イアン・バンクス, 野村 芳夫 訳,ele-king books (2019/3).
同じ野村訳で出ていた集英社文庫1988年版は,編集者が再校にさいし勝手に改変したものだそうで,こちらが訳者としての決定版らしい.著者序文,訳者あとがきのほかに,牧真司と三田格による2本の解説がある.表紙・カット 竹内美保子.デザイン 鈴木聖.
英国 The Independent 誌の 25 千人による読者投票による 1997年 the 20th Century's Top 100 Books で 32位.「二十日鼠と人間」「チャーリーとチョコレート工場」「薔薇の名前」などを抑えてる.名作なのだ!
Amazon の紹介にはサイコ・スリラー,ニュー・ホラーの文字があるが,ピンと来ない.さりとて,ミステリーでもなく,純文学でもない.気色悪いことで「蝿の王」を思い出した.ネタを「ジキル博士とハイド氏」になぞらえた評論家がいるそうだが,だいぶ違う.
舞台はスコットランドの,橋で本土と結ばれた島.一人称・主人公の16際のフランク Francis は実は Frances というとネタバレだが,最後の1行は意外に能天気...女の子は変わり身が早いのだ.最終章の訳文では「おれ」と「あたし」を使い分けているが,原文はどうなんだろう.
結末はいかにも無理筋.しかしそこに至るまでが読みどころ.父は変人,兄は狂人で犬を見ればガソリンを浴びせて火をつける,本人は呪術的な世界にひきこもっている.虫やネズミ,ウサギなどを殺戮し,子どもも3人殺している.
bee を想像したが,原題は The Wasp Factory.
こういうある意味で濃密な作品は,日本では生まれそうもない.
いま思いついたが,「ジキル博士...」の善悪を男女に置き換えて創作したら面白いものになりそう...もう書かれているかな?