■レッツ・ゴー・ブガルー / 寺内タケシとバニーズ (キングレコード)
未だにサイケおやじが意味不明と思っている音楽用語のひとつに「Bogaloo / ブーガルー」があります。
なんか、どうやらアメリカで1960年代後半に流行ったダンスのリズムを指す言葉らしいんですが、「Bogaloo / ブーガルー」が付いた楽曲をレコードで聴いてみても、ある時はソウルジャズ、あるいはラテン風味のジャズロック、はたまた当時最先端のニューロックをヘタウマに解釈したような演奏が多く、中にはこれで本当に踊れるのかっ!?
なぁ~んて、不遜な事を思わざるを得ないものさえあるんですからねぇ……。
しかし「Bogaloo / ブーガルー」が付けられたレコードがヒットしていたのは紛れもない事実であって、特にモダンジャズ~ソウルジャズで大活躍していたルー・ドナルドソン(as) が1967年に出した「Alligator Bogaloo」は、多種多様なカバーバージョンが各国で作られたほどの有名曲!
我国でもGSのホワイトキックスやパニングス・フォー等々が積極的にレコーディングしていた事は、皆様もご存じのとおりです。
と言う事は、少なくともその頃、「Bogaloo / ブーガルー」というリズムか音楽様式が業界ではしっかり認知されていたわけで、それにノレない音楽好きは遅れている事を自覚する他は無いのでしょうか……。
さて、そんなブームの最中、やっぱりやってくれたのがエレキの神様として揺るぎない寺内タケシで、まさに本日ご紹介のシングル曲「レッツ・ゴー・ブガルー」は、そのものスバリ!
実は今日では有名なネタになっているんですが、結論から言えば、寺内タケシ作編曲とクレジットされていながら、曲メロのキモはジミ・ヘンドリクスが十八番の演目「Spanish Castle Magic」と極力似ているんですねぇ~~。
しかも寺内タケシのギターの暴虐性はジミヘンに勝るとも劣らない熱さであって、告白すればサイケおやじは「Spanish Castle Magic」よりも、こっちの「レッツ・ゴー・ブガルー」を先に聴いていたので、ジミヘンのバージョン(?)に最初に接した時は、なんともミョウチキリンな気分にさせられました。
このあたりをちょいと考察してみると、寺内タケシとバニーズのシングル盤が出たのは昭和43(1968)年5月であり、一方ジミヘンが「Spanish Castle Magic」収録のLP「アクシス・ボールド・アズ・ラヴ」を英国で発表したのは前年末という歴史が残されていますから、確かに寺内タケシがそれを聴いていなかったとは言えないでしょう。
しかし、これも皆様が良くご存じのとおり、実はジミヘンがオリジナルとしている楽曲の多くには、古い黒人ブルースや伝承歌を自分なりにアレンジしたものが相当にあって、問題の「Spanish Castle Magic」も激しいニューロックではあるものの、基本はブルースですから、もしかしたら他にネタ元があるのかも知れず、だとすれば「レッツ・ゴー・ブガルー」をパクリ云々と決めつける事は出来ないでしょう。
あと、これはあくまでも個人的な考えなんですが、ブルースというジャンルは音楽の構成様式がある程度固まっていますから、あとは歌詞の中身の問題が大切であって、しかもそれにしたって常套句と定番比喩の組み合わせが多いとあっては、著作権とか独自性なんてものをあれこれ詮索するのは野暮じゃ~ないかと……???
で、この「レッツ・ゴー・ブガルー」が痛快だったのは、なんといっても演奏と歌詞の昭和元禄的奔放感でしょう。
なにしろテンションの高いピートリフをバックに歌われる歌詞が――
キ~ポン ブッガル~~
ブッガル~ ブガルゥ~ビ~~
という繰り返しだけなんですからっ!
おまけに演奏の合の手には「ベイビ~! もっと! もっと!」なぁ~んていう刹那の囃し言葉がロック的に用いられ、当然ながらSEとしてゴーゴー喫茶風の観客のざわめきがびっしりと被せられているあたりは、流石に当時の雰囲気が万全だと思います。
もちろんサイケおやじはリアルタイムで楽しんでいたのですから、そういう感慨も深いわけですが、お若い皆様が「昭和元禄とは?」という疑問を抱かれた時、このあたりを聴いていただければ、その一部なりとも解消されるように思います。
ちなみに当時のバニーズのメンバーは黒沢博(g,vo)、鈴木義之(g.vo)、荻野達也(key)、小野肇(b)、井上正(ds,per,vo,etc) という最強の布陣であり、寺内タケシはプロデューサ的な立場であったという説もありますが、やはりレコードでは唯一無二のエレキを存分に披露していましたし、それが無くてはファンも納得出来ないのですから、何時しかバニーズだけでステージ巡業をやるようになった時、御大がブルージーンズを復活させたのもムペなるかな!
このシングル曲あたりが、その境目だとしたら、ジャケットに「囲み」で登場しているのも意味深です。
またB面に収録された「サマー・ブガルー」は、これまた「Bogaloo / ブーガルー」が用いられた曲タイトルからは離反した、完全なるGS歌謡ロックの隠れ名曲!
あぁ、だから「Bogaloo / ブーガルー」が分からなくなるんですよ、ますます。
しかし、あえて言い訳的な納得を書けば、この寺内タケシのレコードは「ブガルー」であって、「Bogaloo」では無いんですけどねぇ~♪
う~ん、確かにそのとおりであって、なにがなんでも「レッツ・ゴー・ブガルー」における寺内タケシとバニーズの演奏は強烈至極!
ニューロックなんて、ブッ飛ばせっ!
そんな意気込みがビンビンに伝わってくるわけですが、寺内タケシにとっては意識する以前の問題であった事も、また真実だったと思うばかりです。
で、久々に「ラテン音楽パラダイス」(竹村淳著、イラストは河村要助さん)を開いてみました。
それによると「1960年代の初めから数年間だったが、NYのヒスパニック・コミュニティで爆発的に流行した音楽。当時のキューバ音楽とダンサブルなソウルミュージックのミックスから生まれた。これはキューバ人のような豊かな音楽伝統を持たない在NYのプエルトリコ系ミュージシャンがキューバ音楽を基本に周囲にある様々な音楽との融合を試みる過程で生まれた。」とあります。
そして「サルサ天国」(河村要助著)には、「グァヒーラとリズム・アンド・ブルース・ビートを組み合わせたブーガルーは、主として英語で歌われた音楽である。(中略)ラテンのエスニカルな独自性へと向かったのがサルサであるからには、その対極にあるようなブーガルーが冷たく扱われるのは理にかなっていて~」という一文があり、また「サルサにとって唯一の消し去りたい過去であると思われるブーガルーだが~」という一文もあります。
何か冷遇されてる音楽だったんですねぇ、ブーガルーって。
個人的にはブーガルーといえば、コレです。
http://www.youtube.com/watch?v=rO_ltURNY0E&feature=related
コメント&ご紹介、ありがとうございます。
元ネタ探しは楽しくもあり、また虚しさもつきまとうわけですが、それゆえに知りたいんですよねぇ。
なんとなくグレーゾーンが良いことはわかっているんですが(笑)。
リンゴの楽しさ優先モードは何時の時代も普遍の輝き♪ おっちゃん風情が、また憎めません♪
詳細な解説、ありがとうございます。
目からウロコです。
都市生活とラテンミュージックの繋がり、必要性は欧米では特に活発のようですね。アメリカは言うに及ばず、イギリスでもドイツでも、なかなか熱いんですが、本場からすれば、それは疑似スタイルだったのかもしれません。
なにかボサノバと一緒の気もしますが、ブーガルーの汎用性は、その曖昧さゆえに如何なる転用も可能なのでしょう。
個人的にはサルサの方がジャズに近く、ジャズもディジー・ガレスピーのように積極的にラテンを取り入れていた偉人も存在するのですから、あまりの差別化は勿体ないと思うのですが。