■男好き / 牧麗子 (東芝)
気儘に自分の名前を変えられるのが、芸能人の特権!
所謂「芸名」ってやつですが、時としてそれが混乱や誤解を招いたりすることも、度々あるのは皆様もご存じでしょう。
例えば本日の主役たる牧麗子は、昭和40年代前半に東宝に所属していた女優の宮内恵子なんですが、残念ながら当時は主演作品は作られず、あくまでも彩り的な出演ばかりだったのが現実でした。
しかしサイケおやじの記憶には、例えば「ウルトラセブン(TBS)」の第27話「サイボーグ作戦」とか、和製カウボーイ物のテレビドラマ「太陽野郎」等々で、かなり印象に残る演技を披露していました。
ただし後に知ったところでは、本人はミュージカル志望だったことから、レコードデビューの話もすんなりと進んでいたんじゃないでしょうか。ちなみに当時は女優が歌うというのは当たり前でしたし、むしろ歌えない女優さんは……。
そして昭和44(1969)年、東芝と契約するにあたって「牧麗子」と改名し、数曲の音源を残していますが、結果的に売れませんでした。
で、本日ご紹介は、その3枚目のシングル盤A面曲なんですが、これが如何にも当時の「東芝サウンド」がモロに出た逸品♪♪~♪
発売されたのは昭和45(1970)年8月ということで、同社に所属して大ヒットを連発していた奥村チヨや小川知子の路線を狙った楽曲は、作詞:増永直子、作曲:平尾昌晃、そして編曲が川口真という、これだけでサイケおやじの納得してシビレる気分がご理解いただけでしょうか。
それはイントロこそソプラノサックス(?)で奏でられるものの、寄り添うエレキベースが実は全篇をリードしていく演奏パートが、本当に快いんですねぇ~♪ 軽めのドラムスと意図的に演歌っぽいストリングスも良い感じ♪♪~♪
ただし前述した「東芝サウンド」とは、あくまでもサイケおやじの造語ではありますが、低音重視のサウンド作りとエレキベースのリードが特徴的だったところが、ここでは幾分ライトタッチに修正され、それがまた弾みが効いた抜群のスパイスになっていると思います。
ですから牧麗子の昭和歌謡曲がど真ん中のコブシ回しも軽い雰囲気になっていますし、それが新鮮味に繋がっているようです。
しかし既に述べたように、この「男好き」は全く売れず……。
ところが今になって聴けば、これは平尾唱晃が真価を発揮した小柳ルミ子への一連の楽曲提供の先駆けなんですねぇ~~!?! 失礼ながら、これを小川知子や小柳ルミ子が歌っていたら……、という気持を隠しきれないわけですが、だからといって牧麗子が歌手として劣っていたというわけではありません。
実は彼女が吹き込んだ他の楽曲は、かなりのポップス路線でしたし、つまりは合っていなかったと解釈するべきでしょう。
それでも現実は厳しく、結局は東宝を離れてフリーとなり、ここでまたまた「牧れい」と改名し、以降はご存じのとおり、テレビドラマを中心に、しなやかな肢体を存分に活かしたシャープなアクションと美形そのもののルックスで忘れ難い女優さんになるのです。
ちなみに芸名の「牧れい」は、「まぁ~、綺麗」と皆に思われたいという素直な願望が憎めません。
そしてテレビ特撮の「スーパーロボットレッドバロン(日本テレビ)」ではSSI隊員の松原真理として、眩いほどのパンツ見せを毎回披露♪♪~♪ 少年達を性の目覚めに導きましたし、「ザ・スーパーガール(東京12ch)」ではアクション全開ながら、ユニセックス的なお色気も滲ませる名演で、ファンを歓喜悶絶させました。
さらに当然ながら、その活躍は他のアクション物、時代劇、青春スポコン作品等々、1970年代中頃から1980年代末頃まで、夥しいテレビドラマへの出演で、日本中を熱狂させたのです。
また当然の流れとして、男性週刊誌等々でクールなヌードを披露したこともありましたですね♪♪~♪
ということで、歌手としては結局大成は出来なかった彼女も、女優さんとしては昭和の芸能史を彩ったひとりになりました。
ただし、その芸名の変遷から、後追いで彼女を探求していくファンにとって、なかなか迷い道な部分が残されたのも確かです。
なにしろ同時期の日活ロマンポルノには「牧れい子」という、ちょいとマニアックな人気があった女優さんが活躍しており、「女買占め売り惜しみ(昭和48年・白井伸明監督)」という隠れ名作に主演しているんですねぇ~♪ そして他にも数本の助演作があり、なんと昭和50(1975)年頃からは歌手としてシングル盤も発売していたという、まさに混同されても仕方が無い道を歩んでいるんですが、もちろん「牧れい子」も、クールな美貌が人気の秘密でした。
そしてさらにもうひとり!
日活ロマンポルノには「牧れいか」という、これまた飛びっきりの美貌と思いっきりの良い演技で人気のあった女優さんがいるんですよ。もっともこの人はそれ以前に独立系の成人映画にも出演していたんですが、やはりメジャー(?)な人気を集めたのは、日活ロマンポルノに登場して以降でしょう。
特に「悶絶!どんでん返し(昭和52年・神代辰巳監督)」では、最高に可愛らしい彼女が下卑た下ネタ芸を仕込まれるという、あってはならない演出を完璧にこなしていますし、谷ナオミ主演のSM物「檻の中の妖精(昭和52年・小原裕宏監督)」では、エグイ股縄で責められる名演を披露しています。
ということで、偶然の一致ではありましょうが、簡単に名前を変えられるという特権が、時には混乱を招くという好例が、ここにあります。
最後になりましたが、牧麗子の歌唱力は流石に女優という演技力があればこそ!
こういう歌手が今では絶滅してしまったのが、本当に寂しいですね。