■The Bud Shank Quartet (Pacific Jazz)
バド・シャンクはウエストコースト系モダンジャズの白人アルトサックス奏者で、1950年代からの大スタアですが、ちょうど同じ頃、しかも同じ地域で活躍していたアート・ペッパーという天才プレイヤーが存在していた所為でしょうか、正直、やはり人気も実力もイマイチ及ばないのは否めないと思います。
しかし私はバド・シャンクも同等に大好きで、特に西海岸ジャズの本領とも言うべきバンドアンサンブルから飛び出す短いアドリブソロやブレイクでの閃きのあるお洒落系フレーズ、歌伴セッションにおける上手いフェイクでの絡み、そしてアルトサックスの他に得意だったフルートでの演奏も魅力がいっはい♪♪~♪
ですから当然ながら作られていたリーダー盤にも素晴らしい作品がどっさりあって、中でも本日ご紹介のアルバムは如何にも二枚目の流し目イラストがクールで高得点! まず、これが中身のクールで熱い演奏をズバリと表しているのですから、たまりません。
(p)、ドン・プレル(b)、チャック・フローレンス(ds) という、所謂ワンホーンのカルテットです。
A-1 Bag Of Blues
ブルースという題名とは裏腹に爽やかで浮遊感に満ちたグルーヴが、如何にも西海岸派の面目躍如でしょうか。しかもテーマが終わって飛び出すバド・シャンクの最初のアドリブフレーズが、もう黄金の瞬間です♪♪~♪
あぁ、これが私の好きなバド・シャンクの真骨頂で、この歌心とノリの良いリズム感はアート・ペッパーに勝るとも劣らないものと確信するほどです。もちろん続くアドリブパートもフワフワと空中バレエを演じるが如き軽妙さと全てが「歌」というフレーズがいっぱいですし、溌剌としたリズム隊のコンビネーションも最高! 仄かな翳りとツッコミ鋭いフレーズの対比も超一流の証だと思います。
またリズム隊のハッスルぶりも好ましく、パド・パウエルの白人的解釈からハンプトン・ホーズっぽいハードドライヴな表現までも演じてしまうクロード・ウィリアムソン、エネルギッシュなドン・プレルのペースワーク、そして味な「ケレン」も叩くチャック・フローレンスが憎めませんねっ♪♪~♪
A-2 Nature Boy
お馴染みのスタンダードメロディを思わせぶりにフルートで演じるバド・シャンク、それに寄り添いながらミステリアスな雰囲気を醸し出すドン・プレルのペースという最初のパートから、それを絶妙に膨らませていくカルテットの妙技が流石の名演です。
もちろんバド・シャンクのフルートは原曲メロディをフェイクしつつも、相当に思い切った表現も聞かせてくれますし、一瞬ですが、エリック・ドルフィー!? と思わせられる場面さえあるのです。
そしてクロード・ウィリアムソンが味わい深い伴奏から、幻想的な雰囲気を貫きとおすアドリブパートまで、絶妙のサポートが、これまた光っているのでした。
A-3 All This And Heaven Too
あまり有名ではないスタンダード曲ですが、個人的には、これが大好きなメロディと演奏で、スローバラードにおけるバド・シャンクの素晴らしさが完全に満喫出来ると思います。
それは素直な心情吐露と思わせぶりなメロディフェイクの妙技であり、そのバランスの良さは極めて秀逸♪♪~♪ このあたりは決してアート・ペッパーに劣るものではありませんし、それとは別の、まさにバド・シャンクだけの境地じゃないでしょうか。
そして私は、この曲と演奏ゆえに、A面ばかりを聴いていた時期が確かにありました。
鋭いツッコミと唯一無二の浮遊感は、何時、如何なるところで聴いても、最高だと思います。如何にも白人らしいアルトサックスのソフトな音色も魅力ですよ♪♪~♪
A-4 Jubilation
一転してノッケから流麗なアドリブフレーズで演奏に入っていくバド・シャンク! このスピード感とシャープなフィーリングが、アップテンポのバンドアンサンブルとアドリブハードの充実に繋がるのですから、たまりません♪♪~♪
リズム隊のテンションも高く、ドラマーのチャック・フローレンスは十八番のバスドラを使いまくりますが、このあたりは局地的にイモ扱いもあったりして賛否両論が昔っからありましたですねぇ。う~ん、どうなんでしょうか……? 個人的にもちょいと判断が難しい気分です。しかしこれはVSOP期のトニー・ウィリアムスにも云えたことですし、ねぇ……。
閑話休題。
それにしてもバド・シャンクのスピードに乗ったアドリブは爽快ですよっ♪♪~♪ チャーリー・パーカーのフレーズを白人的に解釈したようでもあり、とすれば、クロード・ウィリアムソンが直線的なパド・パウエルを演じたあげく、ハンプトン・ホースっぽい黒っぽさに転じるのも、また納得です。
それとドン・ブレルのペースのアドリブも、なかなかに高得点!
LP片面を締め括るには絶好の名演だと思います。
B-1 Do Nothin' Till You Hear From Me
ご存じ、デューク・エリントン楽団のヒットメロディですから、如何にも白人らしい軽妙な演奏となっても、そのジャズの本質は隠しようもありませんし、それを百も承知のバド・シャンクも見事なアルトサックスを聞かせてくれます。随所にハッとするアドリブフレーズの閃きと歌心が、大いに魅力なんですねぇ♪♪~♪
しかし、それゆえに手慣れた雰囲気も強く、そのあたりがアルバムを通して聴いた時にマンネリと感じるか否かは、十人十色かもしれません。
個人的にはファンキーなクロード・ウィリアムソンが流石だと思います。
B-2 Nocturne For Flute
そのピアニストが書いた秀作オリジナルで、もちろんタイトルどおりにバド・シャンクのフルートを想定したバラード曲♪♪~♪ ゆったりしたテンポで幻想的なムードが全篇を支配していますが、バド・シャンク本人の力強いジャズ魂は不変であり、同時にジェントルなメロディ優先主義は決して崩れません。
短い演奏ですが、アルバムの流れの中では強い印象を残しています。
B-3 Walkin'
さて、これがアルバムB面のハイライト! 場合によってはバド・シャンクが生涯の名演とされることもあるほどです。もちろん曲はマイルス・デイビスのハードバップ宣言となった歴史的なモダンジャズのブルースなんですが、ここでのバド・シャンクとバンドの演奏も、実に強烈です。
まずドン・プレルのペースが強靭にして、最高にしなやか! リズム隊をリードしつつ、完全にバンドのグループを掌握している感じです。
そしてバド・シャンクのアルトサックスは、これまた緩急自在に鋭いフレーズを積み重ね、あくまでも自分なりのハードバップを追求していくのですが、これは当時としても相当にアグレッシブだったと思いますねぇ~~。スリル満点に浮遊しながら、粘っこい黒人ブルースの雰囲気も並立し、さらにグリグリに突っ込んでいくモダンジャズ最先端のフィーリングが、なかなかに進歩的じゃないでしょうか。
またクロード・ウィリアムソンにしても、自分の主張を大切にしつつ、自然にそうしたムードに感化されたようなファンキーさを強く打ち出していく展開が、ズバリ、良いです!
まあ、正直言えば、ここはハンプトン・ホーズに弾いてもらいたかったというのが本音ではありますが、それは言わないのが美しい「しきたり」ってやつでしょうねぇ。その部分をカバーしてあまりあるのがドン・プレルのペースワークでもありますし、終盤のソロチェンジの緊張感とか全体のハードなグルーヴの盛り上がりは、白人ジャズが最も黒人ジャズっぽくというよりも、時代の先端に行ってしまった瞬間かもしれません。
白人ジャズは和み優先とばかりは、決して言えないのが、この演奏の姿なのでしょうか?
B-4 Carioca
そしてオーラスは、これもバド・シャンクが十八番としていたラテン風味のモダンジャズ演奏で、曲は早いテンポでエキゾチックなメロディが冴えていますから、バンドの楽しさ優先主義がジャストミート!
チャック・フローレンスのドラミングも痛快ですし、なによりもバド・シャンクのスピード違反疑惑まであるアルトサックスが痛快至極♪♪~♪ 部分的にアート・ペッパーに近くなっている感じ微笑ましく、しかし渾身のアドリブが憎めません。
するとクロード・ウィリアムソンが思いっきりスイングしまくって、これまた凄いと思うのですが、これはリズム隊が一丸の勝利でしょうねぇ。ドン・プレルのペースもノリノリですよ。
ということで、ここでのバド・シャンクはアドリブひとつに命をかけたというのは大袈裟かもしれませんが、何時ものセッションよりは自分が中心の世界を見事に築きあげてくれました。それゆえにファンとしても絶対の1枚なんですが、それをやればやるほどに、アート・ペッパーと比較され、あとは……。
このあたりは本当に痛いパラドックスですよねぇ。
ちなみにバド・シャンクには同時期に、もうひとつの「The Bud Shank Quartet」というアルバムがあって、そちらは幾分ソフトなフィーリングと歌心が尚更に優先された仕上がりだと思うんですが、どちらが好きかは、これも十人十色でしょう。
正解は両方とも、好き!
こう言い切るのがジャズ者の本分なんでしょうけどね♪♪~♪
ジャズ喫茶的には、こちらが本命かもしれません。