■同期の桜 / 鶴田浩二 (日本ビクター)
鶴田浩二は説明不要、我が国の映画演劇界において最高の男優スタアであり、また歌手としても多くのレコーディングを残し、ヒット曲も多数放っている中にあって、本日掲載のシングル盤A面曲は、ちょっぴり異色の名作でありましょう。
それは特にA面曲「同期の桜」が良く知られた軍歌としての歌唱ではなく、大村能章が書いたメロディはそのままながら、そこにある歌詞は西條八十の綴ったものではなく、鶴田浩二が新たに作った鎮魂歌であり、具体的には鶴田浩二が日記形式で書いた「詩」を、あのメロディのバックに朗読するという企画作品なんですが、皆様ご存じのとおり、鶴田浩二は太平洋戦争中は整備兵として特攻出撃の飛行機に関わり、国家国民の為に自らの命を捧げた搭乗員を数知れず見送ったという筆舌に尽くし難い経験があるのですから、このレコーディングでの気持ちの入り方も半端であろうはずがありません。
その無念の気持は、日本人ならば誰しもが抱いているはずの感情であり、少なくとも昭和30年代までに生まれた者ならば、自然に共感し、落涙させられるものと思うばかり……。
そして現代に生きる我々は老若男女を問わず、この痛切な反戦歌を心に刻むべきと、サイケおやじは願っているのです。
実は告白すれば、サイケおやじはこれが世に出た昭和46(1971)年頃、その音源そのものを聴いた事がなく、後年になって制作の裏話として、契約の関係等々で西條八十の作詞がレコーディング出来ないという状況から鶴田浩二が自ら企画し、新しい作品としての「同期の桜」を吹き込んだというエピソードを知って以降、初めて耳にしたこの音源には流石に衝撃を与えられ、こりゃ~~、どうしても欲しいと願ってから幾年月……。
ようやく中古のデッドストックで入手したのは昭和50年代に入っての事でしたが、それからというもの、鶴田浩二が出演している戦記映画を鑑賞する度に、その感激感慨は深くなるばかりでした。
その映画作品については、多くの名作&傑作がどっさりあって、特にひとつとは決して申せませんが、所謂インディーズ系の「雲ながるる果てに(昭和28年・新世紀映画)」は必見作のひとつですし、東映での諸作何れについても同様であります。
現在では、鶴田浩二は任侠映画が最高の活躍の場だったという認識も強いわけですが、やはり実体験に根差した演技から滲み出るリアルな感情表現を披露する戦記映画を決して忘れてはならないと思います。
皆様ご存じのとおり、一時は所謂特攻崩れをウリにしているとかの批判に晒された鶴田浩二ではありますが、実は本人からはそのような言動は一切無かったというのが本当のところで、それもこれも戦記映画における鶴田浩二の役者魂が自然体で伝わっていた事の裏返しでありました。
そして、そんなこんなを思いつつ聴く、この「同期の桜」は、本当に凄い、真の反戦歌と痛感する次第ですし、ど~にも危なくなっている我が国周辺の緊張状態を鑑みれば、今こそ必要な歌=詩と思っているのでした。