■Turkus / Emerson, Lake & Palmer (Island)
1970年代前半、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルよりも高い人気があったバンドが、キース・エマーソン(key)、グレッグ・レイク(vo.b.g)、そしてカール・パーマー(ds,per) から成るエマーソン・レイク&パーマー=ELPでした。
と、書いてしまえば、必ずや憤る皆様もいらっしゃるでしょうし、お叱りも覚悟しています。
しかし当時はプログレに分類され、特に大衆向けのシングルヒットも無かったEL&Pが、現実的には野球場を満杯にするコンサートをやったり、またレコードが絶好調の売れ行きを示し、新譜が待望される状況は、今に至るも「伝説」という言葉だけでは説明のつかない魔力が確かにあります。
さて、本日ご紹介のアルバムは、1971年に出たセカンド作で、そうしたEL&Pの勢いを決定的にした傑作盤!
ちなみにジャケットに描かれた機械獣が「タルカス」という主人公(?)らしいのですが、私も含めた我国のリアルタイムのファンは、テレビSF特撮の最高峰「ウルトラセブン(TBS)」の第28話「700キロを突っ走れ!」に登場した恐竜戦車を完全に想起させられるでしょう。
一説によれば、「Turkus」という単語そのものがキース・エマーソンの閃きだったと言われていますし、アルバムをプロデュースしたグレッグ・レイクは、火山から生まれたタルカスが世界を破滅させるという発想と企画に対して、呆れ顔だったとか!?
まあ、そのあたりの因果関係は知る由もありませんが、件のウルトラセブンが1967~1968年に放送されていた事をサイケおやじは忘れていません。
それゆえに尚更、このアルバムには妙な愛着もありますし、洋楽雑誌で最初にジャケットを見た瞬間から、これは凄いに違いない! という盲信がありましたですね。
A-1 Tarlus
a) Eruption / 噴火 (inst.)
b) Stones Of Years
c) Iconoclast (inst.)
d) Mass / ミサ聖祭
e) Manticore (inst.)
f) Battlefield / 戦場
g) Aquatarkus (inst.)
B-1 Jeremy Bender
B-2 Bitshes Crystal
B-3 The Only Way
B-4 Infinite Space / 限りなき宇宙の果て
B-5 A Time And A Place
B-6 Are You Ready Eddy ?
上記の収録演目では、何んと言ってもA面全部を使ったアルバムタイトル曲が気になるはずです。なにしろ当時はプログレ全盛期でもあり、またサイケデリックから引き続くロック史の中では、長い演奏をする事が、ひとつのステイタスでもありました。
しかし、それにしても組曲形式で演じられた「Tarlus」の仕上がりは、圧倒的という言葉以外にありません!
それは思わせぶりな導入部を経て盛り上がっていくという、如何にもプログレ的なスタートから変拍子ビシバシのリズム的興奮の中で壮絶に暴れるキース・エマーソンのキーボード! 強靭なビートで対抗するグレッグ・レイクのエレキベース! そして終始パワーに満ち溢れたカール・パーマーの熱血ドラミング!
特に初っ端から異常に高いテンションで演じられるアグレッシヴな「噴火」が興奮を呼び覚まし、次に勿体ぶったグレッグ・レイクのボーカルとキース・エマーソンのグイノリオルガンが絶妙のコントラストを描く「Stones Of Years」という冒頭の流れで、それは早くも決定的なんですが、カール・パーマーが暴れまくるインストの「Iconoclast」も火傷しそうに熱いです♪♪~♪
もちろん、その中にはキース・エマーソンが十八番のクラシック趣味も心地良く滲み出るものの、そのあたりに批判的だったグレッグ・レイクが、おそらくは起死回生の「ミサ聖祭」で提出するメタリックな感触は、明らかにキング・クリムゾン直系の進化形でしょう。ヘヴィなリズムアレンジやハイテンションな緊張感が実にたまらんですよ♪♪~♪
ご存じのようにキース・エマーソンはELP以前にザ・ナイスというクラシックとロックやジャズの融合を図ったバンドをやっていたんですが、結局は煮詰まっての解散からELPの結成へという流れからは、ハードロック的なアプローチが可能なカール・パーマーや激情と冷静のバランス感覚を併せ持ったグレッグ・レイクの存在が必須だったと思われます。
そのあたりが上手く融合した成果が、この「ミサ聖祭」のパートじゃないでしょうか。
ですから続く「Manticore」の短くも強烈なロックジャズ演奏が以降のELPでは、ひとつの「お約束」として使い回されるキメになったのもムペなるかな、再びヘヴィロックの味わいが強い「戦場」では、シンセかギターが判別も難しいアドリブソロが飛び出したり、なによりもグレッグ・レイクの回りくどい歌いっぷりがジャストミートしています。
そして締め括りの「Aquatarkus」には、これまた後の「お約束」がテンコ盛り♪♪~♪
いゃ~、こういうジャズ+クラシック÷ロックというザ・ナイス的なアプローチを、この時になってまで捨てていないキース・エマーソンは、やっぱり憎めない人だと思いますよ、実際。
また手数が多く、それでいて基本のビートを大切したカール・パーマーのドラミンクからは、随所にジャズっぽいアプローチも当然の如く表出し、またキース・エマーソンのスタイルは、ありえない事ではありますが、もしもビル・エバンスがオルガンロックを演じたら? という空想天国に対するひとつの答えかもしれません。
以上、重厚にして熱気溢れるA面に対し、B面はその場限りの享楽も快い小品集という趣もありますが、もちろん各トラックの充実ぶりは流石の上昇期が楽しめますよ。
それはまず「Jeremy Bender」のおちゃらけたムード、一転してヘヴィメタルな「Bitshes Crystal」、さらにジャズっぽい「限りなき宇宙の果て」におけるキース・エマーソンの生ピアノ中心主義が、なかなか新鮮です。
一方、これまたファンが期待するクラシックのロックアレンジでは、パッパを堂々と借用した「The Only Way」が心地良く、しかもグレッグ・レイクのボーカルがエピタフ調なんですから、これはまさにプログレの黄金律でしょう♪♪~♪
そして「A Time And A Place」は、これがEL&Pの本領とも言うべき、殴り込みタイプのキーボードロック! どっしり重いビートで全てを薙倒して進む展開が痛快です。
おまけにオーラスの「Are You Ready Eddy ?」は、なんとジェリー・リー・ルイスも真っ青というローリングピアノのR&R♪♪~♪
いゃ~、まさか、こんな事までやらかしてしまうとは、全く意表を突かれてしまうんですが、キース・エマーソンのピアノは一瞬ですがフリージャズっぽいお遊びも、実は楽しさを倍加させていますし、こういうパロディ精神も当時はマジに受け取られていたように思います。
そして、そうした勢いが次なる超人気アルバム「展覧会の絵」に結実し、ついにEL&Pは黄金期を迎えるのです。
ということで、これは如何にも1970年代ロックの名盤ではありますが、今となっては多少の思い入れが無ければ聴けない部分も確かにあるでしょう。
全トラックの作編曲はグループ自らの手によるものですし、作詞はグレッグ・レイクが綴ったという事実があれば、その内輪ウケが些か鬱陶しくもあります。
ですから、当時をご存じない新しいファンが、このアルバムをどのように楽しまれるのかは、ちょいとサイケおやじには想像も出来ません。
しかしELPが1979年末の解散から度々の再編や再結成をやって、常に注目を集めるのは、単なる「集金」以外の魅力をメンバー自身が感じているからじゃないでしょうか?
残念ながら、今年の再編来日は直前で中止となりましたが、サイケおやじは密かにチケットを手配していたという告白を最後にしておきます。