【社説①】:25%関税発動 米中首脳の対話を望む
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:25%関税発動 米中首脳の対話を望む
最悪の筋書きが現実味を帯び始めた。米中貿易交渉が難航し、中国製品への25%の追加関税が発動された。対立は世界経済にとって無益で、両国首脳は直ちに事態打開に向け直接協議すべきだ。
交渉難航について米国は「中国が態度を変えた」と非難する。具体的には、進出企業に対する技術移転の強要を禁じる法の整備と企業への産業補助金支給などについて合意形成ができていない。
自由貿易の枠組みの中で、中国に多くの問題点があるのは、これまで指摘してきた通りだ。ただ約五千七百品目、二千億ドル(約二十二兆円)を対象とした追加関税を交渉中に実施するのは、事実上の「脅し」である。
中国は今年建国七十周年を迎える。天安門事件(一九八九年)が起きた六月四日にも近く微妙な時期だ。米国の「脅し」に屈すれば国内世論の反発も予想され、簡単には譲れないのが実情だろう。
ただ対立の激化は両国経済に打撃を加える。追加関税の対象は家電や家具など生活に関わる消費財だ。物価高騰は米国市民の生活を直撃する。景気が減速する中国も輸出減は成長率鈍化に直結する。
国際通貨基金(IMF)は四月に公表した世界経済見通しで、対立が悪化した場合、「両国の産業で多くの雇用が失われる」と警告した。お互いの輸出入が滞れば仕事が減るのは当然の理屈だ。
日本経済への影響も指摘せざるを得ない。米国の強引な交渉がまかり通れば、次の標的は欧州連合(EU)と並び日本であることはいうまでもない。
米国は、日本に対し自動車の輸出規制、農産品輸入の増加、為替条項の導入を要求してくるだろう。裾野の広い自動車産業への打撃は、製造業を根底から揺さぶる。為替条項は急激な円高とそれに伴う株安を引き起こす恐れがある。大事に備える必要がある。
トランプ米大統領の交渉姿勢は、経営者がライバル企業を蹴落とすやり方に酷似する。だが長い国民同士の交流を土台にした国家間の外交交渉は、企業競争とは根底から違う。自由貿易で恩恵を受ける中国も、自国の仕組みをこれまで以上に世界標準に合わせる時期に来ている。
報復合戦が長引けば両国民の不信は頂点に達し、経済だけでなく世界の安定にすら影響が及びかねない。中国製品を載せた船便が届くまで数週間かかり、実際の課税までには少し猶予がある。両首脳の腹を割った対話を心から望む。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年05月11日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。