OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

サイボーグのウェザー・リポート

2010-04-12 17:07:24 | Rock Jazz

I Sing The Body Electric / Weather Report (Columbia)

ウェザー・リポートの諸作の中で、おそらくは一番に聴かれていないのが1972年に発表された、この公式セカンドアルバムじゃないでしょうか? 特に我国ではジャズ喫茶から率先して嫌われ続けていたように思います。

 A-1 Unknown Soldier (1971年11月録音)
 A-2 The Moors (1971年11月録音)
 A-3 Crystal (1972年1月録音)
 A-4 Second Sunday In August (1972年1月録音)
 B-1 Medley (1972年1月13日録音)
      1) Vertical Invader
      2) T.H.
      3) Doctor Honoris Causa
 B-2 Surucucu
(1972年1月13日録音)
 B-3 Directions (1972年1月13日録音)

上記の収録演目はA面にスタジオでの新録音、B面にはライプ音源という構成が本国アメリカでは目新しかったかもしれませんが、そのB面が来日公演からだった所為で、なんと同じソースを使った2枚組「ライブ・イン・トーキョー(ソニー)」が日本独自発売になっていたのです。

さらに何ともSFしているジャケットは、当時のイノセントなジャズファンにとっては特に忌み嫌う要素になっていました。

もちろんサイケおやじもリアルタイムのジャズ喫茶で聴いたことは、ほとんど無い!? という記憶でしたから、ウェイン・ショーターへの義理を果たすべく買ったのも、輸入盤が安くなった1974年のことでした。

そして聴いて吃驚!

そこには多彩なゲストを起用したスタジオ録音にレギュラーグループだけのB面という、まさにアナログ盤LPならではの両面性が見事に構築されていたのです。

まずA面冒頭からの2曲、「Unknown Soldier」と「The Moors」には前述したとおり、多くの助っ人ミュージシャンが集められ、中にはラルフ・タウナー(g) やヒューバート・ロウズ(fl) といった有名人から数名のコーラスシンガーやストリングスセクションまでも動員した、相当に練り込んだ演奏が作られています。

ちなみに当時のウェザー・リポートはウェイン・ショーター(ss,ts)、ジョー・ザビヌル(key)、ミロスラフ・ビトウス(b) の3人が所謂「Shoviza Productions Inc.」として制作全般の責任を負い、他に一応のレギュラー扱いだったのがエリック・グラバット(ds) とドン・ウン・ロマン(per) だったようです。

で、とにかく「Unknown Soldier」は4ビートのスタートですから、ジャズ者にも親しみがあって当然なんでしょうが、テーマらしき部分ではコーラスが入っていますし、どこがアドリブなのかわからないような展開では……。しかしその流れの中で炸裂するエリック・グラバットのドラミングや自由闊達に暴れるミロスラフ・ビトウスのペースは痛快ですし、多重録音で空間を自在に飛翔して出現するウェイン・ショーターのソプラノ&テナーのアグレッシプなソロプレイには、後年の全盛期には感じられない突飛さがあるのです。

さらに作曲したジョー・ザビヌルの趣味だと思われますが、様々な効果音やキメのコードワークも、なかなかに味わい深いですねぇ。

ただしそれは、当時のモダンジャズでは許容範囲を超えていたと思います。

ですから続く「The Moors」にしても、いきなりラルフ・タウナーのアコースティック・ギターが弾き出される展開に、ついていけないものを感じてしまうのでしょう。実際、始まりから曲全体の半ばまではギターソロなんですよ!?! そしてようやく作者のウェイン・ショーターがソプラノサックスで斬り込んで来たかと思えば、演奏は短いクライマックスで終息してしまうのです……。

そしてミロスラフ・ビトウスが書いた「Crystal」が、これまた問題というか、如何にも優しいメロディのようで、かなり抽象的なテーマと全体演奏が曲者です。極言すれば「アイランド」期のキング・クリムゾンのようでもあり、ソフトマシーンの類似系でもあるような、しかしそれでいて、これはウェザー・リポートでしかありえないのは、ウェイン・ショーターが多重録したサックスの真っ当なジャズっぽさがあるからでしょうか……。

そんな不可解なミステリは「Second Sunday In August」にも継承されていて、演奏をリードしていくウェイン・ショーターの足を引っ張るが如き他のメンバーの意地悪さが、実はひとつの終焉に向かっていくのですから、侮れません。

あぁ、疲れるなぁ~~。

でも、どこか心地良いんですよねぇ~~♪

という気分でレコードをひっくり返したB面は、いゃ~、本当にスカッとしますよっ!

基本は1972年の来日公演から渋谷公会堂でのライプ音源なんですが、巧みな編集によって前述した日本独自発売の2枚組アルバムよりも、ある意味では楽しめます。

まずはエリック・グラバットのドカドカ煩いドラムスが全力疾走し、千変万化のロックジャズが展開される「Medley」の中には、電気アタッチメントを使ったミロスラフ・ビトウスのアルコ弾きのアドリブが、なんとマイルス・デイビスがウリにしていた電気ワウワウのトランペットと同じ味わいになっています。

またリングモジュレーターやエレピを駆使するジョー・ザビヌルが、本当にファンキーロックがど真ん中の熱演ですから、ウェイン・ショーターが尚更に奇怪なフレーズを連発するという展開は、完全に当時の主流派ジャズから逸脱していたと思います。

ただし意地悪い観点としては、結局はマイルス・デイビス抜きのマイルスバンドであり、そこに至ったマイルス・デイビスが如何にジョー・ザビヌルやウェイン・ショーターといった、かつての子分達からアイディアを貰っていたかが実証されているのかもしれません。

まあ、どっちが先だったかは鶏と卵だと思いますから、とにかく聴いてシビレる演奏さえやってくれればOK!!

怖い異次元ミステリのような「Surucucu」から4ビートの快感へ導かれる「Directions」と続く流れも、最高に計算されつくした王道なんでしょうねぇ~♪ 私は好きです♪♪~♪

ということで、告白すれば最初はB面ばっかり聴いていました。もう前述の「ライブ・イン・トウキョー」よりも好きなほどです。おそらくジャズ喫茶で鳴ったとしても、違和感は無いと信じているのですが、現実は厳しく……。

ご存じのようにウェザー・リポートは、その存在感とは裏腹に初期の作品群はウケが悪く、どうにか一般的な人気を得たのは、ミロスラフ・ビトウスが脱退してからだったと思います。

その意味で、このアルバムなんか、もうミロスラフ・ビトウスのベースワークが無ければ成り立たないほどの怖さがあって、それはフリージャズにギリギリ近づいた暴虐や意想外のロックっほさの同居じゃないでしょうか?

もちろん、その居心地の悪さが、アルバム全体の人気の無さに直結しているように思います。

そして今こそ、聴かなければ勿体無い!

これを大声で訴えることが出来るのでした。

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