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NHK経営委員候補に推されて考えたこと②  桂  敬一 

2008年12月03日 17時04分57秒 | Weblog
ジャーナリズム研究者・元東大教授の桂敬一さんの2回目です。
9条を守るうえでも、知っておきたい内容です。
                        (落石) 



2.危機に乗じてNHKを変質させる政界と財界

 NHKの「国営化」を目論む政府・与党:NHKが危機に瀕し、
自分たちで長年培ってきたやり方ではにっちもさっちもいかなくなったとき、
だれがトクをするのだろうか。
そう思うとき、NHKを救う顔をしながら、
これを自分たちの都合のいいものに仕立て上げようとしている二つの勢力に、
注目しなければならない。
一つは、政府・政治家、
もう一つが、情報をグループの主要事業部門に加えようとしている大企業だ。
簡単にいえば政界と財界だ。

 政治の世界では、情報産業への志向が1960年代に
産業構造審議会の場を中心に具体的な動きとなって生じて以来、
政治家が、産業界・財界、官界の意向を受け、一貫してその音頭を取り、
行政が各種の政策のとりまとめ、実行に関わってきた。
その流れは今日も変わらないどころか、
経済の情報化・ソフト化、デジタル情報・メディア事業の中核産業化で
極限に達し、その結節点に現在のNHK「改革」が位置づけられる。

 このような情勢のなかで、政府や政治家の一部は、
1993年の55年体制崩壊を経、とくに小泉政権以降、ポピュリズム政治に傾斜、
プロパガンダ・大衆教化を重んじ、さまざまなかたちでメディアへの
介入・操作を強めるようになっているのが目立つ。
NHKの従軍慰安婦問題を取り扱ったETVの番組改変に
安倍晋三・中川昭一両自民党議員が影響力を及ぼした事件こそ、
その流れのなかで生じたものだ。
そして重要なのは、メディアの言説に直接介入するだけでなく、
NHKに対しては、人事・財政などの面で影響力を及ぼす傾向が露骨となった点が、
無視できない。
人事では端的な例が、安倍政権が古森重隆富士フィルムホールディングス社長を、
前例のない形でいきなり経営委員長に押し込んできたやり方だ。
財政面では、安倍政権の菅総務相が、罰則(法的処罰)付きの支払い義務化と
抱き合わせで受信料を引き下げさせることを提唱していた事実を、
思い出す必要がある。
古森委員長の受信料引き下げの執念は、これと地続きのところにある。
2012年に至り、10%の引き下げが不可能となったとき、
経営委員会は政府の意向を体し、収納率を飛躍的に高めて
この引き下げを実現せよと迫り、
罰則付きの受信料義務化の導入を図るおそれがある。
そうなったら、NHKは体質的な次元で「国営放送」となってしまう。
権力に対するメディアの独立、言論報道の自由は、経営基盤において失われる。


 財界はNHKの「民営化」がぜひとも欲しい:
他方、産業界・財界も、NHKの利用価値を放ってはおかない。
この数年のあいだ、経団連が著作権問題に熱心に取り組み、
総務省・経済産業省・文科省・文化庁などとも協議、
各種のメディアの産物ができたとき、
その著作権を一括処理し、二次段階以降のソフトの流通促進を
図る体制整備に努めてきた動きには、実のところ驚いている。
彼らの関心は、NHKを例に取れば、自分のところ、または関係企業で、
デジタル・コンテンツ配信やそれらのディストリビューション・サービス、
あるいはそれらのための端末機器類の製造販売などを手がけるとき、
NHKと提携、その豊富な番組が利用できれば、
ビジネスに有利だと考えだしている。
そのためにも、厄介なライツ(広範な権利関係)は簡単にクリアできた方がいい。
経団連に結集する大企業がそのような関心を抱くようになっているから、
経団連としても、著作権などという問題に目の色を変えるようになっていたのだ。

 アメリカの昨年来の、いわゆるハリウッド・ストライキ騒動と
いうのを思い出してほしい。
主役は脚本家だったが、彼らは自分たちの利益だけでなく、
舞台演劇領域も含め、俳優、作曲家、演奏家、美術家など、
多数の関係著作権者の利益も、包摂して闘い、
結果的に今年春、アカデミー賞授賞式前に一定の成果―
当初作品の二次段階以降の流通から上がる収益の一定部分を、
自分たちに配分させる成果をかち取った。
残念ながら、日本ではこのような動きが生じず、
また、ハリウッド・ストでは大騒ぎしたくせに、
この成果についてはまったくといっていいほど、
報じなかったのがメディアの実情だ。

 だが、メディアが番組の質を維持、向上させ、
視聴者に良質な報道・番組を提供して信頼をかち得ていくためには、
このようにアーチスト、クリエーターの経済条件も改善、
創造力を高い水準に維持していくための努力を傾けていくことも、必要なのだ。
ところが実態は、どのメディアも、ビッグバンの本格的到来の前に、
だれとでもいい、コンテンツのデジタル配信などで手を組んで先陣を切り、
後発グループに断然水を開けることができるような相手企業があったら、
早く一緒に組みたい、と考えだしているのが実情だ。

NHKは12月から、大河ドラマ「篤姫」など人気の番組を見忘れた視聴者に対して、
1回300円で配信する見忘れサービスを開始する。
これとは別に番組ライブラリーの推薦番組配信もやる。
これには民放も黙っているわけにはいかず、人気番組をひっさげて追随、
同様のサービスを開始するようだ。
このようなNHKの民活化、「民営化」を財界は大歓迎だろう。
なぜならば、それは彼らがそこに参入する機会を、
必然的につくることになるからだ。
受信料収入が低迷、あるいは低落、
NHKが受信料以外の収入拡大に走らねばならなくなるとしたら、
それもまた財界・大企業がNHKに食らいつくチャンスを大きくする。
丸3年後の10%引き下げは、そういう意味をもつことにもなるのだ。

    

 古森委員長の所属企業、富士フイルムは財界では
けっして主流企業とはいえない。
ところが、彼も含めた12月に任期切れとなる4委員の補充のため、
総務省が13日、国会に提出した新任委員候補をみると、
そこには前田晃伸・みずほフィナンシャルグループ社長が含まれていた。
みずほ銀行はNHKのメーン・バンクだ。なんと厚かましいことか。
また、政府は現委員・委員長代行の岩崎芳史・三井不動産販売会長を、
古森委員長退任の後の委員長に就かせる、とする新聞辞令が飛び交っている。
執行部には、アサヒビール元社長の福地茂雄会長、
トヨタ自動車元専務の金田新専務理事が収まっている。
こうやってみると、財界格下の古森氏は、安倍首相の推挽で経営委員長となり、
政界・財界の期待するNHK「改革」の方向付け、
基礎工事をやっただけで引っ込み、いよいよ始まる本格的なNHKの料理に、
財界の大どころの企業関係者が臆面もなく乗り込んできた、
という感じがしてならない。
こんな役員の顔ぶれは、かつてなかったものだ。

    

メデイアがスポンサーに弱いのはなんとなく分かるような気がしますが、
いよいよ政治家と財界がNHKの直接支配に乗り出してきたんですね。
こうした動きは9条を守る運動にとっても見過ごせないですね。(落石)




コメント (3)
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