■Quartet / Russ Freeman & Chet Baker (Pacific Jazz)
チェット・ベイカーがジャズ史的に有名になったのは、1950年代初頭から活動を始めたジェリー・マリガンとのピアノレスカルテットでしょうが、大衆から絶対的な人気を得たのは、そのバンドを解散させ、独立してからでしょう。
その相手役となったのがピアニストのラス・フリーマンで、この人は白人ながら黒人ミュージシャンとの共演も多かったそうですから、そのホレス・シルバーっぽいスタイルが出来上がったのも肯けます。
そしてチェット・ベイカーにしても、ラス・フリーマンと組んだことにより、持前の歌心優先主義と潜在的なアンニュイなムードに加え、さらに力強いハードバップ的な演奏に磨きがかかったようです。
このアルバムは、その絶頂期が見事に記録されたワンホーン盤で、ジャケットにも名前が最初に載っているとおり、リーダーはラス・フリーマンでしょう。実際、セッションには6曲もオリジナルを提供しているほどです。
録音は1956年11月6日、メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ラス・フリーマン(p)、ルロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) となっていますが、リズム隊は当時のシェリー・マンが自分のレギュラーバンドで使っていた面々ですから、纏まりも最高です。
A-1 Love Nest
スピード感満点の4ビートで、いきなり飛びだすチェット・ベイカーのミュートトランペットが鮮やかです。このあたりはマイルス・デイビスのような思わせぶりが無いので、如何にもウエストコーストらしい爽快感♪♪~♪
またラス・フリーマンのテキパキとしたピアノは既に述べたように、ホレス・シルバー系のタテノリがガツッ~ンと効いていますが、あそこまでの左派系グルーヴは無く、あくまでも楽しさを重んじているようです。
リズム隊のビシッとタイトなノリも痛快な、これぞっ、西海岸ハードバップの典型だと思います。
A-2 Fan Tan
ラフ・フリーマンが書いた力強いグルーヴの中に、そこはかとないブルーなムードがチェット・ベイカーにジャストミートした名曲です。俯きかげんにスイングしていくトランペットの響きが、たまりませんねぇ~♪ 泣きメロのフェイクも絶妙です。
そして作者のピアノが、これまた素敵なんですが、それに続いてラストテーマへ繋げていくチェット・ベイカーが、ちょいと不安定なところも意図的かもしれない、実に微妙な表現力が秀逸だと思います。そして再び登場するラス・フリーマンが、さらに上手さを聞かせてくれるんですねぇ~♪
また、そんな2人に我、関せずというベースとドラムスの淡々とした力強さもニクイです。
A-3 Summer Sketch
ちょっと現代音楽系のテーマメロディをじっくりと弾いていくラス・フリーマンは、作者ならでは強みと思いをピアノに託しているようです。そしてチェット・ベイカーが、実に素晴らしい解釈でそれを引き継ぐんですから、たまりません。
重苦しいムードが泣きそうになるほどの美メロに変換されていく、その緊張感とせつない雰囲気の良さは唯一無二でしょうねぇ~~♪
A-4 An Afternoon At Home
一転して屈託の無いスイング感が見事な演奏となります。
ウキウキするようなテーマから素晴らしいブレイクを聞かせてアドリブへ入っていくラス・フリーマンのスイング感は、実にハードバップ的であり、しかしネクラなところがありません。この明快さが西海岸派の魅力だと思います。
またチェット・ベイカーにしても、ハスキーなトランペットの音色と忌憚のないメロディ優先主義のアドリブがベストマッチでしょうね。
B-1 Say When
ほとんど純正ハードバップという熱い演奏で、とにかくビシバシに弾けたリズム隊のブチキレ感とチェット・ベイカーのツッコミが凄すぎます!
ラス・フリーマンのピアノはホレス・シルバー状態ですし、ヤケクソ気味のシェリー・マンにズバンズバンに跳ねたルロイ・ヴィネガーというリズム隊は激ヤバじゃないでしょうか!?
終盤のドラムソロからラストテーマに入る部分には、もしかしたらテープ編集の疑惑もあるんですが、この熱気は尋常ではありません。
B-2 Lush Life
そういう熱く乱された気分をクールに癒してくれるのが、この有名スタンダードの静謐な演奏です。まずはラス・フリーマンがピアノの独演で聞かせてくれるテーマの解釈が、素直で素敵♪♪~♪
そして続くチェット・ベイカーのメロディフェイクも素晴らしすぎます。ハスキーなトランペットの音色も最高ですねぇ~♪ 特筆すべきは、チェット・ベイカーならではの「甘さ」よりは「クール」な表現が目立つところだと思うのですが、いかがなもんでしょう。
そういうところが、このセッションをハードバップにしている要因じゃないでしょうか?
B-3 Amblin'
それが特に目立つのが、このスローで黒い演奏です。強いビートを打ち出してくるルロイ・ヴィネガーのウォーキングベースやファンキーなオカズで煽るラス・フリーマンというリズム隊が油断なりませんから、チェット・ベイカーも何時になく蠢き系のフレーズで勝負しているようです。
そしてラス・フリーマンの粘っこいアドリブは、全く西海岸派らしくない典型でしょう。この人は本来、シカゴあたりの生まれと言われていますから、そのあたりはどうなんでしょうか?
終盤で聞かせるルロイ・ヴィネガーのベースソロとハードボイルドなリフの掛け合いも、サスペンス溢れるムードで、ちょっとハリウッド製のギャング映画という感じも楽しめます。
B-4 Hugo Hurwhey
シェリー・マンの複合ラテンリズムと4ビートが痛快至極! そして始まるアップテンポのハードバップ演奏は、明らかにリズム隊が主導していると思います。う~ん、完全にシェリー・マンのリーダーセッションという雰囲気ですねぇ。ラス・フリーマンも会心のアドリブで大ハッスルしています。
しかし一座のスタアというチェット・ベイカーが、けっこう余裕の無い感じで……。
演奏はクライマックスでリズム隊の至芸がソロチェンジで披露されますから、かなり面白く聴けるんじゃないでしょうか。
ということで、なかなかハードバップしたアルバムです。
個人的にはB面を愛聴していますが、もちろんA面も素晴らしい魅力ですから、CDでの一気聴きも痛快だと思います。
ちなみにチェット・ベイカーはこのセッションの後、いろいろとゴタゴタがあったようで、1958年からはニューヨークへと進出し、本格的なハードバップを演じていきますが、これはその予告篇というには完成度が高く、つまりはここで、後の全てを出しきっていたのかもしれません。
1950年代前半の甘さを期待するとハズレるかもしれませんが、こういう荒っぽさも特有の魅力なのが、チェット・ベイカーというスタアの資質ではないでしょうか。