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私の戦争体験 8  へそ曲がり

2007年10月27日 21時50分30秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など
名古屋大空襲1の1 

1945年3月、当時わたしの家は、中区の東別院、ここの南側を東西に走る100メートル道路のちょうど南端に当たるところにありました。
 あの道路のところは住宅が密集していましたが、強制立ち退き命令が出たため、住民は退去し、建物はすべて壊されました。
 戦車がやって来てバリバリと建物を壊したり、兵隊たちが柱にロープを掛けて引き倒し合う光景を二階の窓から見ていました。

 壊した後に一軒に1つずつ防空壕が作られました。地面を掘り板を渡し、その上から土を被せるといったものです。ここで「東南海地震」や「三河地震」を体験しています。
 
 さて、3月12日の深夜だったか、寝ているところを母から起こされました。“今夜はいつもと違って変だ。危ないからすぐに防空壕に入りなさい。”という指示です。
 ラジオからアナウンサーの声が繰り返し聞こえました。“中部軍管区情報、東海道地区、空襲警報発令”。なぜか、この言葉は鮮明に記憶しています。
 兄たちと一緒に防空壕に何時間入っていたでしょか、父がやって来て、“ここは危ないから子どもたちだけで逃げろ。”と、長兄に命じていました。
 両親というより大人は勝手に逃げることは許されないのです。消火作業をしなければならないのです。と言っても効果はまったくないのですが・・・・。

 私の家の周辺はまだ燃えていないのですが、別院の建物はすでに燃えています。屋根と太い柱だけが残って、ゴウゴウと音を立てながら揺れています。台風のような強い風が吹いていました。火の粉というより火の塊が地面をゴロゴロ転がったりビュンビュン飛んできます。
 どうして防空頭巾を被るのか、この時やっとわかりました。“前を見るな、下を向いて走れ”との兄の命令です。それぐらい危ないのです。
 
 長男が先頭に立ち、二男が姉と私の手を引き、三男と四男が下着などの衣類が入った乳母車を引いて走るのです。

 下前津のあたりがまだ燃えていないので、そこを通り抜けて鶴舞公園を目指しました。途中、家々の前にあった防火用水を何度も頭から掛けられました。ものすごく臭かった印象です。機銃掃射を受け、何度も汚い溝の中に突き落とされたような記憶もあります。
 後に読んだ本で、空襲した地域の1か所だけをわざと空けて、そこを通り抜けようとした人に機銃掃射を浴びせるという記事があったことも憶えています。
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私の戦争体験 7  へそ曲がり

2007年10月27日 11時49分59秒 | 歴史・戦争責任・戦争体験など
お妾さんと消火訓練

 隣の隣の二階建ての家にきれいな女性が住んでいました。国民学校入学前の私に「カタカナ」の文字を教えてくれたやさしい人でした。
 一字憶えるとご褒美にお菓子の「マコロン」をもらいました。今でも、と言っても病気になる前までは、お菓子やさんでこれを見つけると必ず買ったものです。食べるごとに当時が蘇りました。
 どんな人だったか。母の話では“お妾さん”ということでした。

 ある日、このお妾さんの外出中に町内の消火訓練がありました。対象の建物は、二階に住む彼女の部屋でした。彼女にはそのことが知らされていなかったようでした。

 訓練が始まりました。当時、それぞれの家の前には消火用の大きな天水桶が置かれていて、その上には何個かのバケツが乗せてありました。雨水を利用するため、ぼうふらが湧いたり、腐った臭いがしたりしました。これを使ってバケツリレーをして放水するのです。また、当時の家の窓は「障子」になっているところも多くありました。

 事前に知らされていない彼女の家は雨戸が閉まっているわけでもなく、障子のままでした。そこを目掛けて臭い水を掛けるのです。部屋の中がどうなったかは容易に想像出来ますね。

 終わった後、帰っていく男性たちの顔はニコニコしていました。“この非常時に!”という憎悪感があったのでしょう。

 母はこれを止めさせることが出来なかったことをひどく悔いていました。無理もありません。もし、そんなことをしようものなら、たちまち憲兵隊行きです。

 帰宅した時のお妾さんの悲しげな表情がいまでも目に浮かびます。

 なお、このパケツリレーによる消火は、名古屋大空襲では何の役にも立ちませんでした。
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