OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

タレンタインの任侠テナー

2009-02-08 11:08:16 | Jazz

Stan “The Man” Turrentine (Time)

「タイム」レーベルの復刻は1970年代の我が国ジャズファンにとって、非常に嬉しい事件でした。そしてその中でも代表的な傑作名盤の「Booler Little」や「Sonny Clark Trio」と並んで人気を集めていたのが、本日ご紹介のアルバムです。

主役のスタンリー・タレンタインはR&Bに近い演奏からフュージョンやモード系のスタイルも楽々とこなす名手であり、その骨太で真っ黒なテナーサックスの魅力は、特にアメリカでは絶大な人気を得ています。

そして日本でも1970年代からはCTIでの売れセン狙いが一部で人気を呼んでいましたが、このアルバムの復刻を契機として、ブルーノートでの諸作を中心に再評価が進んだように思います。

そのあたりの事情に関して、実はこのアルバムには全盛期ソニー・クラークと名盤請負人として定評のあるトミー・フラナガンという、2人の人気ピアニストの参加がミソでしょう。サイケおやじにしても、それが目当てという部分は否めません。

録音は1960年、メンバーはスタンリー・タレンタイン(ts)、ジョージ・デュヴィヴィェ(b)、マックス・ローチ(ds)、そしてソニー・クラーク(p) とトミー・フラナガン(p) が曲毎に交替参加しています。

A-1 Let's Groove
 タイトルどおり、豪快なスタンリー・タレンタインのテナーサックスがグイグイり演奏をリードしていくハードバップのブルース大会! 思わせぶりなファンキーフィーリングが最高のテーマから最初はベースとドラムスだけを従えてムードを設定するスタンリー・タレンタインの上手さ、そして絶妙に入り込んで職人技の伴奏を披露するトミー・フラナガン♪♪~♪ マックス・ローチのタイトに躍動するドラミングも最高です。
 う~ん、それにしてもこのグルーヴィな雰囲気の良さは特筆ものですねぇ~♪
 絶好調のトミー・フラナガンは言わずもがな、ジョージ・デュヴィヴィェのツボを押さえたペースワークやヘヴィなマック・ローチのドラムスというリズム隊の好演を聴いていると、このトリオでアルバムが作られなかったのが本当に悔やまれますね。

A-2 Sheri
 前曲と同じくスタンリー・タレンタインが書いたオリジナル曲で、ワルツビートで演じられるテーマメロディの真っ黒なムードが、まずは最高です。マックス・ローチのポリリズムなドラミングが、アドリブパートではビシバシの4ビートに変幻するあたりのスリルも満点です。
 そしてここではソニー・クラークが絶品のファンキーアドリブとエグイ伴奏で高得点!
 もちろんスタンリー・タレンタインもワルツ&4ビートを巧みに乗り分けながら、実にハードで男気に満ちたタフテナーを聞かせくれます。

A-3 Stolen Sweets
 躍動的なリズム隊の好サポートで演じられるキャッチーなメロディのテーマが良い感じ♪♪~♪ もちろんこれしか無いの黒人感覚が横溢していますから、スタンリー・タレンタンイには十八番のアドリブ展開なんでしょう、これでもかというほどにキメのフレーズが出まくっています。
 マックス・ローチのドラミングも冴えていますし、トミー・フラナガンがジェントルなムードで、これまた憎たらしいほどに素敵なアドリブを聞かせてくれますよっ♪~♪♪
 あぁ、最高ですねぇ~~~♪

A-4 Mild Is The Mood
 そういう良い雰囲気を受け継いで始まるのが、この豪快なハードバップ!
 ベースとドラムスがピンピン、ビシバシにキメるイントロからブリブリに炸裂するスタンリー・タレンタイの任侠テナーは、とにかく最高の魅力を発散しています。もちろんジョン・コルトレーンのような音符過多なスタイルとは無縁ですから、それが一時の我が国では過小評価に繋がっていたのでしょう。しかしこれにだって不滅のジャズ魂が変わらずにあることは、聴けば納得の名演だと思います。
 気になるピアニストはソニー・クラークで、その粘りながら飛び跳ねる独特のスイング感はファンを狂喜させるものです。あぁ、これは同レーベルの人気盤「Sonny Clark Trio」と同じですよねっ♪♪~♪
 
B-1 Minor Mood
 スタンリー・タレンタンのオリジナル曲で、タイトルどおりにマイナー感覚の覚えやすいメロディが名曲名演の極みつき! その「泣き」を含んだ旋律が作者自身のアドリブへと変転していくところは、全てのジャズファンが大好きな展開だと思います。
 ハードエッジなリズム隊の煽りも素晴らしく、バンドが一丸となったドライブ感が素晴らし限り! ピアニストはソニー・クラークとされていますが、アドリブには「トミフラ節」に近いフレーズも出たりして、なかなか興味深いと思いますが、真相は?
 しかし、それはそれとして、スタンリー・タレンタインの黒っぽくてメロディ優先主義のテナーサックスが、その魅力を最高度に発揮した名演だと思います。

B-2 Time After Time
 これはお馴染み、和みのメロディが有名なスタンダード曲ですから、スタンリー・タレンタインのタフテナーが「優しくなければ生きている価値がない」という、チャンドラーの名文どおりにハードボイルドな雰囲気を堪能させてくれます。
 寄り添うトミー・フラナガンのピアノも素敵なイントロから抜群の伴奏と流石の名手を証明し、またジョージ・デュヴィヴィェのペースも味わい深いところでしょう。
 短い演奏ですが、数多い同曲のジャズバージョンでは屈指の名演かもしれません。

B-3 My Girl Is Just Enough Woman For Me
 あまり有名では無いスタンダード曲ですが、オリジナルメロディの魅力をたっぷりと活かしたスタンリー・タレンタインの吹奏、そしてリズム隊の堅実なサポートがありますから、何度でも聴きたくなる名演じゃないでしょうか。私は大好き♪♪~♪
 またソニー・クラークの参加が、この演奏をピリッとファンキーにしている要因かもしれません。アドリブでの「ソニクラ節」の痛快さは言わずもがな、シンプルな伴奏にも独特のハードな味わいが滲んでいます。

ということで、アルバム全体に捨て曲無しの充実盤だと思います。

スタンリー・タレンタインのテナーサックスのスタイルは、既に述べたようにジョン・コルトレーンのモード系とは無縁ですから、けっこう好き嫌いがあるかもしれませんが、そのジャズの本質に根ざした音色とフレーズ展開は、やはり魅力です。

そしてアドリブスタイルもメロディフェイクの上手さと独自のフレーズをキメに使う決定的なもので、それがこのセッションでは見事に出まくっていると思います。

また当時のスタンリー・タレンタインのボスだったマックス・ローチのサポートも特筆もので、その躍動感溢れるドラミングがセッションの成功に大きく関与したのは明らかでしょう。交代参加した2人の人気ピアニストとベースのジョージ・デュヴィヴィェも全く期待どおりの良い仕事でした。

まあ、こうしたスタイルはある意味、古い「侠義」かもしれませんが、その魅力は男の生き様の憧れかもしれません。そのものスバリのアルバムタイトルが眩しいですね。

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とにかく凄いスコット・ラファロ

2009-02-07 10:03:22 | Jazz

Gypsy / Herb Geller (Atco)

「マイ・フェイ・レディ」や「ポギーとベス」、そして「ウエストサイド物語」等々の人気ミュージカルを素材にしてアルバム全部を作ってしまう企画はジャズにも沢山ありますが、本日のご紹介の1枚も、そのひとつです。

それは伝説のストリッパーだったジプシー・ローズ・リーの自伝を元ネタとして1959年に制作され、700回を超える上演を記録したヒット作と言われていますが、我が国ではどういう評価だったのか、私は不勉強で……。

そしてこのアルバムは、そのヒットに便乗した企画盤かと思ったら、実は本題の初演とほぼ同時に録音された経緯もあり、もしかしたらタイアップ企画だったのかもしれません。

録音は1959年6月9&10日、メンバーはサド・ジョーンズ(tp)、ハーブ・ゲラー(as)、ハンク・ジョーンズ(p)、ビリー・テイラー(p)、スコット・ラファロ(b)、エルビン・ジョーンズ(ds)、そしてバーバラ・ロング(vo) が参加していますが、告白すると私がこのメンツの豪華さに惹かれているのは言わずもがでしょう。なにしろジョーンズ3兄弟の揃い踏みに加え、ビル・エバンスのトリオで大注目された時期のスコット・ラファロとエルビン・ジョーンズという、まさに凄いリズムコンビが実現しているのですからっ!

A-1 Everything's Coming Up Roses
 如何にもというメロディが軽快なリズムで演奏され、バーバラ・ロングが「ためいき」系ボーカルで歌いますが、この人は確かサボイでシングル盤を出しているぐらいで、それほど有名な人では無いと思いますから、このアルバムで歌ったことが代表作になるのでしょうか? 失礼ながら個人的には上手いとは思えない歌手です。
 しかし演奏そのものは流石に素晴らしく、唯我独尊のドライヴ感でバンドをグイグイとリードしていくスコット・ラファロ、流麗なフレーズを使いつつも情熱的なハーブ・ゲラー、正統派ミュートを聞かせるサド・ジョーンズに小粋なハンク・ジョーンズのピアノと素晴らしいアドリブが連発されますよ。
 もちろんエルビン・ジョーンズは、どっしり構えての健実なサポートが見事です。

A-2 You'll Never Get Away From Me
 ミディアムテンポの演奏で、ヘヴィなエルビン・ジョーンズの小技も冴えていますが、スコット・ラファロのペースがここでも目立ちまくりです。そしてその2人を相手に鋭いアドリブを披露するハーブ・ゲラーも厳しい姿勢を崩していません。
 しかもテーマ部分のアレンジが相当にしぶとい感じですし、ピアノが抜けているがゆえに、絶妙にクールな感覚が表出して、これぞモダンジャズ! スコット・ラファロのペースソロも凄すぎますよっ!

A-3 Together
 再びバーバラ・ロングの歌が聞かれるアップテンポの隠れ名曲♪♪~♪ 不安定な音程が結果オーライというか、スコット・ラファロのエグイ煽りとかバンドアレンジのさりげなさがありますから、けっこう楽しめると思います。
 ハーブ・ゲラーのアルトサックスもほどよい情熱を発散し、サド・ジョーンズの浮かれた調子寸前のアドリブも素敵ですが、ハンク・ジョーンズの落ち着きにも脱帽です。
 
A-4 Little Lamb
 これまたピアノレスのカルテット演奏ゆえに、ハードボイルドなムードの演奏とやさしい原曲メロディのミスマッチが面白い味わいだと思います。
 ハーブ・ゲラーは白人ながら、それほど甘い感性のプレイヤーではないので、こうした結果になったのかもしれませんが、そこはサド・ジョーンズのミュートがソツの無い纏め役を果たしているようです。

B-1 Some People
 エルビン・ジョーンズの重量級ドラムスがイントロとなって始まるアップテンポのハードバップですが、平面的なテーマメロディと好き勝手に目立つスコット・ラファロのペースワークがありますから、予定調和的に纏まらないところが魅力的でしょうか?
 しかしハンク・ジョーンズの上手い伴奏が、そんな雰囲気を繋ぎ留めている感じがニクイところ♪♪~♪ 各人のアドリブも秀逸ですが、やはりスコット・ラファロのペースに耳が惹きつけられてしまいますねぇ~♪
 終盤ではエルビン・ジョーンズが怒りのドラムソロ! しかし短いのが残念です。

B-2 Mama's Talkin' Soft
 そしてスコット・ラファロが強靭なグイノリの4ビートウォーキングでリードする、このミディアムテンポの演奏では、バーバラ・ロングのボーカルも危うい音程が良い味だしまくり♪♪~♪ このあたりは十人十色の感想でしょうが、私は好きです。
 そしてメリハリの効いたバンドアレンジとハードボイルドなサド・ジョーンズのトランペット、ツッコミ鋭いハーブ・ゲラーのアルトサックスに流石の存在感というハンク・ジョーンズ♪♪~♪
 しかもスコット・ラファロのペースが短いアドリブも含めてエグイ熱演ですから、たまりませんねっ♪

B-3 Cow song
 これはスコット・ラファロのブッ飛んだペースを主役にした激演! 初っ端から縦横無尽に暴れる斬新なベースの躍動とエルビン・ジョーンズの粘っこいブラシ、この曲だけに特別参加のビリー・テイラーが見事な仕切りという、これはモダンジャズ全盛期の凄さを今に伝える隠れ名演でしょうねぇ~♪

B-4 Samll World
 オーラスはリラックスした軽めの演奏で、バーバラ・ロングもハスキーボイスの魅力を全開させていますし、逆にハーブ・ゲラーのアルトサックスがエグイ味わい♪♪~♪ ハンク・ジョーンズのピアノに絡むベースとドラムスの怖さもヤバいほどです。
 しかしサド・ジョーンズがイヤミの無い和みを提供し、実に良い雰囲気でアルバムの締め括りが演じられています。

ということで、主役のハーブ・ゲラーよりも、実は脇役陣が目立ってしまった作品です。特にスコット・ラファロの活躍は驚異的! アグレッシブで繊細なベースワークが存分に楽しめるわけですが、録音もそれが中心としか思えないバランスになっているのも、実に意味深だと思います。

演目も楽曲的にはそれほどの素敵なメロディがあるとは思いませんが、演奏そのものの密度の濃さは絶品で、おそらくはサド・ジョーンズが施したと思われるアレンジのツボを押さえた上手さも秀逸です。

当時の芸能界の事情を抜きにしても、モダンジャズ全盛期の側面を楽しめアルバムとして、なかなか貴重なドキュメントになっているのかもしれません。

スコット・ラファロが、とにかく凄いですよっ!

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スティーヴィー・ワンダーの心の詩

2009-02-06 11:47:05 | Soul

Music Of My Mind / Stevie Wonder (Tamla)

スティーヴィー・ワンダーを私が強く意識したのもまた、ストーンズの所為でした。

それは1972年、ライブ最強時代のストーンズが敢行した北米巡業の前座がスティーヴィー・ワンダーであり、しかも興業のフィナーレでは両者がジョイントで「サティスファクション」と「アップタイト」をメドレーで演じているというニュースを知ってからの事です。

う~ん、そういえば「アップタイト」は「サティスファクション」を焼き直したR&Bだしなぁ~!

今となっては、全くの贅沢で豪華なライブなんですが、ただし当時のスティーヴィー・ワンダーは今ほどの大物ではなく、特に我が国ではモータウンに所属している盲目の天才少年歌手というイメージしかなかったと思います。

実際、私が知っていたヒット曲にしても、前述の「アップタイト」とか「涙をとどけて」等の正統派R&Bでした。

しかしそのニュースは、前座ながらストーンズに負けない歌と演奏を聞かせているとして、大人気を伝えていたのです。

そして当時、我が国ではストーンズの大名盤アルバム「メインストリートのならず者」が発売され、ラジオでもその中から何曲かを流すのが音楽番組の常でしたから、それ関連してスティーヴィー・ワンダーの新作アルバム、つまり本日ご紹介の1枚から数曲が放送されたのを私が聞き、忽ちグッとシビレたのです。

しかも驚いたことに、歌やコーラスはもちろん、演奏のほとんどを盲目のスティーヴィー・ワンダーが各種のキーボード、当時はシンセサイザーと呼ばれていた楽器で作りだしていたのですから!

 A-1 Love Having You Around
 A-2 Superwoman
 A-3 I Love Every Little Thing About You
 A-4 Sweet Little Girl
 B-1 Hppier Than The Morning Sun / 輝く太陽
 B-2 Girl Blue
 B-3 Seems So Long
 B-4 Keep On Running
 B-5 Evil / 悪魔

とにかく全編、殊更にR&Bに拘っていない姿勢が非常に新鮮でした。

まず冒頭「Love Having You Around」は、ほとんど白人ブルースロックというノリがあって、しかし緻密でありながら骨太のグルーヴが心地良い演奏は、各種のキーボードとコーラスを巧みに積み重ねて作りだしたものでしょう。個人的には、このアルバムの中では一番つまらない曲だと思いますが、全体をトータルな構成として聴けば、やはり最初はこれしか無いと納得しています。

そして続く「Superwoman」は今やスタンダードとなった名曲のオリジナルバージョン♪♪~♪ 爽やかなエレピに彩られた優しいメロディはポール・マッカートニー系の甘さがたまらず、さらにこのアルバムでは少ない助っ人のパートを演じるバジー・フェイトンのメロウなギターの心地良さ♪♪~♪ スティーヴィー・ワンダーの歌とコーラスの味わいは言わずもがな、完全ソロアルバムとしては無残な姿をさらしたポール・マッカートニーの単独初リーダー盤「マッカートニー」は、もしかしたら、こんな音作りを目指していたのかなぁ? なんて妄想も浮かんでくる完成度です。

そうした同系の歌と演奏ては、「I Love Every Little Thing About You」も最高の極みつきですし、これも多くの歌手にカバーされている「輝く太陽」の爽やかフォークの香りは絶品です♪♪~♪ キーボードがギターのアルペジオっぽいスタイルを演じているのも高得点でしょう。

また後年、昭和歌謡のAORで存分に焼き直された「Girl Blue」の胸キュン度も相当に高いですねぇ~♪ その意味では泣きの歌いまわしが心に染み入るスローな「Seems So Long」も良い感じ♪♪~♪ これはジャズっぽさも隠し味になっています。

気になる黒っぽさというあたりは、「Keep On Running」でクラビネットがグビグビに唸り、ドラムスがモータウン所縁のファンキーなピートを再現して、まさにスティーヴィー・ワンダー流儀のファンクな世界が原石で提供されています。

あと開放的なメロディが楽しく、さらに曲構成にも凝った「Sweet Little Girl」は、白人AORやファンキーロックとして多くの追従者が出たほどの隠れ名演だと思います。

そして大団円は厳かにして涙そうそうという「Evil」が、何ゆえにこの世の不幸を作り出すのか、せつせつと悪魔に語りかけるスティーヴィー・ワンダーの熱い歌唱とせつないメロディの完全融合という、実に感動の名曲名演です。

ちなみにこうしたアルバムを制作したスティーヴィー・ワンダーの意図は、つまり自分の好きな音楽をやりたいということでした。そして長年在籍していたモータウンとの契約が終了した1971年、あえて自主制作でこのアルバムの音源を録音し始めたのです。

それには当時の妻で歌手でもあったシリータ・ライト、またシンセサイザーや各種キーボードを新規開発していた数名のスタッフの協力もあって、それまでの本拠地だったデトロイトからニューヨークへとスタジオも代え、あくまでもスティーヴィー・ワンダー自身の音楽を追求していく、新しい挑戦でした。

このアルバムがそれほどR&Bになっていないのは、おそらくはその所為でしょう。しかしそれこそが、新しい時代のソウルミュージックであったことは、以降、次々に発表されていく傑作で明らかです。

その意味からしても、このアルバムにはスティーヴィー・ワンダーの本質が絶対にあるはずで、まさに聴かず嫌いは勿体ない!

もちろんスティーヴィー・ワンダーはキーボードの他にも得意のドラムスや泣きのハーモニカを存分に聞かせてくれますし、なによりも全編に満ちるハートウォームな雰囲気の良さは最高だと思います。

制作当時、スティーヴィー・ワンダーは21歳!

邦題「心の詩」に偽り無しの世界が、このアルバムには確かに感じられ、私はスティーヴィー・ワンダーの全作品中、これが一番好きなのでした。

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ビリー・ウッテンの埋もれていたファンク

2009-02-05 11:38:41 | Soul Jazz

The Wooden Glass Recorded Live featuring Bill Wooten
                                
(Interim / P-Vine = CD)

今ではCD化もされ、レアグルーヴの聖典となったこのアルバムも、実は発表からしばらくの間は「知る人ぞ知る」でした。

そして私がこれを知ったのは1987年のことで、当時アメリカ各地へ3ヵ月ほどの長期出張を命じられた時、友人がその間に探して欲しいレコードの1枚として、渡されたリストの中にあったものです。

とはいっても、そのカタログ番号やレベールの住所までもが几帳面に書かれたリストの中にあって、これだけは「Wooden Glass のライブ盤」としか記載がありませんでした。

そこで友人に詳細を訊ねてみたところ、主役はビリー・ウッテンというヴァイブラフォン奏者で、実はジャケットもカタログ番号も分からないけれど、こんなに熱い演奏だと、カセットテープを渡されました。

いゃ~、その演奏、本当に熱くて火傷しそうですし、一転してメロウなファンクバラードとか、その場のむせかえるような雰囲気の良さも最高です! そして特に眩暈がしそうになるのが、意図的にリミッターが使われたようなドラムスの音の録り方や潰れたような全体のミキシングの加減が、実に結果オーライなんですねぇ~♪

そこでビリー・ウッテンについて、ちょいと調べてみたところ、なんとグラント・グリーン(g) の隠れ名作「ヴィジョンズ (Blue Note)」に参加していたのですから、こんなファンクは十八番という正体が見えてきたのです。

しかし結果的に、当時はこのアルバムを発見することが出来ず、しかしそれでも貰ったカセットはずっと、私の密かな愛聴テープになっていました。

ちなみにそのカセットは当然ながらアナログ盤のコピーだったのですが、友人の元テープさえもカセットコピーであり、私の手元にきたものは、そのさらに孫か曾孫のコピーということで、音質も尚更に潰れていたわけですが、それが逆に良い味になっていたというわけです。

さて、肝心の本元の録音は1972年、インディアナポリスのクラブ「The 19th Whole」でのライブセッションで、メンバーはビリー・ウッテン(vib)、エマヌエル・リギンズ(Organ)、ウィリアム・ローチ(g)、ハロルド・カードウェル(ds,per) という4人組から成る、これがザ・ウドゥン・グラスというバンドだったようです。

そのあたりの経緯は、5年ほど前に出た本日ご紹介のCD付属解説書に掲載の本人インタヴューに詳しいわけですが、そのリマスターも長年聴いていたカセットコピーの音とは一線を隔したものですから、私にとっては違和感が強いところも……。

01 Monkey Hips And Rice
 いきなりドカドカ煩いファンクピートが全開のスタートから、ビリー・ウッテンのヴァイブラフォンがテーマメロディをリードし、ワウワウのリズムギターや熱気優先のオルガンが濃厚な味をつけていく展開に、心底シビレます。
 既に述べたように録音の具合からでしょうか、意図的か偶然かは判然としませんが、ハウス系というか、ヒップホップっぽい音で録られたドラムスの音が良い感じ♪♪~♪
 またニューソウル丸出しのギターソロや歪んでシンセぽい音になっているオルガンの熱気も、完全に私好みですから、自然に腰が浮いてきます。
 肝心のビリー・ウッテンは失礼ながら、それほど際立ったフレーズやアドリブ構成を聞かせてくれるわけではありませんが、その本気度はなかなかのもので、観客からも拍手喝采のソロパートは熱いです。
 そしてなによりもバンドの一体感が強い印象を残していますから、愛好者ならば、この1曲だけ完全に虜の名演だと思います。

02 We've Only Just Begun
 熱狂の拍手喝采の中でメロウに演奏されるのが、カーペンターズでもお馴染みというソフトロックの大名曲ですから、たまりません。ゆったりとしたグルーヴが絶妙のおもわせぶりとジャストミートした、これも名演だと思います。
 特にドラムスのドンツカのノリと音の響きが、ビリー・ウッテンの素直なヴァイブラフォンには最高の相性ですし、バンドアレンジも良く練られたシンプルな良さがありますねぇ~♪
 う~ん、確かこんなアレンジの歌が、井上順のシングル曲にあったような……♪
 心底、和んでしまうハートウォームなソウルが素敵です。

03 Joy Ride
 これまたファンクな8ビートが冴えまくったコテコテな演奏で、オルガンのアドリブを聴いていると、なんとなくハードロックのバンドのような感じさえしますが、全体のグルーヴの黒っぽさは完全なジャズ、それも黒人系ど真ん中の熱気に満ちています。
 疾走するギター、ドタバタに暴れるドラムス、ドライなファンクを発散させるヴァイブラフォン、そして歪んだオルガンがゴッタ煮となって作り出される旨みは、まさに唯一無二! こんな名演が長い間埋もれていたんですねぇ~、という感慨が深くなりますよ。

04 In The Rain
 ワイワイガヤガヤの店内のざわめき、それをブッタ斬るようなオルガンとギターのプログレな爆発音、そして流れてくるソフト&メロウなテーマメロディ♪♪~♪ 相変わらずズシズシバタバタのドラムスが、本当に素敵ですよっ♪♪~♪
 ちなみにこれを書いたのはビリー・ウッテンとクレジットされていますが、どっかで聴いたことがあるような……。
 まあ、それはそれとして、ツボを押さえたオルガンやメロディのキモを大切にしたヴァイブラフォンが、まさにフィール・ソー・グッドです。

05 Day Dreaming
 そして間髪を入れずに始まるのが、アレサ・フランクリンが自作の大ヒット曲ですから、ここでも油断は禁物です。ただし、ちょいと落ち着きの無い演奏が賛否両論でしょうか……。個人的には、もう少し粘っこいテンポだったらなぁ……、なんて思います。
 厳しいことを言えば、演奏全体が些か走り気味とはいえ、そこから醸し出される熱気は流石の痛快さが結果オーライかもしれませんね。

06 Love Is Here
 ダイアナ・ロスとシュープリームスでお馴染みのモータウン製ヒットメロディが、こんなに熱い演奏に! グルーヴィな4ビートを、さらに黒っぽく煮詰めていくバンドの勢いが圧巻ですよっ!
 オルガンのフットペダルとドラムスのコンビネーションで作りだされるグイノリのウォーキングも重量感がありますし、ビリー・ウッテンも正統派ジャズにどっぷりの実力を完全披露の熱演を聞かせてくれます。
 そしてその場の観客の熱狂も天井知らずの勢いでバンドを後押ししますから、これぞライブの醍醐味が存分に楽しめると思います。

ということで、まさにレアグルーヴの聖典となるに相応しいアルバムだと思います。そしてこれが長い間埋もれていた真相は、なんとビリー・ウッテンの自主制作盤だったんですねぇ~。ちなみに本人はニューヨーク出身らしいのですが、1970年前後にグラント・グリーンのバンドレギュラーを務めた後、諸事情からインディアナポリスに定住し、地元のクラブをメインに活動していくことになったそうですから、さもありなんの話ですが、実に勿体無いと思います。

当然ながら、私はこのアルバムのオリジナルは見たことがありませんし、そのアナログ盤の実際の音も聴いたことがありません。ですから前述したカセットコピーの団子状の音に夢中になって親しんでいた私としては、このCDの分離のはっきりしたステレオミックスには多少の違和感を覚えるのですが、しかし録音のミソであるガサツな熱気やシカゴ系ファンクな雰囲気のドラムスの音あたりは、確実に楽しめると思います。

さて、このCDにはオマケがあって、それは――

07 Madlib / 6 Variations Of In The Rain

なんですが、これはサンプリングネタの見本みたいな、私が特に好まない音なんで、割愛させていただきます。

率直に言えば、メインの6曲だけは、ぜひとも聴いて熱くなる演奏ということでした。

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無理を承知のハンク・モブレー

2009-02-04 11:54:20 | Jazz

Breakthrough! / Cedar Wakton & Hank Bobley (Cobblestone)

人は皆、波乱万丈、人生の浮き沈みは常ですが、1950年代からモダンジャズのスタアプレイヤーとして大活躍したハンク・モブレーにしても、その活動期間中には健康問題でリタイアした時期もあり、そして1970年代に入ると、急速にその影が薄くなっていきました。

このアルバムはハンク・モブレーにとって、公式に最後のリーダー作と言われるものですが、ジャケットにクレジットされているとおり、どちからと言えばシダー・ウォルトンにリーダーシップを委ねた感があります。

録音は1972年2月22日、メンバーはハンク・モブレー(ts)、チャールズ・デイビス(bs,ss)、シダー・ウォルトン(p,el-p)、サム・ジョーンズ(b)、ビリー・ヒギンズ(ds) という気心の知れた面々です。

A-1 Breakthrough
 ハンク・モブレーの超人気盤「Dippin' (Blue Note)」でも演じられていた、痛快なハードバップのブルース! もちろんここでも豪快なビリー・ヒギンズのドラムスにリードされたカッコ良いテーマから、チャールズ・デイビスのブリブリのバリトンサックスがアドリブの先発を務めます。
 と、書きたいところなんですが、録音がヴァン・ゲルダーではない所為でしょうか、チャールズ・デイビスのバリトンサックスの音に芯がイマイチ感じられず、逆に何時もはパワフルでなめらかなハンク・モブレーのテナーサックスが、ギスギスした音になっているのは???
 う~ん、もしかしたら、ハンク・モブレーはマウスピースやリードを変えたのかもしませんね。アドリブそのものも、十八番の流れるようなフレーズではなく、幾分考えすぎたような、全く「らしく」無い構成で、思わず行き詰まったような場面さえ……。
 そんなわけですから、ビリー・ヒギンズを要としたリズム隊が掛け声も入ったハートウォームな力演サポートで良い感じ♪♪~♪ そしてハンク・モブレーが少しずつ調子を上げていく展開には、私のようなモブレーマニアは一喜一憂じゃないでしょうか♪♪~♪
 さらにシダー・ウォルトンが上り調子だった当時の勢いを如実に証明する颯爽としたアドリブを披露! クライマックスでソロチェンジを演じるビリー・ヒギンズの熱血漢ぶりも微笑ましく、やはりハードバップこそがモダンジャズの王道だと痛感されるのでした。

A-2 Sabia
 ソフトなボサロックで、シダー・ウォルトンのエレピが心地良いのですが、その素敵なメロディをチャールズ・デイビスのバリトンサックスにリードさせたのは??? しかもハンク・モブレーがそこに彩りを添えるだけという……。
 しかしビリー・ヒギンズのドラミングは快調ですし、シダー・ウォルトンのエレピには、心底リラックスさせられますねぇ~~♪

A-3 House On Maple Street
 という前曲の勿体無さをブッ飛ばすのが、このヘヴィな演奏!
 如何にも当時という思わせぶりなイントロとテーマのバンドアンサンブルから、グイノリの4ビートで展開されるシダー・ウォルトンのエレピのアドリブ、そしてチャールズ・デイビスのソプラノサックスには、モードの味が全開です。
 そしていよいよ登場するハンク・モブレーは、ブルーノート後期の諸作で聞かれたような、無理を承知のモード節ですから、あの魅力的なタメとモタレを自己封印……。う~ん、なんだかなぁ……。
 ちなみに1970年代前半のハンク・モブレーは、特に我が国のジャズ喫茶とか評論家の先生方から、時代遅れの象徴の如く扱われていましたし、実際、こんな無理な背伸びが無残な醜態と受け取られかねない演奏は、それを証明する結果となっていました。
 つまり当時の注目株はスティーヴ・グロスマンとかデイヴ・リーブマンのような、所謂コルトレーン流儀の音符過多なスタイルで吹きまくるのが最高とされていたのですから、ハンク・モブレーにしてみれば……。
 そう思えば、このセッションでのテナーサックスの音色がハードなものに変化しているのも、意図的だったのでしょうか? ちょっと胸が潰れるような気持ちです。 

B-1 Theme From Love Story
 おぉ~、これは当時の大ヒット映画「ある愛の詩」のテーマ曲としてお馴染みのメロディですね♪♪~♪ それをモード風味のイントロからシダー・ウォルトンのピアノが上手い具合にフェイクし、さらに疑似ボサロックとグルーヴィな4ビートをミックスさせた演奏にしています。
 実はこれ、当時のジャズ喫茶では隠れ人気となっていた店もあったほどですが、なんか面映ゆい心地良さが確かにありましたですねぇ~~♪
 こういう臆面の無さがシダー・ウォルトンの憎めないところだと思います。

B-2 Summertime
 有名スタンダードのメロディを重苦しく吹奏するハンク・モブレーの胸中や如何に!?
 そうとしか思えない冒頭からのテナーサックスの独白には、ちょっとせつないものが滲みますが、リズム隊を呼び込んでからはグルーヴィなムードが自然体で横溢し、そのハードな展開は、なかなかに熱いです。
 何よりもハンク・モブレーが相当に意欲的な姿勢で、新しいフレーズを模索しつつ聞かせるジャズ魂がダイレクトに伝わってくるのです。そしてそれが決して成功とは言えないまでも、これにはモブレーマニアも涙の共感を覚えるんじゃないでしょうか。
 私は好きです、と愛の告白を!

B-3 Early Morning Stroll
 そしてオーラスは、如何にもハンク・モブレーという分かり易いリフを使ったモード系のオリジナル! アップテンポでイケイケの姿勢が熱いリズムセクションと爽快に居直ったフロントのサックス陣が、これでどうだっ!
 チャールズ・デイビスのソプラノサックスは、このセッションに限って言えば、バリトンサックスよりも痛快なフレーズの連発ですし、ハンク・モブレーも1960年代ブルーノートの雰囲気を大切にしつつ、さらに新しいツッコミまで披露する意気地のアドリブですよっ!
 もちろんリズム隊も快調至極で、ビリー・ヒギンズのリムショットも交えたシャープなドラミング、サム・ジョーンズのハードなベースワーク、安定と進化のシダー・ウォルトンという個性を全開させた快演には、溜飲が下がります。

ということで、ハンク・モブレーの相当に無理した姿勢は賛否両論かもしれませんが、これが実質的に最後のリーダー盤という感慨も含めて、やはり一度は聴きたいアルバムじゃないでしょうか?

ちなみに最初に発売されたのは掲載したコブルストーン盤でしょうが、直ぐにミューズから別ジャケットで再発されたとおり、当時はかなりの人気がありました。しかしハンク・モブレーが堂々と再評価された1970年代末頃からは、ほとんど市場から姿を消してしまったのが残念です。CD化はされているんでしょうか……。

ただし、1960年代までの全盛期ハンク・モブレーを期待するとハズレます。既に述べたように、新しいチャンレンジ精神は旺盛ですが、明らかに自らの資質と異なる方向への挑戦は、率直に言えば、せつないものが漂います。

さらに本人の健康問題もあったらしく、このアルバムを出した後からは、その消息が途絶え、ずいぶんと悲しい噂もあったほどです。

しかし私には、これがどうしても捨てることの出来ない愛聴盤ということで、ご理解願います。

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嵐を呼ぶリッチとローチ

2009-02-03 11:25:07 | Jazz

Buddy Ruch versus Max Roach (Mercury)

日本屈指の音楽映画「嵐を呼ぶ男(昭和32年・井上梅次監督)」は、石原裕次郎の代表作にして日活を経営危機から救った大ヒット作ですが、そのハイライトはドラム合戦でした。

チンピラドラマーの石原裕次郎が、華麗なテクニックを誇る人気ドラマーの笈田敏夫と対決するステージでは、喧嘩で手を痛めている石原裕次郎が肝心な時にスティックを落としてしまい、窮余の一策で「おいらは、ドラマ~、ヤクザなドラマ~♪♪」と即興で歌うシーンが、もう最高でしたよねぇ~♪

というように、映画「嵐を呼ぶ男」は、モダンジャズが全盛期だった当時の我が国芸能界を舞台にしていたので、ナイトクラブではカッコ良いバンド演奏やセクシーなダンサーのバックの仕事とか、とにかく素敵な場面がいっぱいという、サイケおやじが大好きな作品です。

さて、本日ご紹介の1枚は、そんなドラム合戦の興奮を楽しめる豪快なアルバムで、主役は神業ドラマーのバディ・リッチとモダンジャズの創成に大きく関与した剛腕ドラマーのマックス・ローチが、各々のハンドを率いて全面対決!

しかもステレオ録音の特性を活かしきった左右からの一騎打ちが痛快至極です。

まず左チャンネルに位置するのがバディ・リッチ(ds) のバンドで、メンバーはウィリー・デニス(tb)、フィル・ウッズ(as)、ジョン・バンチ(b)、フィル・レシン(b) という凄腕揃い! そして右チャンネルに位置するマックス・ローチ(ds) のバンドは、トミー・タレンタイン(tp)、ジュリアン・プリースター(tb)、スタンリー・タレンタイン(ts)、ボビー・ボズウェル(b) というレギュラー陣です。

ちなみに録音は1959年4月7&8日、アレンジをジジ・グライスが担当しているのも、セッションをビシッと引き締めた要因でしょう。

A-1 Sing, Sing, Sing
 ベニー・グッドマン楽団の十八番にして、人気ドラマーのジーク・クルーパーが大活躍する代名詞ですから、まさにドラム合戦には、これしかないの演目ですねっ!
 グルーヴィなイントロからウキウキするテーマリフを挟みつつ、まずはバディ・リッチが挨拶代わりのストレートなドラムソロ! すると最終パートからマックス・ローチが滑り込み、ウォーキング・ベースを従えてのポリリズムドラミングで応戦するという展開ですが、もう、このあたりで2人のドラマーのスタンスの違いを鮮明にさせたプロデュースは流石だと思います。しかも違和感が全く無いのは、ジジ・グライスの秀逸なアレンジの賜物でしょうね。

A-2 The Casbah
 ジジ・グライスが書いた日活キャバレーモードのラテンジャズですから、エキゾチックなメロディと妖しいムードが横溢した名演が楽しめます。とにかく2人の天才ドラマーが敲き出すラテンビートの混濁した楽しさは、流石ですねぇ~♪ 今にも白木マリが踊りながら出てきそうな雰囲気が最高です。
 メンバー各人の出番も用意され、テーマメロディをリードするフィル・ウッズやスタンリー・タレンタインは素晴らしい魅力を発散していますし、ジュリアン・プリースターも好演です。
 そして肝心のドラム対決は互いに相手の出方を見極めての協調性も感じられる、なかなか全体を大切にした展開ではないでしょうか。

A-3 Sleep
 今度はアップテンポで両ドラマーがブラシの妙技を競った痛快演奏!
 アドリブパートではフィル・ウッズ、ウィリー・デニス、スタンリー&トミーのタレンタイン兄弟からジョン・バンチのピアノへとソロがリレーされますが、その背後ではバディ・リッチとマックス・ローチが匠の技を完全披露していて、やはりそちらに耳がいってしまいます♪~♪♪ 

A-4 Figure Eights
 これは完全なるドラム合戦のトラックで、バディ・リッチが先発で華麗な技を披露すれば、それをマックス・ローチが受けて立つというか、かなり挑戦的なドラミングで対決姿勢を露わにする展開がスリル満点!
 まさに両者の意地とメンツが激突していますが、お互いに尊敬の念と信頼関係があるのでしょう、決してギスギスしていない素直な興奮が生まれていると感じます。
 う~ん、それにしてもステレオ録音の素晴らしさ! このレーベルならではの明るくパンチの効いた音作りは迫力がありますし、こういうセッションこそ、ステレオミックス盤を入手して正解だと思います。

B-1 Yesterdays
 原曲はちょいとブルーなムードの有名スタンダードですが、それを豪快なハードバップにアレンジし、両バンドが親分のメンツをかけて激しく対決した名演になっています。まずはテーマ合奏のアンサンブルからしてワクワクしますねぇ~♪
 そしてマックス・ローチのヘヴィ級ドラムソロにはバディ・リッチがカウベルで絡み、それがラテンビートへと変質したところで、いよいよバディ・リッチが爆裂のスティックを披露すれば、今度はマックス・ローチが怖いアフリカンビートで背後から襲いかかるという、実に濃密な展開です。
 そして後半はフィル・ウッズ、ウィリー・デニス、スタンリー・タレンタイン、ジュリアン・ブリースターが短いながらも瞬発力鋭いアドリブを聞かせてくれますから、最後のアンサンブルからのフェードアウトが勿体無い限りです。
 いゃ~、凄い演奏だと思います。

B-2 Big Foot
 チャーリー・パーカーが十八番のブルースは、これぞモダンジャズ本流のグルーヴィなハードバップが存分に楽しめます。もちろんマックス・ローチは得意分野ですから、ポリリズム系の4ビートは痛快ですし、バディ・リッチのほとんどドラムソロというパッキングもジャストミート! バンドメンバー達の熱いアドリブにも対決姿勢が鮮明です。
 そして、いよいよ始まるドラム合戦は、ヤケッパチ寸前という両者の勢いが逆に微笑ましく、ラストのバンドアンサンブルもジャズという娯楽の醍醐味を満喫させてくれるのでした。

B-3 Limehouse Blues
 これもジャズスタンダード曲ながら、例えばキャノンボール・アダレイとジョン・コルトレーンのバトルアルバムでも演じられたように、けっこう対決セッションには欠かせない演目かもしれませんね。
 ここでも火傷しそうな両バンドの対決が実に強烈! 親分のドラムスがイケイケですから、子分達も手抜きは厳禁というアドリブが激ヤバです。かなり危なくなっている場面もありますが、流石はリズムとビートの大御所が敲いているだけに、ビシッとしたスジの通し方は見事だと思います。

B-4 Toot, Toot, Tootsie Goodbye
 そしてオーラスも、これまたアップテンポの全力疾走で、マックス・ローチのシンバルとバディ・リッチのスネア対決から両者の激烈ドラムバトルが、これでもかと楽しめます。
 その丁々発止の技の応酬、意地のぶつかりあい、テクニックとビュアハートの対決は、まさに嵐を呼ぶ男状態ですよっ!

ということで、ジャズの演奏におけるドラムソロは、長すぎると飽きたりする私にしても、このアルバムで聴けるドラム合戦には素直に心が踊ります。

とにかくバディ・リッチの強烈なマシンガンドラミングは圧巻ですし、マックス・ローチのヘヴィでシャープなビート感の強さも流石の名演!

う~ん、またまた「嵐を呼ぶ男」が観たくなりました。

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マクリーンの無愛想な過激盤

2009-02-02 10:09:47 | Jazz

Right Now! / Jackie McLean (Blue Note)

ジャッキー・マクリーンは歴史的に云々される存在ではありませんが、モダンジャズ全盛期を大いに面白くした人気者ですよね。その「青春の情熱」としか形容出来ないアルトサックスの泣き叫び、せつない心情吐露、やるせない思いを激白したようなアドリブソロには、何時も胸が熱くなるサイケおやじです。

このアルバムは数多いジャッキー・マクリーンのリーダー作の中では、比較的忘れられがちな1枚ですが、その内容は思いっきりの良いワンホーン演奏!

録音は1965年1月29日、メンバーはジャッキー・マクリーン(as) 以下、ラリー・ウィリス(p)、ボブ・クランショウ(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds) という新進気鋭のリズム隊も魅力的です。

A-1 Eco
 簡単なリフというよりも、ジャッキー・マクリーンがキメに使っているアドリブフレーズから作られたようなオリジナル曲で、アップテンポの痛快な演奏が繰り広げられています。
 とにかくシャープで躍動的なクリフォード・ジャーヴィスのドラミングを筆頭に、鋭い感性で必死の追走を聞かせるリズム隊と激情の爆発としか言えないジャッキー・マクリーンのアルトサックスが、文字通りに暴走しまくっていますよっ!
 ちなみにラリー・ウィリスは当時、ジャッキー・マクリーンに見出されて第一線に出たばかりということで、モード系のスタイルを基調にした真摯な演奏姿勢は良い感じ♪♪~♪ また、フレディ・ハバードのバンドレギュラーも務めるクリフォード・ジャーヴィスのドラミングも、本当に爽快ですよ。

A-2 Poor Eric
 ラリー・ウィリスが書いた哀切のバラードで、一説によるとエリック・ドルフィーに捧げられたと言われていますから、まさにジャッキー・マクリーンの資質にはジャストミート! もちろん、あのせつない音色とギスギスしたフレーズ展開が特有の「マクリーン節」が全開となった、隠れ名演の極みつきが聞かれます。
 沈んだムードをヘヴィなビートで支えるボブ・クランショウのペースにも地味な良さがあり、ラリー・ウィリスの美しいピアノタッチとクールな感性が醸し出す深い味わいアドリブも秀逸! 似たようなスタイルのハービー・ハンコックのような完成美はありませんが、逆にフレッシュな印象は感度良好だと思います。

B-1 Christel's  Time
 これもラリー・ウィリスのオリジナル曲で、今度は一転して激しくドライブした演奏が最高です。あぁ、テンションの高いテーマアンサンブルからして、歓喜悶絶ですねぇ~♪
 最初っから全力でブッ飛ばすジャッキー・マクリーン、それをビシバシに煽るクリフォード・ジャーヴィスの熱血ドラミング、揺るぎないビートを支えるボブ・クランショウ、そして弾ける若さのラリー・ウィリスというバンドが一丸となった自己主張こそが、モダンジャズ最良の瞬間かもしれませんねぇ~♪
 こういう何のヒネリも思惑も感じられないストレートな演奏、私は大好きです。

B-2 Right Now
 ちょっと疑似ジャズロックのような味わいも深いアルバムタイトル曲は、同じくジャッキー・マクリーンの子分だったチャールズ・トリバーのオリジナルということで、モード系の熱くてヘヴィな爽快演奏になっています。
 それはテンションが高すぎてアブナイ雰囲気満点というリズム隊の大奮闘、そして負けじと好き放題に吹きまくるジャッキー・マクリーンの物凄さ! これを聴いて熱くならないファンは皆無と思われるほどですが、サビで一瞬の和みが表出する曲の構成が、これまた絶妙なんですねぇ~~♪

ということで、非常にハードな演奏集です。妥協なんて甘い言葉は、このアルバムには無縁だと思いますねぇ。それゆえにジャズ喫茶では相当な御用達になっていた店もあるほどでしたし、これが鳴りだすと、思わず飾ってあるジャケットを見るお客さんも珍しくありませんでした。

ただ、このアルバムが不幸なのは、自宅鑑賞に向いていないということでしょうねぇ……。実際、私も好きなのに長い間、入手するのを躊躇っていました。しかし内容は、やっはり痛快なモダンジャズの真髄で、こういうハードな雰囲気って、どんな世界でも必要だと思うんですよ。

しかもそれは決してフリーとかデタラメじゃなくて、ある意味では同時期のジョン・コルトレーンの諸作よりも、ずっと聞き易いはずです。アルバム全体に直球勝負の快感があるんですねぇ~♪

愛想の無いジャケットデザインも、そうした中身を端的に表現しているようで、逆に潔い感じです。

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エリック・クロスは直流電気

2009-02-01 12:30:17 | Jazz

In The Land Of The Giants / Eric Kloss (Prestige)

音楽界には盲目の才人が大勢いますが、白人サックス奏者のエリック・クロスもそのひとりとして、十代の頃から立派なモダンジャズのリーダー盤を出しています。

なにしろ1965年にデビューアルバムを作った時が16歳でしたし、以降、プレスティッジとミューズの両レーベルで1979年頃まで行われたセッションの共演者達は、いずれも超一流の名手ばかりでした。

本日ご紹介の1枚も凄いメンツが大集合! エリック・クロス(as) を主役にしながらも、ジャッキー・バイアード(p)、リチャード・デイビス(b)、アラン・ドウソン(ds) という、同レーベルではブッカー・アーヴィン(ts) の諸作におけるリズム隊の参加に絶大な魅力があり、しかもブッカー・アーヴィン(ts) 本人までもが、4曲で加わっていますから、告白すると私はエリック・クロスよりも、ブッカー・アーヴィンとリズム隊が完全なお目当てだったのです。

ちなみに録音は1969年1月2日とされていますから、時期的にはロックジャズも期待していたのですが、まあ、このメンツならば極めて硬派な演奏に纏められています。

A-1 Summertime
 あまりにも有名なジョージ・ガーシュインの名曲がクールに熱く演奏されています。
 それはまずジャッキー・バイアードが幾分重苦しく、しかし清涼なソロピアノでのメロディフェイクからスタートし、リチャード・デイビスの唯我独尊のペースとエリック・クロスのアルトサックスによるデュオ、そしてドラムスがそこに忍び寄ってビートを加味し、ついにはピアノが舞い戻って、熱いバンド演奏となるのですが、それにしてもエリック・クロスのアルトサックスは浮遊感と過激な音選びが強烈な印象で、明らかに新主流派!
 そして中盤からはテンポがグッと早くなり、リズム隊が容赦無い自己主張を全面に出せば、一歩も引かないエリック・クロスという構図からして、もう、その場はフリーに限りなく接近していくのですが……。
 否、そうは言っても纏めるところは、きっちりと「おとしまえ」がつけられていますよ。
 ちなみにエリック・クロスのアルトサックスは激してくるとブッカー・アーヴィン系のスタイルになってしまうんですねぇ~、ここではっ!? しかしブッカー・アーヴィンも流石の貫禄と存在感を示していますから、非常に興味深い展開だと思います。

A-2 So What
 これもマイルス・デイビスの歴史的な演奏で有名なモードの定番曲ですから、あの印象的なベースのリフから応答するホーンの叫び、またオリジナルよりもグッとテンポが早くなっています。
 そしてアドリブパートでは先発のブッカー・アーヴィンが過激に全力疾走! 脂っこいフレーズを猛烈に積み重ね、投げっ放しのバックドロップみたいなストレート系の破壊力を存分に披露しています。
 しかしエリック・クロスは全く怯むことなく、空間を自在に浮遊し、さらに激情の泣き叫びですよっ! ほとんどエリック・ドルフィーが蘇ったかのような錯覚もあるほどですが、さらにはアルバート・アイラーの如き魂の蠢き、そしてチャーリー・パーカー直伝のドライブ感という基本の中の基本も大切にされています。
 もちろんリズム隊も怖さが爆発! 特にジャズの伝統とフリーなデタラメを巧みにミックスさせたジャッキー・バイアードのサービス精神には、嬉しくなりますねぇ~♪ 自分を曲げないリチャード・デイビスも流石だと思います。

B-1 Sock It To Me Socrates
 エリック・クロスのオリジナル曲で、変態ジャズロックの醍醐味というか、一筋縄ではいかない熱いグルーヴが強い印象を残します。とかにくリズム隊がヘヴィなんですよねぇ~♪
 そしてエリック・クロスとブッカー・アーヴィンも進んで迷い道に入っていく感じですから、演奏はどうしてもリズム隊がリードしていく雰囲気です。特にリチャード・デイビスのペースが大暴れ! 

B-2 When Two Lovers Touch
 これもエリック・クロスのオリジナル曲ですが、ちょっと不思議なテーマメロディが印象的です。そして疑似ボサロックのビートが、これまた落ち着かない気分にさせてくれるのですが……。
 しかしエリック・クロスはジコチュウの極みというか、少しばかりポール・デスモンドのような音色も含んだアルトサックスで、浮遊しては地獄へ落ちるようなアドリブを……。
 う~ん、これが当時の最先端なんでしょうねぇ~。
 リチャード・デイビスのペースが逆に物分かりの良い雰囲気です。

B-3 Things Ain't What They Used To Be
 そしてオーラスはデューク・エリントン楽団の楽しいヒット曲が和気藹々に演奏されます。
 それは勢い満点のテーマ合奏、温故知新の伴奏を存分に聞かせるジャッキー・バイアードの大ハッスルからして良い感じ♪♪~♪ 続くアドリブパートでは先発のエリック・クロスがエリック・ドルフィーに捧げたような心情吐露ならば、ブッカー・アーヴィンが意地を爆発させたかのような全力疾走ですよっ!

ということで、幾分とりとめのない演奏ばかりかもしれませんが、ブッカー・アーヴィンの熱血は言わずもがな、エリック・クロスの強烈なジャズ魂とアドリブへの情熱が凄いです。とにかく「猛烈」なんですよ。

ですから、聴いていて疲れるのも確かですし、「和み」なんてものは皆無でしょう。我が国では人気があるなんて話は聞いたこともありませんし、実際、ジャズ喫茶でも鳴る機会は極端に少ないサックス奏者だという印象しかありません。

1980年代に入ると、なぜか忽然と消えてしまったエリック・クロスは、やはりジャズが熱かった最後の時期という、フュージョンブーム前の人なんでしょうねぇ……。サイケおやじにしても、このアルバムがエリック・クロスの初体験盤でしたし、何枚かリーダー作を聴きましたが、やはり疲れるタイプでした……。

しかし、その直流電気のような感性は、やはり貴重ですし、今となっては相当に過激なロックジャズ演奏も残していますから、再評価が望まれるのかもしれません。

コメント (2)
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