OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

仏の顔も三度目のシカゴ

2010-09-09 16:51:02 | Rock

Chicago Ⅲ (Columbia)

1960年代も後半になると、ロックもLPで聴くという事象が当たり前になり、それは当然、シングル盤よりも値段が高いところから、経済力の無い少年少女には精神衛生上の高い壁となりました。

中でもブラスロックの輝ける新星として登場したシカゴは、デビューアルバムから3作目までが2枚組でしたし、次に出たのが集大成的なライプ盤とはいえ、驚愕の4枚組箱仕様盤とあっては、まさにこの世には神も仏も無い!? と思わざるをえず……。

このあたりは本国アメリカでは、例え2枚組LPであっても、その価格は1枚物とそんなに変わらないという事情があったにしろ、我国での発売元だったCBSソニーは、しっかり倍の値段で売っていましたからねぇ。

しかも何れの内容も、当時の最新流行だったブラスロックの秀作とあれば、リアルタイムでサイケおやじと同世代の洋楽ファンがシカゴのアルバムを私有する事は、一種の憧れと羨望だったのです。

さて、そんな状況の中、本日のご紹介は1971年に出た3作目のアルバムで、今日ではシカゴが攻撃的な歌詞と演奏によって築き上げたラジカルな姿勢を変化させた過渡期の作品という位置付けにされているようですが、とにかくリアルタイムではカッコ良くて、さらに流行性感度が高いという必殺人気盤でした。

ちなみに当時のシカゴは、ロバート・ラム(p,key,vo)、テリー・キャス(g,vo)、ピーター・セテラ(b,vo)、ダニー・セラフィン(ds)、リー・ロックネイン(tp)、ジェームズ・パンコウ(tb)、ウォルター・バラゼイダー(sax,fl) というデビュー時からの不動の7人とあって、そのコンビネーションは鉄壁!

A-1 Sing A Mean Tune Kid / 僕等の歌を
A-2 Loneliness Is Just A Word / 孤独なんて唯のことば
A-3 What Else Can I Say / 朝の光
A-4 I Don't Want Your Money / 欲しいのは君だけ
 スタジオでのチューニング状況から、いきなりスタートするのが、シカゴ流儀のニューソウルとも言うべき「僕等の歌を」の豪快なファンキーロック! まず、このド頭だけでサイケおやじは体中の血液が沸騰逆流させられたんですが、実際、ワウワウしまくったテリー・キャスのギター、不穏な空気を暴動にまで発展させかねないホーンアンサンブル、どっしり重いビートを持続させるリズム隊の踏ん張りは、明らかに新しい境地へと踏み込んでいるようです。
 いゃ~、特にテリー・キャスのギターソロは、何時聴いても白熱って感じですよっ! というか多重録音も使ったところは、ある意味での暑苦しさも否定出来ませんが、それが逆に最高っ! 終盤にかけてジャズっぽくなるリズム隊の蠢きも、熱いです。
 そして続く「孤独なんて唯のことば」が、これまた変拍子を使ったロックジャズの決定版♪♪~♪ テンションの高いホーンのリフやオルガンのアドリブソロ、さらには曲調やコーラスの感じさえも、丸っきり日活ニューアクションのサントラ音源の趣ですから、サイケおやじのシビレも止まりません。素っ気無いラストの終り方も味の世界でしょうねぇ~♪
 ですから、ポール・マッカートニーがウエストコーストロックしたようなメロディ展開が、ちょいとした邂逅を聞かせる「朝の光」には気恥ずかしもあるんですが、そういう臆面の無さがシカゴの魅力かもしれませんし、再びヘヴィロックの世界へ戻った「欲しいのは君だけ」が、なんとジミヘンっぽくなっているのは、いやはやなんとも……。
 しかし、本音を言えば、大暴れするテリー・キャスのギターも含めて、これがなかなか最高なんですねぇ~♪ おそらくジミヘンが存命ならば、きっとホーンセクションを大胆に入れたファンクロックをやっていたと思えば、サイケおやじは今でも納得し、素直に楽しんでいるのですが……。

~ Travel Suite ~
B-1 Flight 602 / フライト・ナンバー 602
B-2 Motorboat To Mars / 火星へのモーターボート
B-3 Free / 自由になりたい
B-4 Free Country / 自由の祖国
B-5 At The Sunrise / 僕等の夜明け
B-6 Happy 'Cause I'm Going Home
 さてB面は「Travel Suite」とサブタイトルが付けられているように、完全な組曲形式で歌と演奏が進行していきますが、まずは冒頭の「フライト・ナンバー 602」がアコースティック&スティールギターを堂々と使い、綺麗なコーラスワークを主体としたカントリータッチの穏やかな曲で、これは明らかに当時が人気絶頂だったCSN&Yを強く意識したものでしょう。
 実際、このトラックは当時の洋楽マスコミでも話題沸騰の1曲でした。
 しかし続く「火星へのモーターボート」が、純粋なジャズに基づくダニー・セラフィンのドラムソロだけの演奏であり、間髪を入れずに繋がる「自由になりたい」はシングルカットされて大ヒットしたという実績どおりに痛快なブラスロックですから、例えなんであろうとも、この流れがあれば、ブラスロックの王者たるシカゴを聴いている喜びに変わりはありません。
 そして、またまた驚かされるのが、現代音楽風の響きを持った「自由の祖国」で、ピアノとフルートの静謐なメロディフェイクと空間の構築は、シカゴがジャズにも拘る矜持というところでしょうか? ただし、完成度が高い分だけ、ちょいと無理している感じがしないでもありません。
 ですから、これまたポール・マッカトニー風の「僕等の夜明け」が出てくると、些かホットする気分は否めず、こういうポップな切り札を持っているところが、シカゴの強みなんでしょうねぇ~♪
 それはボサロックというか、シカゴが後に取り入れるラテンフュージョンの先駆け的な「Happy 'Cause I'm Going Home」にも同様で、スキャット&ハミングのコーラスが実に親しみ易いのですから、フルートやギターのアドリブも楽しい変化に飛んだ演奏が、本当に明るさ優先で締め括られています。

C-1 Mother / 母なる大地
C-2 Lowdown
~ An Hour In The Shower ~
C-3 A Hard Risin' Morning Without Breakfast / 朝食抜きのつらい朝
C-4 Off To Work / 仕事に出よう
C-5 Fallin' Out / 堕落
C-6 Dreamin' Home
C-7 Mornig Blues Again / 再び朝のブルースを

 このC面も後半に組曲が入っていますが、やはり冒頭からのキャッチーなロック曲2連発が効き目満点でしょう。
 特に「Lowdown」は世界的にも大ヒットし、なんと我国では日本語バージョンまでもが発売されたという騒動が、シカゴの人気を決定的にした事象の表れでした。
 また「母なる大地」での中盤で聴かれるロックジャズな演奏パートでは、ジェームズ・パンコウのトロンボーン奏者としての実力が堪能出来ますよ。
 そして気になる組曲「An Hour In The Shower」は、まさにシカゴ版「A Day In The Life」でしょうから、アイディアそのものに新鮮味は無いんですが、歌詞にも顕著なように、こういう小市民の生活や心情を歌うという部分は、以前の不条理や攻撃的な姿勢を強調していた頃に比べ、新しい表現方法のひとつだったと思われます。そして実際、アコースティックギターをメインに歌い出される「朝食抜きのつらい朝」は、当時流行のシンガーソングライターの世界を強く意識していたのでしょう。
 ただし、そこは流石にブラスロックのシカゴということで、ついには大胆にブラスとロックビートを使い、激しくドライヴする演奏へ突入する「仕事に出よう」は、やはり良いです♪♪~♪ さらに続く「堕落」や「Dreamin' Home」では素敵なコーラスワークも適宜用いつつ、締め括りの「再び朝のブルースを」まで、一気呵成です。

~ Elegy ~
D-1 When All The Laughter Dies In Sorrow
D-2 Canon / 聖典
D-3 Once Upon A Time... / むかし、むかし
D-4 Progress? / 遍歴
D-5 The Approaching Storm / 近づく嵐
D-6 Man vs. Man: The End / 終局
 そして最終のD面が、またまた「Elegy」と名付けられた組曲になっていて、冒頭の「When All The Laughter Dies In Sorrow」は詩の朗読ですし、厳かというよりは勿体ぶった「聖典」、エリック・サティ調の「むかし、むかし」や「遍歴」あたりのインスト曲を聴いていると、なにか同じブラスロックではトップを争っていたBS&Tを意識しているの? なぁ~んて、不遜な事を思ってしまうんですが、まあ、いいか……。
 というのも、次なる「近づく嵐」から「終局」ではファンキーロックが真っ盛りという、実に熱い演奏が披露されるんですよっ! 全てはこの瞬間を演出するための周到な準備だったとしても、完全に許されるでしょうねぇ~♪ 特にブラックロックなリズムギターのカッコ良さは絶品で、サイケおやじも必至でコピーした前科は隠し通せるものではありません。メンバー各人のアドリブ合戦も、手抜き無しの潔さですし、如何にもシカゴらしいホーンリフが琴線に触れまくり♪♪~♪
 というか、正直に言えば、些かもっさりした全体のグループが、真っ当なモダンジャズとは異なる味わいですし、もちろんジェームズ・ブラウンのバンドが演じるようなテンションの高さも無いんですが、そこがシカゴの真骨頂でしょう。
 つまり、これはあくまでもロックの範疇で楽しめる演奏なんじゃないでしょうか? それゆえの親しみ易さは言うまでもありません。

ということで、冒頭にも述べたように、サイケおやじは決してリアルタイムで、このアルバムを聴けたわけではありません。僅かにシングルカットされていた「自由になりたい」や「Lowdown」、あるいは国営FMで抜粋放送されたエアチェックのテープを、しばらくの間は楽しんでいたのですが、それだけでも、この2枚組LPの密度の濃さが実感されましたですねぇ~♪

そしてついに発売から2年数か月後、中古の輸入盤ではありますが、堂々と手に入れて聴く憧れの名盤は、やっぱり素晴らしい出来栄えと実感した次第です。

既に述べたように、今となっては過渡期の云々とされる事は、絶対に無いと思いますねぇ。むしろ初期の作品ほど、何かしらの思い入れが無いと聴くのが辛いこともある中で、これは意外にも素直に接することが出来るように思います。

ただし、これをリアルタイムで聴けたらなぁ……、という思いは拭いようもありません。

まあ、それゆえにすっかり中年者となった自分にも、楽しむ心のゆとりがあるのかもしれませんねぇ。

未だ聴かれていない皆様には、強くオススメのアルバムです。

コメント (4)
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