OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

BBAは無骨な男の子守唄

2010-09-02 16:24:24 | Rock

Jeff Beck, Tim Bogert, Carmime Appice (Epic)

新譜を出す度に賛否両論が渦巻くジェフ・ペックの作品群の中にあって、一番に誤解と中傷、さらに狂熱をもって迎えられたのが、本日ご紹介のアルバムじゃないでしょうか?

なにしろ集まったのがティム・ボガード(b) にカーマイン・アピス(ds) という、アメリカでは最もヘヴィでハードなロックを演じながら、商業的にも成功していたヴァニラ・ファッジ~カクタスをやっていた重量級のコンビでしたし、一方のジェフ・ペックは英国三大ギタリストのひとりとして、やはりハード&ブルースロックの王道を歩んできた人気者でしたから、全洋楽ファンにとっては、もしかしたらクリームの再来を期待する気持が大きかったと思います。

しかもジェフ・ペックはソウル&ファンキーロックの新路線で、それなりの成功を収めていた第二期ジェフ・ペック・グループを、またティム・ボガードとカーマイン・アピスはハードロックのB級グルメ的なバンドとして人気も高いカクタスを、それぞれがあえて解散させてまで集結したのですから、もう、期待するなというほうが無理というもんです。

こうして1973年、ついに発売されたのがベック・ボガード&アピス=BBAと称されるトリオによる、待望のスタジオレコーディングアルバムでした。

 A-1 Black Cat Moan' / 黒猫の叫び
 A-2 Lady
 A-3 Oh Th Love You
 A-4 Superstition / 迷信
 B-1 Sweet Sweet Surrender
 B-2 Why Should I Care
 B-3 Lose Myself With You / 君に首ったけ
 B-4 Livin' Alone
 B-5 I'm So Proud

結論から言えば王道ハードロックと驚異的なテクニックによるフュージョン、さらにはニューソウルの白人ロック的な展開がゴッタ煮となった、些か纏まりの良くない仕上がりかもしれません。

しかしジェフ・ペック(g)、ティム・ボガード(b,vo)、カーマイン・アピス(ds,vo) という凄腕メンバーがそれまで積み上げてきたキャリアの総決算が、ここに結実しているのも、また事実だと思います。

例えばA面ド頭の「黒猫の叫び」は、ずっしりと重心の低いヘヴィなロックビートが特徴的で、全篇を貫く如何にものリフを基調に、メロディよりもドスの効いたバンド全体のノリで押しまくるあたりが、ハードロック中毒者にはたまらないところでしょう。スライドやフィンガリングの魔法を駆使するジェフ・ペックのギターも流石だと思います。

しかし同時に、これでロッド・スチュアートが歌っていたら……、なぁ~んていう欲求が不満に繋がるのも確かです。

まあ、そのあたりはBBAにしても自覚があったのでしょう。

次なる「Lady」は強靭なテクニックと異常なテンションの高さが爆発融合した傑作演奏で、特にドライヴしまったティム・ボガードのペース、極端な後ノリが最高というカーマイン・アピスのタイトなドラミングが大暴れですから、ジェフ・ペックも油断が出来ません。気になるボーカルパートもティム・ボガードとカーマイン・アピスが以前にやっていたヴァニラ・ファッジ直系のハーモニーワークで補っているあたりは、潔いと思います。

それはアップテンポでブッ飛ばすヤードバーズ調の「Livin' Alone」、あるいはパワーポップな「Why Should I Care」というストレートなカッコ良さにも顕著なんですが、正直に言えば、この2曲に関しては物凄いテクニックと纏まりの良さは素晴らしいと思いますが、こんな事をやるから、中途半端という誹りが免れなかったんじゃないでしょうか? もちろん他のバンドだったら、逆立ちしても、この境地にまでは到達出来ないんでしょうが、あえてこのトリオでやる意義があったのか……。

ですからスティーヴィー・ワンダーが既にヒットさせていた「迷信」のファンキーハードな解釈にしても、後追いというイメージがリアルタイムであったのも事実です。

しかし、ここで存在感を発揮したのが、ティム・ボガードとカーマイン・アピスのヴァニラ・ファッジ組! ご存じのとおり、ヴァニラ・ファッジは「You Keep Me Hangin' On」や「Shotgun」といったR&Bの有名曲を、自分達の流儀でサイケデリックロックへと変換させる手法でヒットを飛ばしていた、如何にも白人ロックのヘヴィな主流派でしたから、後は任せろっ!

実はジェフ・ペックがこの2人とバンド結成を決意したのは、前述の「Shotgun」をレコードで聴き、実際にヴァニラ・ファッジのライプに接してからという、それが1969年秋頃だったと言われていますが、なんと直後にジェフ・ペックが交通事故で重体……。

必然的に企画は延期となり、ティム・ボガードとカーマイン・アピスはヴァニラ・ファッジの解散から新バンドのカクタスを結成する運びとなり、またジェフ・ペックも再起を果たして第二期ジェフ・ペック・グループをスタートさせたのが、運命のいたずらでした。

つまり、せっかくBBAとして始めたことが、最初っから業界や評論家の先生方から、既に時代遅れという烙印を押されていたのです。

しかし、リアルタイムでそんな裏事情を知らなかったサイケおやじは、死ぬほど好きなメンツが集ったBBAには、ノー文句で飛びつきました♪♪~♪

そしてスティーヴィー・ワンダーのオリジナルバージョンとは一味違う「迷信」の、実にキマッた演奏にシビレまくりましたですねぇ~♪ なにしろドカドカ煩いカーマイン・アピスのドラムスと縦横無尽に暴れまくるティム・ボガードのペースは、それでいてビートとリズムが絶対的に決まっていますし、それゆえに好き放題というジェフ・ペックのギターがアブナイ世界をモロ出しにする大奮闘! 特に後半のアドリブソロは激ヤバですよっ! また気になるボーカルパートもエキセントリックな味わいをレコーディング技術によって醸し出すという裏ワザによって、なかなか結果オーライじゃないでしょうか。

ニューソウルとハードロックの幸せな結婚という感じだと思います。

そうした要素は、セルフパロディ的な「君に首ったけ」でも存分に楽しめますよ。

ちなみに、この曲はメンバーの共作なんですが、ご存じとおり、前述の「迷信」は最初、スティーヴィー・ワンダーがジェフ・ペックに提供しながら、掟破りともいうべき所業によって先に自らのシングルを発売するという因縁があり、その成果、否か、この「君に首ったけ」はスティーヴィー・ワンダーが後に発表する「悪夢 / You Haven't Done Nothin」にクリソツと思うのは私だけ!? いや、これは別にスティーヴィー・ワンダーが悪いのではなく、偶然の一致とするのが常識でしょうねぇ。

閑話休題。

で、こうしたニューソウル指向は、このアルバム全篇において絶妙の隠し味であるばかりではなく、「Sweet Sweet Surrender」や「I'm So Proud」では堂々とそれをロックで演じた決定版! 間違い無く、このアルバムのハイライトだとサイケおやじは思っていますが、実はこのあたりも当時は非難の対象だったんですよっ!?!

というのも、このLPはアメリカのチェススタジオで録音されたと言われているわりには、サウンド作りが引っ込み思案というか、所謂「よそいき」なんですねぇ……。しかも大音量でレコードを鳴らすという風習がほとんど無い我国では、それがハードロックのアルバムとしては致命的な欠陥と受け取られ、また強力なボーカリストを擁していないバンドが、こんなコーラスワーク主体で甘々のソウル曲を演じてしまうところが、ど~しても許されることでは無かったのが、その頃の日本洋楽事情だったと思います。

それでもこのセッションの一部をプロデュースしたドン・ニックスの書いた「Sweet Sweet Surrender」は、アメリカ南部系のソウルフィーリングが滲み出た刹那のバラード♪♪~♪ イントロから繊細なジェフ・ペックのアコースティックギターとエレキによるワウワウの彩りが実に印象的ですし、どっしり構えたリズム隊の存在が、泣きの曲メロをシミジミと歌うボーカル&コーラスを力強く盛り立てる展開は、サイケおやじがこの頃から今日まで、一番に求めていたものでしたし、実際、学生時代に入れてもらっていたバンドでは強硬に自分の意見を押し通し、下手は下手なりに演目としていたほどです。

もちろんジェフ・ペックのギターソロも、強靭な響きとフレーズの泣きがジャストミートしていますよ♪♪~♪

そうした魅力は、やはりニューソウルを白人ロックバンドがやってしまったという「I'm So Proud」でも全開! カーティス・メイフィールドの代表曲にして、イノセントなラブソングの極みつきが、このメンツで演じられるという奇蹟が、たまりません。

それはドタバタしたドラムスと無骨なペース、自意識過剰のギターと思い入れが空回りしたようなボーカル&コーラスというミスマッチが生み出した、一期一会の傑作トラック! なによりも野暮天男の純情が自然と滲み出た胸キュンメロディの解釈には、素直に感情移入してしまうサイケおやじです。もちろんこのバージョンも学生時代のバンドでやってましたが、結果は足元にもおよばず……。

しかし発売当時は、この2曲が好きだなんて言うと、軟弱と決めつけられた風潮が確かにありましたし、ファンキーでもニューソウルでも、ハードロックでも、その何れも集中的にやりきれていないアルバム全体の仕上がりに失望感があったことは確かです。

ところがそんな風評を覆したのが、同年5月のBBA初来日公演!

そこから作られた日本独自発売のライプ盤が、あまりにも凄い名演揃いという真実により、このスタジオ録音盤が尚更に賛否両論となるのですが、それは今日までも継続しているんじゃないでしょうか?

ということで、実はそのライプ盤こそが、BBAの真相に一番近づけるものでしょう。ただし、それだって、このスタジオ録音盤があってこその楽しみというか、逆戻りしてハッとさせられる瞬間を多々含んでいるのが、案外と聴き飽きない秘密かもしれません。

ちなみに、裏ジャケットに写るBBAのライプショットでは、ジェフ・ペックがストラトを弾いていますが、このスタジオセッションではレスポールをメインに使っていたと思うのですが、いかがなものでしょう。

もし、そうだとすれば、全篇から漂うブリティッシュロックのムードも理解出来ますし、来日公演では実際にレスポールを弾いていたのですから、BBAは米国産ソウルミュージックと生粋の英国ロックがガチンコをやった記録としても楽しめるんじゃないでしょうか。

ある意味、ハードロックファンに捧げる子守唄?

何時までも往年の夢ばっかりは見ていられない?

これを聴いて、そっとおやすみ♪♪~♪

結果的にBBAは前述のライプ盤を残した後に自然消滅しています。一説によれば、セカンドアルバム様用のレコーディングも完成させていたようですが、それは幻に……。

だからこそ、このアルバムは今でも賛否両論なのでしょうね。

最後になりましたが、個人的にはアメリカプレスのアナログ盤をMMの太めの針で、しかも大音量で鳴らす聴き方が好きです。そうするとジェフ・ベックのギターが如何にドライヴしまくっているか、堪能出来るでしょう。またティム・ボガードのペースがド派手に蠢き、カーマイン・アピスの強烈な後ノリビートが存分に楽しめると思います。

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4 コメント

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Unknown (TK)
2010-09-02 19:10:15
俺が昔買ったこのアルバムは4チャンネルでしたよ。


このアルバムの前後、全体的なキャリア見てもBBAだけ色合いが違うんですよね~


俺は第二期JBGが好きです
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この時期のベック (サイケおやじ)
2010-09-03 16:28:44
☆TK様
コメント、感謝です。

4チャンネル盤、ありましたですねぇ~。
肝心のハードが無かったんで、私は買いませんでしたが、友人の家で聴かせてもらいましたよ。
確証は無いんですが、ギターソロやミックスが異なっていたと思います。
最近はDVDオーディオで、往年の4チャンネルミックスを復刻する動きもあるようですね。

>BBAだけ色合いが違うんですよね

同感です。
なんか、所謂ガテン系だと思うんですよ。
肉体のぶつかり合いが感じられます。

第二期については、既のフュージョンの予行演習というか、リアルタイムでは分からなかった部分も、今は大好きです♪
返信する
BBA (アンディP)
2010-09-04 10:59:32
来日し、ライブ盤を残してくれたBBAは、我々日本人にとっては想いで深いバンドの一つですね。
しかしあの音源、録音状態がよく批判されますが、演奏自体もはこじんまりとまとまっているだけで、決してベストとは思えません。
非正規音源で聞けるバンドの演奏は、あんなもんじゃありません。ジェフのギターも(調子のいい時は)遥か高みに達しています。クリームが退屈に思えるほどですよ。
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正規盤とプート (サイケおやじ)
2010-09-04 16:27:08
☆アンディP様
コメント、ありがとうございます。

仰るとおりだと思います。
あのライブ盤は歓声のミックスが小さいし、ライン録りの弊害というか、ベースが左、ギターが右という律義さが、今となっては物足りませんねぇ……。

ブートの世界のペックは、それこそ別格の凄みと肩すかしの空回りが確かにあって、個人的にはヤン・ハマーやスタンリー・クラークと共演していた時期に面白さを感じていますが、今度はBBAのプートも探求しようと思います。

オススメ音源があれば、教えてください。
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