OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

タル・ファーロゥの不滅の楽しみ

2008-10-01 12:04:10 | Jazz

The Tal Farlow Album (Norgran)

タル・ファーロウはジャズギタリストとして屈指の存在ですが、なんと全盛期に引退してしまったので、大ファンの私は残されたレコーディングを鑑賞というよりも謹聴しています。

しかしそれらは決して難しいものではなく、ダイナミックなドライヴ感と繊細にして豪胆な歌心、ひとつひとつのフレーズに宿るギタリスト魂、そして何よりもジャズを聴く喜びがいっぱい♪

さて、このアルバムは1954年のセッションから作られたSPや EP、さらに10インチ盤を基にしていますが、それを12インチ盤に拡大して発売するにあたり、翌年の別セッションを追加収録した名盤です。

ただしそういう事情ですから、その12インチ盤LPは1954年の演奏を収めたマスターが傷んでいた所為でしょうか、オリジナル盤にしても何故か音質に歪みが感じられました。もちろん日本盤も出ており、私は当然、それを聴いていましたが、失礼ながらメリハリの無い音質に満足出来なかったのは言わずもがな……。

そこで数年前に紙ジャケット仕様として復刻されたCDを入手して聴いたわけですが、正直、音質は限界までリマスターしてあるとはいえ、マスターの傷みは如何ともし難く……。

ただし音の輪郭がはっきりしたそのリマスターは秀逸で、ダイナミックな演奏がより身近に楽しめるのは嬉しいことです――

1954年6月2日、ニューヨークにて録音
 A-1 If There's Someone Lovelier Than You
 A-2 With The Wind And The Rain In Your Hair
 A-3 My Old Flame
 A-4 Gibson Boy
 A-5 You And The Night And The Music / 貴方と夜と音楽と
 A-6 Love Nest
 B-1 Blues In The Closet
 B-2 Everything I've Got
 メンバーはタル・ファーロゥ(g)、バリー・ガルブレイス(g)、オスカー・ペティフォード(b)、ジョー・モレロ(ds) という素晴らしいカルテット! 何よりも2本のギターのコンビネーションが興味深々ですし、ジョー・モレロの天才的なドラミングも楽しめて、さらにオスカー・ペティフォードの名人ペースワークも堪能出来るという、贅沢なセッションになっています。
 まず2人のギタリストは、もちろん主役のタル・ファーロゥがアドリブソロもリードも全てやっていますが、バリー・ガルブレイスもサイドギタリストとして非常に上手いサポートを聞かせています。このあたりはフュージョン期のジョージ・ベンソンとフィル・アップチャーチの関係にも似ていますが、ここでは特に「Gibson Boy」でのツインリードからタル・ファーロゥのスピード感に満ちたブレイクとアドリブソロ、それをサポートするバリー・ガルブレイスの伴奏が素晴らしすぎて感動します♪
 またスローテンポの「My Old Flame」では、最初からギターだけの2人芝居、そしてベースが入っての絡みで進行するメロディフェイクが絶品! 途中で仕掛けられるキメも最高です。しかし、それだけに途中で聞こえる「ピー」という雑音が悔しいところ……。
 気になる人気曲「貴方と夜と音楽と」は、なんとも意地悪なアレンジでテーマメロディの胸キュンな雰囲気が消されていますが、オスカー・ペティフォードが流石のペースワーク、軽々と難しいフレーズを弾いてしまうタル・ファーロゥの「神の手」に唖然とさせられますよ。
 そのあたりはスピード感満点に素晴らしい歌心を披露する「If There's Someone Lovelier Than You」や一気呵成に弾きまくる「Love Nest」と「Everything I've Got」が圧巻! バリー・ガルブレイスのリズムギターも楽しく、またジョー・モレロも本領発揮のシャープなビート感を聞かせてくれます。
 また軽妙なブルースフィーリングが如何にもジャズっぽい「Blues In The Closet」、お洒落なアレンジとアンサンブルが冴えた「With The Wind And The Rain In Your Hair」も一期一会の名演かと思います。ただしそれゆえに後者のマスターテープに残る音の歪みがCDでも除去されないどころか、逆に鮮明になってしまったのは残念至極……。

1955年4月25日、ロス・アンジェルスにて録音
 B-3 Lullaby Of The Leaves / 木の葉の子守唄
 B-4 Stompin' At The Sovoy
 B-5 This Is Always
 B-6 Tea For Two / 二人でお茶を
 こちらは前セッションから約1年後の録音で、メンバーはタル・ファーロゥ(g)、クロード・ウィリアムソン(p)、レッド・ミッチェル(b) という素晴らしいトリオによる名演が楽しめます。
 そしてここでは、まず何といって「木の葉の子守唄」が素晴らしすぎ! ダークなイントロのアレンジから愁いが滲むテーマの解釈は昭和歌謡曲のような趣もあり、ベンチャーズのエレキバージョンと双璧の胸キュン度が最高です。もちろんアドリブパートも完璧なギターテクを駆使して歌心とメロディフェイクの真髄を聞かせてくれるんですねぇ~~♪ あぁ、何度聴いてもシビレます。途中で乱れそうになるバンドアンサンブルには、逆に安心するほどです。
 また高速4ビートで演じられる「Stompin' At The Sovoy」や「二人でお茶を」は颯爽として鮮やかなモードが潔く、流麗なフレーズの連続はタル・ファーロゥのように手が大きい人じゃないと不可能でしょうね。う~ん、まさに「神の手」です!
 そして穏やかな「This Is Always」でのシンミリ感は高得点ですから、このセッションが僅か4曲しか入っていないのは残念としか言えません。

ということで、隅から隅まで名演ばっかりが収められた傑作アルバムだと思いますが、もうひとつ、マニアに人気が高いのはジャケットデザインを David Stone Martin が担当していることでしょう。

その味わいは前述した紙ジャケット仕様のCDでも楽しめますが、やっぱりLPサイズの大きなジャケットが欲しくなるのは必至! 個人的には日本盤アルバムジャケットは壁に、音はCDで聴くという現代的な王道を楽しんでいるのでした。

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