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書評「悪と全体主義」(1)  文科系

2020年10月19日 13時10分42秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 このエントリーは、「悪と全体主義ーハンナ・アーレントから考える」(仲正昌樹・金沢大学法学類教授著、NHK出版新書18年4月発行)の書評である。そして、当ブログの書評の常のように、この書の概要紹介がほとんどになる。だから、以下の文章は、今日本でも問題になり始めた全体主義というものを、ハンナ・アーレント「全体主義の起源(この「起源」は複数になっています)」などから仲正昌樹氏が考えたところを読み込むことになる。

 アーレントは06年にドイツで生まれたユダヤ人。ヒトラー治下ドイツで哲学を学び、ドイツによるフランス占領の頃にユダヤ人収容所から逃げ出してアメリカに亡命し、シカゴ、プリンストン、コロンビア各大学の教授・客員教授などを歴任という女性。彼女が哲学を学んだ先生は、ハイデッガー、フッサール、ヤスパースというそれぞれ哲学史上金字塔としてそびえ立つ大哲学者たち。こういう人物を追いかけてそれぞれの大学で師事した年齢が、18,19,20歳の時というのだから、ちょっと夢のような話になる。こういう経歴から、「ヒトラー全体主義は何故ドイツを席巻し、数々の狂気をもたらしたのか」を終生、最大の哲学研究テーマとしたお方である。

 アーレントで有名なのは、なによりもアイヒマン裁判の特派員をかって出たこと。ウィキペディアによるアーレント紹介にもこう書いてある。
『1963年にニューヨーカー誌に「イエルサレムのアイヒマン-悪の陳腐さについての報告」を発表し、大論争を巻き起こす』
 このアドルフ・アイヒマンとは、ユダヤ人強制収容所の管理部門を取り仕切っていた人物。ナチス・ドイツの滅亡後に国外に逃亡し、1960年になって逃亡地アルゼンチンで捉えられて、裁判・死刑になった人物である。アーレントはこの裁判傍聴から「エルサレムのアイヒマン---悪の陳腐さについての報告」を書いたのだった。こういう著作、つまり全体主義の哲学的研究をこの本で紹介した仲正氏の問題意識は、なによりもこんな部分にあると読めた。『いかにして「複数性」に耐えるか』

『お互いの立場、特に自分にとって気に入らない意見を言う人が、どういう基準で発言しているのかを把握するのは、知的にも感情的にもかなり大変です』

『自分と異なる意見を持っている人と本当に接し、説得し合うところからしか「複数性」は生まれません』

 さて、こういう人の考え方の複数性を多数国民の命を奪ってまでも否定していく全体主義の諸起源とは何で、人はそれにどう抵抗できるのか。著者の仲正氏はこんなことも書いているのだが・・・。

『私たちには、本当の意味で、言葉を交換する機会、活動する機会が少なくなっています。「活動」が「労働」によって飲み込まれつつある。アーレントは、歴史の趨勢に関してはかなり悲観的です。私はそう見ています』(216頁)

 この最後の文章の意味はこういうこと。人は生きていかねばならないが為に(労働、仕事のために)、『言語や演技によって他の人の精神に働きかけ、説得しようとする営み』(これが活動)が抑圧され、歪められて、苦手になっていく時代というものがある。それ故に人類史の「複数性尊重」未来にもアーレントはかなり悲観的だと、仲正氏は読んだということなのだ。ちなみにアーレント1975年に亡くなったのだが、「人間」であるための三つの条件として、労働、仕事、活動をあげている。英語ではそれぞれlabor,work,actionとあった。労働と仕事の区別は難しいので、今回は省く。

(続く)

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