■Tal Farlow Quartet (Blue Note)
ジョン・マクラフリンを聴いていると、この人も聴きたくなるのが必然のタル・ファーロウ!
というのは、決してサイケおやじだけの連想ゲームではないでしょう。実際、ジョン・マクラフリンの高速フレーズの元ネタは、タル・ファーロウの十八番と重なりあう印象が打ち消せません。
そこで取り出したのが本日ご紹介の1枚で、ブルーノート吹き込の10インチ盤という事実はヴァーヴの諸作が有名なことを鑑みれば意外な気もしますが、実はタル・ファーロウは同レーベルに、これ以外にもハワード・マギー(tp) のセッションに参加した録音もありますから、これもアルフレッド・ライオンが流石のプロデュースという名盤になっています。
録音は1954年4月11日、メンバーはタル・ファーロウ(g)、ドン・アーロン(g)、クライド・ロンバルディ(b)、ジョー・モレロ(ds) というカルテットで、これはおそらくタル・ファーロウにとっての初リーダーセッションと思われます。
A-1 Lover
モダンジャズではアップテンポ演奏の定番演目というスタンダード曲ですから、いきなりシャープなブラシでスピード感を極めつけるジョー・モレロの存在が怖いほど! そして2本のギターによる落ち着いたテーマアンサンブルから、タル・ファーロウが猛烈な勢いのアドリブで突進する展開には絶句です。
いゃ~、本当に凄いとしか言えませんねぇ~~♪
超絶技巧というか、実は手が大きかったタル・ファーロウでなければ弾けないと思われる難フレーズの乱れ打ちは痛快至極です。
またジョー・モレロの正確無比にして凄味さえ感じさせるブラシのドラミングも天才の証明ですし、サイドギターで参加のドン・アーロンも要所でのツインリードや装飾フレーズ、さらにコード弾きのサポートも縁の下の力持ちとして侮れません。
モダンジャズの奥の手っぽいエキセントリックな面白さ、そして微妙な隠し味となっているタル・ファーロウのハードボイルドな気質には、きっと圧倒されると思います。
A-2 Flamingo
これも有名スタンダードとして、その和みのメロディが印象的な名曲ですから、タル・ファーロウはミュートとハーモニスクを巧みに使った名人芸のギターワークでテーマを聞かせた後、豪快なフレーズと繊細なフェイクを上手く対比させながら、本当に会心のアドリブを披露しています。
サイドギターとのコンビネーションも素晴らしく、テーマアンサンブルから演奏全体の展開は、後のベンチャーズも8ビートに変換流用したことが、今となっては明らかだと思います。
同曲のジャズバージョンとしては、聴くほどに味わいが深まる大名演じゃないでしょうか。
A-3 Splash
タル・ファーロウのオリジナル曲ですから、テーマメロディとアンサンブルは相当にモダンジャズ本流の過激さがいっぱい! 幾何学的な旋律とクールな味わい、さらに躍動的なノリは、如何にもビバップがハードバップに変わりゆく姿だと思います。
しかしそれを軽やかな雰囲気にしてくれるのがジョー・モレロのスマートなドラミングで、まさに天才的なリズム感は4ビート天国♪♪~♪ それだけ聴いていても快感にシビレますよ。
そしてさらに凄いのがタル・ファーロウのアドリブラインの歌心です。不思議なことに、このセッションではスタンダード曲を演じるとエキセントリックな早弾きという意地悪をやりますが、逆にオリジナル曲になるとテーマメロディよりも歌いまくったアドリブフレーズを連発してくれるんですねぇ♪♪~♪ これは完全に意図的なものだと思いますし、それがこの演奏には特に顕著です。
もちろんツインギターによるアンサンブルも流石に楽しめるのでした。
B-1 Rock 'N' Rye
これもタル・ファーロウのオリジナルモダンジャズの決定版!
2本のギターが流石のテーマアンサンブルからナチュラルにアドリブへと移行していくあたりは、本当にジャズを聴く快感だと思います。
そしてタル・ファーロウのギターは早弾きとメロディフェイクの絶妙なる融合を披露して秀逸! 悪魔の音楽としてのジャズ、その魅力のひとつであるグルーヴィなムードが横溢し、しかしバックのリズム隊はクールな感性という対比の妙も素敵です。
ミディアム・テンポをスカッとスイングさせるジョー・モレロのブラシ、そして後半でのツインギターの絡みも最高ですし、最後の最後で効果的なエコー処理が、これまたニクイところでしょうねぇ。
B-2 All Through The Night
あまりにも有名なコール・ポーターの素敵なメロディが、タル・ファーロウの絶妙なフェイクとギターの魔術によって素晴らしく演じされています。とにかく流れるように進むバンドのスイング感が、まず絶品! もちろんそれはジョー・モレロの完璧なブラシがあればこそですし、何の淀みもごまかしも無いタル・ファーロウのギターも歌いまくって止まりません♪♪~♪
あぁ、こんなにギターが弾けたら、本当に楽しいでしょうねぇ~♪
もちろん演じている本人は必死の集中力なんでしょうが、それよりも余裕というか、極めて自然体のアドリブは神業としか言えません。
B-3 Tina
オーラスもまた、タル・ファーロウのオリジナルですが、このグルーヴィでクールな感性は東西ジャズスタイルの見事な融合かもしれません。明解なベースのウォーキングからツインギターのアンサンブル、そして4ビートから瞬時にラテンリズムを敲き分けるジョー・モレロの名人芸を経て、いよいよタル・ファーロウのアドリブは冴えわたりです。
う~ん、この演奏でも、シンプルにしてコピーが極めて難しいフレーズばっかり弾いてくれますねぇ。しかも絶妙の歌心がさらに素敵です。
ということで、全6曲に駄演無し!
ヴァン・ゲルダーの録音も素晴らしく、特にジョー・モレロの最高演奏をしっかり確認出来るのは嬉しいプレゼントです。
またサイドギターのドン・アーロンは、ほとんど無名の存在ながら、上手くタル・ファーロウに合わせるジャズセンスは一流だと思いますし、地味ながらバンドをしっかりとスイングさせているベースのクライド・ロンバルディもなかなかの実力者です。
そういうカルテットにあって、アドリブパートの美味しいところを全く独り占めしたようなタル・ファーロウではありますが、それもここまで凄かったら素直に脱帽するしかありません。
ジョン・マクラフリンは、きっとこれを聴いていたに違いない!
これは邪推ではないと、私は思うのですが……。