■真夜中のオアシス / Maria Muldaur (Reprise / ワーナーパイオニア)
芸術には所謂ヘタウマという評価手段があって、もしもそれが洋楽に適用されるとすれば、本日掲載のシングル盤A面曲「真夜中のオアシス / Midnight At The Oasis」を歌ったマリア・マルダーは、そういうボーカリストでしょう。
だって正直、彼女が聞かせてくれるのは不確かに音程と発声、時には裏返っている歌声で、これまたフワフワしたメロディラインを後追いしているような……!?!?
ところが全体的なサウンド作りが、これまた微熱な気分とでも申しましょうか、間奏のギターソロの地に足がつかない感じも含めて、夢見心地と言うには異議有り!
――という始末です。
しかし、それが妙に人懐っこい事も、また確かなんですねぇ~~♪
結論から言えば、それは流行っていた1973年頃から我国でも使われ始めたグッドタイムスミュージックとかルーツミュージックというジャンルに属する、ジャズでもロックでもフォークでもブルースでも無い、極めてモダンな雑穀種であり、歌っているマリア・マルダーは「オールド・タイム・レディ」と称されたほど、そのものスバリの存在だったのです。
つまり1970年代という、既にロックが一大勢力になっていた時期に、あえて懐古趣味的なモダンサウンド(?)をやる事によってアピールするという、逆説的な立場を狙っていたのがマリア・マルダーというわけでしょうか。
とにかくここに完成された「真夜中のオアシス / Midnight At The Oasis」は、今やその聖典のひとつである事は間違いありません。
また、そういう感性が天の邪鬼なサイケおやじにはジャストミートしていました。
なにしろ初めて聴いたのはFENからのリアルタイムの放送だったんですが、その脱力したフィーリングには、ある事情から個人的に硬直していたサイケおやじの気分がすうぅぅぅ~っと解きほぐされましたですねぇ~♪
う~ん、こんな歌と演奏をやっているは誰っ!?
それがなかなか分からずに、ちょいとフラストレーションに陥ったほどです。
さて、そこでマリア・マルダーなんですが、掲載したシングル盤のジャケ写からすると、ほとんどポリネシア系の人みたいですが、実はニューヨークの出身で、1960年代から本場グリニッチ・ヴィレッジでフォーク&フォークロックを歌ったいたデビュー期から、イーヴン・ダズン・ジャグ・バンドやジム・クウェスキン・ジャグ・バンド等々の名門(?)ルーツミュージックグループに在籍していたそうです。
そして同じような道を歩んでいたジェフ・マルダーと結婚した1968年頃からは、ジェフ&マリア・マルダーという夫婦デュオとなり、マニア好みのレコードを数枚作って後、ソロ歌手となって最初の大ヒットが「真夜中のオアシス / Midnight At The Oasis」でした。
しかし1973年当時、こんなサウンドをあえて作り出してしまったのは、それだけロックを含むアメリカの大衆音楽が煮詰まっていた証なんでしょうか?
ちなみにバックを務めたミュージャンは十八番の「ふにゃふにゃ」を演じたエイモス・ギャレット(g)、ジム・ゴードン(ds)、マーク・ジョーダン(key) 等々のクセモノが揃っていますし、ニック・デカロが編曲を担当すれば、レニー・ワロンカーのプロデュースは言わずもがな、まさに古き良き時代の香りがしても当然と納得されるのです。
ただし、そんな結論に至っているのは、やはり同じ時代に共通のメンツが交流して作られていたライ・クーダーやポール・バターフィールド、そしてエイモス・ギャレットが中心メンバーだったハングリー・チャック等々の諸作品を聴き漁った後の事ですから、そのサークルを系統的に俯瞰鑑賞する必要性も痛感させられています。
ということで、例え何であろうとも、マリア・マルダーの歌う「真夜中のオアシス / Midnight At The Oasis」が不思議な気持良さを提供してくれる事実は不変、あるいは普遍です。
いよいよ近づく春先や初夏、センチメンタルな秋~晩秋にあれば、尚更に染みいる歌と演奏だと思っているのでした。
そして当然ながら、彼女が出しているアルバム群の魅力も、追々ご紹介する所存ではありますが、本当に素敵なんですよ♪♪~♪
好き嫌いは十人十色でしょうが、どうかお楽しみ下さいませ。