OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

マッコイ・タイナーのスピード違反!?

2009-02-18 11:17:26 | Jazz

Reaching Fourth / McCoy Tyner (Impulse!)

マッコイ・タイナーの代表作とされるピアノトリオの名盤です。

と、最初から断言してしまったのも、これが吹き込まれた時期のマッコイ・タイナーはジョン・コルトレーンのバンドレギュラーとして破竹の快進撃だった頃ですし、その暗くて饒舌なフレーズ展開と熱いジャズ魂に充ち溢れたピアノスタイルは、モードという新しい観念を体現したものとして、後々まで大きな影響を与えていたからです。しかしここには、もうひとつ、意外に保守的な姿も垣間見せた事実もあり、それが逆に何時までも新鮮味を失わない魅力ではないかと思います。

録音は1962年11月14日、メンバーはマッコイ・タイナー(p)、ヘンリー・グライムス(b)、ロイ・ヘインズ(ds) という鋭いトリオです。

A-1 Reaching Fourth
 スピード感いっぱいにスタートするテンションの高いテーマ! ロイ・ヘインズのシャープな怖さが全開したドラミングとヘンリー・グラスムスの蠢き系ベースが冴えわたり、一聴してマッコイ・タイナーだとわかる独自の「節」が飛び出すという、典型的なモードの演奏です。
 これは明らかにジョン・コルトレーンからの影響がミエミエながら、この軽やかな疾走感は、そこでのレギュラー演奏とは異なる新鮮さが印象的です。
 それはロイ・ヘインズの切れ味鋭いドラミングがあればこそで、似たような味わいとしては、チック・コリアのピアノトリオ作品では屈指の「Now He Sings, Now He Sobs (Solid State)」の元ネタかもしれません。ちなみにそれは1968年の録音ですから、如何にここでの演奏が時代の先端を行きながら、不滅に輝くものであるか、納得されるでしょう。
 と、毎度のように独善的なサイケおやじですが、実際、これを聴くと何時も気持ちがキリリと引き締まり、スピーカーの前に正座したくなりますねぇ。もちろん、「手に汗」はお約束ですよ。

A-2 Goodbye
 という緊張感を優しく解きほぐしてくれるのが、この哀切のバラード演奏です。
 ほどよい思わせぶりから素直なテーマ解釈、そして独特の重さがシブイというタッチから紡ぎ出されるメロディフェイクの心地良さは、マッコイ・タイナーという黒人ピアニストが意外にも秘めているお洒落なフィーリングかもしれません。
 スローなテンポの中で見事に抑制された精細な表現も、マッコイ・タイナーでは、この時期だけに聞かれる魅力だと思います。

A-3 Theme For Ernie
 軽妙洒脱なテーマ解釈からして、実に和みの演奏です。
 マッコイ・タイナーのピアノは歌心優先のアドリブフレーズと手数の多い装飾音のバランスも良く、意外にもソフトタッチのブロックコード弾きとか、ハードバップとモードの中間のような味わいが楽しいですねぇ~♪
 ヘンリー・グライムスの前向きなペースソロやしぶとい感じのメイ・ヘインズとか、トリオのメンバーがそれぞれの持ち味を控え目に出して、肩の力が絶妙に抜けた名演じゃないでしょうか。

B-1 Blues Back
 マッコイ・タイナーが自作のブルースで、粘っこさよりは独自のヴィヴィッドな感性が強く打ち出され、スローテンポが少しずつ熱いものに変わっていくという、実に深みのある演奏だと思います。
 ネクラな情熱を秘めた音符過多症候群を聞かせるマッコイ・タイナーは、ブルースを素材にしながらも、決してそれに浸りきることが無く、新しい表現を模索していきますが、ムードとしてのブルース味は満点ですから、モダンジャズど真ん中の仕上がりでしょう。
 刺激的なロイ・ヘインズのドラミング、エグ味も残るヘンリー・グライムスのペースワークもハードバップから一歩前進した趣ですねぇ~~♪
 ちなみに今ではジョン・コルトレーンの映像作品として特に有名な1961年のドイツでのテレビショウで、この曲のバリエーションの様なピアノ演奏がテーマ的に使われていましたですね。

B-2 Old Devil Moon
 これはお馴染みのスタンダード曲を上手くモード系にアレンジした楽しい演奏で、独特のベースパターンやリフが印象的です。何よりもトリオ全員が必要以上に力んでいないのが良い感じ♪♪~♪
 マッコイ・タイナーのアドリブには何時もの執拗なムードが薄く、ジンワリと原曲メロディほ熟成させながらスイングさせていくという展開ですが、こういう味わいって以降、現代のジャズピアニストにまで多大な影響となって継承されていると思います。
 何気なく凄いことをやらかしている伴奏のベースも怖いですよ。

B-3 Have You Met Miss Jones
 これもまた有名な歌物スタンダードを熱気いっぱいに、そして軽やかに聞かせてくれる快演バージョンです。アップテンポで爽快なビートを作り出すロイ・ヘインズのブラシが、実に気持ち良いですねぇ~~♪ もちろんクライマックスでのソロチェンジでは匠の技が全開されます。
 肝心のマッコイ・タイナーは動きすぎる指で、流れるようなフレーズの乱れ打ち! このスピード感、颯爽とした一気通貫のような若々しさは最高です。

ということで、一般的なイメージとしてのマッコイ・タイナー、つまり「重さ」とか「暗さ」とか「激情の煮つまり」なんてものからは些か遠い演奏集なんですが、このスピード感のある軽さも、大いに魅力じゃないでしょうか。

これが例えばエルビン・ジョーンズのドラムスで作られていたら、おそらくは、もう少しのヘヴィな仕上がりだったと思いますから、ロイ・ヘインズの起用は大正解の大ヒット! タイトに躍動し、自由に敲きまくりながらも、主役を立てることを忘れない絶品のドラミングこそが、このアルバムのポイントかもしれません。

つまり、やっぱりチック・コリアの「Now He Sings, Now He Sobs」は、これが元ネタ!?! 特にアルバムタイトル曲は、モロですよねぇ~~♪

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ラス&チェットの西海岸ハードバップ

2009-02-17 11:26:58 | Jazz

Quartet / Russ Freeman & Chet Baker (Pacific Jazz)

チェット・ベイカーがジャズ史的に有名になったのは、1950年代初頭から活動を始めたジェリー・マリガンとのピアノレスカルテットでしょうが、大衆から絶対的な人気を得たのは、そのバンドを解散させ、独立してからでしょう。

その相手役となったのがピアニストのラス・フリーマンで、この人は白人ながら黒人ミュージシャンとの共演も多かったそうですから、そのホレス・シルバーっぽいスタイルが出来上がったのも肯けます。

そしてチェット・ベイカーにしても、ラス・フリーマンと組んだことにより、持前の歌心優先主義と潜在的なアンニュイなムードに加え、さらに力強いハードバップ的な演奏に磨きがかかったようです。

このアルバムは、その絶頂期が見事に記録されたワンホーン盤で、ジャケットにも名前が最初に載っているとおり、リーダーはラス・フリーマンでしょう。実際、セッションには6曲もオリジナルを提供しているほどです。

録音は1956年11月6日、メンバーはチェット・ベイカー(tp)、ラス・フリーマン(p)、ルロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds) となっていますが、リズム隊は当時のシェリー・マンが自分のレギュラーバンドで使っていた面々ですから、纏まりも最高です。

A-1 Love Nest
 スピード感満点の4ビートで、いきなり飛びだすチェット・ベイカーのミュートトランペットが鮮やかです。このあたりはマイルス・デイビスのような思わせぶりが無いので、如何にもウエストコーストらしい爽快感♪♪~♪
 またラス・フリーマンのテキパキとしたピアノは既に述べたように、ホレス・シルバー系のタテノリがガツッ~ンと効いていますが、あそこまでの左派系グルーヴは無く、あくまでも楽しさを重んじているようです。
 リズム隊のビシッとタイトなノリも痛快な、これぞっ、西海岸ハードバップの典型だと思います。

A-2 Fan Tan
 ラフ・フリーマンが書いた力強いグルーヴの中に、そこはかとないブルーなムードがチェット・ベイカーにジャストミートした名曲です。俯きかげんにスイングしていくトランペットの響きが、たまりませんねぇ~♪ 泣きメロのフェイクも絶妙です。
 そして作者のピアノが、これまた素敵なんですが、それに続いてラストテーマへ繋げていくチェット・ベイカーが、ちょいと不安定なところも意図的かもしれない、実に微妙な表現力が秀逸だと思います。そして再び登場するラス・フリーマンが、さらに上手さを聞かせてくれるんですねぇ~♪
 また、そんな2人に我、関せずというベースとドラムスの淡々とした力強さもニクイです。

A-3 Summer Sketch
 ちょっと現代音楽系のテーマメロディをじっくりと弾いていくラス・フリーマンは、作者ならでは強みと思いをピアノに託しているようです。そしてチェット・ベイカーが、実に素晴らしい解釈でそれを引き継ぐんですから、たまりません。
 重苦しいムードが泣きそうになるほどの美メロに変換されていく、その緊張感とせつない雰囲気の良さは唯一無二でしょうねぇ~~♪ 

A-4 An Afternoon At Home
 一転して屈託の無いスイング感が見事な演奏となります。
 ウキウキするようなテーマから素晴らしいブレイクを聞かせてアドリブへ入っていくラス・フリーマンのスイング感は、実にハードバップ的であり、しかしネクラなところがありません。この明快さが西海岸派の魅力だと思います。
 またチェット・ベイカーにしても、ハスキーなトランペットの音色と忌憚のないメロディ優先主義のアドリブがベストマッチでしょうね。

B-1 Say When
 ほとんど純正ハードバップという熱い演奏で、とにかくビシバシに弾けたリズム隊のブチキレ感とチェット・ベイカーのツッコミが凄すぎます!
 ラス・フリーマンのピアノはホレス・シルバー状態ですし、ヤケクソ気味のシェリー・マンにズバンズバンに跳ねたルロイ・ヴィネガーというリズム隊は激ヤバじゃないでしょうか!?
 終盤のドラムソロからラストテーマに入る部分には、もしかしたらテープ編集の疑惑もあるんですが、この熱気は尋常ではありません。

B-2 Lush Life
 そういう熱く乱された気分をクールに癒してくれるのが、この有名スタンダードの静謐な演奏です。まずはラス・フリーマンがピアノの独演で聞かせてくれるテーマの解釈が、素直で素敵♪♪~♪
 そして続くチェット・ベイカーのメロディフェイクも素晴らしすぎます。ハスキーなトランペットの音色も最高ですねぇ~♪ 特筆すべきは、チェット・ベイカーならではの「甘さ」よりは「クール」な表現が目立つところだと思うのですが、いかがなもんでしょう。
 そういうところが、このセッションをハードバップにしている要因じゃないでしょうか?

B-3 Amblin'
 それが特に目立つのが、このスローで黒い演奏です。強いビートを打ち出してくるルロイ・ヴィネガーのウォーキングベースやファンキーなオカズで煽るラス・フリーマンというリズム隊が油断なりませんから、チェット・ベイカーも何時になく蠢き系のフレーズで勝負しているようです。
 そしてラス・フリーマンの粘っこいアドリブは、全く西海岸派らしくない典型でしょう。この人は本来、シカゴあたりの生まれと言われていますから、そのあたりはどうなんでしょうか?
 終盤で聞かせるルロイ・ヴィネガーのベースソロとハードボイルドなリフの掛け合いも、サスペンス溢れるムードで、ちょっとハリウッド製のギャング映画という感じも楽しめます。

B-4 Hugo Hurwhey
 シェリー・マンの複合ラテンリズムと4ビートが痛快至極! そして始まるアップテンポのハードバップ演奏は、明らかにリズム隊が主導していると思います。う~ん、完全にシェリー・マンのリーダーセッションという雰囲気ですねぇ。ラス・フリーマンも会心のアドリブで大ハッスルしています。
 しかし一座のスタアというチェット・ベイカーが、けっこう余裕の無い感じで……。
 演奏はクライマックスでリズム隊の至芸がソロチェンジで披露されますから、かなり面白く聴けるんじゃないでしょうか。

ということで、なかなかハードバップしたアルバムです。

個人的にはB面を愛聴していますが、もちろんA面も素晴らしい魅力ですから、CDでの一気聴きも痛快だと思います。

ちなみにチェット・ベイカーはこのセッションの後、いろいろとゴタゴタがあったようで、1958年からはニューヨークへと進出し、本格的なハードバップを演じていきますが、これはその予告篇というには完成度が高く、つまりはここで、後の全てを出しきっていたのかもしれません。

1950年代前半の甘さを期待するとハズレるかもしれませんが、こういう荒っぽさも特有の魅力なのが、チェット・ベイカーというスタアの資質ではないでしょうか。

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60年代のミルト・ジャクソンもカッコイイ!

2009-02-16 12:08:53 | Jazz

Milt Jackson At The Museum Of Modern Art (Limelight)

ミルト・ジャクソンは、なんと言ってもレギュラーバンドだったMJQでの活動が一番有名でしょうが、同時並行的にやっていた自己名義のセッションも大切な「お宝」です。

このアルバムはニューヨークの近代美術館で開かれたコンサートのライブ盤で、主催はアメリカの某ジャズ雑誌だったそうですから、出演したバンドは臨時編成ながら、実に楽しいモダンジャズが繰り広げられています。

録音は1965年8月12日、メンバーはミルト・ジャクソン(vib)、ジェームス・ムーディ(ts,vo)、シダー・ウォルトン(p)、ロン・カーター(b)、オーティス・キャンディ・フィンチ(ds) という味わい深い面々です。

A-1 The Quota
 有名なジャズ評論家のダン・モーゲンスタインがバンドを紹介してスタートする痛快なハードバップのブルース! そのスピード感とクールな雰囲気は、まさにこのメンツならではのカッコ良さです。
 ヴァイブラフォンからフルート、ピアノと続くアドリブパートは短めですが、バンドアンサンブル共々に纏まりが良くて、本当に気持ちが良いですね。

A-2 Novamo
 ボサビートを使った、これも楽しいラウンジ系モダンジャズ♪♪~♪
 ミルト・ジャクソンが書いたテーマメロディは、作者自身によってフェイクされていくアドリブでさらにウキウキ感が強くなります。
 オーティス・フィンチの叩き出すリムショットも痛快至極ですし、シダー・ウォルトンのピアノも本当に上手いと思いますが、ジェームス・ムーディのフルートも侮れません。
 ちょいと軽めのムードですが、実はモダンジャズならではの気合が入ってるようです。

A-3 Enigma
 ゆったりしたテンポでミステリアスなテーマメロディをフェイクしていくミルト・ジャクソンという、まさに至芸が存分に味わえます。
 ジェームス・ムーディのフルートも静謐なムードを優先させながら、モダンジャズの流儀に拘っていますし、シダー・ウォルトンの存在感も強いですねぇ~♪
 短い演奏で、アドリブらしいパートも少ないのですが、とても完成度の高い演奏だと思います。

A-4 Turquoise
 そして始まるのが、シダー・ウォルトンのが書いた新主流派っぽい演奏です。まずはリズム隊のスピード感が実に心地良いですねぇ~♪
 肝心のアドリブパートではジェームス・ムーディのフルートが大奮闘! この人は本来、サックス奏者として有名かもしれませんが、私はフルート奏者としても超一流だと思っています。
 もちろんシダー・ウォルトンは水を得た魚!

B-1 Chyrise
 ミルト・ジャクソンのオリジナルとされていますが、なかなかに味わい深いテーマメロディがスタンダード曲のように聞こえるほど素敵です。もちろん作者本人が上手くフェイクした演奏なんでしょうが、相当にイケますよ♪♪~♪
 スローテンポでもダレないリズム隊のグルーヴも流石ですし、ジェームス・ムーディのフルートも良い感じ♪♪~♪
 演奏時間の短さが勿体無い限りです。
 
B-2 Montelei
 これまた微妙にボサロックをミックスした4ビートの楽しい演奏で、このあたりは如何にも1960年代中頃のムードが好ましいところ♪♪~♪ ミルト・ジャクソンのアドリブも颯爽として美メロが出まくった名演です。
 さらに快感を呼ぶのがリズム隊のカッコ良さでしょう。特にオーティス・フィンチはソウルジャズやレア・グルーヴ物で有名でしょうが、こういう正統派から汎用度の高いビートを敲かせても素晴らしいと思います。

B-3 Simplicity & Beauty
 ジェームス・ムーディが書いた味わい深いワルツ曲で、日活ニューアクションモードを感じさせる作者のフルートが強い印象となっています。
 しかし、これも演奏時間の短さが残念ですねぇ……。

B-4 Flying Saucer
 あぁ、またまた楽しいボサロックにウキウキのテーマメロディ♪♪~♪
 ミルト・ジャクソンのヴァイブラフォンもクールな響きですが、ジェームス・ムーディのフルートも粋ですよ。
 しかし途中で披露するボーカルのオトボケは???
 う~ん、せっかくの良いムードが一転して……。
 と嘆いた次の瞬間、ミルト・ジャクソンが唯一無二の素晴らしさでアドリブ天国への直行便! リズム隊の快適さは言わずもがなの変態名演です。

B-5 Namesake
 そしてオーラスは、これぞミルト・ジャクソンというカッコ良すぎるハードバップ! バックのリズム隊が逆に引っ張られるほどに熱いヴァイブラフォンの全力疾走には、溜飲が下がります。
 そのスピードを全く落とさない見事なノリを披露するジェームス・ムーディのフルートも痛快至極ですし、リズム隊だけのパートに移ってからも纏まりの良さがさらに鮮明になるほどの熱気が最高です。

ということで、臨時編成とは思えぬほどの素敵なバンドですねぇ~♪ オリジナル中心の演目もメロディが良いですから、ますます1曲毎の演奏時間の短さが本当に残念になります。

そしてリズム隊がロックのリズムも絶妙に入れたような、新感覚の4ビート! バンド全体のグルーヴが、それゆえにスピード感に満ちていて、実にカッコイイです。これはミルト・ジャクソンとシダー・ウォルトンが組む度に生み出されるグルーヴですので、要注意だと思います。

ちなみにセッション当時は、イギリスからビートルズやストーンズ等々が大挙してアメリカへ侵攻していたロックの上昇期でしたが、モダンジャズも十分にカッコ良かった時代でしたから、4ビート主体の演奏も、まだまだロックに負けていなかったのですねぇ~。

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ジョージ・ラッセルの宇宙には怖いエバンスが居た

2009-02-15 11:33:18 | Jazz

Jazz In The Space Age / George Russell & His Orchestra (Decca)

我が国では、特に人気が無いと思われるアレンジャーのひとりが、ジョージ・ラッセルかもしれません。なにしろやっていることが「頭でっかち」というか、平たく言えぱ、つまらないですから……。

その残された関連音源には緊張感と厳しい雰囲気が強く、和みよりはテンションの高さを求める時には、しかしこれほどジャストミートしてしまう演奏もないでしょう。

さて、このアルバムは「宇宙時代のジャズ」ということで、録音当時よりは近未来を志向した、つまり新しい感覚を追求した前衛作品だと思います。

しかし決してフリーなデタラメではなく、きちんスイングした4ビートがありますし、コードやモードから脱却する試みもあることはありますが、ジョージ・ラッセルが自らの文法で組み立てたであろう、特別な理論に沿った演奏が展開されているようです。

しかも集められたメンバーが侮れません。

録音は1960年5&8月、そのセッションに参集したのがビル・エバンス(p)、ポール・ブレイ(p)、バリー・ガルブレイス(g)、ミルト・ヒントン(b)、ドン・ラモンド(ds)、デイヴ・ベイカー(tb)、フランク・リハク(tb)、デイヴ・ヤング(ts) 等々、当時の凄腕がオーケストラを編成しています。

A-1 Chromatic Universe Prat 1
 いきなり、これが驚愕の演奏で、見事な立体音響で録音された左右のチャンネルに定位するビル・エバンスとポール・ブレイが、まるっきり双子のようなピアノ対決を聞かせてくれます。
 中央に位置するミルト・ヒントンとドン・ラモンドのリズムコンビも、非常にテンションが高いスイング感が冴えわたりですから、耽美でありながらフリーにも接近したスリル満点なピアノのアドリブが、左右から飛び出してくるんですねぇ~。
 その左右のどちらがどちらなのか、実はサイケおやじには全く判別出来ないほどにクリソツという怖さが、逆に楽しくなってしまいますし、この猛烈なドライヴ感は大いに魅力です。

A-2 Dimensions
 前曲が些か尻切れトンポで終わったところから繋がっている熱い演奏で、無調のようなバンドアンサンブルから、厳しいコードに縛られたアドリブパートが派生したというか、実にミョウチキリンな構成になっています。ウキウキするようなテーマリフやビートが痛快なんですけどねぇ……。
 そして躍動と停滞が共存するそこには、原盤裏ジャケット解説によればアラン・キーガーというトランペッターが若々しい感性を披露し、デイヴ・ヤングのテナーサックスがジョン・コルトレーンの流儀で熱く咆哮しています。
 さらにビル・エバンスが自身の一番厳しいスタイルを、さらに凝縮したようなクールで硬質なアドリブを演じて、全く妥協の無い姿勢を示すのです。ガツンガツンのドラムスとベース、不気味なバンドアンサンブルも強い印象を残しますよ。

A-3 Chromatic Universe Prat 2
 そして一瞬の間を置いて、再び冒頭と同じパートが現れ、これまたビル・エバンスとポール・ブレイの厳しい対決が! う~ん、これまた和みなんてものとは無縁のクールなドライヴ感が恐ろしくなります。
 そして猛烈なバンドアンサンブルが背後から割り込んでくるという、実にエグイ仕掛けも鮮やかですが、やはり大団円に向けて疾走していく左右からのピアノ対決が、実に圧巻! もう、どっちがどっちでも問題にならないほど、耽美が混濁してクールに熱くなった演奏だと納得する他はないと思います。

B-1 The Lydiot
 これは「A-2」で使われていたアンサンブルのリフを、さらに強靭にスイングさせた演奏で、アドリブパートではビル・エバンスが痛快なノリを聞かせれば、続くポール・プレイがクリソツなスタイルで、さらにツッコミ鋭く対抗しています。
 う~ん、このあたりの激烈な展開は実にアブナイ雰囲気に満ちていますが、良く聴くと部分的にテープ編集が用いられているようです。
 ちなみに真ん中に定位しているのがビル・エバンス、左チャンネルからはポール・プレイというステレオミックスからして、A面のピアノ対決は右チャンネルがビル・エバンスだったのでしょうか? なんとなく謎が解けかかった次の瞬間、凄まじい勢いで飛び出してくるのが、フランク・リハクとデイヴ・ベイカーの爆裂トロンボーン! いゃ~、全く凄すぎますよっ!
 さらにアラン・キーガーが最高にカッコ良いトランペットで自己主張すれば、デイヴ・ヤングがパワーとスピードを兼ね備えたテナーサックスで突進するのです。
 ドン・ラモンドのドラミングも凄いドライヴ感に満ちていますし、録音の良さゆえに細かいニュアンスまでも感じとれる匠の技のドラムスは、本当に聞き逃せません。

B-2 Waltz From Outer Space
 前曲がフェードアウトした後に始まる、これまたミョウチキンリンなワルツビートが??? ほとんど意味不明なバンドアンサンブルでは、バリー・ガルブレイスのギターが絶妙のスパイスというか、お目付け役なのかもしれません。
 そしてビル・エバンスのピアノが中華メロディを変質させたような、ほとんど「らしく」ないアドリブを披露して、これには違和感が満点! まあ、それでも最後には如何にもという展開となるのですが……。
 しかしテナーサックスのデイヴ・ヤングは曲想に真っ向勝負した熱演で、好感が持てます。混濁したスイング感が熱くなっていくバンドアンサンブルとの相性も、この人の感性にはジャストミートなのかもしれません。

B-3 Chromatic Universe Prat 3
 そしていよいよ迎える大団円は、またまたビル・エバンスとポール・ブレイのガチンコ対決! ドン・ラモンドのドラミングがますます容赦の無い雰囲気になっていますから、その妥協の余地が残されていない演奏は、本当に宇宙の深淵を覗いてしまったような怖さが……。
 う~ん、こんなヤバいムードって、ありきたりなフリーや現代音楽でも、なかなか聴くことの出来ないものじゃないでしょうか? 少なくともサイケおやじには、怯え心のクライマックスになっています。

ということで、やっぱりゾクゾクするほどのアルバムです。

全体の構成としても、じっくりと練られたものがあって、LP片面を聴き通すことによる美学、さらにアルバム全体をトータルなものにする意図が感じられます。ただし、それゆえにテープ編集とかダビングも使われているのかもしれません。

ちなみに要所で現れるプログレ系の効果音は、ジョージ・ラッセル自身が打楽器や紐を駆使して作りだしたものとされています。

このように、ちょいと馴染めない演奏集ではありますが、それを見事に救っているのがドン・ラモンドの素晴らしいドラミングだと思います。この人はビッグバンドからスタジオの仕事まで万能に敲ける名手ですが、こんなに難解なセッションを最高にスイングさせた腕前が、録音の素晴らしさもあって、存分に堪能出来るはずです。

それとビル・エバンスの異様とも思える硬派な姿勢は、ジョージ・ラッセルとの信頼関係があればこその本気というか、ファンが求める耽美やクールな甘さとは対極の心情吐露だと思います。

たまにはこんな厳しいアルバムで、キリッとする休日も良いんじゃないでしょうか?

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ポール・デスモンドの品格と和み

2009-02-14 10:43:12 | Jazz

First Place Again / Paul Desmond (Warmer Bros.)

世の中、相性というものが大切なのは言わずもがなですね。

人気アルトサックス奏者のポール・デスモンドにしても、単独行動よりは、長年のバンド仲間だったデイヴ・ブルーベックのゴツゴツしたピアノがあってこそ、持ち前のソフトで浮遊感満点という個性が最高に発揮されていたと思います。

そしてもうひとり、こちらは盟友ともいうべき同じ資質を持ったギタリストのジム・ホールとの共同作業も素晴らしい限りです。それは残されたポール・デスモンドのリーダーセッションで名盤とされるアルバムのほとんどが、この2人を主役としたものという事実でも明らかでしょう。

実際、一聴してシビレるソフトな情感と品格さえ感じる歌心優先主義の演奏からは人気盤が続出していますし、本日ご紹介のアルバムも、そのひとつとして世評の高いものでしょう。

録音は1959年9月5~7日、メンバーはポール・デスモンド(as)、ジム・ホール(g)、パーシー・ヒース(b)、コニー・ケイ(ds) という、思わずニヤリのカルテット♪♪~♪ ほとんど最初から目論見がミエミエの企画にして、これが見事に当たってしまったのです。

A-1 I Get A Kick Out Of You
 思わずウキウキしてくるような軽快なテンポ、そして絶妙の歌い回しが冴えわたる有名スタンダード曲の演奏♪♪~♪ それがホール・デスモンドでしかありえない、あのソフトなアルトサックスの音色で楽しめるのですから、初っ端から桃源郷へと誘われます。
 ドラムスとベースのMJQコンビが送り出す、安定して鋭いビートも心地良く、ポール・デスモンドのアルトサックスは自在に空間を浮遊しつつ、時折、思い切ったフレーズも繰り出すという得意技を完全披露していますが、ジム・ホールも味わい深い伴奏とアドリブソロで存在感を誇示しています。

A-2 For All We Konw
 せつない「泣き」のスタンダード曲を、このメンツが演じてくれるという嬉しさに、テーマメロディが出た瞬間から涙がこぼれそうになるほど、心が震えます。
 ポール・デスモンドのアルトサックスは、最高の思わせぶりとメロディフェイクが絶品! またジム・ホールの伴奏の上手さは閃きに満ちていますし、アドリブパートでの抑制された感情の高ぶりが、これまた職人技なんでしょうねぇ~♪
 淡々としたドラムスとベースも自分達の役割を弁えた個人芸だと思います。

A-3 Two Degrees East, Three Degrees West
 MJQの親分であるジョン・ルイスが書いた不思議なブルースで、実はジム・ホールとパーシー・ヒースは既に1956年製作の人気盤「Grand Encounter (Pacific Jazz)」で快演を残していた曲ですから、ここに生まれた新バージョンが名演となるのも必然でしょう。
 とにかくポール・デスモンドの演奏は畢生として間違いないほどに充実し、その抑制されたブルースフィーリングは白人ジャズの頂点かもしれません。淡々としながらグイノリの黒人ビートを出してくるドラムスとベースの存在感も強く、また奥深いイントロと伴奏、さらにクールな熱気に満たされたアドリブが凄いジム・ホール!
 全く聴くほどに感動が湧きあがってくると思います。

B-1 Greensleves
 誰もが一度は耳にしたことのある有名なイギリス民謡のメロディですから、それを堂々と演じて臆することのないポール・デスモンドは流石! 爽やかにして哀愁が滲むテーマ部分からのフェイクとアドリブの素晴らしさは唯一無二です。
 そしておそらくは生ギターを使っているジム・ホールが、これまた最高級のイントロから伴奏、そして短すぎるアドリブソロまで完璧な助演で、間然することの無い仕事をしています。

B-2 You Go To My Head
 これもまた有名スタンダード曲ですが、まさにこのカルテットにはジャストミートの演目でしょう。フワフワとメロディをフェイクしていくポール・デスモンドのアルトサックスには、春風のような温もりと爽やかさがいっぱい♪♪ 何よりも、そのソフトな音色の魅力に完全KOされてしまいますし、もちろんアドリブフレーズは歌心の塊ですねぇ~♪
 ジム・ホール以下のリズム隊も、完成度の高い纏まりとスリルを感じさせるインタープレイを両立させた素晴らしさだと思いますが、このあたりは譜面とかあったのか否か、ちょいと気になるところでもあります。

B-3 East Of The Sun
 いきなり流麗にしてクールなアルトサックスが個性的なメロディフェイクというテーマ部分だけで、ポール・デスモンドのジャズセンスが横溢した名演だと納得させられます。自然体で盛り上げていくリズム隊も、実に上手いですねぇ~♪
 そしてアドリブパートでは快適なテンポで気持ち良い演奏を繰り広げるバンドの一体感が最高の極みつきです。特にジム・ホールの伴奏は絶妙にして快感を呼ぶコードの使い方が抜群! アドリブソロの素っ気なさも、逆に新鮮な感じだと思いますし、終盤でのソロチェンジからアルトサックスとの絡みを聴けば、ゾクゾクするしかありません。。

B-4 Time After Time
 オーラスは和みのバラード、その決定的な演奏バージョンが、これです。
 ジム・ホールが耳に馴染んだメロディを、全くの独り舞台で演じた後からは、ソフトな音色でアルトサックスのアドリブが続くいう、このあたりはデイヴ・ブルーベックとのバンドでも十八番としていたポール・デスモンドならではの展開ですから、安心感があります。
 全体としては淡々として墨絵のような味わいの演奏かもしれませんが、それゆえに何度聴いても味わいが深まるばかりというか、アルバムの締め括りには最適かと思います。

ということで、穏やかな温もりが心地よい演奏集です。

最近の世相からギスギスしがちな雰囲気や心持には、必需品になるかもしれませんねぇ~♪ 実際、仕事に責められているサイケおやじは、これを聴いて和んでいるのでした。

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デューク・エリントンとレイ・ブラウン

2009-02-13 10:09:21 | Jazz

This One's For Blanton! / Duke Ellington And  Ray Brown (Pablo)

偉大なバンドリーダーにして20世紀アメリカを代表する作曲家でもあったデューク・エリントンは、また個性的なピアニストでもありました。一説によれば、そのスタイルと感性はセロニアス・モンクやセシル・テイラーにも繋がるらしいのですが、確かに直截的なピアノタッチと硬質なスイング感、ツボを押さえた歌心やコードの使い方は、現代でも全く古びていないと思います。

ですからデューク・エリントンのピアノを中心としたセッションからは、チャールズ・ミンガス&マックス・ローチという猛者と組んだ「Money Jungle (United Artists)」が怖すぎる名盤になり、あるいはジョン・コルトレーンの畏敬の念が滲み出た人気盤「Ellington & Coltrane (Impules!)」が誕生するのも、ムベなるかな!

そしてジャズの歴史本によれば、デューク・エリントンのピアノが最高の偉業とされるのは、1940年に自分の楽団に在籍していたベーシストのジミー・ブラントンとデュオで録音したセッションだとされています。

このジミー・ブラントンという人は、モダンベースの開祖とされる偉人で、1930年末にデューク・エリントン楽団に入り、1942年には病死するという早世の天才でした。しかも残された録音は、ほとんどがデューク・エリントン楽団でのものばかりで、前述したデュオのセッションは特に重要作とされていますが、実際にはジャズ喫茶で鳴ることはほとんどないの我が国の現実でした。

さて、このアルバムはそんな歴史的偉業を現代に再現しようとした企画で、ジミー・ブラントンの代役には、その直系の名手とも言うべきレイ・ブラウンが抜擢されています。

録音は1972年12月5日ですから、録音の良さも当然ということで、これは発売当時のジャズ喫茶でも、ちょっとした人気盤となり、偉人の過去の業績がようやく認識されたというか、私は素晴らしき錯覚に酔いましたですねぇ~♪

 A-1 Do Nothin' Till You Here From Me
 A-2 Pitter Panther Patter
 A-3 Things Ain't What They Used To Be
 A-4 Sophisticated Lady
 A-5 See See Rider
 B-1 Fragmented Suite For Piano And Bass

まずはベースの響きの生々しさ、そしてピアノタッチの鮮烈さが見事に楽しめる秀逸な録音が高得点です。今となっては、このあたりの感想なんか当たり前になっていますが、1970年代前半では、ちょっとした驚きでした。

肝心の演奏はデューク・エリントンのピアノよりも、レイ・ブラウンのペースワークの素晴らしさと協調性に感動させられます。

まず「Pitter Panther Patter」と「Sophisticated Lady」の2曲はジミー・ブラントンとのセッションから再演されたものですが、オリジナルバージョンのベースばかりが目立っていた録音とは異なり、こちらはデューク・エリントンのピアノが相当に活躍していますから、レイ・ブラウンも忌憚の無い大ハッスル! 特にジミー・ブラントンがアルコ弾きを演じていた「Sophisticated Lady」では、繊細で力強いピチカートの美技を披露しています。

また「Do Nothin' Till You Here From Me」や「Things Ain't What They Used To Be」というデューク・エリントンではお馴染みの曲も、そのグルーヴィなムードや原曲メロディの魅力を存分に活かしたヘッドアレンジが素晴らしく、ピアノはベースを信頼し、またベースはピアノを尊敬した協調ぶりが伝わる名演だと思います。

う~ん、実に良い雰囲気でモダンジャズの真髄が楽しめますねぇ~♪

そうです、これはとても「モダン」であり、既にして不滅のジャズの魅力が横溢しているとしか言えません。

その意味で古いブルースの「See See Rider」が、楽しくもエグイ表現を忍ばせて演じられるのは流石だと思います。デューク・エリントンのピアノが素直に鳴れば、レイ・ブラウンの凄いテクニックが裏ワザを披露する展開には、思わずニヤリです。

そしてB面全部を使った「Fragmented Suite For Piano And Bass」は4つのパートで構成された組曲形式の演奏ですが、決して勿体ぶったものではなく、タイトルどおりにピアノとベースの魅力が存分に楽しめると思います。

もちろん即興演奏の緊張感、スリルとサスペンスがジャズならではの快感に繋がるのは言わずもがなでしょう。

おぉ、確かにデューク・エリントンのピアノからは、セロニアス・モンクやセシル・テイラーへと繋がる「何か」を秘めているのが実感されますし、レイ・ブラウンの変幻自在のペースワークは決してビートの芯を失わない見事さで演奏全体を絶妙にリラックスさせるのですから、全体で20分近い構成も飽きずに聴き通せるのです。

ということで、これは狙い通りの企画が見事に実現された好盤♪♪~♪ 聴く前には、あまりにも生真面目な印象も強いのですが、実際はなかなか和みの名演集として、麻薬的な魅力があるんじゃないでしょうか。

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フレディ代参の幻ハードバップ

2009-02-12 09:39:12 | Jazz

Groovy! / Freddy Hubbard (Jazzline / Fontana)

悲運は人生の常とは言いながら、決して簡単に納得出来るものではありません。

このアルバムも録音から紆余曲折、様々な事情が混在する謎の名盤で、一応はフレディ・ハバードの名義で世に出たものですが、他にもジャケットやリーダー名義、タイトルまでも異なる商品として流通しています。

実は原盤のセッションは1961年頃に設立された「Jazzline」という超マイナーレーベルで制作されたものです。しかしレーベルそのものが、アッという間に活動停止に追い込まれ……。結局は音源だけが各国の様々なレコード会社から発売されたというわけです。

ちなみに私有はイギリスのフォンタナレコードから発売されたLPですが、我が国でもテイチクレコードから、「Freddy Hubbard No,5」というタイトルで発売されていましたし、アメリカのプレスティッジからデューク・ピアソン名義で発売された「Dedication!」も同一内容だと思います。

そのセッションは1961年8月2日に行われ、メンバーはフレディ・ハバード(tp)、ウィリー・ウィルソン(tb)、ペッパー・アダムス(bs)、デューク。ビアソン(p)、トーマス・ハワード(b)、レックス・ハンフリーズ(ds) というセクステットで、なんとリーダーはウィリー・ウイルソンというのが真相だと言われています。

A-1 Minor Mishap
 トミー・フラナガンが書いたハードバップど真ん中の人気曲で、1957年のジョン・コルトレーンも参加した傑作盤「The Cat (Prestige)」に入っているオリジナル演奏も素敵ですが、このバージョンも侮れません。
 和みと勢いが両立したテーマ合奏からデューク・ピアソンのジャズセンスが遺憾無く発揮されたブレイクの閃き、そして痛快なアドリブに続いて登場するのが、本セッションのリーダーというウィリー・ウイルソンのトロンボーン!
 そのスタイルは幾分、モゴモゴした音色とハードバップにどっぷりのフィーリングが好ましく、個人的には J.J.ジョンソンとカーティス・フラーの魅力を併せ持つ名手としてお気に入りのひとりです。
 演奏はこの後、溌剌としたフレディ・ハバードからゴリ押しのペッパー・アダムスというアドリブ天国へと続き、ハードエッジなリズム隊と共謀しながら、見事な纏まりを聞かせてくれます。

A-2 Blues For Alvena
 ウィリー・ウイルソンが書いたオトボケゴスペルのブルースで、そのホンワカしてファンキーな曲調とグルーヴィなムードが、たまりません♪♪~♪ もちろん作者自身のトロンボーンが最高の味わいを醸し出しているのです。
 ユルユルのドドンパビートを敲き出すレックス・ハンフリーズが、しかしアドリブパートではタイトな4ビートに徹するあたりも潔く、リズム隊の強固な団結力も高得点だと思います。
 そしてアドリブパートでは、ホノボノとファンキーなウィリー・ウイルソン、鋭いフレディ・ハバードに豪快なペッパー・アダムスというフロント陣に続き、デューク・ピアソンが持ち味のソフトな黒っぽさを全開させた名演で、ジンワリと心が温まる演奏になっています。

A-3 The Nearncss Of You
 胸キュンメロディが素敵な有名スタンダードを、じっくりと吹いてくれるウィリー・ウイルソンのワンホーン演奏♪♪~♪ そのフェイクが微妙にイモっぽいところが逆に魅力的ですし、アドリブパートでの思わせぶりが純朴なジャズフィーリングに直結していて、実に好感が持てます。
 リズム隊の力強いグルーヴも素晴らしく、ウィリー・ウイルソンのアドリブフレーズからはジャズを演奏する喜びのようなものさえ伝わってきますねぇ~♪ ちなみにこれほどの名手が無名で終わったのは、本人が早世してしまったからだとか……。
 人の世の無常を、これまた感じいってしまうだけに、このトラックが尚更に愛おしいです。

A-4 Number Five
 デューク・ピアソンが書いた、実にカッコ良いハードバップ!
 フレディ・ハバードがリードするテーマ合奏からペッパー・アダムスの豪放なバリトンサックスが飛び出せば、その場はモダンジャズ全盛期の空気に満たされます。アドリブの受け渡しに使われるリフも痛快なほどにキマッていますし、続くフレディ・ハバードからウィリー・ウイルソン、デューク・ピアソンという個人芸の連続技も、安定感とスリルが両立した名演だと思います。

B-1 Lex
 これは私の大好きなハードバップの名曲で、ドナルド・バードの名盤「Byrd In Flight (Blue Note)」に収められた1960年の自作自演バージョンが決定版ですが、そこでのピアニストだったデューク・ピアソンにしてみれば、夢よもう一度!? それが見事に果たされた快演になっています。
 まずはテーマ部分からして、レックス・ハンフリーズのドラミングが実に熱いです。もちろん演奏を通しての煽りも最高ですから、この曲って、もしかしたらレックス・ハンフリーズに捧げられたものなんでしょうか? ドナルド・バードのオリジナルバージョンでも当然ながら、このドラマーが敲いていますからねぇ~♪
 そしてフレディ・ハバードの颯爽としてテンションの高いトランペット、ブリブリに咆哮するペッパー・アダムスのバリトンサックス、さらに大ハッスルで突進するウィリー・ウイルソンのトロンポーンが、これぞっ、ハードバップの醍醐味を満喫させてくれますよっ♪♪~♪
 またデューク・ピアソンがメリハリの効いた伴奏とジャズ者の琴線に触れまくりのアドリブを披露して、実はこのセッションの音楽監督だったのか!? という謎解きを提示しています。 

B-2 Time After Time
 これまたウィリー・ウイルソンが主役のワンホーン演奏で、有名スタンダードをゆったりと吹奏しながら、素晴らしいジャズ魂を感じさせてくれます。寄り添うデューク・ピアソンのピアノも味わい深く、トミー・フラナガンと同じ色合いのセンスが眩しいところ♪♪~♪
 ちなみにデューク・ピアソンは1960年代中頃からはブルーノートで現場監督も務めますが、その人を立てる上手さというか、それでいてイヤミの無いところは、実社会でも大いに見習うべき美徳かもしれませんねぇ。

B-3 Apothegrn
 ペッパー・アダムスが書いた、ちょっと凝り過ぎたようなテーマが不思議な気分ではありますが、バンド全体のグルーヴは如何にもハードバップですから、各人のアドリブも熱を帯びています。
 中でもフレディ・ハバードは既にして新しい感覚というか、後の新主流派っぽいアドリブを聞かせてくれますし、リズム隊も硬派なビートでバックアップしているようです。
 気になるウィリー・ウイルソンは、何故かテーマ合奏の一部分をリードするだけ……。う~ん、これではフレディ・ハバードのリーダー作とされても仕方がないような……。

ということで、なかなか充実したハードバップの名作です。特に当時の新進気鋭であったフレディ・ハバードの鋭さは、明らかに新時代のハートバップを高らかに宣言しているようです。

しかし本来のリーダーたるウィリー・ウイルソンも、負けじと良い味を出しまくり! 全くこれ1枚しか楽しめないのが残念至極、痛感の極みと思えるほど、私は好きなトロンボーン奏者になりました。

それとリズム隊の素晴らしさも特筆すべきで、ハードエッジなリズムとメリハリの効いたビートを健実に作り出し、このセッションを見事な成功へと導いた立役者じゃないでしょうか。ちなみにこのトリオは前日、同じレーベルのセッションとして素敵な録音を残しており、それはデューク・ピアソン名義のアルバム、例えば我が国では「バクス・グルーヴ(トリオ)」としてアナログ盤LPが出たように、様々な仕様のブツが出回っていますが、中身は極上♪♪~♪

やはりこの時期のモダンジャズは、ひとつの全盛期だったのですねぇ~♪ 様々な悲運さえも乗り越えて、現代でも色あせることのない演奏だと思います。

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ニューヨークのマニー・アルバム

2009-02-11 12:13:55 | Jazz

Jazz New York / Manny Album And His Jazz Greats (Dot)

音楽界の作編曲家はスタジオセッションの現場では音楽監督も務めることが多いようで、例えばクインシー・ジョーンズあたりは、駆け出し時代からプロデューサー的な役割も強く担っていたのでしょうか、そこには特にお気に入りの凄腕を集めることが出来るようです。もちろんそれは、そのまんま、セッションの成功へと繋がるわけです。

今では忘れられた存在かもしれないマニー・アルバムにしても、第一線で活動していた1960年代初頭までのセッションには、同様に凄いメンツが参集しています。

そして本日ご紹介の作品はタイトルどおり、ニューヨーク派のバリバリを集めて作られた痛快な1枚!

録音は1958年4月、メンバーはアート・ファーマー(tp)、ニック・トラビス(tp)、ドナルド・バード(tp)、ボブ・ブルックマイヤー(v-tb)、ジーン・クイル(as,cl)、アル・コーン(ts)、ズート・シムズ(ts)、ペッパー・アダムス(bs)、ジェローム・リチャードソン(fl,ts) ディック・カッツ(p)、エディ・コスタ(p,vib)、ミルト・ヒントン(b)、ジョー・ベンジャミン(b)、オシー・ジョンソン(ds) 等々を中核にしたオールスタア編成のビックバンド♪♪~♪ もちろんマニー・アルバムのアレンジは分かり易くて爽快な魅力に溢れ、さらに各アドリブ奏者の個性を存分に活かせる度量の大きいものですし、ソロオーダーやメンツの構成が原盤裏ジャケットに明記されているのも嬉しいところです。

A-1 Thruwqy
 オシー・ジョンソンの張り切ったシンバルワークに導かれ、痛快に弾けるアップテンポの演奏で、豪快に炸裂するバンドアンサンブルと名手達のアドリブ競演が最高です。
 それはドナルド・バードのトランペットからホブ・ブルックマイヤーの温もりトロンボーン、そしてアル・コーンのハードドライヴなテナーサックスへと受け継がれ、東海岸録音ということもあって、モダンスイングとハートバップの両方の味が楽しめるのでした。

A-2 They All Laughted
 ガーシュイン兄弟が書いた楽しいスタンダードが、より一層のウキウキ感で演奏されています。とにかく巧みにアレンジされたテーマアンサンブルの浮かれた調子とハーモニーの素晴らしさには、ジャズの魅力がテンコ盛りですよっ♪♪~♪
 アドリブパートではジーン・クイルやニック・トラビスが上手さを発揮していますが、純朴にして力強いペッパー・アダムスのバリトンサックスも強烈で、オトポケ調も入ったバンドのアンサンブルと絶妙のコントラストがたまりません♪♪~♪

A-3 In A Mist
 ジャズ創成期の有名トランペッターというビックス・バイダーベックのジャズ史に残るオリジナルとされていますが、実際、この曲はモダンジャズ期に入っても多くのバージョンが残されていて、ここでの演奏も秀逸なひとつです。
 タイトルどおり、ちょっとモヤモヤした不思議系のテーマメロディがエディ・コスタのヴァイブラフォンやミュートトランペット主体のアンサンブルで演じられ、浮遊感いっぱいのハーモニーと芯の強いスイング感が最良のスパイスとなっています。
 ミディアムスローの展開ですが、決して飽きることがないのは、膨らみのあるアレンジとアドリブパートの充実によるものだと思います。

A-4 Fresh Flute
 これまたタイトルどおりにフルートを主体としたマニー・アルバムのオリジナル曲で、
その主役はジェローム・リチャードソンですから、軽妙なスイング感の楽しさは保証付き♪♪~♪ ちょっとカウント・ベイシー調のアレンジがニクイですねぇ~♪
 それはディック・カッツのピアノにも責任があるというか、なかなかの快演ですし、ボブ・ブルックマイヤー、ニック・トラビス、そしてジーン・クイルのアドリブも冴えていますが、ここでのテナーサックスは誰でしょう? 原盤解説ではアル・コーンとなっていますが、個人的には??? もしかしたらジェローム・リチャードソン?
 まあ、それはそれとして、豪快にして緻密なバンドアンサンブルも聴き易く、実に楽しいですね。

B-1 Dot's Right
 初っ端からエディ・コスタのピアノが活躍するダイナミックな演奏で、低音域からガンガンに突っ込んでくる例のアドリブが、痛快なバンドアンサンブルにバックアップされる仕掛けには、本当にジャズを聴く喜びがいっぱい♪♪~♪
 さらにジーン・クイル、アル・コーン、アート・ファーマー、ペッパー・アダムスが極上のアドリブを聞かせてくれますし、それを彩るアレンジも冴えまくりのカッコ良さです。

B-2 Hebe, The Cups Please!
 原盤解説によれば、アート・ファーマーとニック・トラビスが互いにミュートトランペットの妙技を競ったとされているとおり、音の区別は明快なれど、どちらがどちらなのか、そのあたりの不思議を追及するのも楽しい名演です。
 ミディアムテンポのグルーヴも見事なリズム隊と一糸乱れぬバンドアンサンブルにも、思わず夢中にさせられますねぇ~♪ 最後に登場するボブ・ブルックマイヤーのオトボケにも拍手喝采です。

B-3 The Nether Regions
 些か物騒な曲タイトルですが、演奏そのものはグルーヴィな感覚が横溢したモダンジャズですから、その低音域を活かしたアレンジやバンドアンサンブルが、意想外の良さかもしれません。
 アドリブパートはペッパー・アダムスの唯我独尊というバリトンサックス、山城新伍のような独り言ギャグのボブ・ブルックマイヤー、おそらくはアル&ズートと思われるテナーサックスの連続アドリブが披露されます。そして意外なほどにファンキーなディック・カッツのピアノが不思議な味わいを醸し出し、結果オーライの大団円となるのでした。

ということで、アルバム全部が明快にスイングした曲ばかり♪♪~♪ あんまりにも分かりが良すぎて、逆に物足りないところは贅沢というものでしょう。もちろんその部分は、各アドリブ奏者の奮闘が補ってくれますから、実にバランスのとれた演奏ばかりだと思います。

個人的にはオシー・ジョンソンの安定して、なおかつスリル満点のドラミングに強く惹きつけられますねぇ~♪ この人も我が国では全くの無視状態ですが、再評価を望みたいところです。

肝心のマニー・アルバムは、ジャズの楽しさや醍醐味をストレートに伝えてくれるアレンジが流石だと思います。日頃は天の邪鬼なサイケおやじも、これには素直に脱帽して感服しています。

ちなみに先日ご紹介した「The Jazz Greats Of Our Time Vol.2」は西海岸派を起用していましたから、そのスマートで爽快な仕上がりが印象的でしたが、それよりも後に行われたこのセッションは比較すると、当然ながらハードバップの色合いが強くなっています。しかし何故かハードボイルドな味わいはそれほどでもなく、逆にリラックスしたムードが支配的なんですねぇ~。

時代的にはベニー・ゴルソンあたりのソフト系ハードバップが人気を集めつつあった頃ですから、充分に肯ける仕上がりなのかもしれません。

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ジョージ・ベンソンの下心がグルーヴィン

2009-02-10 11:29:12 | Soul Jazz

Giblet Gravy / George Benson (Verve)

なんだかんだ言われても、やっぱりジョージ・ベンソンのギターは凄いと思います。黒人ならではの感性とロック的なアプローチが上手く融合し、もちろんジャズギタリストとしてのテクニックとアドリブ能力の高さは圧倒的ですよねぇ~。妙に頭でっかちな事をやらないのも、私の好みに合っています。

このアルバムは未だブレイク前の1967年に制作された、下心が滲む本人のポートレートも印象的なジャケットで知られる隠れ名盤♪♪~♪

メンバーはジョージ・ベンソン(g)、エリック・ゲイル(g)、カール・リンチ(g)、ハービー・ハンコック(p,key)、ボブ・クランショウ(b)、ビリー・コブハム(ds)、ジョニー・パチェコ(per) が主力となり、トム・マッキントッシュの編曲で、女性コーラス隊やブラス&リードのホーンセクションが加わっています。そして何よりも選曲がサイケおやじにはジャストミートなのです。

A-1 Along Came Mary
 ソフトロックの人気グループだったアソシエイションが1966年初夏にアメリカで大ヒットさせた名曲で、勢いのあるオリジナルバージョンの楽しさをジョージ・ベンソンは見事にジャズロック系の演奏へと昇華させます。
 トム・マッキントッシュのアレンジは些か凝り気味ではありますが、その昭和歌謡曲に応用されまくった味わいは憎めません。

A-2 Sunny
 これもご存じ、ボビー・ヘブが自作自演で1966年夏に大ヒットさせた名曲の中の大名曲で、サイケおやじにも永遠のお好みメロディ♪♪~♪
 ジョージ・ベンソンのギターはシャープなリズム隊と共謀して歌いまくりですが、バックの女性コーラス隊のソウルフルなムードや大袈裟なブラスアレンジが、ダサダサ限度ギリギリのB級グルメ味で、これまた憎めません。

A-3 What's New
 一転してモダンジャズにどっぷりというスタンダード曲の4ビート演奏ですが、パーカッションやバンドアンサンブルがラウンジ系というか、ジョージ・ベンソンやハービー・ハンコックのアドリブが鋭いわりには、聴き易い仕上がりだと思います。

A-4 Giblet Gravy
 アルバムタイトル曲はジョージ・ベンソンが会心のオリジナルで、痛快なソウルジャズ! もちろんロックビートとの大胆な融合、さらに鮮やかなギターのアドリブ、ノリノリのバンドの勢いが最高の極みつきですから、私なんかはこれがLP片面の演奏であったとしても、物足りないほどに大好きです。
 そのギターから迸るフレーズは、つまらないところがひとつも無いほどの、実に充実したアドリブの連続技! あぁ、こんなギターが弾けたらなぁ~~~♪
 ギター好きの皆様には、ぜひとも、聴かずに死ねるかだと思います。
 エリック・ゲイルのサイドギターもシブイですよ。

A-5 Walk On By
 これまたサイケおやじが大好きなメロディで、作曲はご存じ、バート・バカラックですから、ジョージ・ベンソンのギターも中途半端は許されません。そして見事なフェイクとアドリブで大満足の結果を出しています。
 女性コーラスのソウル味を見事に使いこなしたトム・マッキントッシュのアレンジも素晴らしく、胸キュンの余韻がせつないという演奏時間の短さが残念です。

B-1 Thunder Walk
 シンプルなバンド演奏ですが、黒人ハードバップの基本を大切にしたソウルフルな4ビート、そしてジョージ・ベンソンのジャズ魂が新しい感覚で表出した隠れ名演だと思います。
 リズム隊には新主流派の息吹も濃厚で、ハービー・ハンコックのハッスルぶりがニクイというか、水を得た魚ですよねぇ~。思わずニンマリしてしまうほどです。

B-2 Sack Of Woe
 キャノボール・アダレイのオリジナル人気曲を痛快なシャッフル4ビートで演じるバンドのドライヴ感が、まずは凄い勢いです。ビリー・コブハムのドラムスが、やはり強烈ですねぇ~♪
 肝心のジョージ・ベンソンは得意のオクターヴ奏法も混ぜ込んで、ハードバップの真髄に迫っていますが、痛烈に襲いかかってくるブラス&リード陣のリフと対決するが如き閃きは流石! 正統派ジャズギタリストとしての凄腕を発揮しつつ、大衆的な快楽も同時に追求するあたりが、ジョージ・ベンソンの本領だと思います。

B-3 Groovin'
 これまた嬉しい選曲で、オリジナルはラスカルズが1967年春にヒットさせたブルーアイドソウルの決定版! 山下達郎の偏愛曲としても知られますが、実はこのアルバムの裏ジャケットに記載のデータでは、録音が1967年2月となっていますから、これは楽曲が世に出た直後のセッションになるのでしょうか?
 このあたりの謎は、楽曲の良さに目をつけたプロデューサーの嗅覚の鋭さか、あるいはジョージ・ベンソンのお好みなのか、ちょっと興味深いところです。
 肝心の演奏はオリジナルバージョンのラテンソウル風味を活かしつつ、よりメロウなムードと黒っぽいジャズ感覚を強めた快演♪♪~♪ 素敵なテーマメロディをオクターヴ奏法でフェイクしていくジョージ・ベンソンはアドリブも絶好調で、後のクロスオーバーでブレイクを果たしたスタイルが、既に出来上がっている感じです。
 バンドアンサンブルもシンプルなアレンジの良さが厭味無く、これも演奏時間の短さが残念至極です。

B-4 Low Down And Dirty
 オーラスは、このアルバムでは一番長い演奏で、スロ~なブル~スを素材にジョージ・ベンソンがジャズ&ソウルの保守本道を追求し、超一流ギタリストとしての腕前を堪能させてくれます。
 そのタメと粘っこいフィーリング、感情が激したような早弾きフレーズの熱さ、さらにツッコミと和みのバランスの良さ! じっくりと4ビートを熟成させていくバンドメンバーとの協調性も見事ですし、こういう当たり前の事が一番難しいのかもしれませんが、ジャズ的な快楽も良いもんだなぁ~、と実感されるのでした。

ということで、ソウルポップス系のA面、モダンジャズ味が強いB面という感じですが、それが各々「What's New」と「Groovin'」で緩和されるというアルバム構成も秀逸で、聴き通しても飽きません。

そして何よりもジョージ・ベンソンのギターの上手さと凄さが、気楽に堪能出来ると思います。

後にCTIから出る諸作に比べると、その密度の薄さが気になることは否めませんが、如何にも1960年代後半という、適度にダサい雰囲気が当時の歌謡曲のアレンジに流用されたとおりのお洒落感覚でもあり、サイケおやじは結局、この時代の「音」が大好きです。

今日はこれから、もう一度、聴きますよ♪♪~♪

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マニー・アルバムのアルバムは豪華

2009-02-09 10:50:53 | Jazz

Manny Albam And The Jazz Greats Of Our Time Vol.2 (Coral)

所謂ウエストコートジャズに夢中になっていた時期に愛聴していたLPです。

リーダーのマニー・アルバムについては良く知らないのですが、ハリウッド産のプログラムピクチャーでは劇伴担当でクレジットされる事も多い名前ですし、実際、1960年代からはテレビや映画演劇関係の仕事をやっていた作編曲家でした。

しかしそれ以前、1950年代までは大衆音楽の中心だったジャズで活躍していたそうで、本来はサックス奏者でした。そして多くの有名バンドに参加しながら、業界では高い評価のアレンジャーとなったらしいのです。

でも、我が国じゃ、「知る人ぞ、知る」かもしれませんね。

それでも明快なスイング感を基本にした作編曲は、ジャズの魅力の本質というアドリブのスリルと楽しさを存分に活かしたものですから、一度聞いたら気にならずにはいられません。また些か確信犯的ではありますが、そのリーダー盤に参加している著名なジャズメンの名前にも惹かれてしまいます。

さて、この作品は西海岸派の名手を集め、スマートなアレンジと一糸乱れれぬバンドアンサンブル、そして颯爽としたアドリブを堪能させてくれる痛快盤で、実は「Vol.2」とあるように、似たようなジャケットデザインでニューヨーク派のメンツを集めて作った兄弟盤「Vol.1」も存在する人気シリーズの1枚です。

録音は1957年8月14~16日、メンバーはコンテ・カンドリ(tp)、ジャック・シェルドン(tp)、スチュ・ウィリアムソン(tp,v-tb)、ハーブ・ゲラー(as)、チャーリー・マリアーノ(as,ts,bs)、ビル・ホールマン(ts,bs)、リッチー・カミューカ(ts)、メド・フローリー(ts)、ルー・レヴィ(p)、レッド・ミッチェル(b)、シェリー・マン(ds) という超一流の凄腕達をメインに、あえて「トランペットX」とクレジットされたハリー・エディソンが特別参加していますが、もちろんマニー・アルバムのアレンジとリーダーシップが見事ですし、アドリブのソロオーダーは原盤裏ジャケットにきちんと解説してあります。

A-1 Interwoven
 アップテンポで輪唱形式のようなテーマアンサンブルの見事な演奏から、爽快にして流麗なアドリブの饗宴が楽しめます。
 明快に飛び跳ねるルー・レヴィのピアノ、ハーブ・ゲラーとチャーリー・マリアーノのアルトサックスが熱いバトルを繰り広げれば、同じ趣向でコンテ・カンドリとハリー・エディソンがトランペッとのガチンコ対決! そこへスチュ・ウィリアムソンのトロンボーンが仲裁に入りますが、今度はビル・ホールマンとリッチー・カミューカが再びのテナーサックス全面戦争ですから、これぞジャズの醍醐味がたまりません。
 もちろん要所にはカッコ良いアンサンブルのリフとハーモニーの魔法が現れて、7分半ほどの演奏時間がアッという間の桃源郷です。

A-2 Afterthoughts
 一転して陰鬱なムードが支配的なスロー曲ですが、コンテ・カンドリのミュートトランペットが良い感じ♪♪~♪
 しかし西海岸派のメンツにとっては、些か違和感の強い演目だったかもしれません。アドリブよりはバンドアンサンブルを聞かせる目論見かもしれませんが……。

A-3 Sweet's-Bread
 タイトルどおり、ハリー・スウィーツ・エディソンが大活躍するグルーヴィな演奏ですが、ビル・ホールマンのバリトンサックスやリッチー・カミューカのテナーサックス、さらにハーブ・ゲラーのアルトサックスも健闘しています。
 全体にはカンサスシティ風味の西海岸的な解釈というか、ハリー・エディソンがあまりにもジャストミートしすぎて、予定調和のつまらなさがあるのは否めません。しかしこういう味わいこそが、ジャズファンには宝物だと思います。

B-1 Jive At Five
 ハリー・エディソンのオリジナルで、カウント・ベイシー楽団の十八番でもありますから、このメンツならばスマートな色合いの快演は決定的ですが、たっぷりとしたスイング感と明快なリズムの楽しさは、マニー・アルバムが企図して成し遂げたものでしょう。
 同傾向の演奏としては、同じく西海岸派のショーティ・ロジャーズも似たような雰囲気のセッションを残していますが、その溌剌としたところよりは、マニー・アルバムの方がもっとジンワリとグルーヴィな味わいが深いところだと思います。

B-2 Thunder Burt
 これもグルーヴィな味わいのブルースですが、同時に軽快なスイング感とウエストコーストならではのスマートなカッコ良さが素敵です。まずはリズム隊の屈託の無さが抜群でしょう♪♪~♪
 アドリブパートではちょいと翳りのハーブ・ゲラー、ハートウォームなジャック・シェルドンにホンワカムードのスチュ・ウィリアムソンが良い感じ♪♪~♪ ビシッとキマッたホーンアンサンブルを挟んで登場するバリトンサックスは、なんとチャーリー・マリアーノという珍しさです。
 続くメド・フローリーとリッチー・カミューカのレスター派テナーサックスの腕比べも楽しく、最後にはコンテ・カンドリが大ハッスルして見事な大団円となっています。
 各アドリブ奏者の背後を彩るアンサンブルとリズムのコンビネーションも、実に楽しいですよ。

B-3 How Long Has This Been Going On
 柔らかなメロディの哀愁系スタンダードを、この腕利きのメンツならではの凝ったアレンジで聞かせてくれますが、それにしてもアンサンブルの見事さ、そしてアドリブと編曲された部分の秀逸なバランスが素晴らしいですねぇ~♪
 個人的にはハーブ・ゲラーのツッコミとリッチー・カミューカのクールな味わいが、特に心に残ります。

B-4 It's De-Lovely
 オーラスはコール・ポーターの楽しいスタンダード曲ということで、爽やかにして力強いビートに支えられた鉄壁のバンドアンサンブルと和みのアドリブが堪能出来る名演になっています。
 相当に細切れとなって登場するアドリブ奏者については原盤裏ジャケット解説に詳しいのですが、しかしそれでもリスナーは混乱してしまうほどの緻密な計算が……!
 このあたりの緊張感は十人十色の好みでしょうねぇ……。しかしそれもウエストコーストジャズの魅力のひとつかもしれませんし、マニー・アルバムがあえてそれに臨んだ目論見だとしたら、流石の名声の証になるのでしょうか。

ということで、参加メンバーの豪華さを目当てに聴いても完全に満足の仕上がりだと思います。特にA面ド頭の「Interwoven」はモダンジャズだけの躍動感とスマートなアレンジ、ハーモニーの魔法が渾然一体となった決定的な名演じゃないでしょうか。もちろん聴き易さということでも満点だと思いますし、なによりも登場するアドリブ奏者の腕の競い合いという個人芸の冴えが良いです。

肝心のマニー・アルバムについては特に凝ったアレンジよりも、分かり易さと楽しさ優先ですから、何れの演奏もスイング感が絶品♪♪~♪

これを最初に聴いたサイケおやじが、マニー・アルバムのリーダー作、そして関わった演奏を探し始めたのは当然が必然の前科となりましたので、近いうちにまたご紹介したいと思います。

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