(5)「世界経済にアジア時代到来」、その規模 文科系
米大統領選挙とイギリスEU離脱と以降に世界情勢が大転換していくと、多くの論者が語り始めている。ただ、「こういう米英(的金融グローバリズム)の没落」を今まで見つめてきた人でなければ、これの世界史的意味は分からないはずだ。「30年程の長い過渡期から、質的変化が・・・」という今と見えるのである。
昨年秋の中日新聞連載「インタビュー トランプの米国」に、法政大学教授・水野和夫(三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト、内閣府大臣官房審議官などを経て、現職。著書に集英社「資本主義の終焉と歴史の危機」など)が登場し「ゼロ成長を前提に」と名付けた記事があった。そのいくらかを抜粋すると、
『歴史的にみれば外へ外へと広がっていくグローバル化、そして五百年に及ぶ資本主義の限界を示した』
『安全保障政策も、オバマ大統領が「世界の警察をやめる」と言った延長線上にあり、(中略)グローバル化で世界の富を呼び込む戦略を、自らひっくり返そうとしている』
『資本主義を地理的に広げられなくなった後、金融の世界なら成長できるとの見方はあったが、マネーが自己増殖してバブルが崩壊するパターンを繰り返している。そのたびに中間層が没落し、特にリーマン・ショックが決定的だった』
『日本は日中韓プラスASEAN(東南アジア諸国連合)との連携を模索するしかない』
この水野氏の名前を挙げてその議論を意識して、筑波大学名誉教授・進藤榮一はこんなことを語る。ただ念のために言っておくが、水野・進藤両氏とも、「日本は東アジアとこそ連携せよ」という結論は同じだ。
「金利生活者の安楽死」を予言したケインズを採って利子率の長期的低下から資本主義の終焉到来を述べてきた水野和夫らの論は、こういう世界史の側面を忘れているのではないか。先進国がゼロ金利、マイナス金利でも、新興G7は5%金利を続けてきたことを。こうして、プラント輸出なども含めて日米の金、資産も、水とは違ってどんどん高い所へ流れていったと。なお、国際銀行の貸付金にこの逆流が起こったのは04年のこと、アメリカなどのゼロ金利政策が始められた頃であるのが面白い。また、08年のリーマン後は、アジアへのこのお金の流れが激増した。こうして、進藤榮一の結論。
『資本主義の終焉ではなく、資本主義の(東アジアにおける)蘇生だ』
次に、進藤が指摘するアジア資本主義の勃興ぶりの数々を観る。
EUは法優先の統合だったが、アジアは事実としての統合が先に進んでいる。これについては、ある製品を面、部分に分けていろんな国で作ってこれを統合するとか(モジュール化)、その単純部分は後発国に先端部分は日本になどへと発注してコストをどんどん下げるとか、後発国の所得水準をも上げることに腐心しつつ周辺国の一般消費市場を拡大していくとか、等などが進んでいる。この結果としての、いくつかの製品、輸出などの国際比較例も挙げてあった。
先ず2015年の世界に占める自動車生産シェア。アジア・北米・欧州の比率は、51・2%、19・8%、20・2%であり、アジアの内訳は、中国27・0、日本10・2だ。結果として例えば、インドが、新日鉄住金を2位に、中国企業を3~5位に従えた鉄鋼世界一の企業を買い取ったというニュースも、何か象徴的で面白い。ルクセンブルグに本社を置くアルセロール・ミッタル社のことである。
「東アジア主要産業の対世界輸出における各国シェア」という資料もあった。電気機械、一般機械、輸送機械三区分の世界輸出シェアで、1980年、2000年、2014年との推移資料でもある。三つの部門それぞれの、1980年分と2014年分との比較で、日中のシェアを見てみよう。電気は、日本69・7%から11・1%へ、中国は、0・7%から42・8%へ。同じく一般機械では、日本88・6から19・1と、中国1・5から51・7。輸送機械は日本が最も健闘している部分でそれでも、97・4から44・8、中国0・2から18・5。なお、この最後の輸送機械については韓国も健闘していて、0・6から20・8へと、日本の半分に迫っているとあった。
こうして、最終消費地としてのアメリカの役割がカジノ資本主義・超格差社会化によって縮小して、中国、東南アジアの生産と消費が急増し、東アジア自身が「世界の工場」というだけでなく、「世界の市場」にも変容したと述べる。これを更に続けると・・・。例えば日本の東アジアへの輸出依存度を見ると、1985年、2000年、2014年にかけて17・7%、29・7%、44・5%と増えた。対して対米国の同じ依存度は、46・5%、29・1%、14・4%と急ブレーキがかかっている感がある。
ちなみに、世界3大経済圏(の世界貿易シェア)という見方もあるが、東アジアは、アメリカを中心とした北米貿易協定をとっくに抜いて、EUのそれに迫っているのである。2015年の世界貿易シェアで言えば、EU5兆3968億ドル、東アジア4兆8250億ドル、北米2兆2934億ドルとあった。
次にさて、この東アジアが2000年代中葉以降には更にこう発展してきたと語られる。
東南アジアの生産性向上(従って消費地としても向上したということ)と、中国が主導役に躍り出たこと、および、インド、パキスタンなどの参加である。この地域が世界でさらに頭抜けて大きい工場・市場に躍り出ることになった。例えば、世界からの直接投資受入額で言えば2013年既に、中国・アセアンの受入額だけで2493・5億ドル、EUの受入額2462・1億ドルを上回っている。
これらの結果リーマンショックの後には、世界10大銀行ランクもすっかり換わった。中国がトップ5行中4つを占め、日本も2つ、アメリカは1つに過ぎない。
米大統領選挙とイギリスEU離脱と以降に世界情勢が大転換していくと、多くの論者が語り始めている。ただ、「こういう米英(的金融グローバリズム)の没落」を今まで見つめてきた人でなければ、これの世界史的意味は分からないはずだ。「30年程の長い過渡期から、質的変化が・・・」という今と見えるのである。
昨年秋の中日新聞連載「インタビュー トランプの米国」に、法政大学教授・水野和夫(三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミスト、内閣府大臣官房審議官などを経て、現職。著書に集英社「資本主義の終焉と歴史の危機」など)が登場し「ゼロ成長を前提に」と名付けた記事があった。そのいくらかを抜粋すると、
『歴史的にみれば外へ外へと広がっていくグローバル化、そして五百年に及ぶ資本主義の限界を示した』
『安全保障政策も、オバマ大統領が「世界の警察をやめる」と言った延長線上にあり、(中略)グローバル化で世界の富を呼び込む戦略を、自らひっくり返そうとしている』
『資本主義を地理的に広げられなくなった後、金融の世界なら成長できるとの見方はあったが、マネーが自己増殖してバブルが崩壊するパターンを繰り返している。そのたびに中間層が没落し、特にリーマン・ショックが決定的だった』
『日本は日中韓プラスASEAN(東南アジア諸国連合)との連携を模索するしかない』
この水野氏の名前を挙げてその議論を意識して、筑波大学名誉教授・進藤榮一はこんなことを語る。ただ念のために言っておくが、水野・進藤両氏とも、「日本は東アジアとこそ連携せよ」という結論は同じだ。
「金利生活者の安楽死」を予言したケインズを採って利子率の長期的低下から資本主義の終焉到来を述べてきた水野和夫らの論は、こういう世界史の側面を忘れているのではないか。先進国がゼロ金利、マイナス金利でも、新興G7は5%金利を続けてきたことを。こうして、プラント輸出なども含めて日米の金、資産も、水とは違ってどんどん高い所へ流れていったと。なお、国際銀行の貸付金にこの逆流が起こったのは04年のこと、アメリカなどのゼロ金利政策が始められた頃であるのが面白い。また、08年のリーマン後は、アジアへのこのお金の流れが激増した。こうして、進藤榮一の結論。
『資本主義の終焉ではなく、資本主義の(東アジアにおける)蘇生だ』
次に、進藤が指摘するアジア資本主義の勃興ぶりの数々を観る。
EUは法優先の統合だったが、アジアは事実としての統合が先に進んでいる。これについては、ある製品を面、部分に分けていろんな国で作ってこれを統合するとか(モジュール化)、その単純部分は後発国に先端部分は日本になどへと発注してコストをどんどん下げるとか、後発国の所得水準をも上げることに腐心しつつ周辺国の一般消費市場を拡大していくとか、等などが進んでいる。この結果としての、いくつかの製品、輸出などの国際比較例も挙げてあった。
先ず2015年の世界に占める自動車生産シェア。アジア・北米・欧州の比率は、51・2%、19・8%、20・2%であり、アジアの内訳は、中国27・0、日本10・2だ。結果として例えば、インドが、新日鉄住金を2位に、中国企業を3~5位に従えた鉄鋼世界一の企業を買い取ったというニュースも、何か象徴的で面白い。ルクセンブルグに本社を置くアルセロール・ミッタル社のことである。
「東アジア主要産業の対世界輸出における各国シェア」という資料もあった。電気機械、一般機械、輸送機械三区分の世界輸出シェアで、1980年、2000年、2014年との推移資料でもある。三つの部門それぞれの、1980年分と2014年分との比較で、日中のシェアを見てみよう。電気は、日本69・7%から11・1%へ、中国は、0・7%から42・8%へ。同じく一般機械では、日本88・6から19・1と、中国1・5から51・7。輸送機械は日本が最も健闘している部分でそれでも、97・4から44・8、中国0・2から18・5。なお、この最後の輸送機械については韓国も健闘していて、0・6から20・8へと、日本の半分に迫っているとあった。
こうして、最終消費地としてのアメリカの役割がカジノ資本主義・超格差社会化によって縮小して、中国、東南アジアの生産と消費が急増し、東アジア自身が「世界の工場」というだけでなく、「世界の市場」にも変容したと述べる。これを更に続けると・・・。例えば日本の東アジアへの輸出依存度を見ると、1985年、2000年、2014年にかけて17・7%、29・7%、44・5%と増えた。対して対米国の同じ依存度は、46・5%、29・1%、14・4%と急ブレーキがかかっている感がある。
ちなみに、世界3大経済圏(の世界貿易シェア)という見方もあるが、東アジアは、アメリカを中心とした北米貿易協定をとっくに抜いて、EUのそれに迫っているのである。2015年の世界貿易シェアで言えば、EU5兆3968億ドル、東アジア4兆8250億ドル、北米2兆2934億ドルとあった。
次にさて、この東アジアが2000年代中葉以降には更にこう発展してきたと語られる。
東南アジアの生産性向上(従って消費地としても向上したということ)と、中国が主導役に躍り出たこと、および、インド、パキスタンなどの参加である。この地域が世界でさらに頭抜けて大きい工場・市場に躍り出ることになった。例えば、世界からの直接投資受入額で言えば2013年既に、中国・アセアンの受入額だけで2493・5億ドル、EUの受入額2462・1億ドルを上回っている。
これらの結果リーマンショックの後には、世界10大銀行ランクもすっかり換わった。中国がトップ5行中4つを占め、日本も2つ、アメリカは1つに過ぎない。