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書評「悪と全体主義」(2)  文科系

2020年10月20日 12時20分15秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 アーレントの「全体主義の起源」は初め三部構成で出版され、後には三巻の本に別れ、それぞれ「反ユダヤ主義」、「帝国主義」、「全体主義」となったということだ。その上で、第三巻の「全体主義」ではナチス・ドイツとスターリン・ソ連が考察されることになる。そして、この三巻本の流れを、仲正氏はこう展開する。
アーレントが「全体主義の起源」の第一・二巻で提示したキーワードを整理すると、「他者」との対比を通して強化される「同一性」の論理が「国民国家」を形成し、それをベースとした「資本主義」の発達が版図拡大の「帝国主義」政策へとつながり、その先に生まれたのが全体主義----- ということになります。いずれのキーワードも、太平洋戦争へと突き進んだ戦前の日本、戦後七十年を経て再び右傾化の兆しが見える現代の日本にぴたりと符合するのではないでしょうか。
 全体主義のそもそもの起源をたどっていくと、そこには「同一性」の論理があるというのがアーレントの結論です。ただし、同一性の論理に基づいて支配を拡大させた帝国主義が、ストレートに全体主義につながったというわけではありません。帝国主義と全体主義の間には、帝国の基盤となっていた「国民国家」の衰退と、それに伴う危機意識があるとしています』(P108~9)

『第三巻「全体主義」のキーワードは「大衆」、「世界観」、「運動」、そして「人格」です』
(P116)
『平生は政治を他人任せにしている人も、景気が悪化し、社会に不穏な空気が広がると、にわかに政治を語るようになります。こうした状況になったとき、何も考えていない大衆の一人一人が、誰かに何とかしてほしいという切迫した感情を抱くようになると危険です。深く考えることをしない大衆が求めるのは、安直な安心材料や、分かりやすいイデオロギーのようなものです。それが全体主義的な運動へとつながっていったとアーレントは考察します。
(以下、「 」はアーレントからの引用で)「ファシスト運動であれ共産主義運動であれヨーロッパの全体主義運動の台頭に特徴的なのは、これらの運動が政治には全く無関心と見えていた大衆、他のすべての政党が、愚かあるいは無感動でどうしようもないと諦めてきた大衆からメンバーをかき集めたことである。」・・・・こうした動きは、第一次世界大戦後のヨーロッパで広く認められました。しかし、実際に大衆を動員して政権を奪取できたのは、ドイツとロシアだけだったことにもアーレントは注目しています』(p122~3)

 以上は、こういうことだろう。第一次大戦後の帝国主義時代に「景気が悪化し、社会に不穏な空気が広がると」(例えば、1929年の世界大恐慌)、「安直な安心材料や、分かりやすいイデオロギーのようなもの」と言えるような「世界観」で大衆をかき集めて、政権を奪取しようという全体主義運動が欧州に現れてきた。そして、ドイツとロシアでは、これが政権を奪取した、と。

 

(続く)

 

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