にも多くの名演が世界中にあるわけですが、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつとして最も成功した人気盤だと思います。
主役のエマーソン・レイク&パーマーは、元ナイスのキース・エマーソン、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク、そして元アトミック・ルースターのカール・パーマーで結成された説明不要のプログレバンドで、1970年の正式結成以来、素晴らしいアルバムを作り続けたわけですが、同様にライブ演奏も強烈無比! それはメンバー各人の抜群のテクニックと音楽性の証明ではありますが、何よりもプログレでありながら、大衆性も忘れていないサービス精神の表れでもありました。
で、このアルバムはタイトルどおり、ロシアの作曲家、ムソルグスキーのピアノ組曲「展覧会の絵」をモチーフにしたトータルアルバムですが、驚いたことには、全篇がライブ演奏だということです。
事の発端はバンドリハーサルでキース・エマーソンが弾いていた「展開会の絵」をメンバーが覚えて、それがジャムセッションに発展し、ついには独自の解釈を施した組曲として完成させたと言われていますが、それは自分達だけの楽しみだったそうです。しかしある日、実際のステージで演奏したところが大ウケにウケまくり♪♪~♪ 1970年末頃の巡業からは定番演目となったそうです。
しかしバンドには、これを発売する意思がなく、それとは反する形で流出したライブ音源から作られた海賊盤がバカ売れしていた事実を鑑みれば、レコード会社からは猛烈な催促があっての結果が、このアルバムです。
その背景には、もうひとつの事情があり、キース・エマーソンが十八番のクラシック趣味が強く現れる「展覧会の絵」という演目に、他のメンバーが反発していたというわけですが……。実際にレコーディングされ、発売直後からベストセラーになってみれば結果オーライ! エマーソン・レイク&パーマーの人気は決定的なものになりました。
録音は1971年3月26日、イギリスはニューキャッスルのシティホールで行われたライブレコーディングから、メンバーはキース・エマーソン(org,key)、グレッグ・レイク(vo,b,g)、カール・パーマー(ds) が熱演を繰り広げています。
A-1 Promeande / プロムナード
曲の紹介から観客が大熱狂という拍手喝采に続き、あまりにも有名なメロディが原曲の趣を大切にする厳かにして静謐なムードで提示されます。ここで聞かれるキース・エマーソンのオルガンが実に爽やかにして重厚♪♪~♪ 以降、LP片面をブッ続けて展開される組曲の印象を見事に決定づけています。
A-2 The Gnome / こびと
これはムソルグスキーの原曲にカール・パーマーが別なパートを付けた演奏で、ドラムスとベースのキメが痛快という、いきなりテンションの高いアンサンブルは圧巻! そして続くヘヴィでプログレなバンド演奏は、この後の怖い展開を象徴するように、キース・エマーソンのムーグシンセが唸るのですが、クライマックスの嵐の予感が凄いです。
A-3 Promeande / プロムナード
そして一転、またまた静謐なテーマメロディに、今度はグレッグ・レイクが独自の歌詞を付けたボーカルバージョン♪♪~♪ その静かな情熱が滲み出るような歌唱は、キング・クリムゾン時代からの魅力もそのままに、短いながら実に味わい深いものです。
A-4 The Sage / 賢人
さらに続くのが、このグレッグ・レイクが畢生の名曲・名演♪♪~♪
クラシックの影響が色濃いメロディとアコースティックギターの響きが、もう最高です。特に間奏で聞かせるギターソロは、簡潔なクラシックギターの味わいが新鮮で楽しく、またボーカルのせつせつとした感じも高得点でしょう。
これはグレッグ・レイクの、ほとんど一人舞台なんですが、そこがミソ♪♪~♪
A-5 The Old Castle / 古い城
こうして突入するのが前半のハイライト!
キース・エマーソンのエキセントリックなシンセサイザーとドカドカ煩いカール・パーマーのドラムスが、あてどない会話を演じた後、ビシバシのシャッフル系ロックビートで繰り広げられるアドリブパートの痛快さ! ピック弾きでエレキベースを蠢かせるグレッグ・レイクも熱演です。
まあ、こういう部分はジャズ者からすれば、物足りないと思うかもしれませんが、それは後のお楽しみ!
A-6 Blues Variation
前曲から続いて突入するこのパートでは、実にスカッとするブレイクから、キース・エマーソンが得意のハモンドオルガンで、ジミー・スミスのロックジャズ化を見事に演じてくれます。そしてビンビンビンに弾けるグレッグ・レイクのエレキベースからは、後年のジャコ・パストリアスが十八番のキメに使っていたマシンガン単音フレーズが飛び出し、あっけないほどの元ネタばらしが痛快至極!
さらに中盤からの場面転換のパートで演じられるテーマリフが、アッと驚くビル・エバンスの「Interplay」なんですから、もう絶句ですよっ! キース・エマーソンの両手両足をフルに使ったキーボードのロック魔術は、それこそジャズもクラシックのゴッタ煮の見事さです。
B-1 Promeande / プロムナード
B面は再びテーマの提示から、ブッ続けの演奏が続きます。
そしてこれは、そのヘヴィなバージョンですから、これから後のハードな展開は「お約束」というイントロになっています。
B-2 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋
B-3 The Curse Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの呪い
B-4 The Hut Of Baba Yaga / パーバ・ヤーガの小屋
上記の3曲は完全なる一体感として楽しめる名演で、ムソルグスキーのオリジナルメロディを挟んだ中間部の「The Curse Of Baba Yag」はバンドのオリジナルパートですから、プログレハードでロックジャズな展開が存分に楽しめます。
その土台を支え、バンドをガンガンにリードしていくがカール・パーマーのシャープでパワフルなドラミング! 実際、ここでのビシッとタイトな熱演は強烈無比の存在感ですから、キース・エマーソンが各種キーポードを全開させる大嵐も、またグレッグ・レイクのシャウトとエレベの暴れも、全く見事に熱くなっています。
B-5 The End - The Great Gates Of Kief / キエフの大門
こうして迎える大団円が、この感動の名曲! グレッグ・レイクが歌詞をつけたボーカルバージョンではありますが、前曲のクライマックスから突如として歌い出されるメロディの大きな展開は、本当に泣きそうになりますよっ!
キース・エマーソンの重層的なキーボード、カール・パーマーのヤケッパチ寸前のドラミングも、最後の静謐な締め括りには欠かせないという、実にクサイ芝居が憎めません♪♪~♪ もちろん観客からも感極まった拍手喝采なのでした。
B-6 Nutrocker
これは完全なるアンコールの演奏で、曲はムソルグスキーではなく、チャイコフスキーでお馴染みの「くるみ割り人形」というのが嬉しい限り♪♪~♪
実はこの曲もクラシックのロック化には欠かせないメロディとして、古くは1962年に Billy Bumble & The Stingers がヒットさせ、さらにベンチャーズの名演も残されている因縁があるほどですから、エマーソン・レイク&パーマーにしても避けてとおれない大快演♪♪~♪
ノリまくったカール・パーマーのドラムス、自分が楽しんでいるとしか思えないキース・エマーソンの浮かれたキーボード、さらにグレッグ・レイクのエレキベースもジャコ化しています。最後のブル~スなキメも、わかっちゃいるけどやめられない♪♪~♪
ちなみにこのバージョンはアルバムからシングルカットされ、当時のラジオからは流れまくっていましたよ。
ということで、私はこれが好きでたまりません。それほどに楽しくて分かり易く、しかもジャズもロックもクラシックもゴッタ煮の美味しさがあるんですねぇ~♪
初めて聴いたのはリアルタイムの高校生の時でしたが、その頃にはジャズにも浸りこんでいたサイケおやじにしても、全く圧倒されたほどにジャズっぽかったです。
ちなみにキース・エマーソンは、アマチュア時代にデイブ・ブルーベックあたりを好むジャズバンドをやっていたそうですが、プロになってからは1967年頃にクラシックとロックやジャズを融合させたバンドの先駆けとして有名な The Nice を結成し、数枚のアルバムを残しています。そしてなんとキース・エマーソンのピアノやオルガンは独学だっというのですから、なかなか驚きますよ。
そしてキース・エマーソンこそが、ロックでもキーボードが主役になれることを実証した偉大な先人! それまでのヒーローはギタリストでしたからねぇ。
またグレッグ・レイクはご存じ、キング・クリムゾンで「Epitaph」を歌って歴史を作った、この人も偉人ですが、クラシックやジャズ優先主義のキーマ・エマーソンをロックやフォークを含んだ所謂プログレに繋ぎとめたのも、大きな役目でした。
ここにカール・パーマーという強靭なテクニックを誇るドラマーが入ることで、キーボード・トリオという、当時は珍しかったバンド形態で大ブレイクを果たしたのは、1970年代前半の音楽界では、ひとつの奇跡だったかもしれませんが、それを可能したのが、このアルバム「展覧会の絵」の大ヒットだったと思います。
エマーソン・レイク&パーマーは、一応はロックということで敬遠されているジャズファンの皆様にも、これは機会があれば聞いていただきたい名盤と、本日も独断と偏見により断言致します。暴言、ご容赦下さい。