★加藤氏が2004年7月31日にされた講演を再録します。 (まもる)
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『憲法九条、今こそ旬』 加藤周一 2004・7・31
「九条の会」の最初の呼びかけ人である加藤周一氏は、会を立ち上げた理由として、政治家の間で今「圧倒的な早さで、急激に」憲法改正案が広がっていることを挙げた。
この憲法改正の声を加藤氏は「来るべきものが来た」と、当然のものとして受け止める。憲法が生まれてから半世紀、歴史を追えば、九条の解釈は変わり続け、軍備を増大させてきた。
戦後、日本では最初、軍事に関することは、自衛さえも禁じられていた。それが他国からの攻撃に対する自衛が論じられるようになった。自衛隊の活動範囲は、日本周辺に広がり、今は「イラクは遠いですよね。イラクが可能ならば、ブラジルでもどこでもつまり世界中ということです」と加藤氏は語った。
「なんとか理屈をつけてここまできた」が、「限度までくれば文章、つまり法律を変えるしかない」。改憲にいきつくのは、必然の結果で「何も驚くことはない」と加藤氏は述べた。
憲法解釈の「もう一つの方向」
また、加藤氏は憲法解釈の「方向」に疑問を投げかけ、もう一つの可能性について論じた。日本は軍備を強くする、自衛隊活動を広げる方向にしか動かなかった。しかし、それと対極にある「自衛隊の装備を制限する、活動範囲を狭めようというような方向」で解釈を進めようとすることは一度もなかった。「かつて『逆コース』という言葉があったが、以前の『日本軍』に段々と戻すようになった」と、加藤氏は述べる。
加藤氏はそれを「武装放棄を謳った、独創的で世界でも画期的な憲法に対する反動」と呼び、日本の戦後は保守政党が支配してきたと言われるが、それは制定された憲法に対する明らかな反動政策だったと述べた。「保守ではなく、反動。別の2つの概念である」
加藤氏によれば、軍備を可能にするような解釈をしながら憲法と共に暮らすことが一つの可能性だとすれば、もともとの「憲法の精神を強める、積極的に打ち出す」方向で憲法と共に暮らす可能性もあった。しかし、日本では第1の解釈のみを選択し、第2は実現しなかった。
もし憲法がなかったら
「憲法がなかったら何が起こるかを考える必要がある」と主張する加藤氏は、「おそらくそうなるであろうということを予想できる」として、4点を挙げた。
第1に加藤氏は「集団的自衛権」の問題を取り上げた。「集団」とはどこの集団かと考えたとき、それは、安保条約を結んだ日米集団でしかない。日本とフィリピン、日本と韓国、日本と中国といった「集団」は誰も考えておらず、結局「日米軍事同盟が強化される」ことになる。そして、第2に起こりうるのが「徴兵の問題」。集団的自衛権の関係で、日本だけ徴兵しないというのは難しくなるだろう、と加藤氏は述べる。また、第3点として、軍備が増大すれば、軍産体制が強くなることが指摘された。以前の日本のように軍部の政治への影響が増し、介入するようになる。そして軍事関連企業が圧力団体に成長する。また、第4の問題として、外交面における選択の範囲が狭まることが挙げられた。
加藤氏はもし戦争を望まなければ、軽々しく憲法9条を廃棄して、安保条約を強化することに簡単に踏み込んでいくのは「非常に危険である」と訴え、「今が分かれ道だ」と語気を強めた。「我々(「九条の会」)は、戦争に近づいていく道をとらないほうがいいという立場でいる」
「我々に何ができるのか」
最後に加藤氏は、「我々に何ができるのか」について論じた。一つには、すでに提出したアピールの賛同者を増やすことを挙げ、講演会の参加者に「賛同者を増加するために助けていただきたい」と述べた。
また、議会の中では圧倒的に改憲だが、議会の外、世論調査をすれば、半分以上が「改憲しないほうがいい」という意見を持っており、議会の内と外とでかなりの食い違いがある、と加藤氏は指摘した。加藤氏は「それを狭めることをしなければいけない」と語り、「我々、一般大衆が一番強く意見を言うことができるのは選挙であり、選挙と意見が結びつくことが重要になってくる」と述べた。
「みんなで協力していけば、あるいは希望が出てくるのでは、と私は思います」
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『憲法九条、今こそ旬』 加藤周一 2004・7・31
「九条の会」の最初の呼びかけ人である加藤周一氏は、会を立ち上げた理由として、政治家の間で今「圧倒的な早さで、急激に」憲法改正案が広がっていることを挙げた。
この憲法改正の声を加藤氏は「来るべきものが来た」と、当然のものとして受け止める。憲法が生まれてから半世紀、歴史を追えば、九条の解釈は変わり続け、軍備を増大させてきた。
戦後、日本では最初、軍事に関することは、自衛さえも禁じられていた。それが他国からの攻撃に対する自衛が論じられるようになった。自衛隊の活動範囲は、日本周辺に広がり、今は「イラクは遠いですよね。イラクが可能ならば、ブラジルでもどこでもつまり世界中ということです」と加藤氏は語った。
「なんとか理屈をつけてここまできた」が、「限度までくれば文章、つまり法律を変えるしかない」。改憲にいきつくのは、必然の結果で「何も驚くことはない」と加藤氏は述べた。
憲法解釈の「もう一つの方向」
また、加藤氏は憲法解釈の「方向」に疑問を投げかけ、もう一つの可能性について論じた。日本は軍備を強くする、自衛隊活動を広げる方向にしか動かなかった。しかし、それと対極にある「自衛隊の装備を制限する、活動範囲を狭めようというような方向」で解釈を進めようとすることは一度もなかった。「かつて『逆コース』という言葉があったが、以前の『日本軍』に段々と戻すようになった」と、加藤氏は述べる。
加藤氏はそれを「武装放棄を謳った、独創的で世界でも画期的な憲法に対する反動」と呼び、日本の戦後は保守政党が支配してきたと言われるが、それは制定された憲法に対する明らかな反動政策だったと述べた。「保守ではなく、反動。別の2つの概念である」
加藤氏によれば、軍備を可能にするような解釈をしながら憲法と共に暮らすことが一つの可能性だとすれば、もともとの「憲法の精神を強める、積極的に打ち出す」方向で憲法と共に暮らす可能性もあった。しかし、日本では第1の解釈のみを選択し、第2は実現しなかった。
もし憲法がなかったら
「憲法がなかったら何が起こるかを考える必要がある」と主張する加藤氏は、「おそらくそうなるであろうということを予想できる」として、4点を挙げた。
第1に加藤氏は「集団的自衛権」の問題を取り上げた。「集団」とはどこの集団かと考えたとき、それは、安保条約を結んだ日米集団でしかない。日本とフィリピン、日本と韓国、日本と中国といった「集団」は誰も考えておらず、結局「日米軍事同盟が強化される」ことになる。そして、第2に起こりうるのが「徴兵の問題」。集団的自衛権の関係で、日本だけ徴兵しないというのは難しくなるだろう、と加藤氏は述べる。また、第3点として、軍備が増大すれば、軍産体制が強くなることが指摘された。以前の日本のように軍部の政治への影響が増し、介入するようになる。そして軍事関連企業が圧力団体に成長する。また、第4の問題として、外交面における選択の範囲が狭まることが挙げられた。
加藤氏はもし戦争を望まなければ、軽々しく憲法9条を廃棄して、安保条約を強化することに簡単に踏み込んでいくのは「非常に危険である」と訴え、「今が分かれ道だ」と語気を強めた。「我々(「九条の会」)は、戦争に近づいていく道をとらないほうがいいという立場でいる」
「我々に何ができるのか」
最後に加藤氏は、「我々に何ができるのか」について論じた。一つには、すでに提出したアピールの賛同者を増やすことを挙げ、講演会の参加者に「賛同者を増加するために助けていただきたい」と述べた。
また、議会の中では圧倒的に改憲だが、議会の外、世論調査をすれば、半分以上が「改憲しないほうがいい」という意見を持っており、議会の内と外とでかなりの食い違いがある、と加藤氏は指摘した。加藤氏は「それを狭めることをしなければいけない」と語り、「我々、一般大衆が一番強く意見を言うことができるのは選挙であり、選挙と意見が結びつくことが重要になってくる」と述べた。
「みんなで協力していけば、あるいは希望が出てくるのでは、と私は思います」